INTERMITTENT ABDOMINAL PAIN ◦ 【症例】 9歳 女児 ◦ 【主訴】 間欠的な腹痛 ◦ 【現病歴】 4歳になってから腹痛が時折起こるようになった。腹痛が起こる時期は 年に数回あり、便秘や非血性・非胆汁性嘔吐が伴うこともあった。発 熱や下痢はなかった。ポリエチレング リコールの投与によって症状は 改善した。 8 歳の時、誘因なく胸部左側に突然鋭い痛みが頻脈と嘔気を伴って生 じた。心拍数は 150bpm だが、体温やその他の身体所見、胸部レント ゲン、心電図は正常であった。2 ヶ 月後の心機能検査も正常であった。 また血液検査上ヘリコバクターピロリは陰性であった。 続く 18 ヶ月間で腹痛の頻度は週 3-4 回に増加し、週末よりも学校にい る時に起こることが多かった。痛みは上腹部に限り、嘔吐を伴った。 ポリエチレングリコールとオメプ ラゾールが定期的に投与され、内服 直後は便秘が軽快するのを繰り返していた。 【既往歴】 慢性の便秘:硬く、血便・粘液・脂肪便なし、下痢なし) 気管支喘息(2歳と時に肺炎を起こした) 【アレルギー】 なし 【生活歴】 食生活:野菜や果物少なく、比較的植物繊維の少ない食事 両親と生活している 学校での成績は優秀であった 【海外渡航歴】 南米系の家系で8歳の時に南米への渡航歴あり 【家族歴】 父:逆流性食道炎 妹:甲状腺機能亢進症 母方祖母と叔母:片頭痛 <初診時@急病センター> 9歳4ヶ月のとき 鋭く激しい痛みで受診した。 来院時現症: 発熱なし 腹部にびまん性に圧痛、左下腹部の緊満感、反跳痛(−)、筋 性防御(–) →便秘に矛盾しないと考え便秘の治療を再開した。 <一ヶ月後> 便秘の回数は減ったが、嘔吐を伴い嘔吐 で軽快する腹痛を間欠的に繰り返すよう になった。 身体所見上異常なし、 血液検査:WBC正常(分画も正常)、 電解質、血糖、甲状腺ホルモン、肝・腎 機能異常なし ヘリコバクターピロリ:陰性 セリアック病の検査:陰性 腹部レントゲン:上行結腸に便塊貯留あ り →便秘の病歴と矛盾せず。 オメプラゾールによる治療開始された。 →小児消化器内科紹介 <消化器内科初診時> 血圧は正常、身長は130cm、体重28.6kg 腹部:平坦、軟、筋性防御なし その他異常所見なし 便中ヘリコバクターピロリ抗原(−) オメプラゾールの治療継続となった。 ◦ <消化器内科6週間後再診> 上腹部痛を繰り返している 嘔吐により改善 排便は1〜2回/日 血便(−)粘液(+) 夜間の疼痛(ー) 腹部:心窩部に圧痛あり、軟、左下腹部に便塊ふれず 腹部エコー:正常 食道胃内視鏡検査:食道、胃、十二指腸の生検標本は正常だった 血液検査:電解質、血糖、カルシウム、TP、Alb、glb、AMY、 リパーゼ、肝機能、腎機能は正常であった。 →オメプラゾールは中止となった。 <鑑別診断> ・便秘 ・機能性腹痛 ・胃食道逆流 ・Helicobacter pylori感染 ・炎症性腸疾患 ・アレルギー性腸疾患 ・セリアック病 ・食物不耐症 ・非典型的片頭痛 プライマリーケアの観点から ◦ 便秘 ◯間欠的な腹痛、固い排便、緩下剤で回復 ×便秘の治療後も急性の腹痛が再燃 ◦ 機能性腹痛 全体の19%、女児に後発、4〜6歳が好発年齢となる。 ◯学校という特定の場所で頻発していた。 ×痛みは深刻、性状、頻度の増加、上腹部痛は他の鑑別診断 を挙げるべき 消化器内科の観点から① ◦ 胃逆流性食道炎 典型的には胸焼けと腹痛を引き起こすが、嘔吐と腹痛が小児には多い。 内視鏡所見がなくともPPI等のい処方で経過みることが大事である。 ×オメプラゾールによる改善はない。 ◦ ピロリ感染 胃や十二指腸潰瘍を引き起こすため腹痛の鑑別診断となるが、慢性腹 痛の鑑別となるかは不明。 ×今回は生検結果ピロリ陰性であった。 ◦ 炎症性腸疾患 ◯間欠的腹痛であり、初期は今回のような臨床像をていすることもあ る。 ×血算、Alb、赤沈が正常である。 消化器内科の観点から② ☆食物特異的疾患 ・好酸球性胃腸炎 消化管の層構造に基づく特徴的な臨床所見を伴う。 ×生検により確定診断される。 ・セリアック病 3徴は腹痛、下痢、体重減少である。18%の患者には便秘を伴う。 ×感度95%以上の血清検査は陰性であり、十二指腸生検の病理組織でも示唆 する所見なし。 ・食物不耐症 5人に1人が5歳までに乳糖不耐症に悩んでいる。 乳糖不耐症患者では乳糖摂取後に呼気中の水素濃度が上昇する。→吸収されな い炭水化物が腸内細菌叢により代謝される。 ×下痢がなく、乳糖を制限せずに無症状であった期間が長いので一致しない。 消化器内科の観点から③ ◦ 非典型的片頭痛 腹性片頭痛は臍周囲に生じ嘔気・嘔吐と関連する反復性腹痛 の原因となる。 周期性嘔吐症は腹性片頭痛に類似した状態であるが、周期性 嘔吐の方は嘔吐が特徴的である。 発症年齢の平均は7歳。 腹性片頭痛の患者で頭痛が生じる確率は1年でわずか24%で ある。 臨床学的診断 ほとんど臨床経過とこれまでの検査で除外。 →機能的腹痛か腹部片頭痛か。 →心身症の治療を考慮された。 →しばらく経過みていたが、両親は追加で検査を行って欲し いと主張。 ◦ 腹部造影CT施行 副脾(4.4cm)の所見 があった。 入院後経過 ◦腹腔鏡下での摘出術が施行された。 術後経過は良好で、腹痛の再発なく経過している。 ◦病理組織像も副脾として矛盾しない。 副脾 ◦ CTで11%の人に副脾がみとめられており、剖検では30%で認めら れる。 ◦ 正常な発生において左体網にある間質系の細胞が脾臓と結合する際に 不十分であれば生じる。 ◦ 副脾は通常脾門部周囲にみられることが多い。 ◦ 無症状ではあるが捻転することにより腹痛をきたしうる。(小児に多 い) ◦ 急性の痛みで発症するだけではなく間欠性や慢性の痛みをきたしうる ◦ 副脾の梗塞や破裂は大量出血をきたしうる。 最終診断 ◦副脾捻転に伴う間欠的な慢性の腹痛
© Copyright 2024 ExpyDoc