5日目のフィードバック

ちょっとだけ feedback
生成文法(初級)
具体例を通して学ぶ考え方と方法論の基本
奥 聡
Day 05
・
「太郎は太郎の車を洗った」
「次郎も洗った」では、厳密同一解釈の他に、ゆるい同一解釈
も可能です。これはどのような現象になるのでしょうか?(加藤伸彦)
*これはとてもよい質問ですね。日本語では「太郎は太郎を推薦し、次郎は次郎を推薦した」
(それぞれ自分を推薦したという意味で)と言えそうですので、固有名詞が連動読みの変項
として使われることもあるのかもしれません。もしそうであれば、最初の文の二つ目の「太
郎」の機能は、「主語との連動読み」という機能を持つもので、二つ目の文にコピーされて
いると考えることが可能かもしれません。
・生成文法は数学ができないと不利だと聞いたことがありますが、実際にはどうなのでしょ
うか。(劉)
*もしこれが、学校の教科としての「数学」の成績が良くなければならない、ということで
したら、そのようなことと生成文法ができるできないとは、何の関係はないと思います。も
しこれが、
「論理的な思考を丁寧に積み重ねていく姿勢」、ということであればそのようなこ
とができるということは大切なことでしょう。しかしこれは生成文法に限らず、どのような
研究においても重要なことではないかと思います。注意すべきは、あまり若いうちから自分
で自分の向き不向きを決めてしまわないことでしょう。最初は、あまり向いていないと思っ
た分野でも、好きで一生懸命やっているうちにできるようになることはたくさんあります。
何かを志す時は、自分にそれができそうかどうかではなく(それは先験的には自分でもわか
らないこと)、自分がそれをやりたいかどうかを一番の基準にするとよいと思います。
・John will wash his bike の場合、この一文だけ発話された時点では、his が[指示用法なの
か連動解釈用法なのか]は特に指定していないとみてよいのでしょうか。
(藤本真理子)
*もし、授業で紹介したように代名詞に二種類の用法があるのなら、実際にはどちらかの用
法でこの発話の話者は使っていると考えられるかもしれません。ただし、この場合は客観的
にはどちらであるかを区別する術がないということになります(この文の真偽値(意味)が
どちらの用法の his であっても同一であるからです)。
・発音される pro には格付与されているのでしょうか。例えば、スペイン語のゼロ主語(5-13)
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の文では、動詞には一致が見られて屈折しているように見えるのですが、格についてはそれ
に伴い付与されているのでしょうか。
(森本雄樹)
*はい。発音されなくてもそれが代名詞として存在するのであれば、発音される場合と同じ
ように文法格が与えられていると考えるのが、null hypothesis (そうではないことを示す証
拠がない限り最も自然な仮説)だと思います。
「そうではないことを示す証拠」が本当にない
かどうかは、検討してみるべき大切な研究課題になります。
・今日の講義の内容は言語獲得の分野でも応用できるかなと思いました。生成文法から見た
言語獲得の問題に対してどのようにみますか。(美馬未歩)
*生成文法の考え方に則った言語獲得の研究は盛んに行われています。Seminar Handbook
の最後のページの杉崎鉱司(2015)『はじめての言語獲得 普遍文法に基づくアプローチ』
(岩波書店)及びその本で言及されている文献を参考にしてください。
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