10P016 加藤早紀

平成 25 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅰ
論文題目
皮膚疾患における漢方薬の作用
Effects of the Kampo-medicine in skin diseases
臨床薬理学研究室 4年
10P016 加藤早紀
(指導教員:渡辺賢一)
要 旨
皮膚は身体全体を覆う、バリヤーの働きを持つ臓器である。疾患においては、ホ
ルモン、ストレス、細菌などの影響を受けやすい臓器である。近年、尋常性痤瘡やア
トピー性皮膚炎・乾癬などの皮膚疾患の治療に漢方薬が有効であることが明らかにな
っている。本論文は、それらの疾患に対する各々の漢方薬の有用性について述べる。
十味敗毒湯に含まれる桜皮はエストロゲン様作用を示しエストロゲン分泌を促
進することにより、痤瘡の発症を抑制する。また清上防風湯は、抗リパーゼ作用を持
ち清上防風湯を構成する黄連、黄芩には脂腺における脂質合成抑制効果をもつ。その
た め 痤 瘡 に 対 す る 有 効 性 に 期 待 が か か っ て い る 。 桂 皮 茯 苓 丸 は Thymus and
activation-regulated chemokine(TARC) 産生を抑制する可能性が示 唆されており、 T
helper 2(TH2)ケモカインが関与する炎症性皮膚炎患者に対して有効であると考え
られている。消風散等の漢方薬には中枢抑制作用を介さない止痒作用が確認されてい
る。消風散を例にとって検討したところ、皮疹に対して蟬退、荊芥、牛蒡子が掻痒を
抑制する去風作用を持ち、石膏、知母、苦参が紅斑を改善する清熱作用を持つことが
明らかになっている。このような去風作用と清熱作用は皮疹の痒みを抑制する。
数々の研究や臨床結果において漢方薬が尋常性痤瘡やアトピー性皮膚炎・乾癬な
どの皮膚疾患に対する効果を示すことがわかっている。しかし、1 つの生薬全体の効
果や作用を解析することは困難なことがあるのが現状である。今後の漢方薬の化学的
な研究のさらなる発展と進展を望み、今後、現代医学と漢方医学の統合的、相補的な
形が日本の医療の姿になるべきであると考える。
キーワード
1.皮膚疾患
2.尋常性痤瘡
3.エストロゲン
4.アトピー性皮膚炎
5.十味敗毒湯
6.桜皮
7.清上防風湯
8.桂皮茯苓丸
9. Thymus and activation-regulated
chemokine(TARC)
10.2 型ヘルパーT ケモカイン(TH2)
11.消風散
目 次
1.はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
2.漢方薬の作用効果
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2
3.皮膚疾患 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
3‐1 尋常性痤瘡 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
3‐2 アトピー性皮膚炎 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6
4.おわりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
8
謝 辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
8
引用文献
9
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1 はじめに
皮膚は身体全体を覆う、ある厚さを持った膜状の臓器であり、外界から身体
を守るバリヤーの働きを持つ。したがって、外界からの影響を一番受けやすい
のが皮膚である。また他の多くの内臓に何らかの変化があって皮膚に反映され
ることもあり、疾患によってはストレスやそれによる女性ホルモンへの影響、
睡眠不足、紫外線による嫌気性菌Propionibacterium acnes(以下P.acnesと略す)
の繁殖などが影響する場合がある1)。近年、皮膚疾患の治療に漢方薬を使用する
例が注目されている。その背景には、従来、皮膚疾患に用いられてきたステロ
イド製剤などの西洋薬との非適合性(アレルギー、副作用、致死率)から補完・
代替療法の必要性が増していることにある。漢方医学は「人間は自然の一部で
ある」という考え方から、個々の患者の個人差を重視して処方を決定する2)。西
洋医学と比較してより総合的に患者を診る医学が漢方医学である。このような
特徴を生かし、検査結果や数値で測ることのできない疾患に頻用されている。
漢方薬が有用な代表疾患としてアトピー性皮膚炎・乾癬などの皮膚疾患、気管
支喘息、膠原病、肝臓病、不妊症、婦人疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、神
経疾患等がある3)。この中でも本論文ではいくつかの皮膚疾患に対する漢方薬の
有用性について述べる。
漢方外来初診患者の主な疾患(女性)
漢方外来初診患者の主な疾患(男性)
10%
16%
9%
9%
51%
45%
9%
6%
6%
6%
2%
5%
5%
5%
4%
アトピー性皮膚疾患
肝機能障害
高血圧、糖尿病、肥満
湿疹、蕁麻疹、ニキビ
自律神経統合失調症、めまい、耳鳴り・頭痛
アレルギー性鼻炎
関節痛、腰痛、神経痛
その他
4%
4%
4%
アトピー性皮膚炎、気管支喘息
湿疹、蕁麻疹、ニキビ
自律性神経失調症、更年期障害、頭痛・耳鳴、めまい
生理不純、生理痛、不妊症、子宮内膜炎
高血圧、肥満、糖尿病
アレルギー性鼻炎
関節痛・腰痛、神経痛
SLE、関節リウマチ
肝機能障害
その他
図 1 漢方外来患者の主な疾患(男女別) 『薬学性のための漢方医薬学』4)の図を改変
1
2
漢方薬の作用効果
漢方薬では多成分複合薬であり、個々の生薬・有効含有成分の作用点・機序を
有し、受容体、イオンチャネル、細胞内情報伝達系への作用は、個々の成分の
複雑な相互作用によって生体で総括的に薬効を表す。そのため、生体の機能過
剰(「実証」)を抑制(瀉剤を処方)し、機能低下(「虚証」)を促進(補剤を処
方)する。漢方治療において方剤の基準となるものはいわゆる患者の証である。
証とは漢方医学的な診断法である四診によって得られた患者の症状を八網(陰
陽・表裏・寒熱・虚実)、気血水、五臓、六病位等の概念を用いて判断し、患者
の体質や病態を総合的にとらえた診断であり治療の指示である。漢方医学にお
いて病因に関しては大きく三分類する考え方がある。この理論は宋代の医学書
『三因極一病証方論』
(陳言著)によるもので、病気の原因を外因・内因・不内
因外因に分類したものである。外因は外部から邪気が侵入することにより発病
し、その原因となる外邪を邪気といい、その邪気の種類は六淫に分類される。
外因はウイルスなどによる感染症などである。また精神的な原因により発病さ
れる場合を内因とし、内因の種類は七情に分類される。さらに不摂生や外傷に
よるものを不内外因としている5)。漢方薬は、多成分複合剤であるため、多様な
薬効を有していて両病態時でも有効性を表す。それは漢方に含まれる複数の生
薬の成分が互いに作用し合い薬理作用、吸収促進、代謝阻害、相互作用、副作
用防止等を示すことによる。このことより生体機能のバランスを調節し恒常性
を維持する。これは環境条件に依存して促進、また抑制の両方向性に作用す
図 2 気血水についての相関図
『役立つ薬の情報~専門薬学』役立つ薬の
図 3 虚実・陰陽について
情報~専門薬学 6)図を改変
『漢方方剤の抗アレルギー作用に関する基礎的評価』
7)図
2
2 を改変
虚証
実証
疲れやすい
疲れにくい
食欲がない
食欲がある
下痢をしやすい
便秘になりやすい
胃腸の状態が良くない
消化吸収能力が高い
外因(六淫) 風・寒・暑・湿・燥・火
表 1 虚実についての病態の症状
内因(七情) 怒・喜・思・憂・悲・驚・恐
不内外因
不摂生・外傷
表 2 病気の原因とされる三因
『漢方診療のレッスン 増補版』5)
表 1-6 を改変
『役立つ薬の情報~専門薬学』6)図を改変
ることがうかがえる。複合多成分薬である漢方薬は、個々の生薬の薬理作用か
ら作用を表すが、全体的作用として総括的に表記すると血管弛緩作用(瘀血、
血圧制御、動脈硬化軽減、内皮細胞依存・非依存性作用等)、免疫力増強作用(治
癒・回復、生存率上昇、抗体価上昇、T細胞活性化、マクロファージ活性化、サ
イトカイン分泌等)、スカベンジャー作用[保護、カタラーゼ活性化、アポトー
シス(癌細胞)、予防効果等]、その他[副作用軽減、未病治療(冷え、のぼせ
など)等]と概略的にいえる2)。また漢方薬はその効能・効果によっていろんな
分類がされるが、発汗剤、瀉下剤・利尿剤・清熱剤・補剤などに分類されるこ
とが多い。もっとおおまかな分類として、瀉剤(発汗剤、瀉下剤、利尿剤、駆
瘀血剤)と和剤、補剤あるいは攻める薬(瀉剤)と守る薬(補剤)に分類する5)。
図 4 生薬に含まれる成分の相互作用
『役立つ薬の情報~専門薬学』6)図を改変
3
皮膚疾患
3-1 尋常性痤瘡
尋常性痤瘡(以下痤瘡と略す)とは、所謂ニキビといわれるものであり、
毛包脂腺系が閉塞し炎症を生じた結果、面皰丘疹、膿疱、結節および嚢腫が形
成されるものである。思春期に最も多く、思春期になるとアンドロゲンが刺激
して皮脂を産生し、ケラチノサイトを過剰に増殖させる。毛包脂腺系が皮脂お
よびケラチノサイトで閉塞され、正常皮膚のP.acnesがコロニーを形成し、感染
3
することにより発症する。この時、P.acnes由来のリパーゼがトリグリセリドを
代謝して遊離脂肪酸に変え、これが毛方壁を刺激すると丘疹が出現する。P.acnes
の他に妊娠または月経周期に伴って生じるホルモンの変化、化粧品、洗浄薬、
湿度および発汗などが病因となる1)。
痤瘡は様々な要因で寛解憎悪する疾患であるため、痤瘡に頻用されるテト
ラサイクリン系抗生物質による治療においても、効果の判定にはしばしば困難
である。しかし、漢方薬による効果は比較的短い期間にまず付随する様々な症
状が軽快し、皮疹への効果も 1~2 か月程度の観察で十分判定できる8)。
痤瘡に有用性が高い漢方薬として十味敗毒湯(散)
、清上防風湯、桃核承気
8)
湯、桂皮茯苓丸、加味消遙散、当帰芍薬散がある 。
i)十味敗毒湯
十味敗毒湯はP.acnesに対しテ
トラサイクリン系抗生物質と同等
の低濃度でも抗リパーゼ作用をこ
とが明らかにされているため痤瘡
に有効である。十味敗毒湯は活性酸
素を濃度依存性に有意に抑制する。
そのメカニズムは、十味敗毒湯が活
性酸素に対して補促除去作用を示
すことによって抑制する。十味敗毒
湯は桜皮を含むものと桜皮の代わ
りに樸樕を含むものがある。それら
を比較検討したところ、樸樕を含む
十味敗毒湯の方が桜皮を含む十味
敗毒湯に対し、2 倍に近い抗酸化能
を持つことが明らかとされてい
る9)。また、卵胞ホルモンであるエ
ストロゲンが性ホルモン結合グロ
ブ リ ン ( SHBG ; sex hormone
binding globulin)を増加させ、フ
リーテストステロンと結合し減少
させる。その結果、皮膚組織の 5α
-リダクターゼ活性を抑制しジヒド 図 5 桜皮のエストロゲン作用
ロテストステロン(DHT)への代 『桜皮及び桜皮成分のエストロゲン受容体β結合
謝を抑制することにより痤瘡の発 能の評価』10)図を改変
4
症を防ぐことが明らかにされている。桜皮エキスと樸樕エキスを液体クロマト
グラフィ/質量分析(LC-MS)により成分定量したところ、表 3 のような結果が
得られている。桜皮の成分であるGenistein は成分の中でエストロゲンレセプ
ター(ER)-β受容体の結合能が最も高く、次いでNaringeni、Sakuranetinに
認められた。この結果から、桜皮はエストロゲン様作用を有し、エストロゲン
分泌を促進していることが示唆された。樸樕エキスからはβ-Sitosterol以外の成
分はほとんど検出されなかったためGenistein、Naringenin、Sakuranetinは桜
皮の特徴的な成分であることが同定された9)。
H
H
O
HO
O
O
OH
OH
O
O
OH
図6
OH
Sakuranetin
HO
図 7 Naringenin
O
表1
桜皮エキス 樸樕エキス
N.D.
Sakuranetin
11.04
1.12
0.01
Naringenin
N.D.
Genistein
0.04
N.D.
Genkwanin
0.96
0.13
N.D.
Arctigenin
単位:mg/g
O
OH
OH
図8
Genistein
表 3 桜皮エキスと樸樕エキスに含まれる成分
『桜皮及び桜皮成分のエストロゲン受容体β結合
能の評価』10)図を改変
ii) 清上防風湯
黄連、黄柏、黄芩には脂腺における脂質合成抑制効果が認められており、
それらの生薬を含む清上防風湯は痤瘡に有効な漢方薬であると考えられている。
清上防風湯は抗リパーゼ作用を有し、in vitroではあるが痤瘡患者由来のP.acnes
によるプロピオン酸及び酪酸の産生量を減少させることが明らかである8) 11)。
5
漢方薬
十味敗毒湯
清上防風湯
桃核承気湯
桂皮茯苓丸
加味消遙散※1
当帰芍薬散
構成する生薬
茯苓、柴胡、桜皮、
(樸樕)、桔梗、川芎、
(連翹)、独活、防風、甘草、
荊芥、生姜
防風、桔梗、連翹、白芷、川芎、黄芩、山梔子、枳実、甘草、荊芥、
薄荷、黄連
桃仁、桂皮、大黄、芒硝、甘草
桂皮、茯苓、牡丹皮、桃仁、芍薬
甘草、芍薬、朮、当帰、茯苓、柴胡、山梔子、乾姜、薄荷葉、牡丹皮
当帰、川芎、芍薬、茯苓、朮、沢瀉
※1 逍遙散+牡丹皮+山梔子
表 4 漢方薬を構成する生薬 『漢方処方 応用の実際 改訂版 7 版』12)より引用
3-2 アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は痒みと湿
疹病変を伴う慢性炎症性疾患であ
り、その急性期には皮膚病変内に
多くのT helper 2(TH2)細胞の浸
潤 が み ら れ る 。 Thymus and
activation-regulated chemokine(以 下
TARCと略す) はケモカインの一種
でこのTH2 細胞に対して選択的な
遊走活性を持つ。またアトピー性
皮膚疾患では血清TARC値が正常
と比較し有意に上昇しており、さ
らに重症度と相関していることが
知られている13)。
アトピー性皮膚炎には桂皮茯
苓丸、治頭瘡一方、十味敗毒湯、
黄連解毒湯、当帰飲子、消風散、
温清飲、補中益気湯、十全大補湯
等の漢方薬が有効である7)。
図 9 漢方薬と適応する証 『漢方方剤の抗アレルギ
ー作用に関する基礎的評価』7)図 2 を改変
i)桂皮茯苓丸
駆瘀血剤の一つである、桂皮茯苓丸はこれまでに血栓症や動脈硬化症の患
者の治療に用いられてきた。桂皮茯苓丸をアトピー性皮膚炎患者に内服させた
6
ところ、血清TARC値が有意に低下した結果がこれまでに得られている。桂皮茯
苓丸はTARC産生を抑制する可能性が示唆され、アトピー性皮膚炎などのTH2
ケモカインが関与する炎症性皮膚炎患者に対して有効な治療法になり得ること
が期待される13)。
ii)消風散、治頭瘡一方、黄連解毒湯、温清飲子、
アトピー性皮膚炎において痒みは非常に強い、不快な自覚症状である。痒
み→掻爬→皮膚の憎悪→上皮の脱落→抗原の侵入→痒みというItch-Scratch
Cycleと呼ばれる悪循環に陥ることも多々ある。この痒みを抑えることで皮疹の
憎悪を食い止めることができることが考えられている。過去に消風散、治頭瘡
一方、黄連解毒湯、温清飲子の 4 つの処方に痒みに対する抑制作用が確認され
た。これらが中枢抑制を介するものかH2 ブロッカーであるジフェンヒドラミン
と比較し検討してみたところ、消風散に対して若干の抑制が見られたが、いず
れも有意な抑制ではないという結果が得られている。この結果から、4 つの処方
は中枢を介する行動抑制ではなく、止痒作用を有すると考えられる。一般に痒
みは肥満細胞が脱顆粒して放出するヒスタミンやロイコトリエンなど、種々の
炎症性メディエーターが関与していると考えられている。故にこの 4 処方が肥
満細胞の脱顆粒を抑制するか検討したところ、いずれの処方も有意に抑制する
ことを確認した。さらに止痒作用において有効である成分について分析した。
先に述べた漢方医学の考え方である『三因極一病証方論』より痒みに対して外
因である風を除く去風薬が有効とされていることからそれらの作用をもつ生薬
である荊芥、蟬退、牛蒡子、防風に注目して検討した。消風散を例に取って各
薬能別に分けた生薬エキスを調製し、それらの影響を検討したところ、去風薬
群及び消炎解熱し体液の保持
去風薬
清熱薬
を図る清熱薬群に消風散の作
荊芥
石膏
用を説明するような皮膚の肥
満細胞脱顆粒抑制作用及び止
痒作用が観察された。現在そ
の作用において牛蒡子の成分
であるリグナン化合物がこれ
らの作用に関連していると考
えられ、さらなる解析が進ん
でいるところである5) 13)。
消風散に含まれる
生薬
皮疹との関連
蟬退
知母
牛蒡子
苦参
掻痒
紅斑
掻痒(肥満細胞の脱顆粒)
表 5 消風散に含まれる生薬と皮疹との関連
『漢方方剤の抗アレルギー作用に関する基礎的
評価』7)図 19 を改変
7
漢方薬
治頭瘡一方
黄連解毒湯
当帰飲子
消風散
温清飲
補中益気湯
十全大補湯
構成する生薬
連翹、蒼朮、川芎、防風、忍冬、荊芥、甘草、紅花、大黄
黄芩、山梔子、黄柏、黄連
当帰、地黄、芍薬、川芎、蒺藜子、防風、何首鳥、荊芥、黄耆、甘
草
木通、石膏、当帰、地黄、朮、防風、牛蒡子、知母、胡麻、甘草、
蟬退、苦参、荊芥
当帰、地黄、芍薬、川芎、黄芩、山梔子、黄連、黄柏
人参、黄耆、白朮、当帰、陳皮、大棗、甘草、柴胡、升麻、乾姜
人参、白朮、当帰、茯苓、熟地黄、川芎、芍薬、桂皮、黄耆、甘草
表 6 漢方薬を構成する生薬Ⅱ
『尋常性痤瘡に対する清上防風湯の臨床効果 12)より引用
4
おわりに
数々の臨床結果及び研究成果により、漢方薬の効果が明らかになってきてい
る。本論文は皮膚疾患に焦点をあて、漢方薬の効果について述べてきた。痤瘡
においては桜皮由来のエストロゲン作用、樸樕の抗酸化能、清上防風湯の抗リ
パーゼ作用による症状の抑制、アトピー性皮膚炎の治療においては、桂皮茯苓
丸の血清 TARC 値の低下作用、消風散等による止痒作用がこれらの症状につい
て有用であると考えられる。近年、臨床現場において漢方薬が頻用されてきて
いる。病気の性質や病人の体質・体調に合わせて現代医学と漢方医学の両医学
を活用し最良の医療がおこなえるようにしていかなければいけない現状がある。
だが、1 つの生薬全体の効果や安全性、毒性などを論じることは今までの研究結
果を並べてみたとしても困難なものがある。これらを明らかにしていくために
も、これからの化学的研究の発展と進展を望む。また今後、現代医学と漢方医
学の統合的、相補的な形が日本の医療の姿になるべきであると考える。
5
謝辞
本研究を進めるにあたり、ご指導いただいた卒業論文指導教員の渡辺賢一教
授、上野和行教授、及び助手張馬梅蕾先生に感謝致します。また、日常の議論
を通じて多くの知識や示唆を頂いた臨床薬理学研究室の皆様に感謝いたします。
8
6 引用文献
1) Mark H. Beers 他,メルクマニュアル 18 版,
http://merckmanual.jp/mmpej/index.html,2006
2) 佐藤広康,漢方薬理学:補完・代替医療としての漢方方剤, 日薬理誌,140,54
~57(2012)
3) 丁宗鐵,森由雄,町の薬局しごと集 漢方処方のしくみと服薬指導,南山堂,6~
7・12-15(2006)
4) 山田陽城,花輪壽彦,金成俊,薬学性のための漢方医薬学,南江堂,12(2007)
5) 花輪壽彦,漢方診療のレッスン 増補版,金原出版,292-295(2003)
6) 深井良祐,役立つ薬の情報~専門薬学,http://kusuri-jouhou.com/
7) 能勢充彦,荻原幸男,漢方方剤の抗アレルギー作用に関する基礎的評価,日本
東洋医学雑誌,第 50 巻第 4 号,580-593(2000)
8) 小林衣子,尋常性痤瘡における漢方薬の使用経験,日本東洋医学雑誌,47
巻,425-432(1996)
9) 中西孝文,井上健司,十味敗毒湯における抗酸化能の解析,20 巻 1
号,89-91(2011)
10) 遠藤弘美 他,桜皮及び桜皮成分のエストロゲン受容体β結合能の評価,薬学
雑誌,130 巻 7 号,989-997(2010)
11) 北海道 T J-58 研究会,尋常性痤瘡に対する清上防風湯の臨床効果,皮膚,第 27
巻第 2 号,328-332(1985)
12) 山田光胤,山田博一,山田享弘,漢方処方 応用の実際 改訂版 7 版,南山堂,82・
139・222・260・319・334(2012)
13) Teruhiko Makino , Megmi Furuichi , Hirokazu Watanabe , Yoko
Yoshihisa , Tadamichi
Shimizu,Keishibukuryogan(Gui-Zhi-Fu-Ling-Wan),a Kampo formula
decreases the disease activity and the level of serum thymus and
activation-regulated chemokine(TARC) in patients with atopic
dermatitis , J.Trad.Med 24,173-175(2007)
9