Europe Insights

ご参考資料
HSBC投信株式会社
2016年9月
Europe Insights
欧州市場を見る眼~現地からの報告
<トピックス>
 EU離脱を決定した英国民投票後の7月、8月の英国及びユーロ圏の製造業購買担当者指数(PMI)は、概して国
民投票前の数ヶ月と比べ小幅な悪化に止まっている。懸念されていたよりも良い結果である
 主要国の中央銀行と国際通貨基金(IMF)は、英国民投票を景気の下振れリスクとして捉え、英国のEU離脱が
決定した場合には適切な政策対応が必要になると見ていた
 ユーロ圏の経済成長率は、堅調な内需と金融緩和に支えられ、僅かながらプラス圏で推移する見通しである
 スイスの金融機関UBSがユーロ圏企業を対象として半期毎に実施する調査(Evidence Lab)によると、今後12ヶ
月間に設備投資を11%程度増やす計画である
 欧州債券市場では、良好な企業の財務状況と歴史的に低いデフォルト率が引き続き下支え要因となっている。
今月の注目テーマ:英国のEU離脱国民投票後の金融市場における投資機会
英国のEU離脱決定の影響はこれまでのところ限定的
 最近の企業景況感に関する調査を見る限り、英国
のEU離脱が欧州経済に与える影響はこれまでのと
ころ限定的である。EU離脱を決定した英国民投票
後の7月、8月の英国及びユーロ圏のPMIは、概し
て国民投票前の数ヶ月と比べ小幅な悪化に止まっ
た(図1参照)。懸念されていたよりも良い結果と
なったが、「先行きの景気見通し」の項目について
は欧州経済の回復力についての慎重な見方を反
映して大幅に悪化した。英国のEU離脱決定後は、
迅速な新内閣の発足やイングランド銀行(中央銀
行)による幅広い金融緩和措置を受けて、景気後
退懸念が和らいでいる。
 主要国の中央銀行と国際通貨基金(IMF)は、英国
民投票を景気の下振れリスクとして捉え、英国が
EU離脱を決定した場合は適切な政策対応が必要
になるとみていた。
当資料の「留意点」については、巻末をご覧ください。
図1:総合PMI(購買担当者指数)の推移
(2ヶ月移動平均)
65
英国の国民
投票後
60
55
50
45
40
EURO ZONE
ユーロ圏
GBP
英国
35
30
13/10
14/04
14/10
15/04
15/10
16/04 (年/月)
出所: マークイット、ブルームバーグのデータをもとにHSBCグローバル
・アセット・マネジメント(フランス)が作成(2016年9月9日現在)
英国のEU離脱は経済構造の変化をもたらす要因
更なる政策対応の必要性
 景気の先行き不透明感が高まり、企業が設備投資
を先延ばしし、家計が消費を手控えるようになるま
でには、なおしばらく時間がかかるかもしれない。
英国とEUの将来的な関係をめぐる交渉は数年を要
すると見られる。このため、極めて緩和的な金融政
策の継続が必要となろう。
 英国のEU離脱交渉の過程で、EU加盟国政府はビ
ジネス環境の改善に向けた構造改革の推進を迫ら
れる可能性がある。
 例えば、現在の欧州投資計画(ユンケル・プラン)の
拡充も一つの選択肢である(1)。欧州委員会(EC)
は、最近の報告書(2)の中で、財政に余裕がある国
における財政による景気刺激策の効果に焦点を当
て、ユーロ圏の経済成長を加速させる財政政策の
必要性を強調した。同報告書によると、ドイツとオラ
ンダで公共投資を中心とした景気刺激策を実施す
れば内需と輸入を押し上げ、貿易を通じて他の
ユーロ圏加盟国への経済波及効果が期待できる。
 一方、最近になり欧州中央銀行(ECB)やIMFは金
融政策の限界に言及しており、各国政府に対して
は、現在の低金利環境を有効活用するよう繰り返
し求めている。このプラス面として、英国のEU離脱
を契機に、欧州各国で新たな産業戦略に向けた基
礎が築かれ、技術革新が促進される可能性が出て
きた。
 9月に開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議で
は、「金融・財政政策,構造改革の全ての政策手段
を個別にまた総合的に用いて、力強く持続的で、均
衡のとれた包括的な成長を実現する」ことへの決意
が表明された。IMFによる勧告が広く理解を得て、
各国首脳に伝わったことは明らかである。
 英国のEU離脱は、経済構造の変化をもたらす長期
的要因として捉えることができ、諸政策が適切に実
行されれば新たな成長機会を生み出すことも考え
られる。
(1) 欧州委員会(EC)によると、欧州投資計画では1,157億ユーロ
の資金が投入される見通し(2016年7月時点)
(2) ECのレポート「The 2016 Stability and Convergence
Programs」より
欧州株式市場:企業の設備投資拡大は収益増をもたらすか?
更なる政策対応の必要性
 2016年夏にスイスの金融機関UBSが発表した企業調査報告(年2回発行)によれば、ユーロ圏の企業は向こう
12ヶ月に設備投資を11%程度増やす計画である。この調査は英国がEU離脱を選択した国民投票後に実施され
たもので、前向きな結果と評価できる。但し、この結果を企業が英国のEU離脱を軽視していると捉えるべきでは
ない。彼らは、英国がEUから完全に切り離されることに疑問を抱いているのだ。企業の52%は英国がEUを離脱
しても投資計画を変更しないと回答、27%は投資計画を減らすと回答、9%は大幅に減らすと回答している。これ
までのところ、英国のEU離脱問題は、ユーロ圏経済の回復にマイナスの影響を与えていない。しかし英国のEU
離脱リスクがなくなったわけではない。
 鍵を握るのは設備投資の動向だろう。設備投資は、個人消費、政府支出、純輸出以上に、景気循環の大きな変
動要因となる。現在は設備投資が過去30年で最低水準まで落ち込んでいることから、今回の調査結果は転換点
を示唆する点で重要な意味を持つ。最近の新興国経済の安定化も、企業の投資意欲を後押しする要因として注
目される。
 企業の設備投資意欲は、現在の収益水準と競争力を維持する必要性に左右される。企業は現在、利益率が低
水準にとどまる一方、需要は緩やかに回復する中で、再投資を行うか、もしくは市場シェアを失うかの選択を迫ら
れている。
 企業が向こう12ヶ月に設備投資を拡大する最大の理由として挙げているのは技術レベルのシフトである。設備投
資が記録的低水準にある現在、企業には再投資を行う強い理由がある。この状況は、設備投資の回復が将来
の企業の利益成長をもたらす好循環を生み出す可能性を示すものと考えられる。
図2:利益率の向上が設備投資拡大をもたらす
18%
14%
10%
6%
2%
-2%
-6%
-10%
-14%
-18%
利益率(右軸)
企業の設備投資(前年同月比)
図3: 企業の設備投資に影響を与える要因
7%
予想
6%
5%
2007
2009
2011
2013
2015
4%
2017(年)
技術レベルのシフト
国内需要
輸出
資金調達の容易さ及びコスト
新興国市場
ユーロ圏の金融危機
商品・エネルギー価格
ユーロ相場の水準
米国
資本ストックの年数
中国
59%
56%
53%
45%
43%
40%
40%
37%
36%
30%
29%
プラスに影響
36%
34%
41%
44%
47%
42%
44%
47%
56%
59%
52%
影響なし
マイナスに影響
出所:UBSが発表した企業調査報告「Evidence Lab」(2016年8月24日)をもとに、HSBCグローバル・アセット・マネジメント(フランス)が作成
当資料の「留意点」については、巻末をご覧ください。
2
5%
10%
6%
11%
10%
18%
16%
16%
9%
11%
19%
欧州債券市場:8月の相場動向と今後の見通し
8月は欧州ハイ・イール
ド債券が大きく上昇し、
他市場をアウトパフォ
ーム
英国民投票でのEU離
脱決定後、市場に懸念
が残り、さらに重大イベ
ントが目白押しであった
にもかかわらず、ボラテ
ィリティは低水準で推移
欧州国債市場と社債市場の動向
 8月は前月からのリスク・オン相場が継続し、高ベータ銘柄を中心に上昇した。
ユーロ圏の社債のスプレッドは更に縮小し、周辺国の国債利回りは安定推移と
なった。ドイツ長期国債の利回りが僅かに上昇したが、ドイツ10年国債利回りは
引き続きマイナス圏にある。8月は欧州ハイイールド債券がアウトパフォームし
BofA Merrill Lynch Euro High Yield Indexは1.7%上昇した一方、BofA Merrill
Lynch Euro Investment Grade Indexは0.3%の上昇に止まり、BofA Merrill Lynch
Euro Government Bond Indexは0.02%低下した。
 英国民投票でのEU離脱決定を受けて、各国中央銀行が必要があれば追加緩和
を実施することを示唆する声明を発表し、投資家に安心感を与えた。市場では、
英国のEU離脱問題に加え、イタリアの憲法改正の是非を問う国民投票、ギリシャ
向け第3次金融支援の第2回評価、DBRS社によるポルトガルの投資格付け見直
し等の重大イベントが目白押しにもかかわらず、ボラティリティは低水準で推移し
た(下図4参照)。
 今後は起債が活発化し、2016年の社債発行額の予想は上方修正が見込まれる。
極めて低い資金調達コストは、ユーロ圏内外の発行体にとり大きな魅力である。
ECBの資産買入れの波及効果で、買入対象外の債券も恩恵を受けている。ECB
による社債の買入れが見込まれる中、新発債は順調に消化されると見られる。
図4: 英国民投票後、市場ボラティリティが急速に低下
40
ボラティリティ指数
英国のEU離脱に係る国民投票
35
30
25
20
15
16/01 16/02 16/03 16/04 16/05 16/06 16/07 16/08 (年/月)
出所:バークレイズのデータをもとに、HSBCグローバル・アセット・マネジメント
(フランス)が作成(2016年8月31日現在)
市場参加者は利回りが
長期間にわたり極めて
低水準で推移するとみ
ているが、上振れリスク
の方が明らかに大きい
今後の見通し
 欧州債券は総じてやや割高感があり、9月以降に起債が活発化が予想されること
を踏まえて、短期的な調整局面に入る可能性がある。戦術的な観点から、上昇相
場において割高感が強く、確信度の低い銘柄を中心に利益確定を行っている。当
社はポートフォリオ全体のベータ値を1.0前後に維持している。欧州債券市場は、
良好な企業の財務状況と歴史的に低いデフォルト率が引き続き下支え要因となっ
ている。
 ユーロ圏の経済成長率は僅かながらプラス圏での推移を続けるだろう。金融緩和
は継続する見通しであり(ECBの社債買入れプログラムは相場を下支えするテク
ニカル要因)、引き続き企業のファンダメンタルズにとりプラス要因となる。
 ポートフォリオのデュレーションはベンチマーク対比短めに維持し、市場ボラティリ
ティの上昇を利用し戦術的なポジション調整を行っている。ユーロ圏債券利回り
は過去最低水準にあり、イールドカーブはフラット化した。市場参加者は極めて低
い利回りが長期化すると見るが、利回りの上振れリスクの方が明らかに大きいと
思われる。
※当資料は、HSBC投信株式会社が情報提供を目的として、HSBCグローバル・アセット・マネジメン
ト(フランス)が作成した“Europe Insights”を翻訳・編集したものです。
当資料の「留意点」については、巻末をご覧ください。
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HSBC投信株式会社
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