氏 名 : 金子 美樹 論 文 名 :Quantitative Evaluation of Pronation and

(様式3)
氏
名
: 金子
美樹
論 文 名
:Quantitative Evaluation of Pronation and Supination for Children
with ADHD
(注意欠陥・多動性障害児における前腕回内回外運動の定量的評価)
区
:甲
分
論
文
内
容
の
要
旨
前腕の回内回外運動とは、肘を 90 度に屈曲した状態で前腕を素早く回内・回外させる運動のこ
とである。この運動は、神経学的微細徴候 (Soft Neurological Signs: SNS)の検査方法の一つとし
て用いられている。神経学的微細徴候とは、動きや行動に出現する中枢神経系の微細な異常、また
は成熟の遅れである。この徴候の検査は、不注意、多動性、衝動性の3つの症状を特徴とする注意
欠陥・多動性障害(Attention Deficit Hyperactivity Disorder: ADHD)が疑われる小児の診断に用
いられている。現在、ADHD の診断は、生育・発達歴、家族歴、医師との面談や学校関係者、養育
者からの情報、スクリーニングテスト、鑑別診断など多くの検査法を用いて行われる。これらの検
査の中で神経学的微細徴候は、医師自身がその場で直接小児の状態を評価することができる重要な
指標の1つである。しかし、この検査では医師が目視により動きを評価する。そのため、治療効果
やトレーニング効果、長期的な観察や支援のためのより定量的な評価方法の確立が望まれている。
本研究の目的は、小型の無線3軸加速度・角速度センサを用い、ADHD の回内回外運動の特徴を表
す定量的な評価法の確立である。
まず、回内回外運動の評価指標を表すパラメータの作成、従来法である医師の目視評価との比較
を行った。被験者の両手の甲と両肘の外側に取り付けられたセンサから取得したデータをもとに回
内回外運動の評価指標となるパラメータを算出した。評価指標は、回内回外運動の速さ(Rotational
speed)
、前腕の連合運動の有無(Associated movement of hand)
、肘のぶれ(Elbow excursion)右
手と左手の回内・回外の協調性(Bimanual symmetry)、テンポの追従性(Compliance)、姿勢の
安定性(Postural stability)など、従来の目視評価指標をもとに提案した。提案したパラメータと
医師による目視評価との比較をおこなった結果、提案した評価指標のパラメータ値と医師の目視評
価との間に有意な正の相関があり、さらに経験年数が長い医師の評価とより強い相関がみられた。
これらの結果から、提案したパラメータが、回内回外の評価指標に有用であることが示唆された。
さらに、4歳から12歳までの健常児223名の測定し、提案したパラメータの各年齢における
ADHD の評価基準を提案した。測定の結果、各評価指標において年齢にともなう発達がみられ、各
年齢間で有意な差が得られた。また、目視評価で用いる評価基準をもとに4歳から12歳までをグ
ループ分けし、比較をおこなったところ,グループ間で有意な差が得られた。これらの結果から、
提案した評価パラメータから得られた健常児の発達推移が、回内回外運動の評価基準として有用で
あることが示唆された。
これらの健常児の発達推移をもとに、7歳から11歳までの ADHD 児38名の測定を行った。
本研究の目的は、回内回外運動における ADHD の定量的評価法の確立である。そこで、提案した
パラメータにおける同年齢の健常児との比較、他の発達障害児との比較をおこなった。測定の結果、
各評価指標において ADHD 児のパラメータ値が、同年齢の健常児のパラメータ値を下回る傾向に
あることがわかった。また、各評価指標の発達バランスを比較したところ、健常児の発達バランス
は年齢とともに向上するのに対し、ADHD 児の発達バランスには偏りがあり、健常児よりも数年遅
れて発達しているという結果が得られた。これらの評価指標では、いくつかの年齢グループ間にお
いて、有意な差がみられた。さらに、ADHD の評価指標としての有用性を検討するために、ADHD
のみを発症したグループ、ADHD と自閉症スペクトラム(Autistic Spectrum Disorder: ASD)を併存
しているグループ、健常児グループの3つに分け、パラメータ値の比較を行った。測定の結果、
ADHD のみを発症したグループと ADHD と ASD を併存しているグループ間に有意な差はみられず、
健常児童のグループとの比較で有意な差がある評価指標が得られた。これらの結果から、提案した
指標が ADHD の評価指標として有用であることが示唆された。
以上のように本研究では、回内回外運動時の神経学的微細徴候を定量的に評価する指標の確立を
行った。本研究で得られた結果は、ADHD 児の診断、治療効果やトレーニング効果,長期的な観察
や支援に対する客観的評価として今後貢献できると考えられる。