飼料用稲の収穫時期について 芳賀農業振興事務所 平成 28 年 8 月 飼料用稲を用いた稲発酵粗飼料(WCS)は牛の粗飼料としての利用が大いに期待されています。 しかし、収穫の時期や調製方法を誤ると、飼料価値や牛の嗜好性が悪化してしまいます。 ほ場の飼料稲の状況を観察し収穫適期を判断して、給与する目的に応じた収穫や調製を行うこ とにより WCS の利用向上を図りましょう。 1.飼料用稲の収穫時期の判断について 飼料用稲の収穫時期は出穂日を基準に判断します。芳賀地域では、概ね飼料用稲の移植は 6 月 中旬で、収穫は 9 月上旬から 10 月上旬にかけて行われています。しかし、例年どおりの時期に移 植を行っても、その年の気候や品種によって出穂時期は前後します。 収穫の適期内で作業を円滑に進めるためには、8 月中に稲の生育状況を観察し、出穂する時期 を判断する必要があります。 (1)幼穂長の観察 6 月上旬に移植された飼料用稲では 7 月中旬から幼穂が形 成されてきます。その頃の稲の根元から取った茎を適当な長 さで切り、外側から丁寧に 1 枚ずつ剥いてくか、軸に沿って カッターで慎重に割くと、下の写真の様な幼穂が見られます。 (写真1)幼穂の形成がスタートし苞原基の分化が開始され る際の幼穂長は約 2mm(写真の時期)で、幼穂長 2mm から 出穂までの期間は約 20 日~21日となります。 写真1 稲の出穂時期は気温に影響されやすいのですが、この期間 中の平均気温が 26 度以上であれば、出穂までの期間はほぼ一 定であると言われています。 そこで、幼穂長を計ることによって出穂時期の見当を付けることが出来ます。 右の写真2は段階的に「夢あおば」の茎を裂い て幼穂を露出させたものです。この状態で出穂 前 5 日の幼穂長は 19cm 程度になっています。 幼穂長と出穂前日数 幼穂長(cm) 出穂前日数 (日) 0.1 0.2 0.8~1.5 8.0 19.5 22.0 24 20 18 12 6 0 止葉抽出 穂ばらみ 出穂 (星川清親 「イネの成長」 1970 より) 写真2 ① 葉耳間長も出穂の目安 ② 左の写真は稲の出穂前7日の止葉周辺を撮影 ④ したものです。矢印①が止葉で矢印②が止葉 ③ 葉耳、矢印③が第Ⅱ葉葉耳です。 矢印②と矢印③の間の長さを葉耳間長④とい い、これが伸長し 10 センチ程度になったら 4~5 日で出穂になります。 (2)出穂期を確認しましょう この写真は出穂直前の茎(写真左)です。矢 印の部分の茎が開いて穂が出かけています。こ の状態の翌日頃には出穂し、同時に花を咲かせ ます(写真右) 。 出穂には1株内やほ場内でバラツキが見られ ます。 ほ場全体では、最も早い穂から最後に出穂す るまで、通常 7~15 日かかりますが、気温が高 いと出穂までの期間が短く、低いと長くなりま すので、水温などの影響で、ほ場内でも出穂時期のバラツキが見られます。そこで、出穂期の判 断は、ほ場を全体的に見渡し、周縁の特に出穂の早いものを除いてほ場全体の1~2割が出穂し た時期を「出穂はじめ」 、ほ場全体の 5 割の株が出穂した時点を「出穂期」とします。また、ほ場 全体の9割が出穂した時点を「穂揃い期」とします。 周縁部の特に早い出穂 全体の 5 割が出穂した 全体の9割が出穂した 「出穂期」 「穂揃い期」 収穫時期を決めるには、このうち出穂期からの日数が目安になりますので、ほ場ごとの出穂期を 観察記録しておきましょう。 ※H27 年の真岡市南部の出穂時期 移植 6 月中下旬 → 夢あおば(中生) 出穂期 8/27~9/9 クサホナミ(晩生) 出穂期 9/7~9/14 (3)収穫期の判断 出穂後の稲の登熟は概ね下表の日程で進行します。しかし、気温・日照の影響を受け、高温多 照下では早くなり、低温少照下では遅延します。また、早晩性によっても左右されます。そこで、 出穂後の日数でおおよその目安をつけ、最終的には籾の性状や黄化程度で判断をします。 乳熟期の籾右を爪で潰したもの 糊熟期の籾 WCS用イネの熟期の判定方法 熟期 出穂後の目安 黄化籾の割合 稲の状態 乳熟期 10日後 0% 頴(穂先)は黄緑色で穀粒は葉緑素が存在し黄色。胚乳は乳状 糊熟期 15~25日後 0% 頴(穂先)は黄緑色で穀粒は葉緑素が残っており、黄緑色。胚乳は糊状 黄熟期 25~40日後 50~75% 完熟期 40~50日後 95% 頴(穂先)は黄緑または褐色で、穀粒は葉緑素が消失し黄色。胚乳はロウ状。穀粒は爪で容易に破砕できる。 穀物は乾燥して固くなり、爪で破砕できない。 (日本草地畜産種子協会発行 稲発酵粗飼料生産・給与技術マニュアルより) (4)収穫時期と栄養価 WCS 用の飼料用稲は、収穫期によって飼料特性が大きく変化します。 稲は、開花し登熟が進むにつれて穂部にデンプンなどの炭水化物が蓄積され、その分繊維質や タンパク質の割合が減少します。また、茎葉部に蓄積されたデンプンが徐々に穂部へ移行します。 この傾向は穂重型の品種で顕著に、茎葉型の品種では緩やかに見られます。これを、収穫期ごと の消化性で比較すると、茎葉部での有機物の消化性は乳熟期で最も高くなり、その後徐々に低下 するのに対し、穂部の有機物の消化性は乳熟期から黄熟期にかけて高くなります。 また、WCS 全体での TDN(可消化養分総量)は登熟につれて高くなりますが、黄熟期以降は 未消化子実が排せつされてしまい茎葉部の消化性も下がるので頭打ちとなります。 なお、WCS の自由採食量は登熟に伴い増加しますが、糊熟期以降はほぼ平行状態になるとの報 告があります。 一方、飼料用稲のβカロテンやビタミン E などは茎葉に含まれる割合が多く、登熟により黄化 が進むにしたがって徐々に低下します。 給与する家畜を考えた場合、乳用牛や和牛繁殖牛への給与には栄養価や消化性の点から糊熟期 ~黄熟期の少し早めに収穫を、肥育牛への給与にはビタミン A コントロールなどの点から黄熟期 ~完熟期の少し熟期が進んだ時期に収穫したものが望ましいと考えられます。 熟期別の主な利用畜種 収穫期 畜種 糊熟期 乳牛、繁殖牛 黄熟期 (自給飼料との併用により)乳牛、繁殖牛 完熟期 肥育牛 乳用牛への給与 2 出穂後 10~25 日 収穫⇒糊熟期 収穫作業の調整 出穂時期が特定できたら収穫作業の割り振りを行います。 早生、中生、晩生の品種や登熟状態、各ほ場間の移動距離などを考慮し、作業の割り振りを見 当します。田植日が同じでも、ほ場の条件によって発育がばらつきますので、ほ場毎に出穂を確 認して作業順の目安にしましょう。 昨年度の収穫状況から、 一般的な専用収穫機での 1 日の平均的な収穫作業面積は 1ha ですので、 出穂の早いほ場から、順次 1ha 単位で収穫作業を割り振っていき来ます。 この際に、一番重要なのは、刈り遅れを出さないように作業を割り振ることです。 出穂を基準とした各熟期のおおよその期間は①乳熟期(出穂後 10 日~15 日)②糊熟期(出穂後 15 日~25 日)③黄熟期(出穂後 25 日~40 日)ですので、出穂が最も遅いほ場でも最悪黄熟期 中には作業が終了するように収穫作業を計画してください。 下のような表を作成し収穫の検討をすると、ほ場の飼料用稲の登熟が全体的に把握できるので、 効率的な作業の配分が可能となります。 ほ場ごとの登熟時期 8月 圃場 № 7 10 4 5 6 1 9 11 3 地番 真岡市1-1 真岡市1-2 真岡市1-3 真岡市1-4 真岡市1-6 真岡市2-5 真岡市2-6 真岡市2-7 真岡市3-1 真岡市3-3 面積 (a) 40.75 46.66 59.40 41.08 98.50 67.30 77.12 44.49 28.82 43.00 作付品種 田植日 27 夢あおば 夢あおば 夢あおば 夢あおば 夢あおば クサホナミ クサホナミ クサホナミ クサホナミ クサホナミ 6月20日 6月20日 6月20日 6月20日 6月21日 6月20日 6月27日 6月27日 6月23日 6月27日 ● 28 29 9月 30 31 1 2 3 4 5 ● 6 7 ① ① 8 9 10 11 12 ② ▲ ② ▲ 13 14 15 16 17 18 19 20 ● ① ② ▲ ● ① ② ▲ 21 22 23 24 25 ③ 26 27 28 29 30 1 2 3 4 5 ③ 7 8 9 10 11 12 ⑤ ④ ⑤ ④ ⑤ ▲ ● ① ② ● ① ② ● 出穂日 ▲ 収穫予定日 ① 乳熟期 ② 糊熟期 ▲ ③ ▲ ① ② ▲ ● ① ② ▲ ③ 黄熟期 ① ② ③ ▲ ④ 完熟期 を行いましょう。また、ロール毎に収穫期を記録しておきましょう。 また、品種や移植日を代えるなどして収穫作業を分散することも出来ますので、次年産に向け ③ なお、早刈りの場合、高水分により発酵品質の低下などが懸念されますので、乳酸菌の添加など 作付計画を検討してください。 ③ ● ● 13 ⑤ ④ ③ ③ 6 ④ ③
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