1-2 板橋区における公害苦情の状況及び事例

1-2 板橋区における公害苦情の状況及び事例
区に寄せられる公害苦情・相談は、区民の公害に対する意識や社会情勢の変化を反映して、
多種多様な内容になっています。また、公害苦情・相談は、公害現象を防止するための、重要な
情報となっています。
板橋区における、近年の公害苦情の状況及び事例を報告します。
1-2-1 公害苦情の状況
近年、工場・事業場における自主的な公害防止対策と環境保全活動により、苦情は減少傾向
にある一方で、工業系地域への住宅増加に伴い新たな苦情が寄せられるケースもあります。
図(1-2-1) 平成 14 年度と平成 27 年度の公害苦情(発生源別)の比較
(平成 14 年度)
指定作業場
25件
8.4%
指定作業場 (平成
9件
4.0%
工場
31件
13.7%
建設作業
87件
29.3%
工場
93件
31.3%
27 年度)
平成14年度
発生源別
297件
平成27年度
発生源別
226件
一般
72件
31.9%
建設作業
114件
50.4%
一般
92件
31.0%
図(1-2-1)のとおり、平成 14 年度と平成 27 年度の公害苦情を比較すると、工場や指定作
業場が発生源となる苦情の割合は 39.7%から 17.7%へ減少しており、近年は建設作業関連の
苦情が半数を占めています。
図(1-2-2) 近年の工場等に対する公害苦情(現象別)の推移
騒音
(件数)
振動
悪臭
粉じん
ばい煙
70
60
50
40
30
20
10
0
14
15
16
25
26
27
(年度)
図(1-2-2)から、工場や指定作業場に対する苦情件数は減少傾向にある中で、騒音苦情
が最も多く、続いて悪臭苦情となっています。
続いて、近年寄せられる苦情事例について報告します。
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1-2-2 公害苦情の事例
(1)印刷工場からの悪臭苦情
【対象事業場の概要】
業
種:印刷工場
用途地域:工業地域
【苦情内容】
隣接住民(元印刷業者)からの申立。
印刷工場からの独特な溶剤系の臭気が部屋の中まで入ってきて迷惑している。
【原因】
UV オフセット印刷機からのインキ、溶剤臭
【調査及び指導状況等】
工場の立ち入り調査の結果、苦情者宅側の敷地境界で悪臭は全く確認できなかった。苦
情者から直接工場に対し申し立てがあったことから、工場へ立入調査の際には、既に脱臭装
置を導入する等の対策を実施済みであった。
区役所側で敷地境界、脱臭装置排出口にて三点比較式臭袋法による臭気調査を実施し
たところ、規制値以下であった。
(臭気調査結果) 敷地境界線:臭気指数 10 未満(規制基準値:臭気指数 13)
排出口:臭気指数 20(規制基準値:臭気指数 30)
【改善内容及び改善後の状況】
苦情者宅側の工場の窓及び全ての排気口を閉じ、導入した脱臭装置(活性炭吸着作用、
活性炭によるオゾン分解作用)により、印刷機からの排気と工場内の排気を全て脱臭した後、
苦情者宅とは反対側である道路へ排出するよう対策を実施した。
対策実施後、苦情者に対し、工場見学を通して臭気対策における説明をしたところ、悪臭
苦情は寄せられていないとのことであった。また、区役所への申し立ても無い状況である。
しかし、工場側より、悪臭苦情解決後、同じ苦情者から工場側に対し直接、騒音苦情として
屋上のチラーの音がうるさいとの苦情が寄せられており、防音対策工事を検討中であるとの報
告があった。
【苦情の特徴】
近年、地域の特性を理解せずに苦情を申し立てるケースが増えている。また、近隣同士の
トラブル等を公害問題に結びつけようとするケースも見受けられる。
今回のケースについても、工場の存在に対する元同業者のねたみや嫌悪感が見え隠れし
ていたことは否めない。
道路
封鎖した換気扇
脱臭装置と
排気の方向
印刷工場
敷地境界線
工業地域
苦情者宅
戸建住宅
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戸建住宅
(2)プラスチック製造工場からの悪臭苦情
【対象事業場の概要】
業
種:プラスチック製品製造業
用途地域:準工業地域
【苦情内容】
準工業地域の新築マンションの高層階に引っ越してきた住民からの申立。
工場から独特な化学物質臭がする。人体へ影響がないのか心配である。区役所で調査を
してほしい。
【原因】
製品製造工程で生じる接着剤の悪臭
【調査及び指導状況等】
工場の立ち入り調査を実施し、悪臭の原因が製品製造工程で生じる接着剤であることが判
明。また、工場より提示された SDS(安全データシート)により、接着剤の成分は人体への危険
性は無いこと、VOC(揮発性有機化合物)より低公害である水溶系接着剤を使用していること
を確認した。
さらに、悪臭が規制基準を満たしているか確認するため、三点比較式臭袋法による臭気調
査を実施した。その結果、敷地境界では基準を満たしていたが、排出口で基準を超過してい
ることが判明した。
(臭気調査結果) 敷地境界線:臭気指数 10 未満(規制基準値:臭気指数 12)
排出口:臭気指数 31(規制基準値:臭気指数 27)
排出口で悪臭の基準を超過していたことから、工場側へ排出口の臭気指数が規制値以下
になるよう対策を要請。
【改善内容及び改善後の状況】
工場の外に置いてある接着剤の入ったドラム缶を、倉庫等へ移動し、視覚的な効果で悪臭
対策を図った。また、排出口については、工場側より、排出口を高く上げて、大気拡散する方
法はどうかと提案があったが、排出口基準では期待できるが、隣の高層マンションからの苦情
であるため、現実的な対策とは言えないとの結論に至った。排出口における悪臭対策は現在
進行中である。苦情者に対し、訴えのある悪臭については人体への有害性は無いことを伝え
たところ、その後の区役所側へ相談は無い。
【苦情の特徴】
苦情者宅マンションは、工業系地域の工場跡地に建った新築マンションである。本苦情事
例は、引っ越してきた地域のことをよく知らない、或いはその地域の産業活動に関心の薄い住
民が引っ越してきたことにより苦情へ発展したことも想定される。
近年、工業系、工場等がある土地にマンションが建設され、その地域における住工の並行
バランスが崩れることで、工場側は、これまでのように騒音や臭気問題について無視すること
が出来なくなってきている傾向にある。
大規模工場撤退後、完成した
新築高層マンション
苦情者(高層階住民)
工場の排出口を高
くしても高層階住
民への影響が課題
敷地境界線
準工業地域
(昔は一帯が全て
工場であった)
事業所
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工場(発生源)
1 階排出口より排出
(3)製品製造工場からの騒音苦情
【対象事業場の概要】
業
種:その他の製造業
用途地域:準工業地域
【苦情内容】
工場北側にあるアパート住民からの申立。
近所の製造工場の屋上にあるダクト等の機械設備からの音がうるさい。騒音苦情があったこ
とを伝え、騒音測定して欲しい。
【原因】
製品製造過程で発生する塵を捕集する装置のダクト稼働音
【調査及び指導状況等】
工場への立ち入り調査を実施し、屋上にて排気ダクトを確認した。苦情者のアパート方向を
中心に騒音測定を実施したところ、規制基準値を超えていた。
騒音測定値:71dB(A)(規制基準値:60dB(A))
規制基準値を超えていたため、工場側へ申立者宅の方角を伝え、防音対策について検討
するよう指導。
【改善内容及び改善後の状況】
防音対策としてダクトの向きを変え苦情者宅側から遠ざけ、屋上手すり部分に木板を設置。
改善対策後に現地調査を行い、苦情者アパート側で騒音測定をしたところ、騒音レベルは
対策前に比べ低減したものの、規制基準値は超えていた。
騒音測定値:65dB(A)(規制基準値:60dB(A))
【苦情の特徴】
準工業地域であるものの、工場建屋と隣家との間隔が狭いため、屋上に設置された機械設
備から発生する騒音が目立ちやすいと考えられる。
当初苦情者は匿名での対応を希望していた。工場への立ち入り調査時には、苦情者宅の
方角が不明であったため、工場側に対して申立内容を伝え、屋上の各方角において騒音測
定を実施した。後日、再度苦情者から連絡があった際に、今後工場が具体的な騒音対策を施
すために、工場と苦情者との位置関係が重要である旨を説明し、苦情者アパートの方角につ
いて工場側へ明かす了解を得ることとなった。
さらに、より踏み込んだ対策や騒音の状況を確認するためにも、苦情者宅での状況調査等
を提案したが拒まれたため、工場側へ重ねて指導することはなかったが、工場の迅速な防音
対策により、規制基準値は改善対策後も超えていたものの騒音は低減し、その後再度の申立
はないことから、一定の成果が見られた事例である。
(平面図)
道路
住宅
住宅
木板
住宅
(断面図)
排気ダクト
申立者
アパート
木板
住宅
製造工場
改善前ダクト向き
住宅
排気ダクト
改善後ダクト向き
申立者宅2階
製造工場
道路
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(4)印刷工場からの騒音苦情
【対象事業場の概要】
業
種:印刷・同関連業
用途地域:第一種中高層住居専用地域
【苦情内容】
工場隣接マンションの住民からの申立。
自宅隣の工場の屋上に設置してある室外機の稼働音、及び工場内からの機械稼働音がう
るさく困っており、特に夜間に気になる。
【原因】
屋上設置機器(室外機・キュービクル)
ダクトからの音漏れ(印刷関連機械稼働音)
【調査及び指導状況等】
工場への立ち入り調査を実施。屋上で 6 台程の室外機を確認した。また、工場 1 階屋根に
設置されているダクトから工場内の機械稼働音が漏れていることを確認した。さらに、苦情者
宅で行った調査により、苦情者が最も苦慮している音は、当該ダクトからの音であることが判明
した。苦情者宅(工場との敷地境界付近)で騒音測定を行ったところ、規制基準値を超えてい
た。
騒音測定値:52dB(A)(規制基準値:45dB(A))
敷地境界において室外機単体の音は確認できなかったため、定期的なメンテナンスを指導。
ダクトからの音漏れに対しては、騒音測定の結果規制基準値を超えていたため、防音対策等
を検討し、音を低減するよう指導。
【改善内容及び改善後の状況】
メンテナンスの結果、不具合のあった室外機及びキュービクル修理と、音漏れの原因となる
ダクトを撤去し、遮音シート・グラスウール張り・鋼板による防音対策を施したダクトの設置。
防音対策完了後に現地調査を行い、ダクトからの音もれが低減していることを確認。騒音調
査の結果、環境騒音と同等であった。
【苦情の特徴】
苦情者が工場から発生する音に苦慮し始めたのは1年程前からとのことであり、それ以前に
同様の苦情はない。立地が住居系地域であるため規制基準値が厳しく、多少の不具合やわ
ずかな音漏れでも目立ってしまうと考えられる。規制基準値の遵守が困難な状況で、工場側
の防音対策工事等により騒音が低減し、苦情が解決した事例である。
(断面図)
(平面図)
道路
室外機
印刷工場
住宅
住宅
室外機
申立者宅4階
住宅
キュービクル
印刷工場
排気ダクト
キュービクル
申立者
マンション
住宅
住宅
道路
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排気ダクト