第37 回日本食品微生物学会学術総会 - イルミナ株式会社

第 37 回日本食品微生物学会学術総会
共催ランチョンセミナー
日時:2016 年 9 月 15 日(木)11:50 ~ 12:50
会場:タワーホール船堀 会場 F 桃源 招待講演
乳児腸内フローラの形成と母乳オリゴ糖を
利用できるビフィズス菌の定着意義
− NGS による腸内細菌叢および腸内細菌ゲノム解析の有用性 −
株式会社ヤクルト本社 中央研究所
松木 隆広 先生
※本発表後にイルミナ株式会社より製品のご紹介をいたします。
※ランチョンセミナーは整理券制となります。開催当日、整理券を配布いたします。
企業展示会場では、次世代シーケンサー MiSeq を展示、
ご紹介しております。
弊社ブースで簡単なアンケートにお答えいただきました方全
員に、細菌叢解析の最新研究動向が分かる論文要旨集、
「ヒ
トの健康における細菌およびメタゲノム」を差し上げます。
是非、イルミナブースにお立ち寄りください。
■ 製品・セミナーに関するお問い合わせ先 Email: [email protected]
イルミナ株式会社
〒108-0014 東京都港区芝 5-36-7 三田ベルジュビル 22 階
jp.illumina.com
乳児腸内フローラの形成と母乳オリゴ糖を利用できるビフィズス
菌の定着意義
− NGS による腸内細菌叢および腸内細菌ゲノム解析の有用性 −
株式会社ヤクルト本社 中央研究所
松木 隆広 先生
はじめに:ヒトの腸管内には多種多様な細菌が在住し、複雑な微生物生態系(腸内フローラ)が形成されている。
この腸内フローラは様々な生理活性を有し、それゆえに宿主の健康と密接な関係がある。近年、NGS によるフロー
ラ解析技術の進展により、宿主に影響を及ぼす特定の菌種や遺伝子が同定され、その作用メカニズムが次第に明ら
かとなってきた。我々は、乳児期の腸内フローラの形成過程およびヒトで誕生直後に最優勢となるビフィズス菌に
注目した検討を行い、乳児とビフィズス菌の共生関係構築に重要な遺伝子を見出した。本セミナーでは、乳児にお
けるビフィズス菌の定着意義と近年の腸内フローラ研究の動向、および NGS による菌叢およびゲノム解析の有用性
について発表する。
乳児腸内フローラ形成の法則性:乳児の腸内菌叢は誕生直後に形成が始まり、短期間のうちにその構成は大きく変
化する。しかし、その法則性や個人差の程度は、ほとんどわかっていなかった。そこで、誕生後 1 か月間の乳児腸
内フローラの形成過程を 12 名について詳細に調べたところ、乳児の腸内菌叢は、大腸菌群、Staphylococcaceae、
ビフィズス菌のいずれかが最優勢であることを特徴とする 3 つの群にクラスター分けできること、徐々にビフィズ
ス菌優勢の菌叢に移行すること、その移行時期は乳児により異なることを見出した 1( 図 1)。
ビフィズス菌の定着と腸内代謝産物の変化:腸内フローラ構成と代謝産物の関連性を調べたところ、ビフィズス菌
が定着した乳児では、腸管内容物の有機酸濃度の上昇とそれに伴う pH の低下、および残存の母乳オリゴ糖の低下
が観察された。しかし、一部の乳児ではビフィズス菌が定着しているにもかかわらず、便中の母乳オリゴ糖の濃度
が高いことが分かった。そこで、乳児便から 29 株のビフィズス菌を分離してその表現型を調べたところ、菌株間で
母乳中に含まれるオリゴ糖 (HMO) の主成分、フコシルラクトース (FL) に違いがあることが分かった。さらに FL を
効率よく利用できる菌が定着した乳児では、利用できない菌が定着した乳児に比べ、有機酸濃度が高く、便中の pH
、大腸菌群の占有率が低いことが明らかとなった。
乳児ビフィズス菌の HMO 利用機構の解明:乳児ビフィズス菌の FL 利用性が菌株間で異なる理由を明らかにするた
め、乳児便から分離されたビフィズス菌 29 株のゲノム解析を行った。各菌株がもつ遺伝子を詳細に解析したところ
、基質未同定の ABC 輸送体が FL を利用できる菌株にのみ存在することがわかった。この ABC 輸送体を欠損させ
たビフィズス菌株を作製したところ、FL を利用できなくなり、この ABC 輸送体が FL 利用の中心的な働きを担って
いることが確認された。
結語: HMO の利用性はビフィズス菌の菌株間で異なること、
HMO の主成分の FL 利用には、新規の ABC 輸送体が重要な役
割を果たしていること、この ABC 輸送体は、乳児の腸内の酢酸
濃度と pH を規定する重要な遺伝子であることを示すことがで
きた。FL 利用ビフィズス菌の定着による腸内環境の変化は、宿
主にとって有益であることが数多く報告されており、FL の輸送
を担う ABC 輸送体は乳児とビフィズス菌の共生関係の構築の鍵
となる因子であることがわかった。
参考文献:
1. Matsuki T, et al. A key genetic factor for fucosyllactose
utilization affects infant gut microbiota development. Nat
Commun 7, 11939 (2016).
図 1. 乳児腸内フローラ形成 (a) とビフィズス菌の FL 利用機構 (b)