JST. 市⺠民と科学者を結ぶ放射線コミュニケーションのネットワーク基盤構築 放射線疫学の 統計学的論論点 京都⼤大学医学研究科 社会健康医学系専攻薬剤疫学分野 ⽥田中司朗 内容 • 疫学の基本 • 回帰モデル • コントロールの妥当性と交絡 疫学研究の例例 産経新聞 ⽇日本経済新聞 京都新聞 神⼾戸新聞 毎⽇日新聞 受動喫煙が原因なのか? 他の⽣生活習慣が原因なのか? 受動喫煙なし (34395⼈人) 家族に喫煙者あり (37257⼈人) たばこ煙曝露露あり (5268⼈人) ⾃自分で⻭歯磨きする 80% 78% 74% 毎⽇日ジュースを飲む 36% 46% 49% 3歳時点の⾍虫⻭歯リスク 14% 20% 28% 1歳6ヶ⽉月時点で Tanaka, et al. BMJ 2015 研究対象による医学の分類 社会医学 ⼈人間集団 臨臨床医学 個⼈人 ⽬目標 ・⽣生活上の健康問題を調べ解決する ・より良良い医薬品や診断技術を開発し評価する ・健康政策の科学的根拠を提供する 基礎医学 組織・細胞・遺伝⼦子 疫学の基本 • 対象集団を設定 • コントロール(⽐比較対照)を設定 • 疾患リスクを求めて⽐比較 コントロール神⼾戸市に⽣生まれた⼦子ども76920⼈人 受動喫煙なし (34395⼈人) 家族に喫煙者あり (37257⼈人) たばこ煙曝露露あり (5268⼈人) ⾃自分で⻭歯磨きする 80% 78% 74% 毎⽇日ジュースを飲む 36% 46% 49% 3歳時点の⾍虫⻭歯リスク 14% 20% 28% 1歳6ヶ⽉月時点で 疾患リスク Tanaka, et al. BMJ 2015 コホート研究 コントロール群のリスク=2/6 疾患発⽣生 曝露露群のリスク=3/7 疾患発⽣生 リスク⽐比=1.3 コントロール (6⼈人) 打ち切切りの 対象者 (censoring) 追跡不不能 疾患発⽣生 疾患発⽣生 疾患発⽣生 曝露露群 (7⼈人) 0 1 コホートの設定 2 3 4 5 追跡終了了 6 コホート研究のデータを 要約するための指標 • 存在の指標 • 有病割合(prevalence) • 例例: たばこ煙曝露露ありの割合 • 発⽣生の指標 • リスク(risk) • 新たにイベントが起きる割合 • 発⽣生率率率(incidence rate) • 新たにイベントが起きる率率率(スピード) • ⼈人年年法で計算 • ⽣生存曲線(survival curve) • 各時点でイベントを起こしていないものの割合 • ⽐比較の指標 • 「⽐比」または「差」で⽐比べる • リスク⽐比, リスク差 過去に遡って曝露露状況を調べるとき (ケースコントロール研究) ケース (2/5が曝露露) 潜在的な コホート コントロール (4/8が曝露露) ケース群のオッズ=(2/5)/(1-‐2/5) コントロール群のオッズ=(4/8)/(1-‐4/8) オッズ⽐比=1.5 0 1 2 3 4 5 6 研究実施 疫学研究のデザイン 断⾯面研究 例例 介⼊入 コホート研究 疾患を発⽣生 特定の時点で したケースと 特定の集団を 被ばく線量量と コントロール がんが発⽣生 有病割合との を特定し被ばく するまで追跡 関連を検討 線量量を⽐比較 なし 時間的 同時/不不明確 順序 利利点 ケースコント ロール研究 コストが 低い ランダム化 臨臨床試験 特定の介⼊入を ランダムに 割り付けて⽐比較 なし なし あり 過去に遡る 前向き 前向き 稀な疾患でも実 前向きに 施可能 データを収集 ⽐比較可能性が ⾼高い 内容 • 疫学の基本 • 回帰モデル • コントロールの妥当性と交絡 甲状腺癌との因果関係を結論論付け たケースコントロール研究 • ケースとコントロールの間で, 甲状腺被ばく線 量量を⽐比較 • ケース • 1992〜~1998年年にベラルーシとロシアで発⽣生した甲 状腺癌患者276⼈人 • コントロール • 年年齢・性・居住地をマッチした1300⼈人 • 甲状腺被ばく線量量 • 2000年年代になって, 対象者の⾷食事・ヨウ素剤服⽤用情 報と居住地の放射能汚染情報から推定 Cardis, et al. J Natl Cancer Inst 2005 甲状腺被ばく線量量の⽐比較 ケースの⼈人数 コントロールの⼈人数 甲状腺被ばく線量量(mGy) 甲状腺被ばく線量量(mGy) 線量量と甲状腺癌の関連 甲 状10 腺 癌 オ ズ5 ⽐比 1 : モデルを⽤用いないオッズ⽐比と 95%信頼区間 : ⼆二次関数モデル(全データ) : ⼀一次関数モデル(2 Gy未満) : ⼀一次関数モデル(1 Gy未満) 0 1 2 3 4 5 6 7 甲状腺被ばく線量量(Gy) 統計解析に⽤用いられた 回帰モデル Odds ratio=Pr(case|dose=𝑑) /1−Pr(case|dose=𝑑) ∕P r(case|dose=0) /1−Pr =1+𝛽𝑑+𝛾𝑑↑2 • 被ばく影響(オッズ⽐比)は, 甲状腺被ばく線量量 d の ⼆二次関数と仮定された • 他の関数形も検討された • ⼀一次関数: 1+βd • 指数関数: exp(1+βd+γd2) • 特定の線量量(1, 1.5, または2Gy)までのデータを利利⽤用 回帰モデルの分類 • 線型モデル • ⼀一次関数のモデルのこと • y = β0 +β1x • 分散分析や回帰分析など • ⼀一般化線型モデル • 何らかの変換をすれば⼀一次関数になるモデルのこと • y = f(β0 +β1x) • ロジスティック回帰やPoisson回帰など • Cox回帰 • ⼀一般化加法モデル • 関数の形を特定せずデータから推定するモデル 線型モデル: y = β0 +β1x +ε y yの観測値 誤差ε 傾きβ1 yの期待値 切切⽚片β0 x ロジスティック回帰: オッズ = exp(β0 + β1x) y 1 y=1となる確率率率 0 x ロジスティック回帰: オッズ = exp(β0 + β1x) y 1 中間がないため, 曲線に 実質的な意味はない ⼥女女性で y=1となる確率率率 男性で y=1となる確率率率 0 男性(x=0) ⼥女女性(x=1) x 放射線疫学と回帰モデル • 放射線疫学では, 他の疫学研究の分野と同様に 回帰モデルが⽤用いられる 単回帰: y =β0+β1x ロジスティック回帰: log{p/(1-p)}=β0+β1x y p 1 x 0 x 放射線疫学と回帰モデル • ただし, 放射線疫学では「数式」が異異なる 直線モデル: 相対リスク =1+β1x Relative risk-1 0 直線-‐⼆二次曲線モデル: 相対リスク =1+β1x+β2x2 Relative risk-1 0 0 Radiation dose 0 Radiation dose 直線モデル・直線⼆二次曲線 モデルの臨臨床的意味 • どちらをデータに当てはめたとしても, 低線量量 域(例例えば0〜~20mGy)で過剰リスクが決して ゼロにならない 直線モデル: 相対リスク =1+β1x Relative risk-1 0 直線-‐⼆二次曲線モデル: 相対リスク =1+β1x+β2x2 Relative risk-1 0 0 Radiation dose 0 Radiation dose 広島⻑⾧長崎原爆被ばくと 固形がん発⽣生の関連 チェルノブイリ緊急作業者におけ る全⾝身線量量と固形がん発⽣生の関連 INWORKSによる累累積結腸被ばく線 量量と⽩白⾎血病を除くがん死亡の関連 放射線防護のためのLNTモデル • 放射線⼈人体影響(主に発癌)には, しきい値がなく, 累累 積線量量に正⽐比例例するという想定下での線量量管理理のこと • 1950年年頃に, なぜICRPがLNTモデルを採⽤用したか? • キイロショウジョウバエの実験(Muller 1932) • 1956年年の原⼦子放射線の⽣生物的影響に関する委員会(BEAR)報 告書 • メカニズムがよく知られていなかった当時は, 放射線がDNAに ヒットする回数と癌のイニシエーションの確率率率が⽐比例例すると いう仮説は合理理的であった • 1980年年頃から, ⽭矛盾する実験結果が相次ぐ • DNAの修復復, 線量量率率率効果, ホルミシス効果, バイスタンダー効果 など(Tubiana, et al. Radiology 2009) • LNTモデルと回帰モデルでどのような関数形を選ぶか は, 別の次元の問題だが, 歴史的には相互に影響しあい ながら議論論されてきた 分類変数の扱い(ダミー変数) • 性別, 治療療, 病期などの分類変数を, 0または1の 数値でコーディングしたもの • BMIをコーディングするには, いくつのダミー 変数が必要か? • BMI<18.5kg/m2 • BMI18.5〜~25kg/m2 • BMI≥25kg/m2 : 痩せ : 適正体重 : 肥満 29 ダミー変数 • ダミー変数の数は, カテゴリー数より⼀一つ少ない • 「基準」はダミー変数が全て0のカテゴリー • つまり, 適正体重を基準にしたければ, x1=0, x2=0 という別のダミー変数を作る BMI<18.5kg/m2 BMI18.5 to 25kg/m2 x1 0 1 x2 0 0 BMI≥25kg/m2 0 1 ダミー変数 • 多くのソフトウェアは⾃自動的 にダミー変数を作ってくれる • これは便便利利だが, どのカテゴ リーが基準なのかなどを正し く理理解していないと, 出⼒力力を 誤って解釈してしまう • ソフトウェアの使い⽅方が正し いかどうかを確認するには, 右 のように⾃自分でダミー変数を 作って確かめるとよい 31 内容 • 疫学の基本 • 回帰モデル • コントロールの妥当性と交絡 シリコン豊胸術と 結合組織病・がんの例例 • 1980年年代にメーカーと消費者の間で⺠民事裁判 • 1998年年ダウコーニング社破産申し⽴立立て • 約17万⼈人の原告から合計32億ドルの損害賠償 • 疫学研究では関連を否定 • 1993〜~98年年に⾏行行われた15研究のレビューでは… • On the basis of our meta-‐analyses, there was no evidence of an associabon between breast implants in general, or silicone-‐gel–filled breast implants specifically, and any of the individual connecbve-‐bssue diseases, all definite connecbve-‐bssue diseases combined, or other autoimmune or rheumabc condibons. Janowsky, et al. New Engl J Med. 2000 研究間で結果が⾷食い違った例例 • A Swedish study found a significant associabon between residenbal radon exposure and lung cancer (ラドンと肺癌). • A Canadian study did not. • Three months later, it was pesbcide residues (殺⾍虫剤). A medical journal published a study in April reporbng -‐ contrary to previous, less powerful studies -‐ that the presence of DDT metabolites in the bloodstream seemed to have no effect on the risk of breast cancer. • In October, it was aborbons and breast cancer(流流産と乳癌). Maybe yes. Maybe no. • In January of this year it was electromagnebc fields (EMF) from power lines(電磁場). This bme a study of electric ublity workers in the US suggested a possible link between EMF and brain cancer but -‐ contrary to a study a year ago in Canada and France -‐ no link between EMF and leukemia. Taube. Science 1995 Taube. Science 1995 受動喫煙が原因なのか? 他の⽣生活習慣が原因なのか? 受動喫煙なし (34395⼈人) 家族に喫煙者あり (37257⼈人) たばこ煙曝露露あり (5268⼈人) ⾃自分で⻭歯磨きする 80% 78% 74% 毎⽇日ジュースを飲む 36% 46% 49% 3歳時点の⾍虫⻭歯リスク 14% 20% 28% 1歳6ヶ⽉月時点で Tanaka, et al. BMJ 2015 1年年あたり疾患発⽣生率率率 被ばく群 0.5 0.4 ⾮非被ばく群 0.3 0.2 0.1 0 30 40 50 60 70 80 年年齢(歳) 被ばく群(●に対応)↑ ↑ ↑ ↑ ↑ 疾患発⽣生数 観察⼈人年年 48 32 40 30 50 合計200⼈人 400 200 200 100 100 合計1000⼈人年年 10 15 25 30 140 合計220⼈人 100 100 200 200 400 合計1000⼈人年年 ⾮非被ばく群(○に対応) 疾患発⽣生数 観察⼈人年年 まとめ • 疫学の基本 • 回帰モデル • コントロールの妥当性と交絡
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