発表資料

グアニン結晶を用いた
光学素子の製造方法、
並びに光学素子
広島大学
ナノデバイス・バイオ融合科学研究所
分子生命情報科学研究部門
教授 岩坂 正和
1
本発明の概要
反磁性マイクロミラー等の光学素子化およびその形成方法
本発明の背景技術
1. 磁場配向技術による、反磁性物質の非接触磁気回転制御
2.魚のウロコ等から得られるグアニン結晶*の強い光反射特性
*厚さが100nm以下と非常に薄く、均一なサイズの結晶板
本発明の技術内容
・
グアニン結晶の光反射結晶面(102面)に磁場を印加すると、
グアニン分子内に流れる環電流によって二次磁場が発生する。
・
この時、グアニン結晶は、環電流が流れない方向、すなわち、
印加磁場に平行な方向に磁場配向されることを見出した。
・
このグアニン結晶の磁場配向特性を利用して、マイクロミラー等
の光学素子を構築する方法を見出した。
2
当該研究分野の概要
反磁性物質(生体由来物質)の磁場配向を利用した技術
反磁性物質の磁場配向
例)・フィブリン・コラーゲン等の
生体高分子の配向
・血管平滑筋細胞の磁場配向
・カーボンナノチューブの配向
フィブリンファイバーの磁場配向
A. Yamagishi et al. , Physica B, 164, 222 (1990).
応用例
・細胞のパターニング技術を人工血管作製に利用
・コラーゲン配向による細胞パターニング誘導技術等
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当該研究分野の概要
生体由来のマイクロミラー
魚類から採取(例:キンギョ)
魚類由来グアニン結晶
特異な強い光反射
5 mm
グアニン結晶
グアニン結晶サスペンション
深海の微弱光に対する
眼球内・体表面での
高度な集光・反射機能
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観察方向
光
磁力線方向
グアニン結晶の磁場配向(光反射抑制)
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従来技術とその問題点1
Digital Micromirror Device (DMD) →電気駆動のマイクロ光学素子
電気駆動の問題点
・電気伝導度の高い溶液内(電解質等)では使用不可能
・浮遊状態で、任意方向に非接触では制御できない
磁気駆動の光学素子で克服できる可能性あり
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従来技術とその問題点2
グアニン結晶
20 µm
溶液中に浮遊した状態で分散
容器の底に沈んだ状態
磁場印加前のグアニン結晶の光反射結晶面(102面)の方向はランダム
磁場配向させた場合、光反射結晶面の回転角度は一様でなく、
反射光強度にばらつきが生じる
グアニン結晶を用いる場合の問題点
グアニン結晶の磁場配向特性を利用して光学素子を構築した場合、
結晶の回転方位特性を一様に制御することが難しい
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従来技術の課題とその解決手段
グアニン結晶等の光反射結晶面及び磁場配向特性を有するミラー片を
用いたマイクロ光学素子の構築において;
●課題
溶液中でのミラー片の回転方位特性を、一様且つ非接触で
制御可能なマイクロ光学素子を構築すること
●解決手段
溶液中に分散した複数のミラー片(グアニン結晶)
+ 一端がミラー片に結合された複数の結合子(DNA)
+ ガラス基板で構成された光学素子
1. 反磁性の磁場配向による非接触回転制御
2. DNAの水素結合および静電作用
3. DNAと基板の物理吸着
を利用する
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新技術の内容と特徴、実験結果
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●グアニン結晶の固定法と磁気制御法
ガラス基板
(18x18 mm)
混合
蒸留水
90~100 度
混合
および
封入
磁場
サケ精液由来
DNA粉末
DNA
フレームシール
DNA 溶液(25 ml)
電気ホットプレート
1. 鉛直磁場を与えつつ、配向と重
力で結晶側面をDNA固定して、
サンプル作製.
ウロコ
魚類由来グアニン結晶
2. サンプルに対し、電磁石による
水平磁場を印加しながらミラー
面角度の磁気制御を行った.
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●グアニン結晶のマイクロ光学素子化
磁場印加前
水平磁場
磁場印加後
570秒経過後
0.48 T
ℓ
Scale bar: 10 (mm)
J. Appl. Phys., 117, pp. 17B730-1‒4, 2015.
モデル
グアニン結晶
DNA
基板に接着
傾斜変化
元に戻る
重力
浮遊
ガラス基板
鉛直磁場
450 mT
水平磁場
480 mT
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●グアニン結晶のマイクロ光学素子化
印加する水平磁場の強度別に,
磁場印加前後における結晶幅の差を測定
ℓ1
環境磁場下
ℓ2
磁場下
Micro-mirror width difference
=ℓ2-ℓ1
Micro-mirror
Width difference (mm)
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
100 mT 200 mT 300 mT 400 mT
Magnetic field intensity (mT)
印加磁場の強度を変えることで,結晶面角度の可変が可能
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●洗浄による光学素子のDNA固定検出
DNA固定後の基板を洗浄後に結晶ミラー片とDNAを分光検出
1. グアニン結晶サスペンション
洗浄液
洗い流し→乾燥
3.
Absorbance (a.u.)
2.
石英板
0.30
紫外線
0.20
分光検出
a
b
サスペンション (洗浄液)
Guanine+DNA (PBS)
Guanine (DW)
DNAの吸光度範囲
0.10
0.00
200
グアニン + DNA
線
230
260
290
Wavelength (nm)
320
J. Appl. Phys., 117, pp. 17B730-1‒4, 2015. 13
●グアニン結晶の結晶構造
b軸
単斜晶
102面
5 mm
20 mm
102面
102面
~100 nm
012面
a軸
012面
102面
012面
c axis
b axis
参考文献:Levi-Lior et al., Crystals Growth & Design, 8, 507-511 (2008).
a axis
012面
a axis
102面
c axis
b axis
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● 磁場配向の原理
1. 環境磁場下では分子は安定
2. 磁場印加すると分子は不安定に
磁場
グアニン分子
4. 磁場配向を生じることで二次磁場発生
を抑え,分子は安定に
3. 分子に環電流が流れ,二次磁場が発生
磁場配向
磁場
二次磁場
磁場
p電子による
環電流
分子(結晶)回転
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● グアニン結晶の磁場配向
結晶最大面に対し垂直に磁場印加
→結晶状態が不安定
磁場
102面
磁力線の入らない方向へ
結晶が回転
→結晶状態が安定
結晶短軸
環電流
2次磁場
102面
・磁場印加すると結晶短軸が磁力線に対し平行に配向する
・結晶が起き上がる
Applied Physics Express, 6, 037002(1-4) (2013). 16
●グアニン結晶のマイクロ光学素子化
1
磁場
ミラー構築の方法と磁気制御
2
グアニン結晶
重力
DNA
ガラス基板
水溶液
・鉛直方向の磁場印加で
結晶とDNAを配向させたまま,
重力で自然沈降させる
グアニン結晶
重力
物理吸着
ガラス基板
・DNAと重力による自然沈降で
ガラス基板に結晶を吸着
J. Appl. Phys. 117, 17B730 (2015).
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●グアニン結晶のマイクロ光学素子化
ミラー構築の方法と磁気制御
3
4
磁場
DNAの弾性
による戻り
結晶
回転
伸びる
縮む
ガラス基板
・結晶の角度が磁場配向による
結晶回転で変化
・DNAの弾性により,磁場印加で
一時的に伸縮する
縮む
伸びる
ガラス基板
・磁場を切るとDNAの弾性と
伸縮機能で角度が戻る
J. Appl. Phys. 117, 17B730 (2015).
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●マイクロ光学素子の角度可変メカニズム
DNAの弾性による伸縮
磁場
伸びる
縮む
縮む
縮む
伸びる
伸びる
伸びる
縮む
DNA鎖
グアニン
結晶
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●マイクロ光学素子の角度可変メカニズム
DNAとグアニン分子の相互作用
グアニン結晶
102面
102面
DNA鎖
001面
−帯電
グアニン結晶
静電結合
001面
DNA鎖
+帯電
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●マイクロ光学素子の角度可変メカニズム
DNAとグアニン分子の相互作用
水素結合
シトシン
水素結合
結晶面(102面)
DNA鎖
DNA鎖
側面(001面)001面
DNA鎖のシトシン分子が、グアニン結晶(102面)の段差部分
および側面のグアニン分子の水素結合可能な部分に結合する
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●マイクロ光学素子の角度可変メカニズム
ミラー構築と磁場印加における結晶面可変のメカニズム
1. 結晶ミラー構築の際,鉛直方向の磁場印加による磁場配向と重力の自然
沈降により,結晶側面をガラス基板平行に配向させて,ガラス基板に
DNAで固定.
2. 鉛直方向に磁場印加することで接着剤であるDNAも磁力線方向に配向.
3. DNAと結晶面(102面)及び側面(001面)が静電作用により結合.
または,DNAのシトシン分子と結晶面(102面)の分子による段差部分
及び側面(001面)のグアニン分子が水素結合している可能性.
4. 固定した結晶ミラーに水平方向に磁場印加すると,磁場配向とDNAの弾
性による伸縮運動で結晶面角度が可変可能.
5. 磁場印加を切った後は,DNAの弾性による伸縮運動によって結晶面が
ほぼ元の位置に戻る.
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実用化に向けた課題・企業への期待
●実用化への課題
・結晶ミラー片を用いたマイクロ光学素子のアレイ化
・マイクロ光学素子のスイッチング制御のための
DNA固定の安定化および固定強度のばらつき制御
ミラー片のアレイ化
●企業への期待
基礎研究から応用に向けた共同研究;
1. 結晶ミラー片を用いた光学素子のアレイ化
(微小物体の配列技術を持った企業を希望)
2. DNA固定強度のばらつき問題の解決
3. 本研究のマイクロ光学素子用の磁石(マイクロ電磁石コイル)作製
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本技術に関する知的財産権
•発明の名称 :マイクロ光学素子及び
その形成方法
•出願番号
:特願2015-195567
•出願人
:広島大学
•発明者
:岩坂正和、水川友里
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お問い合わせ先
広島大学
産学・地域連携センター 国際・産学連携部門
産学官連携コーディネーター 石井 貴子
TEL: 082-424-4302
FAX: 082-424-6189
e-mail: [email protected]
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参考資料
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反磁性物質の磁場効果
磁性 … 物質が磁場中に置かれたときに引力・斥力を持つ磁気的特性
あらゆる物質は 磁場強度(H)に応じて磁化(M)を生じる
… 磁化率 → 磁気分極の起こりやすさを示す物性値
反磁性体
<
外部磁場により
磁場方向と逆方向に
磁化される
常磁性体
>
外部磁場により
磁場方向と同方向に
磁化される
強磁性体
>
外部磁場の有無に関わらず
スピンが平行に整列し
大きな磁気モーメントを持つ
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反磁性磁場配向によるマイクロマニピュレーション
フィブリンファイバーの磁場配向
磁化率異方性
Dc= c// ― c⊥
Dc の大きさ…回転速度が決定
A. Yamagishi et al. , Physica B, 164, 222 (1990).
磁場配向の要因
フィブリン
|
c// |<| c⊥ |
Dc の±…回転方向を決定
磁化率の異方性
//
磁化容易軸 磁化困難軸
磁力線方向
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