本年丶 平成二十四年四月に産業理工学部 建築・デザイン学科に着任し

近 畿 大 学産 業 理 工 学部 かや の も り16(2012)
建築 計 画 ・設 計研 究室
建 築 ・デ ザ イ ン学科
井原
徹
出 始 め てく る。 設 計 図 は でき て いる が資 金 不 足 、 し か し見 切 り 発車 のま ま 、 ま ず
が集 まら な い。 国 内 の資 金 提 供 者 か ら は、 何 も で き て いな い。 と のク レー ムが 、
本 年 、 平成 二十 四 年 四 月 に産 業 理 工学 部
は 計 画案 ど お り の敷 地 に着 工 であ る。 竣 工 でき る 予算 はな い のに どう な る のか 、
1. は じ め に
建 築 ・デ ザ イ ン学 科 に 着 任 し、 建 築 計 画 ・
設計 期 間 は 1年 足 らず 、 着 工ま で に 1年 と 早 く着 工 でき た 。 し か し、 3年 目 で
設 計 側 と し ては 施 工 計 画が な いま ま の着 工 で不 安 が つの るば か り であ る。 に も か
は 1部 屋 が 完 成 し た。 し か し、 設 計全 体 のわ ず か 1割 であ る。 これ から はや 十 年
設 計 研 究室 を スタ ー ト し た。
私 は こ れ ま で大 学 の教 壇 に立 ち な が ら 、
が すぎ て しま った が、 完 成 した と いう連 絡 はな い。 N P O関 係 者 の話 によ る と 、
か わ らず 、 N P O側 はな んら 気 に も かけ て いな い。 ク ワ 入れ 式 の後、 な ん ら 音 沙
海 外 で建 築 物 の設 計 や建 設 にた ず さ わ って
診療 所 で診 察 が 年 に 2 回開 かれ て多 く の婦 人 や 子 供 がや ってき て いると いう 。 診
研 究 室 で は、 建 築 学 に お け る計 画 研 究 と 技
き た。 海 外 と いえ ど も 残念 な が ら 先 進 国 で
察費 の 一部 を 支 払 う 代 わ り に 日乾煉 瓦を 一つも って く ると いう。 予定 地 に 日乾 煉
汰 が な いま ま 1年 間 が経 過 し、 最 も規 模 の小 さ い診 療 室 部 分 が 出来 上 が った と い
は な い多 く は開 発 途 上 国 であ る。 設 計 のも
術 的 側 面 の多 い建 築 設 計 と の融 合 を 目 指 し
と と な る計 画 研 究 の多 くが わ が 国 独 自 のも
瓦 の山 が でき た ので 、 子供 と お 母 さ んが 本 を 読 め る読 書 室 を 兼 ね て 日 よけ のあ る
う 連絡 と、 新 聞 の切 抜 きが 送 ら れ て きた 。
ので あ るた め に、 建築 の計 画 と 設 計 が遊 離
待合 室 が でき る 予 定 であ ると いう。
て いる。
す る 経 験 を感 じ てき た こ と か ら 、 ﹁
建築計
いまだ に建 設 予 定 は立 って いな いが、 O D Aに よ る多 く の資 金 が 国際 的 に 投 入
さ れ て い る国 であ って も、 煉 瓦 一つから 自 分 た ち で作 って い こう とす る地 域 も あ
る。 総 予算 を 設 計 期 間 と 工事 期 間 で割 る計 算 で効 率 性 を求 め る 設計 だ け では 検 討
でき な い こと も 多 いこ とを 思 い知 らさ れ て いる 。
研究 の 一環 と し て、 東 アジ ア地域 に おけ る 居 住 の文 化的 視 点 か ら の研 究 に 加 わ
3 . 研究 と 地 域 貢 献
り 、中 国 の南 西 部 、雲 南 省 で フ ィー ルド研 究 を 十 年 近 く行 な ってき た。 二〇 世 紀
建築 の計 画 研 究 は、 研究 成 果 を社 会 に還 元し て こそ本 来 の研 究成 果と 考 え ら れ
が普 段 から 教 科書 や 教 壇 で教 え て いる計 画 学 の内 容 が 役 に 立 たな い の であ る。 せ
し か し、 何 ら か の条 件 や 合 理 性 があ るか ら こそ の戒 律 や 習 慣 のはず であ る 。 バ ン
る。 海 外 で の計 画 研究 で は、 そ の距離 的 要 素 も さ る こ とな が ら 、海 外 で の研 究 が
容 が 異 な り 空 間 や 場所 も 分 離 しな けれ ば な ら な いと いう 現 実 を知 ら さ れ た 。 我 々
グ ラデ ィ シ ュ人 の方 々から 話 を 聞き な が ら 解 決策 を探 す う ち に、 ど う も 我 々 の設
研 究 目的 にな り や す い。 そ のた め 、 研究 成 果 の還 元 に は程 遠 い、 いわ ば ﹁
略奪研
末 に 入 り、 計 画 研 究 の成 果 も 見 え 始 めた 。
計者 側 の問 題 で あ る こと に気 が つき い てき た。 どう も 西 欧 的 な 発想 の設 計 で 、造
き た が、 設 計 し 建 物 を つく る こと が 目的 化 し てし ま い。 自 分 が 設計 した 建 物 が 完
究 ﹂ に陥 りや す い。 私 も バ ング ラデ ィシ ュな ど の東 アジ ア地 域 で設計 を 行 な って
だ いであ る 。
シ ュの図書 室 計 画 で経 験 した 。 計 画 の研 究 を 地 域 に 還 元 し て こそ計 画研 究 の意 義
わ が 国を ブ イー ルド と した 建 築学 の計 画 研 究 の適 応 限界 を 、 私 は バ ング ラ デ ィ
成 す る こと を 望 ん で は建 築 設 計 に ま い進 し てし ま った経 験 が あ る。
の定 であ る が 、資 金 問 題 であ る。 な んと 今 か ら資 金 調 達 す る と いう の であ る。 設
設計 側 と N PO が納 得 でき そ うな 解 決 案 が で き た段 階 で次 な る問 題 が 出 る。 案
計 は でき て半 年 以 上も た った に も か かわ ら ず 塩漬 け のま ま 、 予定 の半 分 し か資 金
五
りす ぎ た り 、 計 画 しす ぎ て いる のであ った 。 郷 に 入 れば 郷 に 従え と 教 え ら れ た し
め て キリ スト 教 圏 であ れ ば 何 と か推 察 でき る こと も多 い の であ るが 、 勝 手 が違 う。
し たも の の、 実 際 に計 画 を 開始 す ると 、 宗 教 や戒 律 によ って男性 と 女 性 の読書 内
Oをと お し て研 究室 に舞 い込 ん でき た 。 N P O への共 感 で 二 つ返事 で協 力 を O K
九 〇 年 代 末 に 、 バ ング ラデ ィ シ ュに図 書 館 と診 療 所 の建 物 を建 設す る 話 が NP
2 .開 発 途 上 国 にお け る 建 築 設計
画 ・設 計 研 究 室 ﹂ と い う 名 称 を 冠 さ せ て い た だ い て い る 。
[研 究室 だ よ り]
[研究 室 だ よ り]
が あ る こと にた ち か え り、 雲 南 省 に何 ら か の地 域 貢献 が求 め ら れ る。 そ こ で、 中
国 の雲 南 省 に小 学 校 を建 設す る 機会 が得 ら れ た 。
雲南 省 と いえ ば 、 タ イや ベト ナ ム等 の国 境 に 接 し、 日本 文 化 の故郷 と も いわ れ
る な ど、 多 く の伝 統的 な 生 活 文 化 が 残 って いる 地 域 であ る。 二十 一世紀 の今 日 、
高 床式 住 居 や 焼 畑 な ど が残 る少 数多 民族 地 域 であ る。 し か し、 こ こに は固 有 の少
数 民族 言語 を 持 つに も か かわ ら ず実 際 に は小 学 校 が な い の であ る。 そ こ で、 こ の
地 域 の小学 校 の建 築 計 画を テー マと し た研 究 を 2年 間行 い、 中 国 の建 築 基 準 や 制
度 研究 を経 て、 実 際 の小学 校 計 画 に着 手 でき た のが 二 十 一世 紀 に 入 って から であ
る。 中 国雲 南 省 民 族建 築 局と 省 政 府 の許 可を 取 り 付 け、 我 々が 基 本 設計 を つく り
雲南 省 設計 院 と の土ハ同 で実 施 設 計 を行 な った 。
中 国 は 二十 一世 紀 に 入 り、 上 海 な ど の大 都 市 で万博 な ど の建 設 準備 に入 り 設 計
業 界 もあ わ た だ し く な った が 、 西 の辺境 の地 では 、建 設機 械 や資 材 もな い状 態 の
ま ま であ り、 建 築 基 準 も都 市 部 は 北京 標 準 、 地 方 は農 村 基 準 と いうダ ブ ル スタ ン
ダ ー ドが 存 在 、 さ ら に は、 少 数 民 族 地域 に は緩 和 事 項が あ り 建 設基 準 さ え も 存在
し な い状 態 であ った。 そ のた め 、 省政 府 直 轄 の設 計院 です ら も 積極 的 で はな い状
態 であ った 。
計 画 した 小 学 校 は 、大 別 し て 4 つの民族 の生 徒 を 対象 と し て いる。 タイ 語 を含
む 3 つ の言 語 を 用 いる生 徒 であ る が、 こ の中 に 中 国 語 は 入 って いな い。 しか し こ
の学校 は中 国 の小 学校 であ り、 中 国 語 の授 業 が 行 わ れ る 予定 であ る。 多 く の子 供
た ち は、 山 や 尾 根 を越 え た 地 域 の集 落 の児 童 で通 学 は 不 可能 であ る。 そ のた め に 、
子 供 の生 活 空 間 と し て の住 ま いや寮 を 設け な け れ ば なら な い等 、 設計 条 件 は 多 岐
に わ た った 。 結 果 と し て、 生 活 空 間 を持 つ小 学 校 で あ り、 子供 た ち の村 と し て機
能 す べ き 小学 校 であ る。 生 徒 ば か り で はな く 教 員 も教 員 の子 弟 た ち も そ の村 の住
人 と なら ざ るを 得 な いこと にな り 、 小集 落 と 同 程度 の人数 が 収 容 さ れ る施 設 を 設
計 す る こと にな った。
設計 費 用 は N P Oで 工 面す る こと は でき る が 、 建 設費 用 が 大 問 題 とな る のは 当
然 であ る。 省 政 府 の予算 も 限 ら れ て お り、 建 設 費 の大 半 は 日本 側 の各 種 基 金 や N
P Oに よ る こと と な る。
建 設 工事 は 3期 に わ けざ るを え な い。 しか し 多 く の研 究 者 や 賛 同者 に救 わ れ 、
工事 を進 め、 か れ これ 6年 が か り で竣 工 に こぎ つけ た。 多 く の資 材 不 足や 技 術 不
足 、さ ら に は手 抜 き 工事 、 雨 季 の洪水 な ど 次 か ら 次 と問 題 が 湧 き 出 てく る。 現 地
/\
は亜 熱 帯 であ るが 標 高 二 千 メー ト ルを 超え る高 地 で、 数 年前 ま で焼 畑 で定 住 し て
いな か った等 集 落 も あ る 場 所 で、 資 材 も技 術 も な い のは 当 た り前 の地域 であ る。
これ を 見越 した 設 計 を 行 な ってき た こと で何 と か 技 術 的 問題 は回 避 す る こと は で
きた。
設 計 に着 手す るま で の2年 間 を 設 計 の前 段 階 の計 画時 間 に かけ た こと で多 民 族
対 応 と いう計 画 条 件 で設 計 し実 現 でき た。 ま た バ ング ラデ ィ シ ュで の建 設 の経 験
が 地 域 の技術 にゆ だ ね る と いう 考 え や建 設技 術 の導 入 に 役立 った 。
4. 計 画 研究 と 建 築 設 計
私 が 実務 と し て の建 築 設計 を 始 め た 年 は、 七 〇 年 代 後 半 に中 東 情勢 悪 化 に伴 う
オ イ ル シ ョ ック期 であ る。 現在 の就 職 氷河 期 以上 の就 職難 で、 建 設 大 手 の新 規 採
当 然 で はあ るが 、 国 内 で の 設計 業務 は休 止状 態 で設 計 の求 人な ど な か った 。 幸
用 が 見 送 ら れた 時 期 であ る。
いに も 私 は海 外 設 計 事 業 の職 に携 わ る ことが でき 貴 重 な体 験 を 身 に 付 け、 そ の後
は大 学 に奉 職 しな が ら 建築 計 画 研 究 と 国内 外 の建 築 設 計 を持 続 す る こと が でき た 。
近 年 は、 当 時 と 異 な り、 新 興 国 の経済 的 追 い上 げ な ど に よ って状 況 は 一変 し若
い設 計者 は自 分 の設 計 す る建 物 を 1秒 で も 早く 実 現 さ せ実 績 と す る た め に、 新 興
国 で の設計 活動 従 事 に 希 望 を かけ る 者 も 見ら れ る。 個 々 の国や 都 市 の状 況 によ っ
てそ の スピ ード には 大 き な違 いが あ る。 し か し、 求 め ら れ るも のを 実 現す るプ ロ
セ スは変 わ る こと が な い。 また 、 そ れ を実 現 す るた め の技術 開 発 の スピ ー ド は加
速 度 化 し、 建 築 の国 際 化 も めざ ま し いが、 計 画 か ら 設 計 の学 と し て の連 続 性 は普
遍 であ る。 これ ら の こと を学 生 諸 氏 に伝 え 、 今 後 は 新 た な建 築 を 実 現 し て いき た
いと 願 って い る。