流水試験(模擬搾乳試験)応用事例集 ミルカー点検 1.ミルキングパーラー搾乳性の評価について ①評価の意義 ミルキングパーラー(ハイラインでも)の搾乳性の評価(乳房炎、体細胞数に対する影響、乳 量に与える影響)は重要ではあるが、どのように評価するかは難しい。静止時検査は配管中を流 れる空気の流れ具合を見るものであり、ユニット部分の評価はできない。搾乳中の動態検査は、 その時の乳牛の乳量に左右される。いやミルカーにより乳量が左右されると言っても良いかも知 れない。どのような評価方法をとっても一長一短があり、一手法単独での評価は難しい。実際の 経験でも、同じ会社の同じ大きさのパーラーであっても、その搾乳性は異なり、僅かな設置工事 の違いや、使用部品の選択の違いが搾乳性を大きく変えていることもある。実際には自分の所で 使用しているパーラーの性能がどのようであるかが重要で、ミルカー設置会社選択の問題、パー ラーの大きさの問題は重要ではない。何処のメーカーが良い悪いではなく、誰がどのように設置 したかが重要である。僅かな違いが乳房炎に結びついていたり、搾乳性の低下を招いていたりす る。しかし、誰もその評価をしないので、そのまま使用することになる。知らないから問題はな いと思っていることが圧倒的に多いのが、現状のミルキングパーラーである。 筆者が実際に測定したミルキングパーラーのデータを踏まえて、その問題点を解説する。 ②流水試験(模擬搾乳試験)について ミルカー点検には、目視検査、簡易検査、静止時検査、動態検査、そして流水試験(模擬搾乳 試験)がある。厳密にミルキングパーラーの搾乳性を測定するには、以上の検査を順追って行わ なければいけない。全ての検査を終了後、最終的に評価を下す事になる。しかし、検査結果の判 断は、標準的な指標や経験値との比較から判断せざるを得ないのが現状である。 流水試験では、搾乳条件設定を同じにした所で(同じパーラー) 、色々な評価試験が可能である。 例えば、ミルクチューブの長さがどれくらいクロー内圧に影響しているかを評価する場合、ミル クチューブの長さを変えて、同じパーラーで同じ流量を流して評価する。その試験結果により、 ミルクチューブの長さの影響がどれ位なのかを知ることが可能となる。長さが重要であることが 判れば、長さを短くする工夫を目視検査で検討する。それが改善につながる。 流水試験以外の他の検査方法では、搾乳ユニット部分(ミルクラインからミルククロ-までの 間)の評価はできないので、この検査を搾乳性評価の代表とした。 この評価には、牛乳の代わりに水を流すこと、搾乳ユニット1台のみでの評価なので、現実の 搾乳性とは少し乖離があるが、他に代行する良い検査方法がないので、ユニット1台のみの流水 試験でパーラーの搾乳性を判断した。 (他の検査も実施はしているが) ③流水試験の利点 ● 実際の乳牛は、毎回同じ乳量とはならない。従って乳牛を使った試験はできない。 流水試験は再現性があり、毎回同じ流量を流すことができる。 ● 乳牛の乳量は搾乳された量が乳量となり、搾乳能力のないパーラーでは、乳量は低下する。 流水試験は流量をコントロールできる。 ● 流量計を使って流量をコントロールするので、比較試験が可能となる。 ● 流す液体は、水と牛乳の違いが有る。 牛乳は粘性があり、比重も1.03で水よりも重いので、水で良くとも牛乳で良い保証 にはならない。 ● 水で良くないものは牛乳でもよくない。必要条件であるが、充分条件ではない。 ④流水試験の方法 流水試験装置よりの温水(または温塩水)を搾乳と同じ状態のクローより吸わせて30秒流し た後、クロー内圧(ショートミルクチューブに針を刺入)をトライスキャンにて2分間測定する。 流水試験装置よりの水は流量計にて0.5ガロンから2.0ガロンまで0.5ガロン刻みで4段 階にて測定し、最大2.3ガロンまで測定する。測定したクロー内圧の平均真空圧と、最高最低 真空圧の差をもって評価した。 ⑤比較模擬試験 流水試験での比較は、同じパーラーで改良の前後や、部品交換前後に於いて試 験を実施して評価した。また、改良方法の違いによる比較模擬試験も行い、どの改良方法が一番 良いかも検討した。 試験装置の写真 左写真の解説 写真の解説 上段 真空圧測定装置のトライスキャン 模擬乳房とクロー 中段 模擬乳房とクロー 中を搾乳と同じように、 下段 流量計のついたバケツ 流量をコントロールした水が流れる 2.流水試験グラフの読み方 例 ハイラインとローラインの比較 設定真空圧の考え方 ①システム設定圧に関して ローラインと一般的ハイラインの比較 一般的ハイライン(紺色ライン)では、牛乳がでると共にクロー内圧は低下し、40kpa以下 のクロー内圧で乳頭から牛乳を吸いだします。これは牛乳をクローからミルクラインまで吸い上 げる為の真空圧のロスで、設定圧より急激なクロー内圧の低下を招きます。このために一般的ハ イラインの設定圧は50kpa程度としますが、実際に搾乳中に乳頭にかかる真空圧は40kp a程度となります。牛乳が出なくなると(流量の少ない部分 グラフ左側方向)クロー内圧は元 の設定圧に戻ろうとするので、設定圧の50kpaが乳頭口にかかります。このために搾乳最後 の過搾乳が問題とされます。ユニット装着直後も射乳のタイミングが合わないと過搾乳になりま す。一方ローライン(赤ライン)のパーラーでは牛乳をミルクラインまで吸い上げる必要がない ため、流量が多くなってもクロー内圧が低下しないので、設定圧はハイラインよりは低くします (吸い上げるリフトロスがない) 。流量が多くてもより高い真空圧で牛乳を吸い出すので、搾乳性 が良くなります。牛乳が出なくなっても、ハイラインよりは低い設定圧にもどるので、過搾乳も 少なくなります。 ②搾乳中のクロー内圧を考える 搾乳中のクロー内圧は2の役割を持っています。一つは牛乳を吸い出すエネルギーとなる真空 です。もう一つはライナーゴムのマッサージ期に乳頭をマッサージするためのエネルギーです。 搾乳中のクロー内圧が高すぎると、牛乳を吸い出すときに乳頭口に損傷を与えます。低すぎると 牛乳を吸い出す量が少なくなり、ひいては搾乳時間が延びて乳頭口を痛めます。また、乳頭マッ サージが不良となり、乳頭から真空を解除できなかったり、鬱血を解除できなかったりで、乳頭 口を痛めます。ひどい場合には出血を見ることもあります。このようにクロー内圧は低くても高 すぎても乳頭口に損傷をきたし、乳房炎の問題が生じます。 また、クロー内圧は射乳量(1分間の流量)が多くなるとグラフのように低下し、射乳量が少 なくなると元の設定圧に戻ろうとします。射乳量の少ない牛では高い真空圧が、射乳量の多い牛 では低い真空圧が乳頭にかかります。射乳量の多い牛では牛乳を吸い出す真空圧が低くなるので、 搾乳に時間を要するようになります。低くなり過ぎれば、乳頭のマッサージが不良となり乳頭口 を痛めます。 流量による 真空圧 の変化 ハイライン ローライン 50 48 46 kpa 44 42 真空圧 40 38 36 34 32 30 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 流量 5.0 KG/ 分 6.0 7.0 8.0 9.0 ③数値の読み方 平均クロー内圧 折れ線グラフで示されている(数値は経験値である) 最高流量の8.7kg/分であっても最低36kpa以上の真空圧が確保されていること。こ れ以下になると、乳頭マッサージ、搾乳性に支障を来す可能性が高くなる。最高真空圧は設定圧 であるが、ライナースリップの発生率が低く搾乳性の低下がない限り、これは低い方がよい。4 4kpa以上となると離脱のタイミングや、流量の少ない時間が長くなると乳頭口を痛める。 最高最低真空圧の差(変動幅) (数値は経験値である) 変動幅は小さな方がよいが、パーラーでは6kpa程度以下である。大きな変動幅はドロップ レッツ現象typeⅡを引き起こす可能性が高くなる。変動幅が小さい時はミルクチューブ内が 水で詰まっていて、真空圧の変動が小さく出る事もあり得る。平均値と比較しながらの検討が必 要である。 NMC(アメリカ乳房炎協議会)では乳頭のマッサージ圧は実験的にも、経験的にもピーク泌乳 時で乳頭先端圧は10.5~12.5インチHG(35~42kpa)であると述べている。この マッサージ圧は高品質の牛乳を速く完全に搾りきり、尚且つ最小の損傷を乳頭に与える真空圧と している。 8事例の改良前後の流水試験結果を解説する。 事例1、2 改良前後のパーラー能力の比較 流量別クロー内圧平均値 68 74 21 66 46 44 42 クロー内圧 kpa 40 38 36 34 32 30 28 26 24 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 流量 KG/分 改良前後のパーラー能力の比較 クロー内圧の変動幅 6.0 68 7.0 74 8.0 21 9.0 66 16 14 kpa 10 真空圧 12 8 6 4 2 1.9 3.8 流量 5.7 KG/ 分 7.6 8.7 解説 事例1 改良前68 改良後74 事例1は乳房炎の発生が多いので、古くなった離脱装置を更新しようとしていたものである。 離脱装置のみの更新を考えていたが、流水試験の結果(模擬改良試験を実施)からは装置を代え ても何ら効果がないことが明瞭にわかった。その結果離脱装置とミルクチューブを内径16mm から19mmに変更し、ミルクメーターも取り付けることにした。結果は明白で、平均クロー内 圧も変動幅も小さなものになった。搾乳中牛もおとなしく、ミルカーを蹴落とさなくなった。 事例2 改良前21 改良後66 事例2は同じく乳房炎で困っていたときに相談に乗ったものである。経験上業者サイドの改良 提案では、本当の改良ができないことを説明し、改善案を提案した。提案の結果少し投資額が増 えたが、グラフよりかなり良い改善となっている。 事例3,4 改良前後のパーラー能力の比較 流量別クロー内圧平均値 67 69 62 63 48 46 44 42 クロー内圧 kpa 40 38 36 34 32 30 28 26 24 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 流量KG/ 分 改良前後のパーラー能力の比較 クロー内圧の変動幅 6.0 67 7.0 69 8.0 62 9.0 63 16 14 kpa 10 真空圧 12 8 6 4 2 1.9 3.8 流量 5.7 KG/ 分 7.6 8.7 解説 事例3 改良前67 改良後69 事例3 やはり乳房炎の発生で困っていた。静止時検査での問題点をまずは改良し、搾乳手順 も変更してもらった。レギュレターの位置変更、配管の曲がりの改善で流水試験でも良い結果と なっている。変動幅も小さくなっているが、まだミルクメーターの圧力損失が残っている。 事例4 改良前62 改良後63 事例4 やはり乳房炎の発生で困っていた。乳量が少し増えると必ず乳房炎を発症していた。 パーラーであるが、システムはハイラインのスイングパーラーであった。流水試験を実施して、 ハイラインとローラインの仕組みを理解して頂き、何故今が問題なのかを説明した。改良はロー ラインシステムに完全変更をした。同時に洗浄システムも変更することにより、生菌数問題も解 決した。近所の酪農家が急に良くなった乳質を不思議がっていた。 「ミルカーでこんなにも違うの か」というのが、改良後最初の搾乳時の感想である。 事例5,6 改良前後のパーラー能力の比較 流量別クロー内圧平均値 40 41 16 17 48 46 44 42 クロー内圧 kpa 40 38 36 34 32 30 28 26 24 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 流量KG/ 分 改良前後 のパーラー 能力の比較 クロー内圧の変動幅 6.0 40 7.0 41 8.0 16 9.0 17 16 14 kpa 10 真空圧 12 8 6 4 2 1.9 3.8 流量 5.7 KG/ 分 7.6 8.7 解説 事例5 改良前40 改良後41 事例5はパーラー設置当初から乳房炎問題で苦しんでいた。静止時検査にてパルセーターに異 常があることが判り、それを改善した。ディプスイッチひとつの切り替えである。同時にミルク チューブのリフトも改善した。流水試験において平均真空圧は大きな変動はないが、変動幅が大 きく改善されている。乳房炎予防には変動幅も重要な要因である。 事例6 改良前16 改良後17 事例6は、乳房炎乳質問題で、ペナルティーをかなり支払っている農家であった。流水試験結 果より問題点を列挙して改善点を説明した。こちらの指示通りに改善できたので、ねらった改善 ができている。平均真空圧の大きな改善、変動幅の縮小などが明瞭見られる。改良後搾乳中に牛 がおとなしいことが不思議であるとのこと。おとなしいことが正常であると説明したが、異常が 日常になると正常と思えることが問題である。 事例7,8 改良前後のパーラー能力の比較 流量別クロー内圧平均値 5 6 2 3 48 46 44 42 クロー内圧 kpa 40 38 36 34 32 30 28 26 24 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 流量 KG/ 分 改良前後のパーラー能力の比較 クロー内圧の変動幅 6.0 5 7.0 6 8.0 2 9.0 3 16 14 kpa 10 真空圧 12 8 6 4 2 1.9 3.8 流量 5.7 KG/ 分 7.6 8.7 解説 事例7 改良前5 改良後6 事例7は大規模なパーラーであるが、配管が小さな事が問題であった。この問題点を理解させ るために、業者と共に流水試験を実施した。その結果問題点を理解してもらい、改良に踏み切っ た。搾乳性が大きく改善され、ライナースリップも減少した。しかし乳房炎には別の問題が関与 していた。 事例8 改良前2 改良後3 事例8は乳質問題を抱えていた。流水試験の結果、リフトの問題、離脱装置の問題が浮かび上 がった。リフトの問題は解決できたが、離脱装置の問題は投資の面からストップしたままである。 乳質は搾乳手順の改善もあり、非常に良くなったが、乳房炎の発生が未だ残る。
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