グリーンレポートNo.567(2016年9月号) 視 点 JAグループ地域生産振興:JA全農ぐんま 養液栽培システム 「うぃずOne」 を利用した果菜類生産 ∼低コスト・省力性を活かしトマト、パプリカを生産振興∼ 群馬県では、養液栽培システム「うぃずOne」を利用 る。7∼11月には、大玉品種「りんか409」を出荷する した生産振興の取り組みが行われている。 「うぃずOne」 関東有数のトマト産地である。 は、全農が開発した養液栽培システムで、比較的安価で しかし近年は、生産者の高齢化が進んでおり、生産量 自主施工もできることから、初心者でも導入しやすい。 の漸減が課題となっている。また、ほとんどが土耕栽培 こうした特性を活かして、各地でトマトを中心に普及が であるため、連作障害が発生している。そこでJAでは 進んでいる。JA利根沼田とJA赤城たちばなは、この 「うぃずOne」を利用したトマトのモデル農場「マザー システムに注目し、地域の冷涼な気候を活かした夏秋期 ファーム」を立ち上げた。 の果菜類生産で成果を上げようとしている。 「マザーファーム」は、もともと水稲育苗用の施設で、 ここに今年から「うぃずOne」を導入してトマトの栽培 モデル農場「マザーファーム」で JA利根沼田 多品種のトマトを栽培 を始めた。2棟合わせて7aのハウスには、発泡スチロ ー ル 栽 培 槽「 プ ラ ス 群馬県の北部に位置するJA利根沼田では、 BOX」 が整 然 と並 び、 夏秋トマトの栽培が盛んである。管内にいく その下には廃液を回収す つかある生産部会には200人以上の生産者が る樋が設置されている。 所属しており、販売金額は20億円を超えてい 「マザーファーム」を 管理する指導販売課の鈴 木優夫さんは、地域のト マト栽培をけん引する営 農指導員で、自宅でもト マトを栽培するプロフェ ッショナルである。鈴木 さんにとって養液栽培は 初体験であるが、既に ▲「マザーファーム」では2棟計7aのハウスで58品種の トマトが栽培されている ▲「マザーファーム」 を管理するJA利根沼田の鈴木 さん (右後ろ) 、吉野さん (右前) 、金子さん (左前) 。 左後ろはJA全農ぐんまの樋口さん ▲整然と並んだ発泡スチロール栽培槽「プラスBOX」 。下に廃液回収用の樋を設置している 4 「うぃずOne」に手ごた えを感じているという。 ▲「マザーファーム」に設置した 液肥混入器「ミニシステム」 グリーンレポートNo.567(2016年9月号) 「土耕栽培では、追肥を行ってから作物に変化がみられる 生産者の一人、内山孝美さんは、市役所を定年退職し まで少なくとも4日はかかりますが、 『うぃずOne』では てから「ビバ・パプリコット」の栽培を始めた。市役所 翌日にトマトが反応します。また、青枯病、半身萎凋病 時代はこの地域の土地改良を担当しており、退職にとも などの土壌伝染性病害も『うぃずOne』で解決できます」 ない農業を始めた。当初はほかの生産者と同様、土耕栽 と「うぃずOne」導入のメリットを語る鈴木さん。 培に取り組んだが、3年前にJAから「うぃずOne」を 「マザーファーム」では、取り組み初年度となる今年、 紹介され導入を決めた。 58品種という多品種栽培にチャレンジしている。大玉だ 内山さんの栽培施設は1.5aのハウス4棟で、すべてに けでなく、中玉やミニ、またオレンジや紫の品種もあり 「うぃずOne」が設置されている。液肥混入器「ミニシ 幅広い。JA利根沼田の主力は赤の大玉であるが、近年 ステム」1台で4棟に給液しており、このシステムの能 はミニトマトの相場がよく、カラフルな品種も注目され 力を活かしてコストを抑えた設計となっている。 ている。 「マザーファーム」は、こうした新しい品種を生 すべての農作業を一人で行う内山さんにとって「うぃ 産者に見てもらう展示場の機能も果たしており、今後は ずOne」の最大の魅力は、かん水や施肥が省力的なこと 後継者の研修の場としても活用したいという。 である。また、設置の際、ハウス全体に防草シートを敷 いたため、除草の手間もかからないという。 一人でも取り組める JA赤城たちばな 小型パプリカの養液栽培 これまで「うぃずOne」を用いたパプリカ栽培は事例 が少なく、十分な知見がないため、肥培管理は手探りの JA赤城たちばなは、榛名山と赤城山に挟まれた群馬 部分が多い。全農もパプリカに関するマニュアルは策定 県のほぼ中央に位置するJAである。古くから、こんにゃ していない。この地域では、7∼11月に出荷する作型で く生産が盛んな地域だが、近年は、さまざまな野菜が栽培 6t/10aの収穫をめざしているが、目標達成には試行 されるようになっている。 錯誤が必要な段階だという。次作では、この栽培方式に この地域で小型のパプリカ品種「ビバ・パプリコッ 適した栽植密度や仕立て本数の検討もしたいという。 ト」の栽培が始まったのは平成18年のこと。当時のJA また、内山さんは、JAからのアドバイスで天敵殺虫 の担当者が新規作物として「ビバ・パプリコット」を提 剤の利用にも取り組んでいる。アザミウマ類は、パプリ 案し、これに応えた生産者数人で取り組みが開始された。 カの果実を食害し品質を下げるだけでなく、黄化えそ病 現在は部会員が20人にまで拡大し、地域にとっても重要 を引き起こすウイルスを媒介する厄介な害虫である。そ な品目に成長した。出荷先の築地市場などで好評を博し の防除にスワルフスキーカブリダニとククメリスカブリ ている。 ダニを利用して効果を上げている。 ★ 今回紹介した2つのJ Aは、いずれも取り組み の緒に就いたばかりであ り、悩みや課題もある。 今後、JAと全農が連携 して課題を解決していく ことが成功の要である。 また、 「うぃずOne」の ▲JA赤城たちばなの須田さん (左) と生産者内山さん (右) 普及に向けて、施工など を行う各地のパートナー ズや、栽培技術に関する 普及センターの協力も欠 かせない。養液栽培によ ▲小型パプリカ「ビバ・パプリコット」は 出荷段階では赤や黄色に着色する 次号のJAグループ地域生産振興は、JA全農みえの 「若手担い手農家との信頼関係構築に向けた『アグリ ▲天敵の活動状況をチェックする須田さん キャンパス』の開催」を紹介する。 5 る地域生産振興の事例は 貴重であり、今後の発展 に期待したい。 【全農 営農販売企画部 アグリ情報室】
© Copyright 2024 ExpyDoc