直接測定によるタンパク質の 結合機能診断と創薬支援 滋賀医科大学 医学部 生化学・分子生物学講座 准教授 石田 哲夫 1 研究背景 血漿タンパク質による診断 (1)病気で増減するタンパク質を定量 (2)生活習慣/慢性疾患による タンパク質の機能異常を定量 (2)のタイプの測定は未開拓 結合機能の測定法を開発する 2 タンパク質と低分子の結合反応 (1:1の反応例) 遊離型 P + L kon koff 結合型 PL Pはタンパク質分子、Lは低分子リガンド ・結合反応と解離反応が常に起こっている ・両方の反応速度が等しくなると平衡状態 タンパク質分子の リガンド結合部位と いう特別なポケット に結合している 結合反応速度 = 解離反応速度 kon [P][L] = koff [PL] Kd = [P][L] /[PL] =koff/kon 平衡定数Kdは解離定数といい、濃度の単位を持つ 3 結合平衡の測定 P + L PL タンパク質の総濃度 [P]t = [P] + [PL] リガンドの総濃度 [L]t = [L] + [PL] ・総濃度は既知 1.結合型リガンド濃度 [PL]を測定 2.遊離型リガンド濃度 [L]を測定 1か2のどちらかを測定 反応液中のすべての成分の濃度が分かる 4 遊離型リガンド濃度の測定 P + L PL 遊離型リガンドだけを反応液から取り出す 1.平衡透析 従来の方法 2.限外ろ過 本研究の方法 フロンタルゲルろ過 半透膜を用いる (Frontal Gel Chromatography、FGC) ゲルろ過カラムを用いる 5 フロンタル解析 カラムの中をタンパク質 がリガンドより速く進む 緩衝液 反応液 緩衝液 3 0 タンパク質 は1分間に0.1メモリ、 リガンド は1分間に0.05メモリ進む 0分 3 2 1 ③ 0 ② ① 20 分 2 1 0 1 2 3 ①ではタンパク質が、③ではリガンドが純粋に取り出されている 6 ミクロフロンタルゲルクロマトグラフィー 内径1.0 mm、内容積 59 μL 内径0.5 mm、内容積 20 μL ミクロゲルろ過カラムを用いるフロンタル解析 検出器 サンプルループ 無脈流ポンプ 無脈流ポンプ カラム 試料注入ポート 分析装置の構成 7 理論クロマトグラム サンプル量 相互作用 3.0 μL 濃度(μL) 10 無し 5 60 μL 0 ① ①元の反応液の溶出 ②遊離型リガンドの溶出 60 μL 0 20 ② 40 60 80 100 溶出容積(μL) 120 有り 140 8 ヒト血清アルブミンと抗凝固剤の結合曲線 HSA1分子当たりの結合数 3.0 O 2.0 O O H R-ワーファリン O O 1.0 O S-ワーファリン 0 0.1 O H O 1.0 10 100 [遊離型ワーファリン] (μM) 9 血清アルブミンと抗凝固剤のクロマトグラム 4 μM 2 μM 10 μM (5.52,19.9) 8 μM (17.2,39.8) (17.2,19.9) 10 μM (0,19.9) (17.2,52.5) 40 μM 20 μM (17.2,33.2) 溶出容積= 250 μL 8 μM (0,6.63) 4 μM 1 μM 15 μM (17.2,26.5) (5.52,3.98) (5.52,13.3) 30 μM 4 μM (0,2.63) 2 μM (0,0.657) (5.52,2.63) (5.52,10.6) 6 μM (5.52,6.63) 25 μM 1 μM 4 μM (5.52,5.31) (5.52,1.97) 2 μM (5.52,1.31) 2 μM (5.52,0.657) (17.2,65.6) (アルブミン総濃度、ワーファリン総濃度) 10 糖 (Z 尿 D 病モ F/ <f デ a> ル 、1 ラ コ 1w ット (Z ン ) D トロ F/ ー le ル an 、 1 ラッ 1w ト ) 糖 (Z 尿病 DF モ /< デ fa ル コ >、 ラ ( Z ン ト 1 1 ット DF ロ w /l ー ) ea ル n、 ラ ラ 11 ット ( リ ット w ) タ (W イ ist ヤ ar ー ) ) 糖 (Z 尿病 DF モ /< デ fa ル >、 ラ 11 ッ コ ン (Z ト w ト DF ロ ) /l ー ea ル n、 ラ ッ ラ 11 ト w ( リ ット ) タ (W イ ist ヤ ar ー ) ) 血糖値(mg/dL) 400 300 200 0 主要結合部位の数 600 1.5 500 1.0 1.5 1.0 0.5 100 0 解離定数(Kd、μM) ラット個体別血清アルブミン機能測定 2.5 2.0 0.5 0 11 脂肪酸とヒト血清アルブミン結合機能 結合リガンド分子数/HSA分子 7 6 n1 2.6 ± 0.1 1.6 ± 0.2 n2 5.3 ± 0.6 4.5 ± 0.6 Kd1 (μM) 0.56 ± 0.04 0.83 ± 0.22 Kd2 (μM) 256 ± 52 360 ± 91 5 4 脂肪酸フリー 3 2 ミリスチン酸結合 1 0 0.1 1 10 100 [遊離型トリヨード安息香酸] (μM) 1000 12 血清低分子バイオマーカー探索の多次元化 タンパク質 低分子化合物 13 従来技術とその問題点 タンパク質と低分子の結合測定のゴールド スタンダードは平衡透析法とされているが、 透析膜内外間の平衡に時間がかかる、 微量試料での測定が技術的に困難 等の問題があり、装置の改良が続けられて いるが、広く利用されるまでには至っていな い。 14 新技術の特徴・従来技術との比較 • 従来技術の問題点であった、微量化と自動化 および測定精度の飛躍的改善に成功した。 • 従来は試料量と時間の点でほとんど実用性 がなかったが、100マイクロリットル以下まで 微量化できたため、多くの系で測定することが 可能となった。 • 本技術の適用により、微量の血清でも測定が できるため、臨床検査への応用が期待される。 15 想定される用途 • 本技術の高精度結合データ測定の特徴を生 かして結合データベースの構築に適用する。 基準結合データは理論計算による薬剤開発 などにメリットがある。 • 上記以外に、ハイスループット定量スクリーニ ング生かした用途も期待される。 • また、微量試料での全自動分析が可能なこと から、バイオマーカー探索の分野に展開する ことも可能と思われる。 16 想定される業界 • 利用者・対象 創薬に関係する研究所 臨床検査の開発に関わる研究所 基礎科学研究機関 • 市場規模 分子間相互作用測定装置は多種類が相当の台数市 場に出ており、このうちのかなりの用途には本研究の 技術の方が適していると思われる 17 実用化に向けた課題 • 現在、24時間自動測定が可能なところまで開発 済み。しかし、データ解析などソフト面に未解決 部分がある。 • 今後、疾患モデルラットの微量採血試料で実験 データを取得し、ヒトへの臨床検査に適用してい く場合の条件設定を行っていく。 • 実用化に向けて、微量化を10マイクロリットルレ ベルまで進める技術を確立する必要もある。 18 企業への期待 • タンパク質-タンパク質相互作用測定は、細孔 を改良したゲルろ過用充填剤を製造する技術 により克服できると考えている。 • カラム充填剤やマイクロ流路デバイス製造技 術を持つ企業との共同研究を希望。 • また、分子間相互作用を使う測定装置を開発 中の企業、臨床検査分野への展開を考えてい る企業には、本技術の導入が有効と思われる。 19 お問い合わせ先 滋賀医科大学大学 産学官連携コーディネーター 岡崎 誠 TEL 077-548 - 2847 FAX 077-548 - 2086 e-mail mokazaki@belle.shiga-med.ac.jp 20
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