2016 年度 水元公園放射能調査 創価大学教職研究科 桐山信一 1 調査概要 2016 年度の放射能調査は、連休中日の 7 月 17 日(日)に行われた。参加者は、筆者と 4 名の創価 大学教職研究科院生である。今回はこれまで未調査であった、埼玉県みさと公園東側である。空間線 量は 0.1μSv/h 前後、値は事故当時に比べてよくなっている。しかし、駐車場近くで 0.05μSv/h 程度 という原発事故前レベルの低いエリアもあった。全てのエリアで線量がここまで下がるにはまだ時間 が必要であると思われる。 2 調査地点(エリア) 図 1 に線量測定の調査地点を示す(▲印と●印) 。水元公園側 3 地点(図 1 で No1・2、17・18、19・20) 、 みさと公園東側 7 地点(同 No3・4~15・16)を測定した。No19・20 では線量測定とともに土壌も採取し た(●印) 。 図 1 調査地点 3 調査結果 調査内容は 2015 年度調査と同様である。空間線量率は、地上と地上 1m の位置で行い(1m 線量、 地表面線量) 、地表面線量の高い地点の土壌を採取する。線量計は、HORIBA PA1000 とクリアパルス A2700 の 2 種を用いた。この 2 種は国・行政でも使用されている信頼できる機種であり、同一条件に おける両者の測定値はほぼ一致することが、これまでの測定で確かめられている。空間線量は、測定 者が少し移動してもかなり変化することがある。その理由は次のようなものであると考えられる。 ①地面に存在する放射性物質が不均一に分布している(いわゆるマイクロスポット) 。 ②周囲の樹木・建物などに不均一に付着している放射性物質から飛んでくるγ線の存在。 ③風の影響などによって空気中に存在する放射性物質の密度が変化するため。 図 1 の調査地点番号(以下、地点と示す)のエリアでは、二手に分かれ、10m 程度離れた 2 つの位置 で 2 種の線量計で測定した。それらを併記することにより、その地点におけるより妥当な線量を推定 することができる。各地点では測定を 6 回行い、平均値と誤差を計算する。誤差には、平均値に t 分 布を想定して算出した 95%信頼区間をあてた。 (1) 空間線量率 測定方法は 2015 年度調査と同様である。図 1 の各地点(▲印と●印)では、1m 線量と地表面線量 を測定する。それ故、2 つの通し番号がセットで付けられている(例えば 3・4) 。図 2 に各地点の空間 線量率を示す。その際、横軸の奇数がその地点の 1m 線量、偶数が地表面線量に対応している。例え ば番号 3・4 の地点では、3 がその地点の 1m 線量、4 が地表面線量を示し、横軸には偶数 4 のみ表示さ れている。図 2 の縦軸は空間線量率の値であり、プロットは 6 回測定の平均値と誤差棒を示す。0.08 μSv/h 程度のところに入っている点線は、八王子のキャンパスにおける線量の概値を示す。 図 2 空間線量率の測定値 PA1000 の測定値と A2700 の測定値は、地点 12、20 を除くとほぼ一致している。図 2 から次の 2 つ の傾向が伺える。 ア)線量は八王子レベルよりやや高いところが多い。 イ)同じ地点では、地表面線量(偶数)は1m 線量(奇数)より高い。値は、1m 線量が 0.1μSv/h 前 後、地表面線量が 0.1~0.2μSv/h 程度である。 加えて、地点に固有な特徴もあった。 ウ)番号 12、20 は地表面線量であるが、同じ地点でも測定場所により違っている。このような地表面 線量の違いは、前述の①が主因であると考えられる。 エ)原発事故前の線量レベルの地点があった(地点 15・16) 。ここは、地表面線量と1m 線量がほぼ同 じである。 地点 15・16 は、みさと公園の駐車場のすぐそばであり、他の地点よりも除染がしっかり行われてい たと考えられる。 水元公園の第 1 駐車場構内でも、 1m 線量は 0.06~0.07μSv/h 程度の低い値であった。 測定の様子を図 3 に示す。 (2) 地表面強度倍率 1m 線量に対する地表面線量の比率を地表面強度倍率という。図 4 にその傾向を示す。横軸に1m 線量、縦軸に地表面線量をとった。地表面強度倍率の平均値は 1.33(>1)である。したがって、土 壌には放射性物質が残存していることが伺われる。 (3) 土壌放射能の測定 水元公園の通行道路に近い地点 19・20 で採取した土壌の放射能を、PA1000 と専用容器を用いた簡易 測定により求めたところ、1990±91Bq/kg が得られた。 図 3 測定の様子 図 4 地表面強度倍率の傾向 図 5 土壌採取地点の様子とγ線スペクトル (4) 土壌のγ線スペクトル測定 地点 19・20 で採取した土壌のγ線スペクトルの測定を、A2700 専用の MCA 装置 A2702 を用いて行 った。カウント値から放射性セシウムが約 1400Bq/kg 含まれていることが分かった。内訳は次の通り である。 137 Cs=1310Bq/kg±15.5% 134 Cs=61Bq/kg±71.8% 放射性セシウムは PA1000 を用いた簡易測定より少ない値になった。これについては、簡易測定が 約 2 割程度の過大評価をしている可能性も指摘されている 1)。また、MCA 装置 A2702 は定量測定用 でないが、そのデータをシンチレーション機 AT1320A による測定値(外注)と比較して定量している。 こうした事情を考慮すると、両者の差は大きな矛盾ではないと考えられる。土壌採取地点の様子とγ 線スペクトルを図 5 に示す。 4 まとめ 今回の測定では、水元公園、みさと公園東側の線量は 0.1μSv/h 前後であり、値は事故当時に比べ てよくなっていることがわかった。しかし、地上線量 0.2μSv/h 程度の土壌からは、おおよそ 1400~ 1900Bq/kg 程度の放射能の存在が推定される。 このような土壌で作物を育てた場合、作物への移行係数を 0.01 にとると(白米の場合 0.012) 、10~ 20Bq/kg の放射性セシウムの混入は避けられない。このような少量でも、その作物を摂取し続けた場 合、妥当な生物学的半減期を想定すると、体内に 300Bq 程度の蓄積が予想される。この値は、体内の 40 K の存在量 4000Bq 程度に比べて 1 桁小さい。そのためか、放射性セシウムによる内部被曝の影響は 極めて微量という考えがある 2)。一方、この追加被曝が体内の放射線被曝の修復バランスを崩という 主張もある 3)。その場合、追加被曝は免疫などに悪い影響を及ぼすことになり得るが、筆者にはこれ らの是非について妥当な判断はできない。 しかしながら、我々は事実を記録し続け、将来に残すことが大切であると考える。 【引用・参考文献】 1) 桐山信一:放射線測定器による土壌放射能の簡易定量、創価大学教育学論集 第 67 号、pp17-28 2) がんばれ福島:正しい放射能情報を見つけるためのサイト など http://www47.atwiki.jp/info_fukushima/pages/57.html 3) 矢ヶ崎克馬:福島原発事故の真実と放射能健康被害 など http://www.sting-wl.com/yagasakikatsuma14.html
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