Dynamo action during grand minima

2015年度生存圏科学萌芽研究
歴史文献中のオーロラ及び黒点記録を用いた過去の太陽活動の研究
磯部洋明(京大総合生存学館/宇宙総合学研究ユニット)、海老原祐介(京大生存圏研究所)、片岡龍峰(極地研究所)、
早川尚志(京大文学研究科)、玉澤春史、河村聡人(京大理学研究科)
概要:
本研究の目的は、歴史文献中に記録された天体現象、特にオーロラと黒点の観測記録をサーベイし、太陽活動及びオーロラ・地磁気嵐の長期変動の解明に資す
るとともに、歴史文献中の記録を正確な書誌情報と共にインターネットで公開して研究者コミュニティが使いやすい形で提供することにある。まず、デジタル
データベース化されている中国歴代王朝の正史・天文志から、太陽黒点及びオーロラの候補となるキーワードを網羅的にサーベイし、明らかに黒点/オーロラ
でない記述を取り除いたリストを作成した。また、テキストの精読、西洋や日本における独立した同時観測の有無の調査、月齢計算による大気散乱現象の可能
性の検討等を通してオーロラ候補となる記録が実際にオーロラであった可能性を吟味した。その結果、17世紀後半のマウンダー極小期にも低緯度オーロラらし
い記録があること、これまで必ずしもオーロラを指し示すとされていなかった「白虹」という言葉がオーロラの記録にも使われていた可能性が高いことなど、
いくつかの興味深い知見を得ることができた。
また、地震や気象の研究者及び日本史の研究者との連携により、京都の寺社が所有する未読文献の調査にも着手したほか、総研大(極地研、国文学研究資料
館)と連携して、歴史文献とSNSを活用した市民参加型の共同研究プロジェクトも新たに立ち上げた。
背景1:生存圏としての太陽-地球圏
背景2:極端宇宙天気現象への関心の増大
背景3:デジタルヒューマニティーズ
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太陽の短期変動(フレア等)は衛星障害、通
信障害、発送電の被害など、現代文明に影響
を与える。
太陽の長期変動は地球気候の長期変動に影響
を与える。
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太陽型恒星で既知の太陽フレアの1000倍ものエネルギーを持つ
“スーパーフレア”発見(Maehara et al. 2012)
年輪中・氷床コア中の放射性同位体から775年付近と994年付近
に極端な宇宙線イベント発見(Miyake et al,. 2012, 2013)
太陽でもスーパーフレアは起きるか?
今サイクルの低調な太陽活動。グランドミニマムは来るか?
過去の太陽活動の情報
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歴史文献中の黒点・オーロラの例
黒点数:望遠鏡による観測が始まった 1609年以降のデータはま
とめられている。それ以前も、眼視観測による記録が世界各地の
歴史文献中に存在。
年輪や氷床コア中の宇宙線起源の放射性同位体
低緯度オーロラ:漢字文化圏では「赤氣」「白氣」などとして歴
史文献中に記録されており、大規模な太陽活動・磁気嵐の証拠と
なる。欧州や中東にも記録がある。
=>歴史文献は過去の太陽活動の貴重なデータ源。ただし、本当
に黒点・オーロラか、日付は正しいかなど、情報の信頼性には吟
味が必要であり、歴史・古典の研究者との連携が必須。
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『元豐元年…十二月丙午 (1079.1.11),日
中有黑子如李大,至丁巳 (22) 散。』(宋
史天文五1087)
『治平二年四月丙午 (1065.5.24) 夜,西北
方有白氣漸東南行,首尾至濁,貫角宿,移
西北,久方散,占曰:「有兵戰疾疫
事」。』(宋史五行四1455)
古典籍のデジタルデータベース化
くずし字の自動判読
歴史文献中の自然現象のサーベイが格段に容易に!
赤気 (red vapor) in China
1770/9/17, Japan, Aichi
天元玉暦祥異賦,
国立国会図書館蔵
『猿猴庵随観図会』
国立国会図書館デジタルアーカイブ
これまでの主な成果
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中国歴代王朝の正史中の黒点・オーロラサーベイをほぼ完了
• 隋唐五代十国(581-959) 論文準備中 (Tamazawa et al.)
• 宋(960-1279) 出版済(Hayakawa et al. 2015, EPS)
• 元明(1280-1643) 論文準備中
• 清(1644-1912) PASJへ投稿中(Kawamura et al.)
• 出版済データは順次HPで公開 http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~palaeo/
これまであまりオーロラ候補とみなされていなかった「白虹」「虹蜺」がオーロラを含みうることをテキストの吟味と日中同時観測の例から示した(Hayakawa et al. PASJ印刷中)
京都の寺社へ、所有する文献利用についてコンタクトを開始
総研大学融合プロジェクトとして国文学研究資料館・極地研との共同研究を開始。伏見稲荷神社等の未読文献から新たなオーロラ記録を発見。
「白虹」「虹蜺」はオーロラ?
マウンダー極小期中に低緯度オーロラ?
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「白虹貫日」という用例がよく知られていたため、
これまでは日暈等の大気散乱現象とみなされていた
• しかし、時間は夜だが月との関連がない、空の広い
範囲にわたってみられるなど、大気散乱現象とは考
えにくい記録がある。
 (旧唐書天文志下~赤気1324)唐隆元年六月八日,
虹蜺竟天。
 (新唐書五行三950)至德二載正月丙子,南陽夜有
白虹四,上亙百餘丈。
• 1363.7.30のイベントは、日中で同時観測有り
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 至正二十三年…六月丁巳,絳州
日暮有紅光見于北方,如火,中
有黑氣相雜,又有白虹二, 直衝
北斗,逾時方散。(元史五行二,
p1103)
 正平十八年…六月十九日,入夜
艮幷北方如遠所燒亡,火光不知
何故,或説,炎旱之瑞云々。
(後愚味記I, p62)
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マウンダー極小期(17世紀後半)、黒点はほとんど
なかった。
もし低緯度オーロラがあれば
極小期中の大規模磁気嵐の
証拠として面白い
清代(1644-1912)の記録をサーベイ。黒点記録はなし。
オーロラ候補(赤氣、白氣等)は111個発見。
14例は西側世界に同時観測の記録あり(Fritz 1873)=>
オーロラの可能性非常に高い
26例の「白氣」は、同時期に彗星が現れていた=>彗星の
記録の可能性が高い
残りの例に関して、大気光散乱現象の可能性を探るため、
月齢との比較をしてみた。
• 満月付近にピーク
=>大気光散乱現象
が含まれている
• 新月付近にも記録
=>オーロラの可能
性有り
伏見稲荷の日記から新たなオーロラ記録発見!
(Iwahashi et al. )
歴史文献利用とSNSを活用した市民参加型
研究プロジェクトの立ち上げ
(総研大学融合プロジェクト 代表:片岡龍峰)
天元玉暦祥異賦,国立公文書館
• 「白虹」「虹蜺」がオーロラ候補だとすると:
 775年の宇宙線イベントと同時期(775.6.16)に続日本
紀で「白虹竟天」という記録があり、低緯度オーロ
ラの証拠になりうる
 日本書紀に459年1月に『恒使闇夜東西求覓。乃於河
上虹見如蛇、四五丈者。』という記録があり、これ
が日本最古のオーロラ記録の更新となりうる。
Hayakawa et al. PASJ印刷中
• マウンダー極小期中に、
新月付近のオーロラ候
補3件あり!
• マウンダー極小期中の
多点同時観測例は未発
見。今後の課題。
http://aurora4d.jp/