C-1 超急性期脳梗塞の診断マニュアルの試作:MRA の役割と問題点 分担研究者:藤村 幹(東北大学大学院医学系研究科神経科学神経外科学分野) 共同研究者:清水宏明(広南病院脳神経外科) 【はじめに】 脳卒中治療ガイドラインや脳血管障害画像診断ガイドライン(暫定)の発行・公開により、 脳梗塞の超急性期診断・治療は新しい時代を迎えたと考えられる。一方、これらガイドライン は実地救急医療における個々の症例に直接適応するには限界があることも事実である。そこで 当院では、個々の症例のリアルタイムの診療に役立てることを目的として、ガイドラインに当 院独自の事情も加味した急性期脳梗塞の検査、診断、および治療に関するマニュアルを作成し た。まだ使用を開始して日が浅いが、すでにいくつかの有用性と問題点が明らかになりつつあ る。今回、検査、診断マニュアルに関し特に MRA との関連において報告する。 【検査マニュアル】 比較的急性に局所脳神経症状を発症し、CT で急性期脳梗塞に矛盾しない場合、原則として 引き続き MR 検査を行う。1.5 T 装置、標準頭部コイルを用い、1) DWI、2) T2WI、3) 頚部 MRA、 4) 頭蓋内 MRA、5) 必要あれば perfusion MRI(または SPECT)を行う。頭蓋内撮像は 8 チャンネ ル頭部コイルを用い、頚部 MRA は頭部コイルを装着したままボディコイルを用い 3DTOF で 撮像する。頭蓋内 MRA も 3DTOF を用い、VA から ACA genu 付近までを 2 スラブでカバーす る。 【診断マニュアル】 以上の検査所見からすべての患者を次のいずれかに分類、診断する。 1) ラクナ梗塞:典型的部位の DWI 所見があり MRA 上主幹動脈病変がない場合。 2) 心原性脳塞栓 3) アテローム血栓性梗塞(血栓性と血栓性塞栓と血行力学性に細分類) 4) 動脈解離性梗塞:それぞれに多い要素をあらかじめ提示し、そのうち一定数以上該当す る場合に診断するシステムを使用。 5) unclassified main trunk disease:2-4)に該当しないラクナ以外の脳梗塞 6) TIA:症状が 24 時間以内に消失するもので、画像所見によらない。ラクナタイプ、心原 性塞栓タイプ、アテローム血栓タイプに細分類。 【有用性と問題点】 それぞれの典型例では、比較的経験の浅い研修医でも一定の診断根拠に基づいた診断が可能 であった。指導医との discussion でも論点が明確になる効用があった。一方、各分類の境界に あるような症例も多く、このマニュアルのみで全例を明確に診断することはできなかった。 MRA を考慮することでラクナ梗塞とそれ以外の梗塞を鑑別することがほぼ可能であったが、 心原性塞栓とアテローム血栓性梗塞やアテローム血栓性塞栓の急性期鑑別は確実でない場合 がしばしばあった。 また、 MRAで閉塞に見えてもDSAではわずかに開存している場合があり、 動脈閉塞を MRA のみで診断するには注意が必要と思われた。 【結論】 ガイドラインに基づいた当事者のための診療マニュアルは有用であるが、MRA の役割から みた問題点は、閉塞機序の推測や完全閉塞の診断が困難なことなどがあると思われた。
© Copyright 2024 ExpyDoc