緊急リポート:日銀の総括的検証とみずほ総研の「5

リサーチ TODAY
2016 年 9 月 9 日
緊急リポート:日銀の総括的検証とみずほ総研の「5つの提言」
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
みずほ総合研究所は、日銀の総括的検証に関する緊急リポートを発表した1。今回の日銀の総括的検証
は、物価見通しが未達の状態にあるなか、表向きは追加緩和姿勢を示すものになると展望した。ただし、実
際には、2020年までを視野に入れた持続性のある金融緩和を行う上でこの検証が政策の転換点になると
位置づけた。下記の図表は緊急リポートで示した、2020年までを展望するアベノミクス下の金融財政政策
のロードマップである。今日の政治環境やイベントは2020年までの時間軸の中で生じている。金融政策に
ついて考えれば、たとえ2018年に日銀の総裁の任期が切れ総裁が代わることになっても、2020年程度を視
野に入れた持続性のある金融政策が必要というのが我々の認識である。振り返れば、アベノミクスが始まっ
た2013年以降、米国がドル高を許容する猶予期間に、日銀はその追い風に乗じて短期決戦型の奇襲攻
撃でデフレマインドを払拭させる作戦を展開してきた。しかし、2016年初以降は、米国がドル高是正に転じ
た。つまり日銀にとっては、それまでの追い風が向かい風に転じたため、持久戦への政策転換が求められ
る今、この総括的検証が歴史的に必然なものという位置付けとなる。米国の為替政策が転換したため、マイ
ナス金利政策の為替への有効性は低下した。しかも、国債買入れの持続性への懸念が強まるなか、「金利」
政策や「量」の政策の限界が表面化し、日銀には必然的に新たな枠組みへの転換が求められた。
■図表:アベノミクスにおける金融財政政策のロードマップ
【金融政策】
金融緩和策
2013年
量的・質的金融緩和
2016年
物価安定
マイナス金利付き
量的・質的金融緩和
「総括的
な検証」
短期決戦型
大胆な金融緩和
経済・物価動向
やこれまでの政
策効果を評価
物価目標
2020年
2%の「物価安定の目標」
政府と日銀の政策連携(共同声明)
量と金利の制約を意識した持久戦
政府と一体で物価目標を達成
このまま続ければ・・・
国債買入れ
が限界に
日本の構造問題
適合的なインフレ
期待形成
2018年
物価安定
安倍総理の再任?
自民党総裁選
衆院任期満了
【政治日程】
金融機関の収益悪化
保険・年金の運用難
東京オリンピック
2019年
消費税引上げ
(8%→10%)
【財政健全化】
(資料)みずほ総合研究所作成
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プライマリーバラ
ンス黒字化目標
リサーチTODAY
2016 年 9 月 9 日
2020年までの持久戦に耐えうる金融政策の枠組みを構築する上では、「量(国債買入れ)」拡大からの転
換が不可避となる。当社は今回の緊急リポートで今日の国債買入れ額を年間80兆円増加するペースから
20~30兆円程度まで減少させないと持続性のある対応にはならないと試算した。ただし、日銀が国債購入
の増額幅を減少させれば、市場からは「日本版のテイパリング」に見え、金利上昇やそれに伴う急激な円高
が起こりかねない。従って、「量」の減額を行いつつ、緩和姿勢の継続を示すためにどうするかが持続性の
ある緩和策として日銀にとっての重要な課題となる。今回の緊急レポートでは次の図表に示されるように、
当社は「5つの柱」の提言を行った。
■図表:アベノミクスにおける金融財政政策のロードマップと「5つの柱」
【金融政策】
金融緩和策
2013年
量的・質的金融緩和
2016年
2020年
物価安定
マイナス金利付き
量的・質的金融緩和
国債買入れ拡大の限界を踏まえた「5つの提言」
短期決戦型
大胆な金融緩和
物価目標
「総括的
な検証」
①「量」から「金利」への目標シフト
②「質」を重視する金融政策へのシフト
③インフレ目標の弾力化
2%の「物価安定の目標」
物価安定
④政府との一体性強化
政府と日銀の政策連携(共同声明)
⑤成長戦略へのバトンタッチ
東京オリンピック
【政治日程】
プライマリーバ
ランス黒字化目標
【財政健全化】
(資料)みずほ総合研究所作成
具体的に「5つの柱」は、①「量」から「金利」へのターゲット、②「量の拡大」から「質」を重視する政策への
シフト、③インフレ目標の弾力化、④政府との一体性強化、⑤成長戦略へのバトンタッチである。なかでも
①「金利」ターゲットは、「日本版ペギング」として金利の安定をコミットすることで、量の制約を転換させるも
のとなる。また、同時にフォワードガイダンスも含めた金利の安定化策も考えられる。
ただし、金融政策で経済を回復させることが困難な今日においては、政府サイドの財政政策や成長戦略
の重要性が高まってる。過去3年、日銀はできうる範囲の政策で相応の成果を示したため、今度は政府サ
イドが成長戦略で成果を出すことが不可欠であり、そのためには政府サイドから日銀への助け船も必要だ。
以上のように、金融政策を取り巻く環境自体が様々な観点から歴史的転換にあるため、今回の総括的検証
が時宜にかなったものであることを緊急リポートで示す必要があると我々は考えた。
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野口雄裕 「日銀総括的検証は事実上、金融政策の枠組み転換に」(みずほ総合研究所 『緊急リポート』 2016 年 9 月 8 日)
筆者の都合により、12 日(月)から 15 日(木)は休刊とさせていただきます。
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