財政指標からみる市町村の特徴 1 財政指標からみる 市町村の特徴 人口1万人前後の自治体をめぐって 小 川 淳 一 今、地方財政は「三位一体改革」によって大 きな転換期にさしかかっています。 制度です。 交付税は、所得税、法人税、酒税、消費税、 「三位一体改革」は、国と地方の借金漬けが たばこ税の国税5税の、それぞれ一定割合を財 原因で行われようとしています。借金漬けにな 源としています。消費税は平成9年度から入り った理由には、バブルの崩壊以降、公共事業で ました。法人税は平成12年度から35.8%に引き 景気を刺激をしようと、度重なる国の緊急経済 上げられています。 対策が行われた結果です。平成4年度以降、各 地方交付税は、普通交付税と特別交付税に分 都道府県や市町村は、いろいろな補助金や、借 けられます。普通交付税は、交付税総額の94% 金を後年度の交付税で補填するという国の誘導 を占め、財源不足団体に交付しています。特別 で、公共事業を中心とした財政運営をしてきま 交付税は、特別な財政事情に対して交付し、交 した。そのため、地方の借金が大きく膨れ上が 付税総額の6%を占めています。 りました。 「三位一体改革」とは、国からの地方への税 源移譲、国庫補助負担金等の削減、地方交付税 収支決算から見る財政状況 決算指標のうち、収支の均衡は、実質収支、 の見直しを、一体として行うというのものです。 形式収支に表れます。将来の財政負担の状況は、 税源移譲については、すでに所得税・譲与税等 公債費比率、債務負担行為を見れば、市町村の の移譲が明らかになっています。これに関して 負担がどの程度あるかがわかります。市町村に は、私は、算出根拠について問題があるのでは 財政的ゆとりがどれだけあるかを見るためには、 ないかと感じています。国庫補助金等の削減で 経常収支比率、公債費負担比率、起債制限費、 は、保育所等の補助金が削減され、住民に直接 財政指数があります。 影響が出てくる可能性があると懸念しています。 地方交付税の見直し 地方交付税は、地方公共団体間の財政の不均 衡を調整するとともに、全国どこに住んでいて も標準的な住民サービスを受けることができる ように、地方公共団体の財源を保障するという 資料として、人口1万人前後の井手町、宇治 田原町、木津町、山城町の、11年度∼14年度の 決算概要を用意しました。それぞれ、 形式収支(C) = 歳入総額(A) − 歳出総額(B) 実質収支(E)= 歳入・歳出差引額(C) − 翌年度に繰り越すべき財源(D) 当該年度の単年度収支(F) = 当該年度の実質収支 − 前年度の実質収支 2 市町村決算の概要(収支比率) 市町村名 井 手 町 年度末 年 住民登 度 録人口 11 12 8,831 8,785 9,771 9,927 10,100 10,219 9,198 9,191 9,125 9,091 33,161 33,839 34,309 歳入歳出 翌年度繰越 実質収支 繰上 積立金 実質単年度 単年度収支 積立金 差引額 すべき財源 償還金 取崩額 収支 歳入総額 歳出総額 A 8,964 5,498,676 8,879 3,898,189 13 14 11 12 宇治田原町 13 14 11 12 山 城 町 13 14 11 12 木 津 町 13 (単位:千円,%) B C=A-B D 5,406,985 3,747,486 91,691 150,703 4,404,094 4,167,794 4,313,216 4,043,215 3,912,781 4,316,570 4,757,638 4,122,371 159,912 157,338 96,359 105,767 104,453 97,731 21,743 42,875 4,464,491 4,428,897 3,874,912 3,831,675 10,278,915 9,978,363 10,554,412 10,466,946 10,704,946 10,625,284 35,594 43,237 300,552 87,466 79,662 4,564,006 4,325,132 4,409,575 4,148,982 4,017,234 4,414,301 4,779,381 4,165,246 E=C-D 10,715 37,955 F 80,976 112,748 △ 21,361 31,772 15,681 159,912 156,056 82,855 100,348 104,061 94,444 21,743 27,194 47,164 △ 3,856 △ 3,787 17,491 3,713 △ 9,617 1,412 5,451 1,130 12,264 158,883 17,247 7,754 34,464 30,973 141,669 70,219 71,908 1,282 13,504 5,419 392 3,287 市町村決算の概要 市町村名 年度 J 井手町 宇治田原町 山城町 木津町 K 標準税 収入額 普通 交付税 L M 標準財政 実質収 規模 支比率 N E/N H I 2,770 F+G+H-I 7,376 343,000 6,711 68,023 6,124 1,807 4,086 52,407 1,679 970 4,287 2,292 329,818 106,506 100,000 48,230 34,122 7,270 160,240 155,277 78,000 △ 3,491 82,418 6,038 11,106 △ 71,450 7,974 1,689 6,902 14 35,328 11,405,157 11,274,933 130,224 55,546 74,678 * 歳入総額及び歳出総額は、特定資金公共事業債の償還に係るものを除く。 基準財政 基準財政 収入額 需要額 G 51,288 △ 2,049 △ 99,701 69,898 5,392 △ 8,647 53,929 41,865 244,787 78,927 17,144 △ 63,476 8,591 3,681 6,451 (単位:千円,%) 起債制限比 財政力 経常収支比率 起債制限比 率 指数 財政力指数 単年度 率 単年度 3カ年平均 左のうち (元利償還 3カ年平均 計 J/K /N) 公債費 人件費 0.393 0.394 10.9 11.0 88.3 18.6 41 11 926,911 2,361,043 1,223,908 1,432,893 2,656,801 3.0 12 13 968,912 2,345,964 1,279,966 1,377,052 2,657,018 967,302 2,224,360 1,277,630 1,253,422 2,531,052 4.2 6.3 0.413 0.435 0.400 0.414 7.5 6.9 9.8 8.4 88.7 93.4 16 16.2 41.3 42.3 14 11 12 893,336 2,074,346 1,179,192 1,179,734 2,358,926 1,607,144 2,382,639 2,127,319 776,428 2,903,747 1,551,144 2,434,833 2,052,615 883,689 2,936,304 6.6 2.9 3.4 0.431 0.675 0.637 0.426 0.710 0.679 7.5 9.1 10.3 7.3 8.4 9.2 93.9 85.2 82 16.6 15.4 16.7 39.6 35.5 32.6 13 14 1,574,965 2,398,138 2,083,850 1,560,288 2,306,714 2,063,372 821,397 2,905,247 745,508 2,808,880 3.6 3.4 0.657 0.676 0.656 0.657 9.9 9.6 9.8 10.0 84.3 88.8 17 17.3 32.1 32.2 11 12 13 944,864 2,442,802 1,248,228 1,495,749 2,743,977 933,761 2,507,450 1,233,576 1,573,689 2,807,265 948,659 2,446,169 1,253,302 1,495,698 2,749,000 0.8 1.0 1.3 0.387 0.372 0.388 0.406 0.389 0.382 15 13 13 13.7 13.9 13.6 92 87 87 24.8 25.2 26 31.9 29.8 28.5 14 11 903,669 2,300,798 1,193,439 1,396,338 2,589,777 4,171,368 5,830,333 5,530,630 1,655,906 7,186,536 1.2 2.0 0.393 0.715 0.384 0.735 14.1 9.2 13.3 9.9 87.9 86.2 26.7 15.9 29.5 29.2 12 13 14 4,378,565 6,068,000 5,806,702 1,692,865 7,499,567 4,470,691 6,023,093 5,928,185 1,547,941 7,476,126 4,413,407 5,854,759 5,849,613 1,437,749 7,287,362 0.9 1.0 1.0 0.722 0.742 0.754 0.725 0.726 0.739 8.5 8.2 8 8.9 8.6 8.2 85.6 84.3 84.2 15.2 14.8 14.5 27.5 26.5 26.5 * 財政力指数、起債制限比率及び経常収支比率は単純平均 基準財政収入額及び基準財政需要額は、錯誤にかかる分を除く 経常収支比率算出には、平成13年度からは減税補てん債と臨時財政対策債を一般財源に加えて算出 実質単年度収支 = 単年度収支(F) + 積立金(G) は、積立金(G)と繰上償還金(H)がプラスされ + 繰延償還額(H) − 積立金取崩額(I) ることによって、3億2981万円のプラスになっ で表されています。井手町の11年度は、実質収 ています。収支の指標でも、その内容によって 支8097万円のプラスですが、単年度収支は2136 これだけ違いが出てきます。 万円のマイナスです。しかし、実質単年度収支 宇治田原町の11年度は、実質収支が8285万円 財政指標からみる市町村の特徴 3 のプラス。単年度収支は、378万円のマイナス 適正化計画の策定が求められるようになります。 です。しかし積立金が408万円、積立金取崩額 井手町の11年度は11です。それまでは1桁台 は1億円で、実質は9970万円の赤字です。単に でした。山城町の14年度は14.1です。過去3年 収支と言っても、このように3つの指標がある は13で推移してきたので、まだ制限されるとこ わけです。 ろまでは行っていませんが、単年度では大きな 財政指標から見る財政状況 さらに、市町村の財政構造の弾力性を示す指 数字になっているため、注意が必要です。 財政力指数は、地方公共団体の財政力の強弱 を示すものです。普通交付税の算定に用いる基 標に、経常収支比率があります。人件費、扶助 準財政収入額を基準財政需要額で割った数値の、 費、公債費のように毎年度経常的に支出される 3年間の平均値です。この指数が1に近い、ま 経費に当てられた一般財源の額が、地方税、普 たは1を超えるほど、財政に余裕があるとされ 通交付税を中心とする毎年度経常的に収入され ています。基準財政収入額や基準財政需要額は る一般財源に占める割合を表したものです。 普通交付税の算定に用いるもので、自治体の歳 これが100に近くなるほど財政的余裕がない、 入と歳出を一般財源ベースで把握した数値です。 と考えていただけたらいいと思います。井手町 全国には、交付税を受け取らなくてもいい、税 は経常収支比率が88.3です。残りの自由に使え 収だけで事業や施策をやっていける自治体もあ るお金、余力は11.7しかありません。14年度で って、そういう自治体を「不交付団体」と言い は93.9で余力は6.1。他の市町村でも80台が多 ます。京都府では久美山町が不交付団体です。 くなっています。 財政力指数は、井手町と山城町が0.3∼0.4で 一般に市町村は75くらいで運営できればいい す。宇治田原町と木津町は0.6∼0.7。半分くら とされています。90台に入ると、市町村独自の いしか井手町と山城町は財政力がない。これか 事業ができなくなってくる。歳出の中で経常経 らいろいろな事業や施策をやろうとしてもでき 費がほとんどを占め、新たな事業展開は難しい ないということがわかります。住民サービスを ということです。そのため、経常的経費の大き 提供しようとすれば、起債をするか、財政調整 な割合を占める人件費を切りつめることを、自 基金を取り崩す必要が生じてくるわけです。 治体の首長は考えていくことになります。扶助 費を切ろうとしても、福祉サービスを低下させ 歳入と歳出の見方 るわけにいかないので切れない。公債費も借金 井手町の11年度歳入内訳を見ていただくと、 を返していかないといけない。人件費が的にな 地方税が11億8426万円。そのうち10億9833万円 るというのが、今日の状況です。 が一般財源です。地方譲与税、利子割交付金等、 起債制限比率や財政力指数も、財政のゆとり 地方消費税交付金、自動車取得税交付金、地方 を見るための指数です。起債制限比率は、地方 特例交付金などは、全額、経常一般財源です。 債を許可するかどうかの指標の一つで、地方債 地方交付税は、普通交付税と特別交付税と分 元利償還金に充当された一般財源が、標準財政 かれています。普通交付税は何でも使える財源 規模に占める割合です。通常3カ年平均が用い で、全額、経常一般財源に示されています。特 られます。これが20%を超えると、地方債の起 別交付税はそこの市町村の特別な事情があって 債が制限される。14%を超えると、公債費負担 必要となったわけですから、経常一般財源には 4 (井手町)歳入内訳 地方税 性質別歳出内訳 経常一般 平成13年度 平成12年度 平成11年度 財源等 1,061,148 1,120,593 1,184,268 1,098,333 人件費 (単位:千円) 経常充当 平成13年度 平成12年度 平成11年度 一般財源等 1,212,322 1,221,760 1,250,487 1,120,033 地方譲与税 34,214 34,360 33,443 33,443 うち職員給 795,069 815,152 847,685 - 利子割交付金 44,407 50,957 12,651 12,651 うち基本給 527,141 540,122 543,914 - 地方消費税交付金 90,860 92,822 90,007 90,007 うちその他手当て 267,928 275,030 303,771 - ゴルフ利用税交付金 うち退職金 81,394 82,542 87,264 - 旧特別地方消費税交付金 物件費 363,429 359,807 329,753 222,441 自動車取得税交付金 27,552 31,283 28,094 28,094 維持修繕費 地方特例交付金 38,879 39,233 28,596 28,596 扶助費 地方交付税 1,643,831 1,787,751 普通交付税 1,253,422 1,377,052 特別交付税 390,409 410,699 391,910 交通安全対策交付金 1,682 1,634 2,038 分担金及び負担金 3,133 3,607 25,123 0 貸付金 140 58,621 59,458 56,099 4,603 繰出金 使用料 手数料 国庫支出金 普通建設事業支出金 国有提供施設等 所在市町村助成交付金 府支出金 1,359 2,460 1,010 1,010 150,894 154,245 232,115 85,777 1,824,803 1,432,893 補助費等 443,191 439,034 484,833 363,617 1,432,893 1,432,893 公債費 467,556 546,216 934,065 507,645 36,208 300,767 292,972 - 50 50 - 361,556 305,234 244,645 112,202 0 積立金 2,038 投資及び出資金 - 6,583 6,655 6,016 111,797 132,713 312,137 0 前年度繰上充用金 0 義務的経費 1,830,772 1,922,221 2,416,667 1,713,455 15,332 14,073 71,310 0 投資的経費 1,367,439 417,913 1,637,055 - 0 うち人件費 19,600 19,200 30,834 - 1,367,439 417,913 1,608,101 - 248,747 249,608 306,323 財産収入 53,620 27,120 71,552 1,292 ア 補助事業 21,403 19,314 213,930 - 寄附金 19,203 7,406 201,933 0 イ 単独事業 1,310,007 369,883 1,347,519 - 繰入金 30,666 19,770 127,693 0 ウ ア・イ以外 36,029 28,716 46,652 - 繰越金 150,703 91,691 233,632 0 (2)災害復旧 28,954 - 諸収入 22,660 20,928 32,968 124 31 15,433 915,700 120,600 921,300 12,500 うち貸付金元利収入 地方債 うち減税補てん債 うち臨時財政対策債 77,500 0 (1)普通建設事業 - 885 (3)失業対策事業 0 3,747,486 5,406,985 2,412,725 0 義務的経費/歳出合計 0.42 0.51 0.45 - 0 うち 人件費/歳出合計 0.28 0.33 0.23 - 0 投資的経費/歳出合計 0.31 0.11 0.30 - 4,564,006 3,898,189 5,498,676 2,732,835 うち一般財源(1∼9) 2,940,891 3,156,999 3,201,862 2,724,017 0.64 0.81 一般財源/歳入合計 4,404,094 歳入合計 歳出合計 0.58 なりません。 ます。 歳出の経常充当一般財源の合計24億1272万50 そこで、集めた資料を並べてみて気が付いた 00円を、歳入の経常一般財源の合計27億2401万 ことは、山城町と木津町では、住民や議員に説 7000円で割ると、経常収支比率が出てきます。 明するため、決算書に財政用語を説明する資料 市町村決算統計資料が京都府から出ています が付いていたことです。これには大変、感心し ので、それぞれ市町村で年度ごとにこのような ました。 計算をすると、経常一般財源が出てきます。各 職員でも、決算書を見ることは少ないと思い 市町村では、こういう計算までしていない場合 ます。予算にかかわる職員は、決算書をつくる が多いと思いますので、一度、やってみて下さ ことはあっても、決算を分析することはしませ い。 ん。今日、私がお話ししたような分析方法を用 いて、自分のまちの財政状況を検討しながら、 財政分析を通して、まちの実態把握を 今回、資料をつくるにあたって、井手町、宇 治田原町、木津町の単組の役員さんにご協力を いただきました。紙面を借りてお礼を申し上げ 今後の市町村運営を検討していただけたらと思 います。 (おがわ じゅんいち・ 自治労京都府本部書記次長・井手町税務課主査)
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