がん化の可能性の低い ヒトiPS細胞作製技術 熊本大学大学院医学薬学研究部 免疫識別学分野 准教授 千住 覚 1 ES細胞 胚性幹細胞細胞(ES Cells:Emryonic Stem Cells)とは、動物 の発生初期(胚盤胞期)の内部細胞塊に由来する培養細胞 である。動物の初期胚がそうであるように、生体を構成する あらゆる細胞に分化できる能力(多能性)を有する細胞であり、 かつ適切な条件のもとで培養することにより、生体外で無限 に増殖させることが可能な細胞である。 2 ES細胞の作製方法 (財)先端医療振興財団 HPより 3 ES細胞による再生医療 (財)先端医療振興財団 HPより 4 ヒトES細胞の医療応用における問題点 1. 生命倫理の問題(倫理的・社会的問題) ヒトES細胞はヒトの生命の萌芽であるヒト胚から作製されるものであり、その 医療応用については、生命倫理の観点から様々な議論がある。ESを用いた 再生医療などの医療技術について、その有効性を示すことができたとしても、 実用化に際しては、倫理的観点からの反対が予想される。 2. 組織適合性の問題(技術的問題) ES細胞由来の分化細胞を人体に投与した場合、レシピエントの免疫系により、 ES細胞個有の遺伝的背景に由来するHLAをはじめとしたアロ(同種異系)抗 原が認識され、強い拒絶反応が生じる。 5 iPS細胞 2006年、京都大学の山中教授らの研究グループにより、体細 胞(生体内にある生殖細胞以外の分化細胞)に対して、ES細胞 において高いレベルで発現している分子 (初期化因子: Reprogamming Factors)の遺伝子を導入し強制的に発現させる ことにより、ES細胞と同等の機能を有するiPS細胞(induced pluripotent stem cells: 誘導性多能性幹細胞)を作製できること が報告された。 6 ヒトiPS細胞作製を報告した最初の論文 iPS 7 細胞の分化(プログラムに従った細胞の変化) 皮膚 脳・神経・ 感覚器 受精卵 外胚葉 筋肉 骨・関節 未分化な 胚細胞 中胚葉 血管 心臓 血液 腎臓 胃・腸 内胚葉 膵臓 iPS細胞作製が報告されている体細胞 肺 肝臓 胆のう 8 iPS細胞を用いた再生医療 体細胞採取 初期化因子(Reprogramming factors)遺伝子の導入 Oct-3/4、Sox2、Klf4、c-Myc 患者 Induced pluripotent stem (iPS) cells 移植 分化細胞の作製 9 ES細胞とiPS細胞の比較 ES細胞 iPS細胞 多能性 有り 有り 無限増殖能力 有り 有り ソースとなる細胞 初期胚のみ 体細胞 ドナー ボランティア 任意 (患者自身からでも 可能) 10 ES細胞とiPS細胞 ヒトES細胞 ヒトiPS細胞 11 ヒト iPS 細胞の血液細胞への分化 分化誘導5日目 分化誘導13日目 12 iPS細胞の医療応用の対象として想定される疾患 再生医療の効果が期待される代表的な疾患と、各々の疾患の治療におい て必要とされる細胞。 • 糖尿病(日本における推定患者数:700万人) 血糖値に応じてインスリンを分泌する細胞(膵島β細胞) • パーキンソン病(日本における推定患者数:14.5万人) ドーパミン産生性神経細胞 • 脊髄損傷(日本における推定患者数:10万人以上) 運動神経細胞 感覚神経細胞 13 iPS細胞の医療応用に伴う問題点 1. コスト:現在の技術水準に基づいて治療が必要な患者毎に iPS細胞を樹立することを想定するとコストが膨大となる。 2. がん化のリスク:iPS細胞作製に際し導入される初期化 因子には、c-MycやKlf4など細胞のがん化との関連が指摘さ れている分子がある。iPS細胞に由来する分化細胞を移植し た後、移植した細胞中で初期化因子が再活性化し、さらに、 がんが生じる危険性が指摘されている。 14 がん化の可能性の低いiPS細胞作製の試み 1. 初期化因子を染色体DNAに組み込まない遺伝子導入技術 a. レトロウイルス、レンチウイルスでなくアデノウイルスを用い る。 b. ウイルスベクターを使用せず、単純なプラスミドベクターを使 用し、染色体への組み込みを起こさせない。 2. 化学物質による(遺伝子導入を伴わない)方法 3. その他 ← 本技術 15 企業への期待 • iPS細胞を樹立し、さらに、iPS細胞を分化誘導し有用な細胞を 作製するための自動培養装置の開発(コストの削減)。 • 動物由来のフィーダー細胞を使用しないiPS細胞の培養技術と 分化誘導技術開発のために、細胞培養機材の開発技術(微細 プラスチック加工、高分子ポリマーのコーティング)を持つ、企 業との共同研究を希望。 • iPS細胞由来の再生医療分野への展開を考えている企業には、 本技術の導入が有効と思われる。 16 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称 :人工多能性幹細胞の製造方法 • 出願番号 :特願2009-0056691 • 出願人 :熊本大学 • 発明者 :千住 覚、西村 泰治 17 お問い合わせ先 熊本大学イノベーション推進機構 〒860-8555 熊本市黒髪2丁目39番1 TEL:096-342-3209 FAX:096-342-3239 18
© Copyright 2024 ExpyDoc