CNT実用化に向けての課題克服を

CNT実用化に向けての課題克服を
製造、分散、評価の最新情報提示
㈱日本エコカーボン/ミヨシ油脂㈱/日本ルフト㈱/㈱シンキー
「カーボンナノチューブ最前線セミナー」
㈱シンキー(東京都千代田区外神田2-16-2、TEL.03-
素に分解する。低温で高転化率を特徴としている。バイオ
5207-2666、http://www.thinky.co.jp/)は、去る6月
メタンガス40Nm3から、水素30Nm3/day、ナノカーボン
3日、本社において、同社の超音波ナノ分散機が活用さ
が8kg/day得られる。目下、水素は大気放出しているが、
れている代表的分野に的を絞った「カーボンナノチュー
今後、分離膜精製により回収予定。
ブ最前 線セミナー」を開催した。当日は、カーボンナノ
メタンガスからは純度90%、精製メタンからは純度
チューブメーカーの㈱日本エコカーボン(東京都中央区
95%のナノカーボンが得られるため、現在は精製メタンを
日本橋本町3-1-6、TEL.03-6265-1891、http://www.
carbonnanotube.jp/)、界面活性剤メーカーのミヨシ油
脂㈱(東京都葛飾区堀切4-66-1、TEL.03-3603-1111、
http://www.miyoshi-yushi.co.jp/)、粒度分布測定機器
などを扱っている日本ルフト㈱(東京都台東区東上野5-18、TEL.03-3847-6880、http://www.nihon-rufuto.
com/)がそれぞれの立場から発表を行った。
(
川上幸一)
原料にしている。なお、こうして得られるJEC-MWCNTに
は単層CNTも含まれている。
用途展開としては、これまでの事例として、自動車用の
複合品、電磁波吸収建材、モルタル、エレクトロスピニン
グによるPVA分散紡糸などを紹介していた。なお、モルタ
ルは、建物の床コンクリートの仕上げに使用されるが、ク
ラックが入ると、その上に敷かれるクッションフロアにミ
ミズ膨れが生じるので、これを防ぐため、JEC-MWCNTが
添加された試験が行われた。
■メタンガスから低温、高転化率でMWCNTを
日本エコカーボンの岡本直也営業企画部長は、「環境重
視のカーボンナノチューブ製造」というテーマで、同社の
■オレイン酸系ジェミニ型界面活性剤で CNT
分散
多層カーボンナノチューブ『JEC-MWCNT』について、製
ミヨシ油脂 油化本部 第二技術部の高松雄一朗一課係長は
法、用途展開等について解説した。
「ジェミニ型界面活性剤によるCNTの効果的な分散事例」
それによると、前身のE・C・Oが、2007年1月、北海道
というテーマで発表した。
の地域コンソーシアム事業「バイオメタンのナノ炭素化技
界面活性剤は、通常、1分子中に親水基と疎水基を持つも
術及び炭素系複合導電材料の開発」のメンバーであった日
のだが、ジェミニ型は、こうした分子同士をスペーサーで
本製鋼所より、補完研究事業を受託したのが起点で、同年
つないだものを指す。高松係長によると、ジェミニ型は、
12月に日本カーボンに社名を変更し、13年12月、プラ
最低限必要とされる界面活性剤の濃度基準とされる臨界ミ
ントが国から払い下げられたのを機に、室蘭(北海道)で
セル濃度(cmc)が、一般のものに比べ1/10∼1/1000
MWCNTの商業生産をスタートしている。
程度低く、高い表面張力低下能がある、溶解度が急激に高
大気中のC O2を吸収し、光合成により農産物が生育、
まるクラフト点が低いなどの特徴がある。そこで、ファン
収穫後に不要となる農業廃棄物を原料に、メタン発酵シス
デルワールス力によりバンドル(束)構造を形成するた
テムに投入し、メタンガスを発生させ、これを燃焼させ、
め、水だけでは分散できないC N T(カーボンナノチュー
タービンを回して発電し、発生したC O2を大気放出する
ブ)に、安価な天然原料であるオレイン酸から作られる、
カーボンニュートラルではなく、出来上がったメタンガス
生体適合性、生分解性が期待されるオレイン酸系ジェミニ
を、メタン直接分解装置に通して、CO2を固化・回収し、
型界面活性剤を添加した分散例を示した。
水素を発生させ、トータルでカーボンマイナスを実現しよ
ミヨシ油脂のエステル型分散剤『D S S-10-O D E s』
うというのが、地域コンソーシアム事業の目指したもの
を1m Mに調整した水溶液5m Lに、日本エコカーボンの
あった。
『J E C-M W C N T』(繊維径15∼30n m、繊維長80∼
メタン直接改質プラントは、北見工業大学と東京工業
200μ m)を1m g/m Lになるように調製し、シンキー
大学で開発された触媒を使用し、メタンガスを2軸のスク
の『P R-1』で90分、毎分500回転で分散後の状態を目
リューフィーダーに送り、反応器による加熱で、炭素と水
視、D L S(動的光散乱法)、ゼータ電位、日本ルフトの
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『L U M i S i z e r』で評価。結果は、ドデシル硫酸ナトリウ
し、PR-1は、分散剤を含むCNT溶液を入れたバイアル瓶
ム、デオキシコール酸ナトリウム分散剤に比べ、界面移動
を斜めにして自転させ、側面と底面から超音波を当てて分
速度が小さく、低濃度から均一に良好な分散が可能なこと
散させる仕組みで、非接触で分散処理が行えるためコンタ
が明らかになった。
ミの心配がない、分散再現性が高く、簡易的にナノ分散を
試験できる。
■コンタミレスで簡易に CNT を超音波分散
シンキー 開発部応用技術課の高塚隆之課長は、「超音波
具体的なPR-1を使っての分散事例として、日本エコカー
ボンをはじめ4社のCNTの例を示した。
ナノ分散機 PR-1を用いたCNTの分散技術」について披露
した。「銅の1000倍以上の高電流密度耐性、10倍の高熱
伝導特性、高機械強度等の特性があるCNTは、まだ実用化
■ CNT の分散性や粒度分布測定
日本ルフト 科学機器部の宮岡博之課長は、「最新のCNT
には至っていない。それは、CNTの繊維長を保ったまま分
分散評価!遠心沈降方式による分散性や高分解能粒度分布
散、安定化し、それをどう評価するかにおいて課題がある
測定」というプレゼンで、米CPS Instruments社のディ
ため」と指摘した高塚課長は、ファンデルワールス力によ
スク遠心式粒度分布測定装置『DCシリーズ』、独LUM社
るCNTの凝集を解きほぐすには、界面活性剤などの分散剤
の粒度分布・分散安定性分析装置『LUMiSizer』について
等を用いて分散安定化させる必要があると説く。そこで、
紹介した。前者では、単分散PVC粒子、粒子径の異なるア
シンキーが開発したのが自転・超音波式ナノ分散機『P R-
ルミナ粒子、PSラテックス7種混合系での測定結果を示し
1』。
た。この装置、半導体のCMP(化学的機械研磨)スラリー
従来、浴槽型やホーン型の超音波装置はあったが、浴槽
でもよく使われているという。後者は、遠心場における微
型は付着物の洗浄用途に使われるもので、出力は弱く、
粒子サスペンション・エマルション等の濃度や希薄系の分
CNTの分散には不向き。ホーン型は、出力は強く分散力は
離現象をCCDで直接測定するもので、イオン液体中の2種
あるが、C N Tが切断される恐れがある、チップ自体が摩
類の0.1%MWCNT、コロイダルシリカなどの測定例を紹
耗しコンタミの恐れがあるなどの課題があった。これに対
介した。
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