人工細胞と微生物の生命性 - Tama Art University

プレスリリース
2016年9月16日
早稲田大学
多摩美術大学
「人工細胞と微生物の生命性」を問い直す学際的アートプロジェクト
早大・岩崎教授ら、茨城県北芸術祭で世界初・人工細胞(人工生命)の慰霊碑設置
早稲⽥⼤学理⼯学術院で⽣命科学(⽣物学)の研究と、関連するバイオアートを同時に展開している岩崎秀雄
(いわさきひでお)教授らの研究グループは、茨城県北芸術祭KENPOKU ART 2016で、学際的な思考芸術プロ
ジェクト「aPrayer: まだ⾒ぬ つくられしものたちの慰霊」(注1)を発表します。
生命科学の最前線では、細胞・生命の人工的な合成が試みられています。一方、会場となる茨城県北域は、納
豆・醤油・酒造など、発酵・醸造産業が盛んな土地です。岩崎教授を含む「metaPhorest」(注2)のメンバー、
多摩美術大学の学生を含む映像編集チームに加え、多くの研究者、茨城県北の醸造発酵関係者、地元の方々の協
⼒を仰ぎ、先端的な生命科学、ローカルな発酵産業、そして伝統的な死生観に関わる風習を繋ぐ、人文学と自然
科学領域にまたがる学際的なプロジェクトです。
このプロジェクトでは、人工細胞研究の最新の展開を踏まえつつ、実験動物慰霊祭や道具の供養などをヒント
として「慰霊」という補助線を引くことで、⼈⼯細胞・⼈⼯⽣命や普段意識されることの少ない微⽣物の⽣命性、
それらを⾒いだす私たち⾃⾝の⽣命観、科学的な生命像と日常的・体験的な生命観の関係性などについて、改め
て考察することを意図しています。この試みは、⻑年に渡る岩崎教授らの人工細胞の社会的文化的受容に関する
研究と、生命美学・バイオメディアアートに関する実践的研究活動を組み合わせた展開です。芸術というプラッ
トフォームにおいて、通常の学術活動では個別に論じられがちな⾃然科学と⼈⽂学双⽅における⽣命論を⽐較・
対照させる学術的な意味があります。総合大学における学際的な研究活動の一つの方向性を示す成果発表でもあ
り、国際的にも関心を呼んでいます。
芸術祭では、人工細胞や発酵生産にまつわるサンプルを収めた仮想的な慰霊空間や映像作品(注3)が展示さ
れるほか、貴重な石材で作られた人工細胞・人工生命と微生物の慰霊碑(注4)が恒久設置されます。特に、人
工細胞・人工生命の慰霊碑は世界初の実験的な試みです。この位置づけを巡っても、科学思想史・美学・⺠俗学
などの⾒地から、今後議論がなされていくことが期待されます。
◆茨城県北芸術祭KENPOKU ART 2016
会期:2016年9月17日(土) 〜11月20日(日)
(会期中の9月22日(祝・木)15時〜17時に⽯碑設置記念イベントを開催)
場所:【展⽰】旧常陸太⽥市⾃然休養村管理センター(〒313-0008 茨城県常陸太⽥市増井町 1794)
【⽯碑】⾦波寒⽉・折橋コミュニティステーション(〒311-0506常陸太⽥市折橋町799)
アーティスト:岩崎秀雄、齋藤帆奈、飯沢未央、切江志⿓(以上metaPhorest)
映像制作協⼒:井原陸雄、渡邊裕人、松岡大起(多摩美術大学)
主催:茨城県北芸術祭実⾏委員会(会⻑:橋本昌茨城県知事、総合ディレクター:南條史生)、
早稲⽥⼤学理⼯学術院岩崎研究室 生命美学プラットフォームmetaPhorest
◆本件に関するお問い合わせ先
早稲⽥⼤学理⼯学術院岩崎研究室 生命美学プラットフォーム metaPhorest
電話:090-1705-6644 メール:[email protected]
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配布先:文部科学記者会、科学記者会、各社社会部・科学部・文化部
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解説・展示案内
展示は二つの会場に分かれ、以下の三つから構成されています。
【旧⾃然休養村管理センター】
1. 人工細胞・微生物の慰霊空間:ガラス壺には、関係者に提供していただいた人工細胞や発酵に関わる
微生物や研究用具が収められており、架台にはその資料やスライドが添えられています(芸術祭終了後
は、3.の石碑前に収められる予定)
2. 多くの人工細胞・人工生命研究者、地質学者たちや発酵・醸造業に関わる地元(茨城県北地域)の⽅々
への、人工細胞や微生物の生命性や慰霊に関するインタビューを交えた映像作品(注 3)
【⾦波寒⽉・折橋コミュニティステーション】
3. 県北特産の由緒ある⽯材(町屋⽯)を⽤いて製作した⼈⼯細胞・⼈⼯⽣命と微⽣物の慰霊碑(注 4)
日本には、さまざまな動植物を供養する習慣があります。生物だけでなく人形や針、筆などを慰霊・供
養する文化すらあります。それらには、対象に対する慈しみ、うしろめたさ、感謝、畏怖、さらに道具を
⽣命として⾒る眼差しなど、「いのち」をめぐる人々の眼差しが反映されています。一般的にも、私たち
は葬儀や慰霊・供養を通じて死生観を育んできました。
こうした日常的な生命観では、多くの場合「いのち」は「私たち自身との関係性の中で感じとられるも
の」です。いっぽう、生命科学では生命を「生きものたち、あるいはそれを構成している物質のありよう」
として理解しようとし、多くの知⾒をもたらしてきました。興味深いことにそうした研究の現場でも、日
本では「実験⽣物慰霊」を⾏う習慣があります。そこでは、普段追究されている「客観性」の代わりに、
「私たちと対象との主観的な関係性に宿る生命性」への眼差しが重視されることになります。
このように慰霊には、普段あまり意識されない対象の⽣命性を再認識させる作⽤があります。今回私た
ちは、微生物と人工細胞という二つの対象に対して「慰霊」という補助線を引くことで、科学的な生命像
と日常的な生命観の関係性を逆照射することを試みました。微生物は、日常的に接しているはずの生物で
すが、普段それと意識されにくい存在です。⽣物としては単純なものとされていますが、人類は微生物一
匹さえ作ることができていません。そこで、物質を組み合わせたりして、⼈⼯細胞を作りながら⽣命を理
解していこうとする研究がいま盛んに⾏われています。
では、人工細胞たちは、私たちにとってどのような「いのち」なのでしょうか。本プロジェクトでは、
その概要を紹介するだけでなく、それが慰霊や葬儀を含む形で涵養されている日常的・情動的な生命観と
どのように関連するのかを探究していきます。そこで、敢えてそれが慰霊されるべき存在なのか、人工細
胞における死とは何か、という問いを設定し、研究者たちや関係者たちに問いかけるのです。さらに、こ
うした問いが一過的に終わることのないように、現代における新たな「いのちの問い」を考えるよすがと
して、私たちは地元の多くの⽅々の協⼒を得て「⼈⼯細胞・⼈⼯⽣命之塚」と「微⽣物之塚」を製作し、
恒久的に設置させていただくことになりました。芸術祭期間中は、こうした多くの人工細胞研究者たちや
発酵生産に関わる職人の方々のインタビューや最新の研究成果、使用した石材にまつわるインタビューな
ども踏まえたドキュメンタリー映像(注 3)や、慰霊空間を模したインスタレーションを展示しています。
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配布先:文部科学記者会、科学記者会、各社社会部・科学部・文化部
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予告編映像 URL:https://www.youtube.com/watch?v=tf4ikiq-3EU
注 1:aPrayer
タイトルの aPrayer は、artificial(人工的な)、alternative(ありうる別の)あるいは aesthetic(美学
的な)prayer(祈り、慰霊)に由来する造語です。「エープレイヤー」と発音します。
注 2:metaPhorest
早稲⽥⼤学理⼯学術院岩崎秀雄研究室(電気・情報生命工学科)に 2007 年から設置され、「生命」を巡
る美学・芸術(⽣命美学)の実験的研究・制作を⾏っているプラットフォーム。内外のアーティストやデ
ザイナーが出入りし、国際的に活動しています。
参考 URL:http://metaphorest.net
https://www.facebook.com/metaphorest.net
注 3:映像出演者リスト(敬称略)
⼈⼯細胞・⼈⼯⽣命研究:⻘野真⼠(東京⼯業⼤学)、市橋伯一(大阪大学)、池上高志(東京大学)、
上田卓也(東京大学)、木賀大介(早稲田大学)、⾞兪澈(東京⼯業⼤学)、菅原正(神奈川⼤学)、竹
内昌治(東京大学)、田端和仁(東京大学)、豊⽥太郎(東京⼤学)、野村 M 慎⼀郎(東北⼤学)、藤
原慶(慶應義塾大学)
地質学:⽥切美智雄(⽇⽴市郷⼟博物館)
科学史・⽣命思想史:林真理(⼯学院⼤学)
醸造・発酵関係:岡崎靖(ヨネビシ醤油)、岡部彰博(岡部酒造)、⾦⼦康⼆(サニーサイドキッチン)、
鈴⽊勝則・富永継則(剛烈富永酒造)、永⽥由紀夫(⾦砂郷⾷品)、塙秀茂(トーコーフーズ)、布施大
樹(⽊の⾥農園)、渡辺彰(喜久屋)
映像シーンから
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注 4:人工細胞・人工生命と微生物の慰霊碑
このプロジェクトの目的のひとつは、慰霊という観点から人工細胞の思想的・文化的含意に関して新た
な補助線を引くことです。その際重要と考えたのは「恒久的な人工細胞慰霊碑」としての石碑を建てるこ
とでした。
儚く一過的な生命を表象し記憶するための慰霊碑が、しばしば⼀⾒⾮⽣命的な「⽯」を使うのは興味深
い習慣であり、皮肉でさえありますが、「⽣命」が⼀⾯では私たちの⼼に宿る概念であることを強く意識
させます。また、地質学的なスケールでは、いま⾒る⽯の姿も⼀過的なものであり、もともと動的に生じ
たものです(展⽰会場の常陸太⽥市から⽇⽴市には、日本最古の 5 億年前のカンブリア紀の地層が広がっ
ています)。この観点からは、「石も生きているが、代謝が著しく遅い⽣命体である」という議論があっ
たほどです。いっぽう、⼈⼯細胞・⼈⼯⽣命の創造とは「物質に⽣命性を⾒出す科学であり技術であり、
文化」にほかなりません。生命性に関わる石碑も、物質の生命性を問う人工細胞研究も、その意味で文化
誌として好対照にあると言えるでしょう。
今回の石碑は、常陸太⽥市町屋地区特産の町屋⽯(斑⽯)を⽤いて製作しました。蛇紋岩からなり、柔
らかい⽯質ながら耐久性に優れた⽯材です。⽔⼾光圀以来、⽔⼾藩直轄の⽯材として広く利⽤されました
が、採掘量が少なくなり、今は流通していません。そこで、かつて石材業を営んでいた家で保管していた
貴重な石塊をお譲り頂きました。映像では、この石材の紹介を含め、5 億年前の地層を発⾒した研究者の
インタビューや各地の慰霊碑の様子も採録しています。
町屋石で彫られた人工細胞・人工生命と微生物の慰霊碑
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配布先:文部科学記者会、科学記者会、各社社会部・科学部・文化部
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⽯碑を設置した⾦波寒⽉・折橋コミュニティステーション(常陸太⽥市⾥美地区)
発信元
早稲田大学広報室広報課
〒169-8050 東京都新宿区⼾塚町 1-104
TEL:03-3202-5454
FAX:03-3202-9435
E-mail:[email protected]
多摩美術大学総合企画室
〒158-8558 東京都世田谷区上野毛 3-15-34
TEL:03-3702-1168
FAX:03-3702-9416
E-mail:[email protected]
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