学習と動機づけ

教育心理学
学習と動機づけ
伊藤 崇
北海道大学大学院教育学研究院
1 今の子どもの学習意欲はどうなっている?
(点)80
78
76
74
72
70
68
66
64
62
60
国語男子
算数男子
1989年
国語女子
算数女子
2001年
2013年
学力の男女差推移:小学校(志水ら,2014,p.25)
注: 1989年調査は中野陸夫・池田寛により,大阪府内小学校25校,小学5年生2101名を対象として実施。
2001年調査は苅谷剛彦・志水宏吉により,大阪府内小学校16校,小学5年生921名を対象として実施。
2013年調査は志水宏吉・高田一宏により,大阪府内小学校25校,小学5年生1367名を対象として実施。
志水宏吉・伊佐夏実・知念渉・芝野淳一 (2014). 調査報告「学力格差」の実態 岩波書店
2 今の子どもの学習意欲はどうなっている?
(%)90
80
70
60
50
高
中
低 全体
高
中
低 全体
2001年
2013年
「勉強は将来役に立つ」に「とてもあてはまる」または「あてはまる」と
回答した子どもの,家庭教育環境階層別の割合
(志水ら,2014,p.39を元に作成)
注:高中低は家庭の教育環境階層。「家の人はテレビでニュース番組を見る」「小さい時,家の人に絵本を
読んでもらった」など4つの質問の回答結果を元に分類。
志水宏吉・伊佐夏実・知念渉・芝野淳一 (2014). 調査報告「学力格差」の実態 岩波書店
3 今の子どもの学習意欲はどうなっている?
(%)70
60
50
40
30
高 中 低 全体
中 低 全体
2001年
2013年
「家の人に言われなくても自分から進んで勉強する」に「とてもあてはまる」
または「あてはまる」と回答した子どもの,家庭教育環境階層別の割合
(志水ら,2014,p.39を元に作成)
高
注:高中低は家庭の教育環境階層。「家の人はテレビでニュース番組を見る」「小さい時,家の人に絵本を
読んでもらった」など4つの質問の回答結果を元に分類。
志水宏吉・伊佐夏実・知念渉・芝野淳一 (2014). 調査報告「学力格差」の実態 岩波書店
4 やる気と学習の関係とは?
動機づけ(モチベーション)
行動を起こし,行動を維持させ,
目標に向かわせるプロセス
欲求
不足する何かを
満たそうとする状態
例:空腹である
動機
欲求を満たすための
具体的な目標
例:エサが食べたい
行動
例:狩りをする
5 やる気と学習の関係とは?
●さまざまな欲求
相互の関係についての説明
発生の順序による整理
(マズローによる)
基本的欲求(一次的欲求) 欠乏欲求
生まれつきもつもの
例:生物的欲求
内発的欲求
社会的欲求(二次的欲求)
満たされると重要性が
下がるもの
生理的欲求
安心と安全の欲求
所属と愛の欲求
承認(自尊)の欲求
成長とともに身につけたもの
例:達成欲求
成長欲求
親和欲求
完全には満たされないもの
承認欲求
自己実現欲求
6 やる気と学習の関係とは?
自己実現の欲求
成長欲求
真・善・美・躍動
個性・完全・必然・完成
正義・秩序・単純・豊富
楽しみ・自由・自己充実・意味
承認の欲求
マズロー
Abraham
Maslow
(1908-1970)
欠乏欲求
所属と愛の欲求
安全と安心の欲求
生理的欲求
出典: 廣瀬清人・菱沼典子・印東桂子. (2009). マズローの基本的欲求の階層図への原典からの新解釈.
聖路加看護大学紀要, (35), 28–36.
7 学習はコントロールできるか?
動機
欲求
空腹である
エサがほしい
↓
ボタンを押したい
行動
エサを探す
↓
ボタンを押す
エサがもらえる
食べて満足!
8 学習はコントロールできるか?
道具的条件づけ(オペラント条件づけ)
ある反応によって起きた結果に応じて,
その反応の起こる確率が変化する現象
スキナーが研究を体系化
スキナー
しっぽをふる
Burrhus F. Skinner
(1904-1990)
前足を挙げる
お座りをする
自発的な行動
エサをやる
お座りをする
学習された
行動
学習はコントロールできるか?
正の強化:ある行動の直後に特定の刺激が現れることで,
その行動が起こりやすくなること
負の強化:不快な刺激を与えるか,良い刺激を取り除くことで,
特定の行動が起こりにくくなること
しっぽをふる
前足を挙げる
お座りをする
自発的な行動
エサをやる
お座りをする
強化子
学習された
行動
9 学習はコントロールできるか?
正の強化:ある行動の直後に特定の刺激が現れることで,
その行動が起こりやすくなること
負の強化:不快な刺激を与えるか,良い刺激を取り除くことで,
特定の行動が起こりにくくなること
しっぽをふる
しっぽをふる
お座りをする
お座りをする
前足を挙げる
自発的な行動
けりとばす
強化子
学習された
行動
10 学習はコントロールできるか?
古典的条件づけ(レスポンデント条件付け)
何の反応も引き起こさなかった刺激が,
ある反応を起こす刺激と同時に繰り返し示されることで,
その反応を起こすようになる現象
エサ
皿
パヴロフ
Ivan Pavlov(1849-1936)
唾液
唾液
皿
11 子どものやる気を高める方法
自発的
内発的動機づけ
進学したいから
就職したいから
勝ちたいから
勉強は
目的
勉強は
手段
ほめられるから
おこられるから
外発的動機づけ
外発的
12 子どものやる気を高める方法
アンダーマイニング効果
外的な報酬によって
内発的動機づけが
低下する現象。
(秒)
350 正解すると
お金がもらえる!
やるぞ!
300
実験群(12名)
統制群(12名)
250
200
デシは,パズルを解かせる課題を大 150
学生に実施した。
100
あれ?頑張っても
何もないのか。
なーんだ…
実験群に対して,パズルを
50
解くたびに1ドルの報酬を渡した。
ただし,セッション2のみ。
0
それ以外では報酬なし。
セッション1
2
3
休憩時間中にパズルに
触れていた時間の長さ
Deci, E. L. (1971). Effects of externally mediated rewards on intrinsic motivation. Journal of personality and Social Psychology, 18(1), 105.
13 今日の講義の要点
●今の子どもの学習意欲はどうなっている?
→学力は2001年から向上,勉強に対する自発的意欲も
向上
●欲求にもいろいろある
→マズローの欲求階層理論の正しい理解を
●学習とやる気研究の先駆者たち
→スキナーの道具的条件づけ研究はおさえておこう
●子どものやる気を高める方法
→しからない,大げさにほめない