「非平衡生命科学の探求」 九州大学 准教授 水野大介 (2011SSP最終報告会) (1)研究の概要 生体組織中では、多数の細胞や細胞間物質が自発的に力生成し、互いに力学的な相互作用を及ぼしあっている。このように非平衡な環境下にあ る物質の力学物性は、周囲の媒質や自分自身の非平衡度に依存して大きく変化する。旧来のレオメータは、平衡状態におかれた物質の力学特性 (材質や構造といった静的な因子により一意に決定される)を計測するが、生きた物質の非平衡力学に関する本質的な情報を与えない。そこで本研 究では、試料の非平衡度(力生成)や異方的粘弾性等、生き物の総合的な力学機能を制御しかつ計測することができる新しいレオメータを開発した。 これを用いて生き物が生きている程度(非平衡度)により、その物理的性質や生理的な応答を大きく変化させる物理的機構を明らかにしつつある。 (2)非平衡度を制御して計測できるレオメータの開発 3D弾性計測システム +ずり場印加 非平衡度の計測システム マクロレオメータ+ 非平衡度計測 Active x, y Lock-in :周波数応答を 検出する装置 photodiodes F.G. DF amp VCO 入力電圧に応じて 周波数(~MHz)が変化 Passive RF amp ikzp E0 r u0 e 1064nm telescope lenses 830 nm AOD 原理:揺動散逸定理の拡張 ikzp Es r e u0 rp f s r rp 超広帯域 (0.01 ~ 1MHz) 自発揺らぎ – 熱揺らぎ = 非平衡揺らぎ c.f. 市販のレオメータ 0.01 ~ 10Hz I Es r E0 r 3次元方向の硬さを精密計測 c.f. 市販のレオメータ :1方向 2 z 0 Z位置によって 干渉縞の見え方が異なる 非平衡、非線形、異方的 力学特性の外場制御 生命の力学特性 解析に 必須のツール 非平衡度計測 市販のレオメータでは不可能 (3)生き物の非平衡力学 細胞による力学知覚の 物理メカニズム 細胞による力生成と伝達 細胞骨格ゲル 細胞 Science 315, 370-373 (2007) コロイド 光トラップ 外部環境 培養細胞 揺動散逸定理の破れ Physical Review Letters 102, 168102 (2009) 中心極限定理を破る非平衡揺らぎ 生き物の硬さは非平衡度 により100倍も変化 細胞骨格中における 分子モーターによる力生成の動力学 10 10 10 ガ ウ ス 分 布 1 指数分布 力学適応(mechanical adaptation) G 10 4 G G G G F 力学遊走(mechanotaxis) 2 0 0 -200 -100 0 100 200 10 Soft Matter, (2011), 7, 3234 Physical Review Letters 117, 030602 (2016) -1 10 0 10 1 10 2 Frequency (Hz) 10 3 10 4 細胞の分化・増殖 G|| 6 100 3 2 ATP 1mM CPK 50g/ml G' [Pa] 10 生き物の硬さは加えられた 力により100倍も異方的に変化 G' (Pa) 10 4 w/o myosin CPK 0.5mg/ml CPK 5g/ml ○:Dxの分布 ━:ガウス分布 + 指数分布近似 生命現象 細胞骨格の非平衡力学特性 -200 0 200 400 600 800 Force [pN] Physical Review E 89, 042711 (2014) Physical Review E 88, 022717 (2013)
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