基礎から学ぶ 音声学講義

第 21 章
言語音の音響学的性質
おと
言語音以外にももちろん「音」はあります。たとえば音は、人間の声だけ
でなく、動物の鳴き声もあり、そのほかに風や楽器など無生物が発生させる
音も含みます。言語音はそれらの多様な音の 1 つに過ぎないのです。
21.1. 音とは
「音は空気の波だ」と言われることがありますが、この「波」は、進行方向
おうとつ
に向かって垂直に凹凸が生じるような、海や湖の水面にできる波とは異なり
ます。音の波は「音波」
(sound wave)と呼ばれ、粒子が高密度・高圧力の空
気(密)と低密度・低圧力の空気(疎)が交互に現れて、音の発生源から伝わっ
そ みつ は
ていく粗密波です。空気の圧力の変化(幅)を音圧(sound pressure)と言い
ます。
空気の密と疎が単純に等間隔に繰り返すような波を純音(pure tone)と呼
びます。純音は、(地デジ化前の)NHK の時報や音叉の音に近く、聴力検査
に用いることがある人工音です。単純で理解しやすいので、まず純音から音
の性質を説明します。
純音の疎密の波をグラフ(=波形 waveform)に表すと、正弦波(sine wave)
となります(図 21–1)。ある地点で音が鳴ると、空気の疎密の変動が周囲に
伝わり、音が伝わるすべての地点で「0 → 密(+)→ 0 → 疎(−)→ 0」のパ
振幅
+
0
­
時
周期
図 21‒1
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