英語 - 河合塾

高大接続改革シンポジウム分科会 教科レポート
英語
はじめに
レポート冒頭で,学力の3要素のうち「知識・技能」と「思考力・判断力・表現力」について,英語科目として
の整理を行った。【図1】【図2】
「知識・技能」とは,語彙や文法・語法などの知識であり,語彙や文法・語法の知識に下支えされた「聞く」
「話す」「読む」「書く」の4技能のことを意味する。
知識のレベルは技能により異なり,情報を伝達・表現する「書く」「話す」といったアウトプットの技能を下支
えする知識は,情報収集する「読む」「聞く」といったインプットの技能を下支えする知識に比べ,1~2段階低
くなる。たとえば「読む」場合に比べて,「書く」場合は簡単な語彙や文法になるだろう。
技能に関しては,既存のほとんどの大学入試問題では4技能が別々に問われるか,あるいは技能統合した問題で
あっても「聞く」と「書く」,または「読む」と「書く」の2技能統合に留まっているが,今後「話す」技能がど
のように問われるかが焦点となるだろう。
「思考力・判断力・表現力」については既存の大学入試問題で「知識・技能」を基にした「思考力・判断力」が
問われており,特に英文和訳や内容説明などの記述式の問題では,思考・判断したことを表現する力まで問われて
いる。
「思考力」には,与えられた問題を分析的に思考・判断する能力である「分析的思考力」や,複数の情報を統合
したり,構造化したりして,新しい考えをまとめる思考・判断する力としての「統合的思考力」がある。そしてそ
の思考の過程や結果を表現する能力が「表現力」であるが,それらの力は大学入試センター試験(以下「センター
試験」という。)においてすでに問われている。さらに国公立大二次試験や私立大の入試問題の中には,より高次
の「分析的思考力」および「統合的思考力」を要求しているものもある。
【図1・2】英語科目における「知識・技能」と「思考力・判断力・表現力」(河合塾にて整理)
【図1】
【図2】
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Ⅰ.既存入試にみる「思考力・判断力・表現力」を測る問題とは
本シンポジウムでは上記の力が既存の大学入試で実際にどのように問われているかを,サンプル問題ととも
にご紹介した。ここではその中から,センター試験と国公立大二次試験の計2題のサンプル問題をご紹介する。
サンプル問題 No.1
テーマ:「アメリカにおけるオレンジの生産と輸入」
出 典:2016年度 大学入試センター試験(本試)英語(筆記)第4問A 問3・問4
問題概要:
Aは「アメリカにおけるオレンジの生産と輸入」に関する図表問題。複数の資料から必要な情報を抽出し,
客観的・論理的に分析する力を試している。問4では読み取った内容からその先の展開を推論することが求
められる。
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サンプル問題 No.2
テーマ:「東北地方の高等学校は冷房使用を禁止すべき」
出 典:2013年度 岩手大学 前期 人文社会科学[4]
問題概要・コメント:
自由英作文問題。標記のテーマについて,賛成の立場に立って意見を述べる文章をまとめることが求め
られている。設問にしたがっていくと,〈自分の意見とその論拠〉〈譲歩・逆説による論拠の補強〉と
いった論理構成を持つパラグラフを書くことができる。
与えられたテーマに対する賛否を述べるという点だけ見れば,従来から出題され続けている自由英作文
の形式である。しかし,〈ディベート〉という体裁で〈スピーチ原稿〉を作成するという設問は,スピー
キングの分野への展開も可能な形式と言える。
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Ⅱ.大学入学希望者学力評価テスト(仮称)
教科・科目型問題
1.大学入学希望者学力評価テスト(仮称)における学力とは
「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」(以下「学力評価テスト」という。)は,「思考力・判断力・
表現力」の領域に大きくシフトしようとしている。したがって既存のセンター試験の問題に比べ,より高次の
出題となることが予想される。その場合,国公立大二次・私立大の入試の中に見られる,より高次の「分析的
思考力」「統合的思考力」を要求する問題が参考となる。
また,記述式を課すことによって「表現力」の評価を充実させることを意図しているが,物理的な環境が整
えば「話す」を含めた,複数技能を統合した出題もより現実味を帯びてくる。
客観式問題でテストを行う場合は,正解への道筋が複数考えられる連動型複数選択問題を導入すれば,より
深い思考力の評価が可能となり,従来の客観選択式問題が抱えていた弱点がある程度克服されると考える。
記述式問題やスピーキングテストなどが適切に導入できれば,4技能をバランスよく問うテストとなり,同
時に高次なテストになるだろう。
2.スピーキングテストについて
コミュニケーション重視である学習指導要領に従えば,「話す」技能をどう問うかという部分について,や
はりコミュニケーションの観点が問題となる。現在行われている外部検定試験の形態は大きく分けて「対面
型」「CBT型」の2つである。前者は「実践的なコミュニケーション力」を測る試験としては妥当なものだ
ろうが,試験官養成や実施環境などの課題が多い。一方,後者は「コミュニケーションとしてのスピーキング
能力」が本当の意味で測れるのか慎重な検証が必要だが,導入実現の可能性からすると,このCBT型テスト
のほうが優勢だろう。そのとき考えられる形式だが,画面を見ながら対話をするダイアローグタイプで,画面
を動画にすれば,コミュニケーションとしての要素を擬似的に作り出すことが可能かもしれない。
3.今後求められる指導上の留意点
「知識・技能」に関しては,語彙,文法・語法の知識を正確に習得させる指導と,習得した知識に下支えさ
れた「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能を高める指導が重視されることになる。授業は英語で行いな
がらも,例えば「読むこと」においては,基本的な文法・語法や構造の正確な理解を促すために,部分的に英
文を解釈させることで精読力を養成することも必要だろう。「思考力・判断力・表現力」に関しては,概要や
要点を客観的に把握したり,分析したりする「分析的思考力」はもちろんのこと,複数の情報を基に比較検討
したり,推論したりする「統合的思考力」や自他の思考を客観的に批判したり,他者の立場に立ち判断したり
する「判断力」,さらには思考・判断した内容を英語で伝える「表現力」を育成する指導が求められる。「表
現力」の技能である「書く」「話す」技能の育成には,自分の意見を他者の意見にぶつけることにより,より
深い思考力を導くアクティブラーニングの手法を採り入れた指導が効果的であろう。
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サンプル問題 №3
テーマ:「20世紀最大の発明」
出 典:河合塾作成 連動型複数選択問題(2001年度
東京大学 前期2B参考)
問題概要・コメント:
対話文完成型の連動型複数選択問題。本問では,(1)で選択した内容が(2)・(3)の選択肢と連動するため,
解答は3通りの組合せが考えられる。
本問は「学力評価テスト」の多様な出題・解答方法の1つの形式として文部科学省から示されている連
動型複数選択問題のサンプルを参考に作成したものであり,思考のプロセスを客観式で問うことを意図し
ている。
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