表面制御金型を用いた CNT- 樹脂接合分子原料の 射出成形による高

表面制御金型を用いた CNT- 樹脂接合分子原料の
表面制御金型を用いた CNT-樹脂接合分子原料の
射出成形による高強度ナノ繊維強化樹脂材料の創製
射出成形による高強度ナノ繊維強化樹脂材料の創製
㻌
東京工業大学 機械物理工学専攻㻌 㻌 赤坂㻌 大樹 東京工業大学 機械物理工学専攻 赤坂 大樹
1.㻌 はじめに㻌
㻌 カーボンナノチューブ(CNT)の優れた機械的強度を
利用し,CNT を樹脂に添加して複合材料とすること
で,材料の機械的特性を著しく向上できると考えられ
る.そのために,CNT を樹脂に添加した複合材料に
関して数多くの研究がなされている.例えば榎本は二
軸混練機を用いて樹脂基カーボンナノファイバー
(Carbon Nanofiber: CNF)複合材料を作製し,CNF の
配向状態を評価し,反応性エストラマーにより分散性
が向上することを明らかにし,CNT の表面処理による
樹脂との間の界面結合強度の向上により,複合材料
の引張強度を向上できることを示している[1].小笠原
らは配向 CNT を適用した複合材料の力学特性を評
価し,CNT 32.8 vol.%の配向 CNT/エポキシ樹脂にお
いて,母材のエポキシ樹脂に対してヤング率が約 36
倍,引張り強度が約 5 倍に向上することを示している.
更に,CNT の配向のばらつきを定量的に評価し,
CNT の配向分布の強度に及ぼす影響を理論的に検
証することで,配向 CNT 複合材料が CFRP 積層板と
同等のヤング率が発現する可能性を報告している
[2].
一方で,CNT を樹脂に添加した複合材料は CNT
単体の特性から予想された強度に比べ低くとどまって
いる.Deng らは,ポリエーテルケトン(Polyetherketone,
PEEK) に CNT を添加した複合材料の力学特性を評
価し,室温において MWNT 15 wt.%の CNT/PEEK 複
合材料の弾性率および最大応力は PEEK 樹脂に対し
てヤング率が 89%,最大応力が 19%上昇したと報告
した[3]. 一方で,このヤング率および最大応力の上
昇は短繊維強化理論である Halpin-Tsai の理論式
[4]を用いた予測値より小さく,MWNT を 15 wt.%添
加した際の弾性率の実験値は,理論式による予測値
の 30 %程度に留まる.
この Halpin-Tsai の理論式は短繊維と樹脂の界面が
完全に接着していると仮定しており,CNT-樹脂複合
材料の特性を予測する場合には,原子欠陥の少なく
側面の平滑な CNT と樹脂との界面であるという仮定を
考慮する必要がある.更に CNT 自体の樹脂中での配
置や分散性もこの理論式との差を生む原因である.こ
れまでの研究から, CNT-樹脂複合材料の強度を高
めるには,CNT が樹脂中に均一に分散し,CNT が引
張方向に繊維配向して, CNT と樹脂の接着強度が
高いことが必要であると考えられている.
CNT- 樹脂複合材料の実用化のためには,これらの
問題の解決が必要だが,CNT は非常に小さなナノ構
造体であり,繊維 1 本でのハンドリングが非常に困難
であるため,これらの問題の解決は容易ではない.高
強度 CNT-樹脂複合材料の実現には更なる研究が必
要である.
未処理の CNT を樹脂に混練した複合材料では
CNT の表面が極めて平滑であることにより界面の接
着強度が低く,CNT-樹脂複合材料の引張試験にお
いて,樹脂から CNT が引き抜ける [1,2,5]. 図 1 は
CNT が樹脂から引抜け,破断面に露出している様子
である.CNT-樹脂複合材料の強度向上のためには
CNT-樹脂間の接着強度の向上が必要である.一方
で,CNT 表面に官能基を導入し,引張試験後,破断
面に露出している CNT の表面に樹脂が付着していた
との報告も多い.これらの官能基の導入には,例えば
CNT 表面へ水酸基の導入があるが,長さの短い官能
基では分子鎖長さ数百 nm の高分子との絡み合いに
よる機械的結合は期待できない.官能基へ更なる付
加反応,更にその官能基からのポリマーの重合によ
り,CNT 表面に長い分子鎖を導入し,分子鎖と樹脂
の構成分子の絡みつきによる機械的な結合によっ
て,接着性の向上が期待できる.
図 1.㻌 樹脂からの CNT の引き抜けの様子
㻌
− 20 −
20
㻌
2.目㻌 的
本研究では,高機能複合材料として CNT-樹脂複
合材料に注目し,強度の低下の原因のうち,CNT と樹
脂の接着強度が低いために材料強度が低いという問
題に着目し,これら CNT と高分子の直接の化学結合
させることで解決することを目的とした.即ち CNT 表面
から樹脂を重合成長させていき,CNT-樹脂間に強固
な化学結合を形成することによって界面強度を向上さ
せる.
この樹脂と CNT を分子レベルで結合した㻌 㻌 㻌 複合
材料を原料として射出成型し,試料を得る.このときに
金型表面へのコーティングによる表面エネルギー制
御された金型を用いることで流動樹脂間の相互作用
を自在に制御し, 樹脂中の CNT 配向方向を制御する
事を最終目的とした.
4.研究内容の詳細
4.1㻌 CNT 表面からの高分子成長
CNT は 昭 和 電 工 製 気 相 成 長 ナ ノ フ ァ イ バ ー
(Vapor Grown Nano Fiber : VGNF)を用いた. 対象高
分子として PMMA を選択した.つまり CNT の側鎖面
より PMMA を成長させることになる.
本研究ではまず CNT に水酸基(COOH)を導入し
た.導入には紫外線照射下で過酸化水素水により
CNT を酸化させ,水酸基を導入する手法と,H2SO4 と
HNO3 の熱混酸溶液で水酸基を導入する手法を用い
た.[1,6].その後,これら CNT 表面の水酸基へ重合
開始基を導入し,ポリメタクリル酸メチルを CNT 側面
から重合成長させた [7]. CNT への高分子の付加の
ための反応の各工程での反応を図 2 に示す.
3.実用的な価値,実用化の見込など
本研究では CNT-樹脂複合材料の CNT と樹脂の接
着強度を向上させるために,CNT 表面に重合開始基
を導入し,樹脂を重合・成長させた試料をポリメタクリ
ル酸メチル(PMMA)樹脂内に混ぜ,表面を DLC コー
トした金型内に射出成型し,ダンベル試験片を得た.
この試験片の引張試験により,CNT を PMMA に添加
することで,PMMA を直接 CNT の表面に化学結合さ
せた CNT では,ヤング率が上昇し,PMMA の付加量
が多い試料において,ヤング率の上昇率が高い傾向
が示された.
実用化の最大の問題は CNT と樹脂の直接結合を
行なう化学プロセスに時間を要すことにあり,これを打
開することが必要と考えられる.このことから本研究に
おける実用化の道筋はまだ遠いと考えられるが,本プ
ロセスを踏んで CNT と樹脂を化学結合させる事で樹
脂との相溶性や親和性をあげることができ,樹脂同士
の絡み合いによる材料強度の上昇に寄与できると考
えられる.
樹脂と金型の相性についてだが,上記の通り,CNT
と樹脂の直接結合を行なう化学プロセスに時間を要し
たため,結論を得るに至っていない.但し,射出成型
時の自体の金型からの離れぐらいは DLC 膜をコーテ
ィングした型を用いた時の方が離型性が良い様で,ス
プロケット内深部も型より抜くことができた.このことか
らコーティングによる効果としては型よりの離型性の向
上が考えられ,今後の更なる実験検証が必要と考えら
れる.
酸化
H2O2 + UV
H2SO4 + HNO3
酸-クロ反応 SOCl2
ラジカル重合
図 2 CNT への高分子の付加反応
4.2㻌 重合過程
酸化した各 CNT を塩化チオニル中で 12 時間攪拌
し,その後,塩化チオニルを蒸留除去し,CNT 末端を
塩素化した.その後,6-アミノ-1-ヘキサノール を添加
21
− 21 −
した N,N -ジメチルホルムアミド溶液に入れ,12 時間,
還流下で攪拌反応し,6-アミノ-1-ヘキサノールを付加
した.これら官能基付加した CNT を 4-ジメチルアミノピ
リジン・トリエチルアミンを溶かしたクロロホルム溶液中
で 0 ℃に保ちながら攪拌し,臭化 2-ブロモ-2-メチル
プロピオニルを本溶液中へ滴下しながら,3 時間攪拌
した.その後,室温でさらに 24 時間,攪拌処理した.
得た試料を臭化銅(Ⅰ)と 2,2'-ビピリジルを溶かしたエ
タノール溶液に入れ,図 3 に示す様にメタクリル酸メチ
ルモノマー(MMA)を溶液に滴下しながら攪拌した.滴
下後,窒素還流下で 60 ℃24 時間攪拌した.各試料
3~6 g の CNT に PMMA を直接,化学 結合した試料
を得た.
表 1 有機元素組成分析結果
過酸化水素水によって酸化処理を行った CNT
VGNF
VGNF
含有元素
H2O2 MMA
C
wt.%
99.8
99.2
H
wt.%
0.00㻌
0.00㻌
N
wt.%
0.00
0.163
O
wt.%
0.25
0.61
Ash (wt.%)
0.3
1.3
硫酸と硝酸によって酸化処理を行った CNT
VGNF
VGNF
含有元素
C
wt.%
H
wt.%
N
wt.%
O
wt.%
Ash (wt.%)
99.8㻌
0.00㻌
0.00㻌
0.25㻌
0.3
H2SO4
MMA
94.7㻌
0.00㻌
0.63㻌
4.68㻌
1.1㻌
CNT 表面からの高分子成長させたこれらをフィラー
として用いて樹脂基複合材料を作製した.マトリクス樹
脂には三菱レイヨン製汎用メタクリル酸メチル
(Polymethyl methacrylate: PMMA) 樹脂,Acrypet
VH を使用した.ペレットへの CNT の付着は作製した
CNT と PMMA を直接化学結合させた試料をエタノー
ル中に分散させ,PMMA 樹脂ペレットをエタノール内
に入れた後,一晩乾燥させて得た.
山城精機製作所製のたて型インラインスクリュー式
射出成型機(SAV-30/30)を用いて試験片を作製した.
PMMA 樹脂,未処理の VGNF を PMMA 樹脂に付着
させたペレット(VGNF PMMA),CNT と PMMA を化学
結合させた試料を担持したペレットを 2 種類(VGNF
PMMA H2O2 樹脂・VGNF PMMA H2SO4 樹脂)の 4
図 3㻌 PMMA の重合反応の様子
種類の試験片を作製した.試験片形状は JIS K7113
の一号引張試験片に準拠した形状である.金型には
4.3㻌 各反応後の試料の組成
通常の型表面に DLC コーティングした金型を用い
各反応段階における試料の元素組成を有機元素 た.
組成分析により評価した.全体重量を 100 とした際の
C,H,N,O の含有重量の分析結果を表 1 に示す.ま 4.5㻌 射出成型による引張試験片の作製
た,燃焼後に残った灰 (Ash)の重量パーセントもこれ
作製した複合材料の機械特性を評価するために,
ら表中に示した.MMA 重合後の CNT の分析結果と 引張試験を行った.PMMA,VGNF PMMA,VGNF
理想反応状態下の重量変化の計算結果を比較し,過 H2O2 PMMA,VGNF H2SO4 PMMA の代表的な伸び
酸化水素水により酸化した CNT よりも硫酸と硝酸によ と応力の関係を示す.更にこれから計算された最大公
って酸化した CNT の方が MMA 重合度は高いと考え 称応力,ヤング率を図 4-図 6 に示す.ヤング率は公称
られる.
ひずみ 1.5-2%までの平均値をとった.
PMMA 樹脂と比較して,VGNF PMMA 樹脂,
4.4㻌 射出成型による引張試験片の作製
VGNF H2O2 PMMA 樹脂,VGNF H2SO4 PMMA 樹脂
CNT の反応後の収量が少ないことから本研究では の最大公称応力は其々-1.17, -5.37, -2.99 %であり,
作製した CNT と PMMA を直接化学結合させた試料 大きな変化はない.ヤング率は,PMMA 樹脂と比較し
を PMMA ペレットに対して混ぜることで CNT 側鎖の て,VGNF PMMA 樹脂,VGNF H2O2 PMMA 樹脂,
高分子化学結合による密着が機械特性に効果を持つ VGNF H2SO4 PMMA 樹脂は其々31.6, 32.2, 44.3 上
かを検証した.
昇した.
22
− 22 −
VGNF PMMA 樹 脂 と 比 較 し て も , VGNF H2O2
VGNF樹脂,VGNF
PMMA 樹 脂
較 し て も , VGNF H2O2
PMMA
H2と
SO比
4 PMMA 樹脂のヤング率
PMMA
樹脂,VGNF
H
SO
樹脂のヤング率
2
4 PMMA表面への樹脂の
はそれぞれ,0.46, 9.7 %大きく,CNT
はそれぞれ,0.46,
9.7 %大きく,CNT 表面への樹脂の
重合により㻌 ヤング率が増加した.特に,VGNF
H2SO4
重合により㻌
ヤング率が増加した.特に,VGNF
H2SO4
PMMA 樹脂は他に比べ,ヤング率が大きく上昇した
PMMA
事から,樹脂は他に比べ,ヤング率が大きく上昇した
PMMA 重合率を大きくするとヤング率が
事から,
PMMA 重合率を大きくするとヤング率が
CNT に近づく可能性が示唆された.
CNT に近づく可能性が示唆された.
VGNF PMMA 樹脂
VGNF PMMA 樹脂
図 4㻌 代表的な伸びと応力の関係
図 4㻌 代表的な伸びと応力の関係
VGNF H2O2 PMMA 樹脂
VGNF H2O2 PMMA 樹脂
図 5 代表的な伸びと応力の関係
図 5 代表的な伸びと応力の関係
3.3 GPa
PMMA
3.3 GPa
PMMA
図 6 各試験片のヤング率
図 6 各試験片のヤング率
この結果を受けて,破断面の SEM 観察を行なっ
この結果を受けて,破断面の
SEM 像を示した.破
観察を行なっ
た.図
7 に各試料片の破断面の SEM
た.図
7 に各試料片の破断面の SEM 像を示した.破
断面のチャージアップによりややぼやけているが
CNT
断面のチャージアップによりややぼやけているが
CNT
が引抜けている様子が観察された.これらの像から
が引抜けている様子が観察された.これらの像から
PMMA から引抜けた CNT の長さを調査しその結果を
PMMA
から引抜けた CNT の長さを調査しその結果を
図 8 のようにまとめた.
図 8 のようにまとめた.
VGNF H2SO4 PMMA 樹脂
VGNF H2SO4 PMMA 樹脂
図 7 引張試験後の破断面の電子顕微鏡像
図 7 引張試験後の破断面の電子顕微鏡像
現状調査不足によりはっきりとした結果となっていな
現状調査不足によりはっきりとした結果となっていな
いが,両方の
PMMA を成長させた CNT を用いた際の
いが,両方の
を成長させた CNT を用いた際の
試料は VGNFPMMA
を単純に付加した試料よりも
CNT の引
試料は
VGNF
を単純に付加した試料よりも
CNT の引
抜け長さが短い.このことから CNT よりの直接化学結
抜け長さが短い.このことから
CNT よりの直接化学結
合を用いた高分子の成長による効果があり,引抜ける
合を用いた高分子の成長による効果があり,引抜ける
若しくは CNT が破断するまでは CNT の弾性的な機械
若しくは
CNT が破断するまでは CNT の弾性的な機械
的性質が複合材料系に付与されている可能性が示さ
的性質が複合材料系に付与されている可能性が示さ
れた.
れた.
23
23
− 23 −
6. 参考文献
[1] 榎本和城,樹脂基カーボンナノファイバー複合材
料の射出成形に関する研究㻌 H16 東京工業大学
学位論文
[2] 小笠原俊夫,仲本兼悟,津田皓正,小川武史,
文淑英,島村佳伸,井上翼,日本複合材料学会
誌,39, 6 (2013), 240-247.
[3] F. Deng, T. Ogasawara and N. Takeda, Elsevier,
Compo. Sci. Tech., 67 (2007) 2959.㻌
[4] J. C. Halpin, J. L. Kardos, Polym. Eng. Sci., 16
(1976) 344.
[5] K. Enomoto, S. Kitakata, T. Yasuhara, N. Ohtake,
T. Kuzumaki and Y. Mitsuda,
Appl., Phys., Lett., 88 (2006) 153115.
[6] B. Czech, P. Oleszczuk and A. Wiącek, Elsevier,
Environmental Pollution, 200 (2015) 161.
[7] Kuk Ro Yoon, J. Indust. Eng. Chem., 12 (2006)
図 8 PMMA から引抜けていた CNT の長さ
639-642.
5.まとめ(結言)
CNT-樹脂複合材料の繊維強度の複合材への付与 を目的に CNT 表面から樹脂を重合成長させていき, CNT-樹脂間に強固な化学結合を形成することによっ 㻌
て界面強度の向上を試みた.この樹脂と CNT を分子 㻌
レベルで結合した材料を通常の樹脂に混ぜて原料と 㻌
して射出成型し,試料を㻌 得,複合材料の CNT の機 㻌
械的強度付与に効果があることが示された.
㻌
CNT を分子レベルで結合した材料の収量が予想を 㻌
大きく下回ったことから,今後これを増産し, 100%
㻌
CNT を分子レベルで結合した材料からなる試料を作
㻌
製することで強度向上が期待できる.㻌
更に上記収量の問題に起因して時間的制約から今 㻌
回の研究期間においては実施できなかったが,金型 㻌
表面へのコーティングによる表面エネルギー制御され 㻌
た金型を用いることで流動樹脂間の相互作用を自在 㻌
に制御し, 樹脂中のナノ繊維の配向方向制御も期待 㻌
でき,今後実施予定である.
㻌
㻌
㻌
㻌
㻌
㻌
㻌
㻌
㻌
㻌
㻌
㻌
㻌
㻌
㻌
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