Psychological capital と日本的経営

※ ホームページ等で公表します。
(様式1)
立教SFR-院生-報告
立教大学学術推進特別重点資金(立教SFR)
大学院学生研究
2015年度研究成果報告書
研究科名
研 究 代 表 者
(2016 年 3 月 現 在
のものを記入)
立教大学大学院
経営学
研究科
経営学
在籍研究科・専攻・学年
経営学研究科・経営学専攻・
博士後期課程 3 年
氏 名
久保田佳枝
所属・職名
指導教員
自然・人文
・社会の別
・
人文
・
石川
社会
個人・共同の別
淳
個人
印
・
共同
名
Psychological capital と 日 本 的 経 営
研究課題
研 究 組 織
印
氏 名
経営学部・教授
自然
専攻
在籍研究科・専攻・学年
氏 名
立教大学経営学研究科
久保田佳枝
博士後期課程 3 年
(研究代表者
・共同研究者)
※ 2016 年 3 月 現
在のものを記入
研 究 期 間
研 究 経 費
(1 円単位)
2015
年度
(支出金額)200,000円/(採択金額)200,000円
研究の概要(200~300 字で記入、図・グラフ等は使用しないこと。)
本 研 究 は 、 博 士 研 究 題 目 で あ る 「 Psychological Capital( サ イ コ ロ ジ カ ル ・ キ ャ ピ タ ル :
P s yC a p ) と 日 本 的 経 営 」 の 第 一 段 階 で あ り 、 今 年 度 の 研 究 概 要 は 以 下 の 二 つ に 集 約 さ れ
る 。 一 つ 目 は 、 P s yC a p の 諸 外 国 に お け る 先 行 研 究 を も と に 、 日 本 に お い て 初 め て 紹 介 さ
れ る PsyCap の 日 本 に お け る 概 念 の 有 効 性 の 検 討 行 う こ と で あ り 、 二 つ 目 は 、 す で に 12
カ国で開発されている質問紙につづき日本語版の尺度作成とその信頼性と妥当性の検証
である。この二つの研究が今年度の研究概要である。
キーワード(研究内容をよく表しているものを3項目以内で記入。)
〔 サイコロジカル・キャピタル
〕 〔
心理的資源
〕〔
PsyCap
〕
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(様式2-1)
立教SFR-院生-報告
研究成果の概要(図・グラフ等は使用しないこと。)
近年、人間のウェルビーイング(よりよいあり方)や物事をポジティブにとらえる視点によ
る研究が心理学分野において注目されつつあり、このポジティブな視点による研究が組織行
動へも応用されている。職場での業績向上に向けて測定、開発、また効果的に管理すること
ができる心理的力量(人材の強みとなる心理的能力)に関する研究が進められ、サイコロジ
カ ル ・ キ ャ ピ タ ル ( Psychological capital; 心 理 的 資 本 ; 以 下 PsyCap と 表 記 ) は そ の 中 核 を
なす概念である。
今 年 度 の 研 究 目 的 は 、日 本 の 学 術 業 界 に お い て 初 め て 導 入 さ れ る P s y C a p 概 念 の 基 礎 的 理 論
を 踏 ま え な が ら 、組 織 行 動 に お け る P s y C a p の 先 行 研 究 か ら P s y C a p の 特 徴 を 探 索 す る こ と で
あった。国際経営や異文化経営の場面において、多様な背景を持つ構成員のモチベーション
の 向 上 に 資 し 、そ れ ら の 国 際 比 較 を も 可 能 に す る 新 た な 観 点 で あ る P s y C a p の 基 礎 的 理 論 や 経
営学における諸理論との関連性について述べつつ、組織行動における先行研究のレビューを
通 し て 組 織 行 動 に お け る PsyCap 台 頭 の 意 義 に つ い て 検 討 し た 。
PsyCap と は 、 職 業 生 活 に お い て 「 こ う あ り た い 」 と 願 う 目 標 や 成 功 に 対 し て 自 律 的 か つ 前
向 き に モ チ ベ ー ト す る 心 理 的 力 量 で あ る 。P s y C a p は 人 間 の 強 み で あ る 四 つ の 次 元 か ら 構 成 さ
れ 、 各 次 元 の 理 論 的 共 通 性 に よ っ て 統 合 さ れ て い る 。 PsyCap は 個 人 の 心 理 開 発 状 態 で あ り 、
①困難な課題を成功させるために必要な努力をする自信、②現在と未来の成功を肯定帰属す
る楽観性、③目標に向かって頑張り必要に応じて目標への道筋を変更しながら成功へ向かう
希望、④問題と逆境に苦しめられても持ちこたえ跳ね返し、それらを超えて成功するレジリ
エ ン ス 、 と い う 特 徴 が あ る ( L u t h a n s , Yo u s s e f , & Av o l i o , 2 0 0 7 )。 換 言 す れ ば 、 四 つ の 次 元 と
は 、「 希 望 ( H o p e )」「 効 力 感 ( C o n f i d e n c e / E f f i c a c y ; 自 信 ・ 自 己 効 力 感 )」「 レ ジ リ エ ン ス
( R e s i l i e n c e )」「 楽 観 性 ( O p t i m i s m )」 で あ る 。
PsyCap の 理 論 的 背 景 は 、 Hobfoll( 1989) に よ る COR 理 論 ( Theory of Conservation of
Resources; 資 源 保 存 理 論 ; 以 下 COR 理 論 と 表 記 ) と い う 心 理 学 的 理 論 に 依 拠 す る 。 COR 理
論とはストレス対処仮説である。人間がストレス対処に必要とする心理的資源を複数保持し
ていれば、ストレスにさらされても失われた資源を他の資源が補完することが可能であるこ
と を 仮 定 す る 。COR 理 論 は 、対 象 物 、状 態 、個 人 特 性 、エ ネ ル ギ ー を 資 源 と み な す( Hobfoll,
1 9 8 9 )。 一 つ あ る い は 複 数 の 資 源 が 失 わ れ た り 、 充 分 な 資 源 あ る に も か か わ ら ず 追 加 さ れ た り
す る と ス ト レ ス が 生 じ る が 、 人 に は 心 理 的 資 源 を 貯 蔵 し て お く 資 源 プ ー ル ( resource pool)
が備わっており、そのプールにおいて互いの資源が協同しあい互いに醸成していく。換言す
れば、資源プールが回避不可能なストレスに対応する準備として、資源を積極的に収集し、
補 強 ・ 補 完 す る 資 源 を 生 成 し て い る ( H o b f o l l , 2 0 0 2 )。
PsyCap は 複 数 の 構 成 概 念 を 統 合 す る 高 次 の 中 核 概 念 で あ る 。 PsyCap は 多 次 元 的 性 質 と 認
識 論 に 依 拠 し た 概 念 的 枠 組 み を 用 い て 高 次 概 念 ( a higher order core construct) の 存 在 を 、
多次元的概念が中核要因に関係する構成要素を保持する方法、高次要因に含まれる各要因間
の共分散と共通性を指摘し、心理的構成概念には行動を引き起こす共通するメカニズムがそ
の 中 核 に あ る 、 と 説 明 し た ( L a w, Wo n g , & M o b l e y, 1 9 9 8 ) 。 換 言 す れ ば 、 四 つ の 次 元 を 個 別
に見るよりも中核的な高次概念が結果との関連性をよりよく説明できることを意味する。実
際、高次概念とされる個々の次元を統合した方が、結果に対してより効果があることが実証
的 に も 明 ら か に さ れ て い る ( L u t h a n s , Av o l i o , Av e y, & N o r m a n , 2 0 0 7 )。 P s y C a p 研 究 で は 、
各要因が概念的に独立し弁別的妥当性が実証的に確認され、また各独立した概念を結束させ
る 潜 在 的 共 通 性 と 各 要 因 間 の 相 乗 効 果 も 見 受 け ら れ て い る ( L u t h a n s , Av o l i o , Av e y, &
N o r m a n , 2 0 0 7 )。
前 述 か ら も わ か る よ う に 、 PsyCap は 略 称 PCQ( PsyCap Questionnaire) と 呼 ば れ る 質 問
紙がある。希望、効力感、レジリエンス、楽観性の各次元からそれぞれ六つの質問項目、合
計 2 4 項 目 で 構 成 さ れ る ( L u t h a n s , e t a l . , 2 0 0 7 )。 要 す る に 、 P s y C a p と は 、 測 定 尺 度 を 併 せ
持つ心理学的理論を用いた新しい構成概念といえる。
P s y C a p 研 究 は 組 織 行 動 と 人 材 育 成 の 二 つ の 研 究 動 向 の ほ か 、ヘ ル ス ケ ア 分 野 に お い て も 研
究が進められているが、年代別に研究動向をみてみると、研究萌芽期と始動期にわけられる。
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(様式2-2)
立教SFR-院生-報告
研究成果の概要
つづき
既 存 の 実 証 研 究 を ま と め る と 、P s y C a p は 、変 革 型 リ ー ダ ー シ ッ プ や ウ ェ ル ビ ー イ ン グ( 幸
福 感 ) な ど の ポ ジ テ ィ ブ 要 因 と は 正 の 関 係 性 を 示 す 傾 向 が 強 く ( Av e y, L u t h a n s , S m i t h , &
P a l m e r, 2 0 1 0 ; C u l b e r t s o n , F u l l a g a r, & M i l l s , 2 0 1 0 )、 一 方 で ス ト レ ス ( Av e y, L u t h a n s , &
Jensen, 2009) な ど と い っ た ネ ガ テ ィ ブ 要 因 と は 負 の 関 係 性 を 示 す 特 徴 が あ る 。
また研究初期において諸外国での実証研究がすでになされているのは国際経営学の観点
か ら も 興 味 深 い 。 同 様 の 研 究 は 、 す で に 中 国 ( L u t h a n , Av e y, C l a p p - S m i t h , & L i , 2 0 0 8 )、
オ ー ス ト ラ リ ア と ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド ( M c M u r r a y, e t . a l . , 2 0 0 9 )、 ポ ル ト ガ ル ( R e g o , e t a l . ,
2 0 1 0 )、イ ン ド( G u p t a & S i n g h , 2 0 1 4 )に お い て な さ れ て い る 他 、多 国 籍 企 業( A l k i r e & Av e y,
2 0 1 3 ) や 異 文 化 間 比 較 に 用 い る P s y C a p と し て 「 文 化 間 P s y C a p( c r o s s - c u l t u r a l P s y C a p )」
と い う 新 た な 尺 度 も 開 発 さ れ つ つ あ る ( D o l l w e t & R e i c h a r d , 2 0 1 4 )。 こ れ ら は こ れ ま で の
文 化 的 指 標 を 提 供 す る 異 文 化 経 営 論 と は 異 な り 、モ チ ベ ー シ ョ ン の 国 際 比 較 研 究 な ど へ の 研
究 の 発 展 が 見 込 め る こ と か ら 、国 際 経 営 学 や 異 文 化 経 営 に お い て も 、今 後 、研 究 の 幅 を 広 げ
る意義ある概念の導入といえる。
な お 日 本 の 組 織 行 動 分 野 に お い て は 、 PsyCap を 首 題 と し た 学 術 文 献 や 実 証 研 究 は 見 受 け
ら れ な い が 、 研 究 の 中 で P O B と P s y C a p に 言 及 し た も の ( 松 原 ・ M a s u m , 2 0 0 7 )、 P s y C a p
の 次 元 の 一 つ で あ る 「 希 望 」 に つ い て 言 及 し た も の ( 金 井 , 2 0 0 5 )、 ま た 2 0 0 9 年 に 神 戸 大 学
大 学 院 経 営 学 研 究 科 研 究 科 な ど に よ っ て 開 催 さ れ た「 人 勢 塾 」セ ミ ナ ー に 関 す る 内 容 報 告 に
お い て 、 POB( 金 井 , 2010a) と PsyCap( 金 井 , 2010b) に 言 及 し た も の が あ る 。 ま た ビ ジ
ネ ス 雑 誌 で は P O B の 概 要 を 扱 っ た 記 事 が あ る ( 金 井 ・ 高 橋 , 2 0 0 4 ) 。 そ の 他 、『 オ プ テ ィ ミ
ストはなぜ成功するか』
( セ リ グ マ ン , 1 9 9 4 )や レ ジ リ エ ン ス( ラ イ ビ ッ チ ・ シ ャ テ ー , 2 0 1 5 )
と い っ た 、 PsyCap を 構 成 す る 次 元 に 関 す る 翻 訳 本 が 出 版 さ れ る な ど 、 PsyCap の 各 次 元 が
日本社会においても関心を持たれ始めていると考えられる。このような日本の動向からも、
PsyCap 研 究 は 組 織 行 動 に お け る 学 術 的 貢 献 と 導 入 意 義 が あ る と 考 え る こ と が で き る 。
先 行 研 究 に よ り PsyCap は ポ ジ テ ィ ブ 要 因 と 正 の 関 係 性 を 示 す 一 方 で 、ネ ガ テ ィ ブ 要 因 と
は 負 の 関 係 性 を 示 す 特 徴 を 持 つ こ と が 明 ら か に さ れ た 。従 業 員 の モ チ ベ ー シ ョ ン を 管 理 し 業
績 を 向 上 さ せ る 手 段 を 見 出 す 可 能 性 を 考 慮 す れ ば 、組 織 行 動 に お け る PsyCap の 研 究 意 義 は
深 い 。ま た 前 述 の よ う に PsyCap の 台 頭 が 組 織 行 動 に お け る 更 な る ポ ジ テ ィ ブ 研 究 へ の 注 意
喚 起 が 目 的 で あ る な ら ば 、 国 際 経 営 や 異 文 化 経 営 の 観 点 で 、 PsyCap の 国 別 比 較 、 文 化 別 比
較 の 研 究 の 発 展 は 意 義 の あ る も の で あ り 、そ の 貢 献 は 大 き い と い え る 。な ぜ な ら 、日 本 に お
い て 研 究 が な さ れ れ ば 、す で に 実 施 し て い る 他 国 と の 比 較 が 可 能 と な り 、モ チ ベ ー シ ョ ン と
いう切り口で国際経営や異文化経営の文脈における構成員のマネジメントに示唆を与える
可 能 性 を 包 含 し て い る か ら で あ る 。そ の 一 方 で 、P O B と P s y C a p 研 究 に お い て「 ポ ジ テ ィ ブ 」
の 定 義 が 示 さ れ て い な い こ と や 、 POS と POB に お け る PsyCap の 位 置 付 け に 曖 昧 さ が あ る
と い っ た 問 題 も 残 さ れ て い る 。こ の 点 に つ い て は 次 年 度 開 始 ま で に 少 し で も 進 捗 さ せ た い と
考えている。
後 期 は 休 学 し た も の 日 本 初 と な る PsyCap を 主 題 と す る 学 術 論 文 が 掲 載 さ れ 、 立 教 SFR
により研究に注力できたおかげであると、心から感謝している
※この(様式2)に記入の成果の公表を見合わせる必要がある場合は、その理由及び差し控え期間等
を記入した調書(A4縦型横書き1枚・自由様式)を添付すること。
※ ホームページ等で公表します。
(様式3)
立教SFR-院生-報告
研究発表 (研究によって得られた研究経過・成果を発表した①~④について、該当するものを記入してください。該当するものが多い
場合は主要なものを抜粋してください。
)
①雑誌論文(著者名、論文標題、雑誌名、巻号、発行年、ページ)
②図書(著者名、出版社、書名、発行年、総ページ数)
③シンポジウム・公開講演会等の開催(会名、開催日、開催場所)
④その他(学会発表、研究報告書の印刷等)
①
雑誌論文(著者名、論文標題、雑誌名、巻号、発行年、ページ)
久保田佳枝、サイコロジカル・キャピタルの台頭:組織行動における台頭の意義、異文化経営研究、12 号、2015、51-64.
④ その他(学会発表、研究報告書の印刷等)
Yo s h i e K u b o t a , “ Va l i d a t i o n o f a J a p a n e s e v e r s i o n o f t h e P s y C a p q u e s t i o n n a i r e , ” P a n - P a c i f i c C o n f e r e n c e ,
Hanoi, June in 2015.