拡大が期待されたシニア世代の消費の伸び悩み

No.2016-047
2017年1月13日
http://www.jri.co.jp
拡大が期待されたシニア世代の消費の伸び悩み
~ 経済的制約下にある団塊世代に必要な「半年金・半就業」スタイル ~
(1)シニア世代、とりわけ年齢層60歳代(以下、60代)の個人消費が伸び悩み。いわゆる団塊世代(1947
~49年生まれ)が2007年以降順次60歳を迎えるにあたり、余暇を楽しむなどして消費をけん引すると
の期待が台頭。しかし、実際の消費支出額は小幅な増加にとどまるなど、盛り上がりを欠く状況(図
表1)。内訳をみると、食料、自動車購入やガソリン代、インターネット・携帯電話の通信費など生
活に必要な支出が増加する一方、旅行などの教養娯楽や交際費をはじめとする余暇を楽しむ支出は減
少。余暇活動の代表例である旅行について、国内の消費総額をみると、インバウンド需要により訪日
外国人が大きく押し上げるなか、60代はむしろ減少(図表2)。
(2)団塊世代を含む現在の60代で、余暇関連支出を中心に消費が伸び悩む理由として、金銭的なゆとりが
ないことが指摘可能。定年後の消費の支えともなる60代世帯の金融資産保有額をみると、2006年の約
900万円から2016年には約650万円まで減少(図表3)。これは、金融資産の増加要因である定年退職
時の平均退職金額が2006年をピークに減少傾向にあるほか(図表4)、現在60代の賃金カーブは現在
の70代と比べ緩やかで、とりわけ子どもが独立し定年退職までの資産形成期である50代の年収が顕著
に落ち込んだことが背景(図表5)。
(図表1)60代の人口と世帯(二人以上)支出額
(百万人)
18
60代人口
17
16
15
(2006年=100)
その他
105
交際費
自動車等関係費
食料
(図表2)日本国内の旅行消費総額
(2010年=100)
訪日外国人
60代
40代
20代
全体
120
115
110
宿泊費等
教養娯楽
通信
消費支出
70代
50代
30代
10代
105
100
100
95
90
95
85
2006 07
08
09
10
11
12
13
14
15
(資料)総務省「人口推計」、「家計調査」を基に日本総研作成
(年)
(注1)人口は各年10月1日現在。
(注2)宿泊費等は、宿泊料とパック旅行費の合算。教養娯楽は宿泊
費等を除く。
2010
1,000
900
800
700
600
500
400
12
13
14
15
(年)
(資料)観光庁「旅行・観光消費動向調査」、「訪日外国人消費動向調
査」を基に日本総研作成
(図表3)60代の金融資産保有額
(二人以上の世帯、中央値)
(万円)
11
(万円)
600
(図表5)年代別賃金カーブ
550
500
2006 07
08
09
10
11
12
13
14
450
15
16
(年)
(資料)金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」
400
(図表4)定年退職時の平均退職金額
(万円)
2,300
350
2,200
300
2,100
2015年時点で70代
2015年時点で60代後半
2015年時点で60代前半
250
2,000
35~39 40~44 45~49 50~54 55~59 60~64 65~69 70歳
以上
(歳)
(資料)国税庁「民間給与実態調査統計」を基に日本総研作成
(注)○印(70代の60~64歳)は60歳以上。
1,900
2006
08
10
12
(資料)中央労働委員会「賃金事情等総合調査」
14
(年度)
【ご照会先】調査部 研究員 伊藤綾香([email protected] , 03-6833-6967)
1
(3)こうした状況から、現在の60代は、かつての60代と比べ経済面での将来不安が一段と増大。実際に60
代の金融資産の保有目的をみると、旅行、レジャーへの支出を控える一方、老後の生活資金を挙げる
割合がより高まる傾向(図表6)。
(4)現在の60代の消費の先行きを展望すると、70代の消費支出額は60代と比べて大幅に減少する傾向(図
表7)。これは、一般に就業から完全に引退し、貯蓄と年金で生活するケースが増えることが主因。
実際にシニア世代の1ヵ月の収入・支出動向をみると、貯蓄を切り崩して生活している無職世帯は、
勤労者世帯よりも消費水準が低く、その割合は70代になると約8割まで上昇(図表8)。現在の60代
は過去に比べて金銭的なゆとりがないほか、将来不安を抱える現役世代と同様に消費に対して慎重な
姿勢であることを勘案すれば、当初期待された団塊世代を含むシニア世代の消費拡大はこの先も顕在
化せず、70代の消費水準が一段と落ち込む可能性も。
(5)以上を踏まえると、シニア消費の拡大には、健康で働く意思のある高齢者が仕事を続けられるような
雇用環境を整備し、所得面から下支えすることが重要。もっとも、収入、貯蓄など金銭面の不安か
ら、定年退職後も再雇用などで長時間働き続ける人が増えたことが、シニア世代の余暇支出の抑制に
つながったという側面も。例えば、近年の旅行支出に関しては、1年間で一度も国内旅行に行かなか
った60代の割合が、就業率の上昇とともに拡大傾向(図表9)。そのため、「半年金・半就業」スタ
イルを広げるような働き方改革を進め、時間的ゆとりを兼ね備えたワークライフバランスにも配慮す
ることが不可欠。
(図表6)60代の金融資産保有世帯の保有目的
老後の
生活資金
(図表7)世帯主の年齢別1世帯当たり1ヵ月間の消費
支出額(二人以上の世帯、2015年)
(万円)
36
34
病気・災害の
備え
32
旅行、レジャー
資金
30
2007年
2016年
耐久消費財の
購入資金
28
26
24
遺産として
子孫に残す
22
0
20
40
60
80
20
(%)
(資料)金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」
(注1)3つまでの複数回答。
(注2)金融資産保有世帯のみの集計は2007年から開始。
(図表8)世帯主の年齢別1世帯当たり1ヵ月間の収入・
支出額(二人以上の世帯、2015年)
(万円)
勤労者世帯
45
(22.0%→3.7%)
40
35
30
25
20
15
10
5
0
65~69
70歳
以上
(資料)総務省「家計調査」
(%)
(%)
28
52
実収入
消費支出
無職世帯
(53.5%→80.0%)
(歳)
(図表9)60代の就業率と国内旅行が年0回の割合
国内旅行が年0回の割合
(人口対比、右目盛)
51
26
50
24
49
22
48
就業率
(左目盛)
20
47
65~69
70歳
以上
18
46
(資料)総務省「家計調査」
(歳)
(注)括弧内は二人以上の全世帯に占める各世帯の割合(65~69→
70歳以上)。法人経営者や個人営業世帯などが勤労者・無職の
いずれの世帯にも含まれないため、合計は100%未満。
16
2010
11
12
13
14
15
(年)
(資料)総務省「労働力調査」、観光庁「旅行・観光消費動向調査」を基
に日本総研作成
【ご照会先】調査部 研究員 伊藤綾香([email protected] , 03-6833-6967)
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