薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2016年6月)

質疑応答
2016年6月
薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2016年6月)
【医薬品一般】
Q:アロプリノール等の尿酸降下薬からフェブリク TM 錠(フェブキソスタット)に切り替える時の
用量は?(薬局)
A:尿酸降下薬による治療初期には、血中尿酸値の急激な低下により痛風関節炎(痛風発作)が誘
発されることがあるので、本剤は10mg/日から開始し、投与開始から2週間以降に20mg/日、投
与開始から6週間以降に40mg/日とするなど、徐々に増量する。維持量は通常40mg/日で、最大
投与量は60mg/日である。他の尿酸降下薬を既に使用している場合の切り替えは、20mg/日から
の投与を考慮する。ただし、以下の患者では10mg/日から開始する。①発作が頻発している、
②尿酸値が安定していない、③生活習慣の改善が十分ではない、④服薬コンプライアンスが悪
い(飲酒習慣、ストレス、運動不足、肥満、過食)、⑤慎重投与に該当する場合(重度の腎機
能障害や肝機能障害のある患者)。
Q:急性膵炎の疼痛に使用する鎮痛薬は?(病院薬局)
A:急性膵炎の疼痛は、激しく持続的であるため、発症早期より十分な除痛が必要である。軽症か
ら中等症におけるランダム化比較試験では、ブプレノルフィン(初回0.3mg静注、続いて2.4mg/
日の持続静脈内投与)は除痛効果に優れている。また、非麻薬性鎮痛薬に指摘されているOddi
括約筋収縮作用による病態悪化も認められず、Oddi括約筋弛緩目的でのアトロピン硫酸塩の使
用も必要ないと報告されており、急性膵炎の疼痛コントロールに有用とされてい る。ただし、
過鎮静の副作用が多いので注意が必要である。その他、ペンタゾシン(30mgの6時間毎静脈内
投与)も有効である(急性膵炎ガイドライン2015より)。
Q:酒さ様皮膚炎に使用する1%メトロニダゾール軟膏の処方例は?(薬局)
A:酒さ様皮膚炎は、ステロイド外用薬の顔面への長期使用に伴う医原性疾患で、頬部や顎部など
外用薬を使用していた部位に、紅斑、紅色丘疹、毛細血管拡張、膿疱等が生じ、痒みは軽微で
ある。近年、タクロリムス軟膏の使用でも発症する例が報告されており、免疫抑制による皮表
細菌叢の撹乱が発症に関与している可能性が指摘されている。
酒さ様皮膚炎の治療は、ステロイド外用薬を中止し、ミノサイクリンあるいはマクロライド系
抗菌薬を内服する。難治の場合に1%メトロニダゾール軟膏を使用することがある(いずれも
保険適応外使用)。メトロニダゾール軟膏は、離脱皮膚炎や痒みは抑制しないので、効果が出
るまで一定期間かかる。
(処方例)フラジール TM 内服錠250mg 4錠、プロピレングリコール適量、
親水軟膏 全量100g 1日1~2回塗布。
Q:小児の片頭痛治療薬は?(薬局)
A:小児片頭痛の急性期治療の第一選択薬は、イブプロフェンとアセトアミノフェンが効果的で、
安全である。トリプタン系薬では、スマトリプタン点鼻薬、内服薬はリザトリプタンが有効か
つ安全である(小児には保険適応外使用)。いずれも頭痛が始まったらできるだけ早く、十分
量使用することが勧められる(慢性頭痛の診療ガイドライン2013より)。
【安全性情報】
Q:筋肉注射で、注射後に揉んではいけないものは何か?(薬局)
A:注射後に揉む目的は、薬液を広く拡散して周囲組織に浸透させ、毛細血管壁に多く接するよう
にして薬液の血管内への吸収を促進させること、それにより薬液滞留の結果生ずる線維性瘢痕
性腫瘤(硬結)・疼痛等の副作用発現回避である。薬液の種類や量、濃度等により揉む時間や
程度を加減する。ただし、持続性注射剤は揉むことにより薬剤が早く拡散し持続効果が期待で
きず、また、懸濁注射剤は組織障害が起こるおそれがあるため、注射後は揉まない。
添付文書に揉まないよう記載がある筋肉注射は、エビリファイ TM 持続性水懸筋注用、サンドス
タチン TM LAR TM 筋注用、ケナコルト-A TM 筋注用関節腔内用水懸注、ゼプリオン TM 水懸筋注、
リスパダールコンスタ TM 筋注用等がある。
Q:気管支喘息患者に使用できる睡眠障害治療薬は?(薬局)
A:睡眠障害に頻用されるベンゾジアゼピン(BZ)系・非BZ系の睡眠導入薬は、GABA作用増
強による呼吸抑制の恐れがあるため、気管支喘息の急性期等で呼吸機能が高度に低下している
場合には、原則禁忌である。メラトニン作動薬のラメルテオン(ロゼレム TM )、オレキシン受
容体拮抗薬のスボレキサント(ベルソムラ TM )はGABA作用がなく、禁忌・原則禁忌ではな
い。抗不安薬は、気管支喘息患者への使用が禁忌・原則禁忌ではなく、睡眠障害に適応がある
薬剤に、アルプラゾラム(コンスタン TM 、ソラナックス TM 等)、ロフラゼプ酸エチル(メイ
ラックス TM 等)、タンドスピロン(セディールTM 等)、ブロマゼパム(セニラン TM 、レキソタ
ン TM 等)等がある。
Q:SGLT2阻害薬は、どのくらい体重が減少するか?(一般)
A:SGLT2阻害薬の副次的な作用のひとつに体重減少がある。各薬剤の長期投与試験における
投与52週後の平均体重減少量は表のとおり。
一般名
商品名
投与量
平均体重
減少量
イプラグリ
フロジン
スーグラ錠
25mg・50mg
ダパグリフ
ロジン
フォシーガ錠
5mg・10mg
ルセオグリ
フロジン
ルセフィ錠
2.5mg・5mg
カナグリ
フロジン
カナグル錠
100mg
エンパグリ
フロジン
ジャディアン
ス錠10mg・
25mg
2.5mg
トホグリ
フロジン
アプルウェ
イ錠20mg
デベルザ錠
20mg
20mg
50mg
5mg
100mg
10mg
-3.41 kg
-2.58 kg
-2.68 kg
-3.06 kg
-2.96 kg
-3.07 kg
【その他】
Q:弾性ストッキングは、どの程度の圧迫圧を選択したらよいか?(薬局)
A:弾性ストッキングは、一般医療機器(機械器具(12)理学診療用器具)で、下肢の静脈血、リ
ンパ液のうっ滞を軽減又は予防する等の静脈環流の促進を目的に使用される。末梢部を最大に
中枢に向かい漸減的に圧力を加える機能を有する。弾性ストッキングによる圧迫は、毛細血管
部において動脈側へは水分の染み出しを抑える圧力となり、静脈側へは水分吸収を後押し、促
進させる圧力として働くため、組織間液の減少(むくみの予防・軽減)が可能になる。圧迫の
強さ(圧迫圧)は足関節部の圧迫力の強さで表示されている。
圧迫圧
20mmHg未満
20~30mmHg
30~40mmHg
40~50mmHg
50mmHg以上
病態
血栓症予防、静脈瘤予防、下肢静脈瘤のストリッピング手術後、他疾患によ
る浮腫
軽度静脈瘤、高齢者静脈瘤、小静脈瘤の硬化療法後
静脈瘤、静脈血栓後遺症、硬化療法後
高度浮腫、皮膚栄養障害のある静脈瘤、静脈血栓後遺症、リンパ浮腫
高度リンパ浮腫
Q:経口の犬フィラリア症予防薬が月1回投与の理由は?(薬局)
A:犬フィラリア症(犬糸状虫症)は、蚊を介して犬に寄生する糸状の寄生虫(犬 フィラリア、犬
糸状虫)が起こす病気である。犬フィラリア感染犬の血液内には、雌成虫から産出されるミク
ロフィラリアが存在する。蚊が感染犬を吸血する時にミクロフィラリアが蚊の体内に入り、感
染幼虫(L3)まで発育する。L3を持った蚊が正常犬を吸血すると感染し、感染後3~10日
で犬の体内(組織)で脱皮し体内移行幼虫(L4)になり、感染後70日前後で未成熟虫(L5)
となる。L5は組織から血管内に移行して、最終的に右心室及び肺動脈に寄生し、感染後約120
日前後で成虫(15~30cm)になる。寄生後は血液の流れが悪くなるため肝肥大、腹水、浮腫、
肺動脈血栓など様々な障害が出現し、放置すれば死に至ることもある。イベルメクチン等の犬
フィラリア症予防薬は、GABA作動性ニューロンに作用し筋麻痺させて幼虫(L3、L4)の
みを殺滅する。成虫への発育期間を考慮し、毎月1回、1ヶ月間隔の投薬で確実に幼虫(L3、
L4)を駆除できる。途中で忘れると犬フィラリア症になる可能性が高くなり、それまでの投
与が無駄になる可能性がある。