育種学レポート 1) 現在、日本では作付面積にして 13 万 1,600ha(2012

育種学レポート 1)
現在、日本では作付面積にして 13 万 1,600ha(2012年)の大豆が栽培されている
1。大豆の国内生産はなかなか伸びていないことが現状であるが、その原因として主に、
「大豆の収量が安定せず、影響を受けやすい」ことがあげられる。このため単収が伸び
悩んでおり、輸入大豆との競合に負けている。しかし、わが国では昔からダイズとの関
係は深く、様々な食品への加工がされているため、国内での安定した生産が求められて
いる。近年では水田での栽培で稲との輪作がすすめられている。国内栽培の八割以上が
水田で行われている 2。
ダイズの収量が安定しない主な原因としては台風の被害にあいやすいことが挙げられ
る。大豆は湿害がおこりやすく、また、倒伏も起こりやすい。他にも、作業の機械化が
おこないにくいなどの問題点がある。水位の調整などの技術の開発も進んでいるが、い
まだ大豆の生産は安定していないのが現状である。このため、日本の水田でも容易に栽
培可能なダイズの育種が求められている。
私は「湿害対策」と「耐倒伏性」に着目して、ダイズの根に着目した育種を提案する。
ダイズの湿害は主に、発芽時に大きな影響を及ぼし、多湿条件では発芽しないことが知
られているが、それだけではなく、生育期も葉が黄化し、雑草に負けやすくなる、など
の被害が報告されている。多湿条件が長く続くと、根粒菌の活動が抑えられ、根は酸素
不足になって木化し、枯死してしまうこともある 3。
一方イネの根には通気組織が存在するため、水田でも発育することができる。この通気
組織は皮層組織の細胞が特異的に崩壊することで形作られるため、遺伝子によって制御
された細胞プログラム死によって形成されると考えられている。通気組織は根の基部か
ら先端部へ酸素を供給することができ、これにより、耐湿性が高まる。
これと似た通気組織は湛水土壌栽培の大豆にも形成される。大豆に形成される通気組織
は、イネとは異なり、皮層組織の内側、コルク形成層の外側に二次的に形成されるため、
二次通気組織と呼ばれる。この二次通気組織は冠水時に水面の少し上から根まで酸素を
供給することが判明している。しかし、二次通気組織が形成されてから役目をきちんと
果たすようになるまで三週間程度かかるため、その間に多湿条件の場合、根が酸素不足
に陥り、ダイズは生育不足となる 4。
ここで、ダイズが湛水土壌栽培時に二次通気組織を形成するということは、何かしらの
仕組みによって、ダイズ個体(もしくは種子)は湛水土壌条件を感知し、それが引き金
となって、シグナルが発生し、細胞死が引き起こされていると考えられる。このシグナ
ルが常時発生している個体では二次通気組織が素早く形成されると考えられる。また細
胞死を引き起こす物質を特定すれば、その物質を過剰発現させることで、二次通気組織
の形成が速やかに行われると考えられる。
また、二次通気組織は前述の通り水面の少し上から酸素を取り入れ、根に供給するが、
この時、二次通気組織が水中に沈んでいると、酸素を取り入れることすらできないので、
根には酸素が共有されない 5。ここで私はさらに「耐倒伏性」に着目した。なるべく水
面より上に二次通気組織の末端がでているためには、植物個体がまっすぐ垂直に生えて
いることが望ましいと考えられる。ダイズの耐倒伏性に関する研究では、太い主根と多
数の一次側根をあわせもつことで耐倒伏性が高まるといわれている 6。
すなわち、太い主根や多数の一次側根などの形質を発育の初期の段階から発現する個体
を見つけ、ゲノム育種として品種を確立すると同時に、先ほどの二次通気組織形成時に
細胞死をおこす物質の発現を遺伝子単離して、この物質を過剰発現させた個体を作るこ
とができれば、湛水栽培時にも、発芽~幼少発育の段階できちんと根を張り、しかもそ
の根に酸素を供給できる品種を作ることができると考えられる。
二次通気組織の形成のメカニズムから判明させる必要があるので、この育種には長い年
月がかかると考えられる。
しかし、この育種が成功した場合、多くの水田でイネとのダイズの輪作を行うことがで
き、近年行政の唱える日本の食糧自給力向上に貢献することができると考える。
経済効果としても、ダイズの輸入量を減らすことができるという意味で大きなものを期
待することができるだろう。
1・2
http://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/daizu/d_tisiki/
3
https://www.pref.saga.lg.jp/web/at-contents/shigoto/nogyo/kenkyu/ai/saibai/
daizu/tokusei4.html
4
http://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~ikusyu/contents_nakazono.html
5
http://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~ikusyu/contents_nakazono.html
6
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcsproc/227/0/227_0_320/_article/-char/ja
/
育種学レポート 2)
まずゲノム育種の概要について述べる。ゲノム育種とは品種間において形質の違いを洗い
出し、
求めている形質に関して QTL 解析などを行うことで、遺伝情報的な差異を見つける。
そこに DNA マーカーをつけ、その形質を導入している個体を育て、表現型の観点から形質
を固しようとする育種である。短所として話題としている形質に関与している遺伝子座が
多い場合、遺伝情報の特定から困難となることである。
一方、GS 育種とは個体ごとのゲノム情報と形質情報がそろっているトレーニング集団と呼
ばれる集団で、まず育種価を求めるための予測モデル式を立て、これを選抜集団に適応し、
ゲノム情報を調べることで若いうちに選抜をしてから育種をする方法である。トレーニン
グ集団とは形質に変異を与える多型だけが存在し、多型の組み換えが多く、かつ、多型同
士の組み合わせが多く存在する集団のことである。1GS 育種の長所としては、ゲノム育種
ではカバーするのが難しい、数多くの QTL が関係する形質に関しても適応できる可能性が
あることである。また若いうちに集団から個体を選抜できるために効率が良いと考えられ
る。S しかしあらに、樹木のように形質が目に見えて判断できるまで長いサイクルを要する
品種に関して効率の良い育種・選抜が行えるだろう。2一方で、育種価を求めるためのモデ
ル式が「集団内の組み換えの細かさ」や「実際に関与している QTL の数」などに影響を受
けるであろうことが問題として考えられる。また、モデル式の精度によっては、大きな見
落としが存在するかもしれないと考えられる。この見落としを少なくするために私は生物
学的な分子メカニズムの理解が必要だと考える。モデル式を算出するためには農業形質を
特定する必要がある(と思われる)が、農業形質の根源的なものとして、生物学的メカニ
ズムは存在する上、そのメカニズムを細かく特定すればより精密な数的な表現や、またメ
カニズム上で働いている分子の代替となる分子を計算式に組み込むこともできるようにな
ると考えるからである。
GS 育種と比較した時の従来のゲノム育種の利点としては、表現型から判断するため、生物
学的メカニズムが判明していない状態でも、育種を進めやすいことにある。しかし、効率
を重視する場合、GS 育種の可能性は捨てがたく、これからの発展のためにも生物学的分子
メカニズムの理解・研究は育種に必要であると考える。また、今後の育種の展望として、
分子メカニズムの解明されている部分とされていない部分でうまく使い分けつつ、ゲノム
育種、GS 育種の互いの長点を生かしつつ、互いに短所をカバーできるような育種を目指す
べきであると私は考える。
参考文献
1 http://www.jsps.go.jp/seika/2014/vol3_013.html
2 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jfsc/121/0/121_0_304/_pdf
育種学レポート 3)
私は落花生の成熟莢の割合を増やすためにはどうしたらよいのかを研究したいと考え
た。このため生物学的質問として「どういったメカニズムで落花生の成熟莢の割合が決
まっているのか」という問いを立てる。落花生は日本国内では平成25年の統計におい
て 12700 トン、出額にして61億円が生産されている 1。しかし、落花生は花のうち、
初期についたものは成熟莢となるが。開花期が遅くなればなるほど成熟莢となる割合は
低下していく。すなわち開花のみで結実しない花が増えていくのである。これは落花生
栽培において収量を制限する一要因となっており、結実しない花の割合を減らすことで、
収量増加を狙うことができるため、成熟莢とそうでないものの違いやメカニズムを研究
することは大きな利益があると考える。
落花生のこのような結実の現状はマメ科植物に多く見られる「栄養生長期間と生殖生長
期間が並行する」ということに原因の一端があると考えられる。同じくマメ科植物であ
るダイズでも花・莢の 30~80%が脱落することが知られている。大豆の場合は、花蕾
数の増加が先んじて起こり、その後花器脱落によって大豆のシンク機能が調節されるこ
とが分かっている。環境も開花・結莢の過程に大きく影響する。水分欠乏や気温が大き
な影響力を持つとされる 2。
検索したところ、落花生の花器不結実については詳しいメカニズムが判明していないよ
うであった。乾燥条件下で空莢の割合が多くなることや、子実肥大期に気温が低くなる
と登熟が抑制されることが知られている 3。
具体的な研究手法について以下で考えていく。
まず、いくつかの落花生の品種を用意する。これらの品種間で、開花期と結莢率に影響
を及ぼす遺伝子がないかQTL解析によって探し、その遺伝子を遺伝子単離する。ただ
し、複数の遺伝子差が絡んでいる可能性が考えられるため、その場合は、GS 育種の際
の方法を用いる。遺伝子が特定された場合、そこから生産されるたんぱく質の性質が重
要な役割を果たすと考えられるため、そのたんぱく質の役割についての研究を急ぐべき
である。このことは結果として育種には必要のない研究結果であるかもしれないが。こ
の研究は将来的には新しい落花生の品種を生み出すことを目的としており、またその経
過として現在存在する落花生の品種にも適用できる結莢率を低下させない栽培法を編
み出すことにもつながると考えられる。
この研究自体にかかる期間としては稲などの育種と同等の期間が想定される。
落花生農家にとって、結莢率は収穫時期を左右する重要なファクターであり、これをい
かにコントロールするかによって我が国の落花生生産を安定させることができると考
えられる。落花生は油分資源としてのポテンシャルも期待され、バイオマス燃料への加
工も選択肢として考えられるため、落花生の収量を安定化させる研究には意義があると
考えられる。
参考文献
1
https://www.pref.chiba.lg.jp/ryuhan/pbmgm/zukan/kome/rakkase.html
2
http://www.cropscience.jp/award/pdf/award_56_02.pdf
3
https://www.pref.chiba.lg.jp/seisan/seiiku/documents/rakka_seiiku_27_3.pd
f