資料7 1 2 本講義で扱う、ガバナンスという語の意味について確認する。 このガバナンスとは、組織や社会に関与するメンバーが主体的に関与を⾏う、 意思決定、合意形成のシステムを意味する語である。 3 つまり、ガバナンスを構築するとはどういうことかを考えると、 どのような⽬標の元に、どのような⼈に対して、どのように組織員が介⼊す るか、ルール化を⾏い、この体制を責任者が管理している状況を指す。 多職種によって構成されるチームを構成するにあたっては、 このガバナンスを構築することが基本となることを押さえておく必要がある。 4 認知症初期集中⽀援のあるべき姿は、認知症疑いのあるものを早期発⾒(診 断)し、短期間に集中的に介⼊することによって、環境改善をうながし、急 激な⼼⾝機能の低下を防ぐとともに、 継続的な在宅⽣活が今後送れるような体制を整えることにある。 しかしながら、認知症の確定診断を巡る医療体制の不備により、中重度の認 知症にありながら、診断を受けていないものが存在しているため 現状における初期集中⽀援の対象は、スクリーニングによる優先順位の決定 からすると、いわゆる困難事例と呼ばれる認知症の中重度の⽅で医療・介護 サービスが複合的に必要なものになってしまっている。 5 認知症初期集中⽀援チームの組織あるいはこのガバナンス構築にあたって、 今⼀度、認知症初期に介⼊するメリットについて、確認しておく。 まず、認知症における診断(特に早期の診断)は、効果的ケアとサポートを ⾏う上の出発点となり、重要である。 ということを押さえておく必要がある。 なぜなら、経度や中度のうちに診断を受けることで、質の良い⽣活を個⼈で できるだけ⻑く送れるようにするために 介護施設⼊所、薬物治療、財政的・法務的業務(財産についてのこと等)、 運転のような実質的問題を考え始めることが可能になるからである。 さらに、予防策も講じ、リスクを減らすことで、医療・介護・福祉に係わる 財政においては、結果的に費⽤が少なくなるというメリットもある。 6 初期集中⽀援事業に関わる作業⼯程は、1から9まである。 このうち、「事業の準備」である対象者の選定と対象者の把握の⽅法を 決めることが最も重要である。 これによって、「事業の実施」の4〜8の内容が全く変わってくるからであ る。 事業を開始した後も、4〜8のデータを収集・分析することで、 この事業が⽬的に応じた成果を上げているかについて分析をできるようにし ておくこともまた⼤事である。 7 初期集中⽀援の展開について、事例を挙げながら考えてみたい。 A地域は、⼈⼝30万、医療介護資源が豊か。 B地域は、⼈⼝5千、医療介護資源が乏しい。 とする。 市の⼈⼝規模や医療介護資源によって、当然、認知症初期集中⽀援の在り⽅ も変わってくる。 ⼈⼝が少ない地域であれば、悉皆調査による全市的なアウトリーチを実施し、 これをもとづく認知症の早期診断・早期介⼊が可能という判断の元、これが 当該市における認知症初期集中⽀援の⽬標となるかもしれない。 ⼀⽅で、⼈⼝規模が⼤きくすでに多くの医療・介護資源が存在する市におい ては、この医療介護連携が⾏われる場所を確認し、ここでのスクリーニング を強化することで、認知症疾患に対する早期介⼊が可能になり、これが⽬標 になるかもしれない。 また、介護保険事業所との連携、介護予防プログラムとの連携、⼀次予防対 象者への介⼊とさまざまな層でのアウトリーチも同時に考えることができる ため、市の施策の状況や課題を鑑み、これらについてどこをターゲットとし ていくかについても同時に検討する必要があるだろう。 8 4〜6の事業の実施プロセスにおいて、医師・それ以外のコメディカルにど のような知識/技術が求められたか、という観点について、実績を収集し、 把握しておくこともチーム員のガバナンスの構築に重要である。 9 認知症疾患は、終末期の慢性疾患と捉える事ができ、これはこれまで専⾨分 化を進めてきた医療・介護それぞれの領域を統合する視点が必要になる。 これは、⽇本では地域包括ケアと呼ばれるコンセプトであり、これには⼆つ の独⽴したコンセプト:Community based care(地域を基盤としたケア) とintegrated care(統合型のケア)が含まれている。 近年、この⼆つの⽅針をケアの中で統合させて組み込もうという議論が世界 的に活発化している。 しかしながら、この両者を同時に試みている国は少なく、その⼀つであるオ ランダにおいては、地域包括ケアは神話か必須のもの1)か、あるいはバベル の塔をたてる試み2)かという議論がなされている。 10 11 認知症初期集中⽀援チーム検討委員会の設置主体と構成例は このスライドに⽰した通りである。 12 認知症初期集中⽀援チーム検討委員会の (2)委員会の設置および開催頻度(3)委員会の内容 については、スライドに⽰した通り、定められている。 13 ある地域のネットワークの例を⽰す。 この図をみてわかるように、現⾏制度下において、すでに多くの会議がある。 これら会議体との関係性を整理した上で、 認知症初期集中⽀援チームの検討委員会を設置する必要がある。 14 地域包括ケアシステムの構築に向けては、PDCA サイクルのプロセスが重要 であり、検討委員会や運営協議会を構成する事業者・団体や住⺠等には、 計画(Plan)・実施(Do)・評価(Check)・処置(Act)の各項⽬につい て役割を果たし、地域包括ケアシステム構築の推進⼒の⼀つとなることが期 待される。 検討委員会が特に、地域の関係者間のネットワーク構築を⾏うなど、初期集 中⽀援チームの運営や活動を⽀援していくことは重要となる。 ⼀⽅、初期集中⽀援に係るチーム員は、事業が⾃治体やビジョンに基づいて ⾏われるものであることを⼗分に認識しておくと共に検討委員会の役割を理 解しておく必要がある。 15 他でうまくいった事例の⽅式を他の地域に導⼊する上で 地域包括ケアシステム構築の課題としては、①から⑤のような課題がある。 16 地域包括ケアシステム構築の前提として、⾃治体の役割は重要である。 このため、⾃らの⾃治体の置かれている状況(資源量)を把握する必要が重 要である。 17 地域包括ケアシステムの構築には、⾃治体(保険者)と地域包括⽀援セン ターとの関係性、それぞれの役割が整理されている必要がある。 認知症初期集中⽀援チームの設置においても同じことが⾔える。 ⾃治体(保険者)は、⾃らの地域の資源量の把握・課題分析を踏まえて、 チーム員の⽬標を定めることが求められている。 スライドは、H27年度研究事業の成果である。参考にしていただきたい。 18 19 Integrated careに係わる関係者の視点はスライドの通りである。 多くの関係者がかかわり、利害や貢献の視点が異なる点を理解しておく必要 がある。 20 認知症初期集中⽀援チームのデザインにあたって、すでに取り組んでいる⾃ 治体のチームの構成例を⽰す。 21 22 23 ⾏政における事業を遂⾏するにあたっては、このマネジメントが求められる。マ ネジメントにはさまざまな⼿法があるが、ここでは⽇本の都市⾃治体においても 導⼊が進められている、戦略計画に基づいてマネジメントを⾏う戦略マネジメン トを取り上げることにする。 戦略マネジメントにおいては、地域や⾃治体のビジョン(⽅向性・将来像)や ミッションを提⽰し、これに沿ったかたちで政策⽬標のプライオリティづけ・⽬ 標⽔準の設定を⾏う。ビジョンは、⾃らの組織や部⾨の「⽬指す将来像」である。 例えば、“⽇本で⼀番⾼齢者にやさしい⾃治体になること”であり、⼀⽅、ミッ ション(使命)とは、⾃分たちの組織や部⾨の「果すべき責務」である。例えば、 “⽇本で⼀番⾼齢者に充実したサービス提供すること”となる。戦略マネジメント においては、ビジョンの策定と組織戦略の⽴案ということを意味しているし、 ミッションの策定とは、事業戦略の策定にあたる。 なぜ、こうしたビジョンやミッションが重要であるかについては、これを明⽰し ないと、とくに⾏政組織というところは、前例の踏襲的な活動を選択する傾向が 強いからである。このため、新しいアプローチで統合型のケア提供を⾏う地域包 括ケアシステムを進めるためには、戦略マネジメントの視点を⾃治体職員が意識 することがより重要になってくる。 24 ここでいう戦略マネジメントを従来型のマネジメントと⽐較すると、その核にある戦略計画が異なることが 特徴である。第⼀の特徴は計画の策定⽅法である。総合計画がボトムアップ型で策定されるのに対し、戦略 計画はトップダウンあるいはミドル・アップ・ダウン型で策定される。第⼆として、ビジョン・政策⽬標が 具体性に富んでいるということである。 総合計画では,ビジョンや政策⽬標が具体性を⽋き、包括的・抽象的⽂⾔にとどまるのに対し、戦略計画で はビジョンの明⽰と政策⽬標の具体化と数値⽬標を設定する。総合計画では、各部課での⾃律的な執⾏計画 の策定・実施を尊重するが、戦略計画では、政府・⾏政、地域などのビジョンを戦略計画⼿法の活⽤により 描き出す。 この戦略マネジメントは,おおむね、スライドに挙げた三つのステップの条件があるとされている。 こう した戦略マネジメントによって、ビジョンを設定する際には、⾼齢者保健福祉計画・介護保険事業計画や基 本計画などの各種⾏政計画で設定した⽬標と今回の⽬標との整合性を図ることも重要である。 なぜなら、⽇頃の活動や地域ケア会議のなかで区域ごとのニーズや課題を把握している地域包括⽀援セン ターとの協議やヒアリング等を通して、必要な政策や事業の⽴案につなげ、各種⾏政計画等に、今回の事業 の内容を盛り込めるかどうかの吟味も当然求められる内容であるからである。 また、今回、提⽰する認知症の初期集中⽀援チームの編成と、このチームの⽅向性を⽰す⾃治体のあり⽅を ⽰すビジョンの設定には、関係機関等との連携や市町村からの必要な情報提供、ニーズに対応するための施 策⽴案、適切な⾏政権限⾏使など、市町村としての従来の計画との整合性があることが必須となるため、上 記のような各種計画との連動を⾏う必要がある。 さて、多くの先進諸国や⽇本では、⾼齢者のための社会資源やサービスは、ケア提供主体が違うことや所 属機関の属性(営利・⾮営利、医療・介護・福祉)が異なっているため、⼗分な連携がとられにくい状況と なっている。結果として、医療・介護・その他の福祉といった各種領域ごとに、垂直的な⽅向性(急性期か らリハビリテーション、⽣活維持期という⽅向性)における組織化のみがすすめられることが多い。 現在のように、認知症⾼齢患者に対応する社会資源やサービスを提供する組織が断⽚化されている構造の下 では、社会資源やサービスも縦割り構造になってしまうわけだが、このようなケアは、保健・医療・介護・ 福祉といった各領域や⾃治体と⺠間企業、そして家庭環境と施設環境の間に断層がある,と説明されてきた。 これらの断層によって、認知症⾼齢者に提供されるサービスが縦割り構造となり、⼗分な連携が困難である 状況では、医療と介護サービスの間(急性期から⽣活維持期のケア)、地域サービスと医療機関サービスの 間、専⾨職によるフォーマルサービスと家族介護者をはじめとするインフォーマルサービスと いうようなサービスの分断が引き起こされており、介護を必要とする⾼齢者のためのケアサービスの統合の ためのコーディネーションを難しくしている状況がある。 25 プログラムの対象とする⼈⼝の定義: 医療、ヘルスケアチームが効果を予測でき、効率的、協調的なアプローチが可 能な⼈⼝の範囲。 協調的な活動に対する財政的インセンティブ: • サービスの協調性を⾼め、サービス提供と財政に関しての連帯責任を負うこ とで慎重な管理を⾏う。 • ⼊院⼜は⼊所を予防し、その⼊院⼊所期間を短期化するための在宅での医療 介護環境における疾病管理を奨励する(セルフケア・セルフマネジメント) パフォーマンスにおける共同責任: 質改善と利害関係者への説明責任をデータを通して⾏う 情報技術: 主に電⼦カルテや臨床的決定⽀援システムや、「リスク」 のある患者を識別し、 ターゲットとしうる能⼒によってintegrated careの提供を⽀援 ガイドラインの使⽤: 最善の業務を奨励し、クリニカルパスにおけるケアコーディネーションを⽀援 し、ケアにおける不当なばらつきやケアのギャップを解消するために⽤いる。 医師とのパートナーシップ: 医療従事者の診療技術と管理職の組織的技術を結びつける。ケアの受け⼿と提 供者のケアスキルを組合わせる。 協働を⾏う⽂化: チームワークとハイレベルの協調的かつ患者中⼼ケアの提供。 26 参考に、integrated careの現実的評価のイメージを⽰す。 ここで重要なことは、市の⽬標を資源量の把握や課題分析から設定したとし ても、これに係わる関係者、またこのサービスを受ける受益者の意識を踏ま えて、⽬標値の修正を⾏うべきであり、可能であるならば初期の⽬標値の設 定にあたっては、こうした関係者の合議を踏まえて設定すべきであると考え られる。 27 統合ケアにおいて様々なレベルにおいて、関係者間の統合を進めることにな るがどの統合的プロセスにも優劣はないことを理解する必要がある。 むしろ、integrated careの取組みの⽬標は、統合的プロセスを選ぶ際の決定 を導き、さらに特殊な条件下でも促進する。 • 関係するintegrationの種類を⾒極め、プロジェクトに合わせ統合の種類を 選ぶ必要がある。 • どのintegrationが最も関連性があるかの決定要素としては、例えばプロ ジェクトの⽬的、利害関係者、従来から現地で⾏ってきたヘルス(ソー シャル)ケアへの取組み、利⽤可能な資源などがある。 28 もっとも重要な議論は、統合的なアプローチとなる、この図の5つである。 これらは、ケア受給者へのシームレスなケア提供の経験を与えるかというこ とであり、そのために患者へのケアの継続性(continuity)、質(quality)と アウトカム(outcome)が重要とされている。 29 30 最後に、本講義の要点をまとめると以下の4点があげられる。 • チーム設置前に、初期集中⽀援の⽬標を常に明らかにしておく必要がある。 • チームが設置されてからも、その⽬標が達成されているかを常に確認する 必要がある。 • 介⼊できるのは、⼀定期間。モニタリングの仕組みを構築することが重要 である。 • チームの組織⽅法は、地域ごとに異なるため重複を避け、最も効果的・効 率的な体制をつくる必要がある。 31
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