ファンドニュース(77) IFRS第16号(新リース基準)

ファンドニュース
IFRS第16号(新リース基準)が変えるCRE戦略
2016年9月
はじめに
国際会計基準審議会(IASB)は、2016年1月に新しいリース基準である国際財務報告基準(IFRS)第16号を公表しまし
た(以下、”新リース基準”)。新リース基準は、2019年1月1日以降に開始する事業年度より適用されます。これを受けて、
PwCでは、この新リース基準がコーポレートリアルエステイト戦略(以下、”CRE戦略”)に与える影響についての報告書を
作成しました。CRE戦略とは、企業が保有する不動産について「企業価値向上」の観点から見直しを行い、不動産を最
適に活用しようとするビジネス戦略ですが、今回は、この報告書の内容の一部を紹介します。
新リース基準の概要
貸手の会計処理は、従来のIAS17号とそれほど大きく変わりませんが、借手の会計処理が大きく変更されます。
現行のIAS第17号は、日本における現行のリース会計基準と同様に、対象資産の所有に伴うリスクと経済価値が借手
に移転するかどうかを判断し、移転するものはファイナンスリースとして所有権の有無にかかわらず貸借対照表に計上し、
移転しないものはオペレーティング・リースとして、貸借対照表に計上せず(オフバランス)、リース料の発生に応じてリー
ス費用を損益計算書に計上を行います。一部の長期の契約を除き、不動産賃貸借についてはオペレーティング・リース
に該当するものがほとんどでした。
一方、新リース基準の下では、原則的に、すべてのリース契約(短期リース、少額資産のリースは除く)において、リー
ス期間にわたって発生する支払義務の合計金額の現在価値がリース債務として、対応する使用権資産が資産として、貸
借対照表に計上されることになります。また、従前のオペレーティング・リースにおいては、リース料として損益計算書に
計上されていたものが、リース債務に対する支払利息と使用権資産の減価償却費に置き換わることになります。このうち、
リース債務に対する支払利息は、リース期間の当初においてより多く、リース債務の減少につれて少なくなることになりま
す。なお、リース期間は、解約不能期間に加えて、借手がリースを延長するオプションを行使する(または、リースを解約
するオプションを行使しない)ことが合理的に確実な場合のオプション期間を含む期間とされており、一定の重大な事象
の発生または重大な状況の変化があった時に、延長オプションの行使、または解約オプションの不行使が合理的に確
実であるかどうかについて、見直さなければならないとされています。
コーポレートリアルエステイト戦略への影響
 財務報告、財務比率および業績指標への影響
多くの会社が、既に、財務諸表の直接的影響や、それに伴う財務制限条項などの財務比率および業績指標への
影響について認識しています。
新しいリース基準は、貸借対照表と損益計算書の開示を大きく変えます。貸借対照表上で両建て表示されることか
ら、負債比率、純資産比率は従来よりも悪化するかもしれません。また、従来賃貸費用として認識されてきたオペレーテ
ィング・リースにおける賃料が、新しいリース基準においては利息および減価償却費として認識されるため、費用の認識
の仕方が大きくことなります。これにより、これまであまりフォーカスされてこなかったリース料に含まれる利息費用が顕在
化します。これは、インタレスト・カバレッジ・レシオ 1に対しては悪い影響を与えるのに対し、EBITDA 2 は改善します。
また、継続的な再測定により、これらの指標の変動が従来よりも大きくなるかもしれません。これらの指標はもはや、従来
の目的に対して有用性を失うかもしれず、新しいリース基準に対応した新たな指標が生み出されるかもしれません。
また、貸借対照表において認識されるリースが増えることに加え、リース期間などの見直しが必要となるトリガーイベ
ントが発生していないかどうかの継続的なモニターが必要になるなど、従来のリース会計に比して追加のリソース、労
力が必要になることが想定されます。
 所有か賃借かの選択
一部の会社もしくは一部の業界においては、ほかにもすぐには気づきにくい重要な影響が存在します。加えて、多
くの会社において、賃貸借契約の締結にあたって、会計的に借手と貸手の両者にとって最も望ましい結果となるように
交渉するための追加的な時間と労力が必要になるでしょう。このような影響が、CRE戦略へも影響を与えることになり
ます。たとえば、次のような影響が考えられます。
一般的に会社は、長期における不動産の必要性が不明確な場合に賃借を選択する傾向があります。それに加えて
賃借には、オフバランスによる資金調達が可能であるという有利さがありましたが、これは、新基準の下ではなくなりま
す。会計上のオフバランスがなくなることで、会社は、現在賃借している不動産を所有することを選択するかもしれませ
ん。負債比率が低く信用力の高い会社は、不動産の貸手よりも低コストの資金を調達可能かもしれず、その場合、不
動産の賃借から所有から切り替えることにより、信用力の差(資金調達のアービトラージ)により利益が得られるかもし
れません。さらに、直観的には理解しにくいのですが、新基準の下では、信用力が高く借入利子率が低い会社ほど、
リース債務を算出するにあたり低い割引率が適用されるため、リース債務が大きくなります。
しかし、この傾向は、不動産を賃借する理由や不動産のタイプによって影響を受けます。長期のリースで、一棟借り
のようにほかのテナントの影響を受けないケースでは、所有への移行が起こりやすいと考えられ、一方、短中期のリー
スでショッピングモールの一区画を借りているような、ほかのテナントの影響を受けやすいケースでは、所有への移行
は起こりにくいと考えられます。
1
会社の借入金などの支払い能力を測るための指標。(営業利益+受取利息+受取配当金)÷(支払利息+割引料)で表されるのが一般的
2
主要な財務指標の一つ。(税引前利益+特別損益+支払利息+減価償却費+その他償却費)で求められる。
おわりに
会計処理に限定すれば、貸手への影響は限定的ですが、上述のとおり、借手への影響が非常に大きく、借手は不動
産賃貸借に考え方を大きく変える可能性があり、不動産ファンドへの影響もまた大きいものと考えられます。上記は、報
告書の内容の一部に過ぎず、新しいリース会計基準の下で、CRE戦略を考えるに当たり、況慮すべき事項は多岐にわ
たります。興味がある方はリンク先の原文をご覧いただければと思います。
The overhaul of lease accounting – Catalyst for change in corporate real estate
なお、内容にご質問などございましたら、以下のお問い合わせフォームからご連絡いただければと思います。
文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることを申し添えます。
PwCあらた有限責任監査法人
第3金融部(資産運用)
マネジャー 比 田 井
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猛
久
第3金融部(資産運用)
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