ジョンの日記から―黒子 九月十日 夏の初めから図書館でオックスフォードにセージなどと言った学問的な雑誌に読 み耽り、内の空気を吸ってばかりいる俺は、肌がまるで紙の色のような白になったの で、カッコいい人らしく日焼けしなければいけないという考え方で躊躇しても、ジル ちゃんの「一緒に海に行かないか」という招待に応じた。 容貌を鼻に掛けないでもないが、俺の非常の白さを深く意識してきた結果、今日の 午後、暖かい夏の太陽の下にシャツを着ずに横になった。酷く寒い冬の朝に温かいシ ャワーから出ようとする時のように、日光から出ることができなかった。肌がこんが りと焼けたかったが、真っ赤になってしまった。 九月十四日 日焼けが治ってきたが、決してジルちゃんの目の前でシャツが脱ぎたくないので、 今日は彼女に電話して遺憾なことに、予定を取り消した。なぜなら、胸の肌に大きく て癌性らしい、乳首がもう一つあるように見える黒子が出たからだ。どうすればよい かわからなかったので、一か八か、神様に祈ってみて、頭の中で神様の声を拝聴した。 神様は間もなく、「切り落とせ」と命令を下した。俺は病院での診察を嫌うので、そ れより可能な選択がないのでしょうか。 十月一日 先々週、家に一人きりになった時、母の裁ち鋏(たちばさみ)で手術をし、意外に 痛みを伴わずさっと黒子を切り落としたが、竹が根から抜かないと、直ぐにまたあち こち成長し始めるという風に、黒子がまた生えてきた。 俺は胸の肉にどんなに深く鋏を入れて黒子を掘ればいいのかわからなくて、除去し 方も何も知らなかったのに、もう一度当て推量で手術をしてみた。今度は目を閉じて 切り始めた。すると、中程で続けることがもうできないぐらい激痛が来て、眩暈がし た。それでも、勇気が出て、下がっている血だらけの黒子の残りをとうとう切り落と せた。 十月二十日 茶碗の形の黒子はもうケロイドという傷跡に取って代われた。俺はまだ自意識が強 い男だが、しかし、明後日ジルちゃんに会おう。 ルーク・エリス作 2 2008 年 2016 年 7 月 30 日編集
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