平 成 23 年 度 県 立 高 等 学 校 教 育 課 程 課 題 研 究 「 情 報 教 育 研 究 班 」 資 料 他の各教科・科目との連携を図る指導計画 -公民科「現代社会」と情報科「社会と情報」- 1 研究の目的・ねらい 新学習指導要領において、情報科と公民科には次のように関連を図る必要があると記述 されている。 ア 公民科 (1) 情報を主体的に活用する学習活動を重視するとともに、作業的、体験的な学習 を取り入れるよう配慮すること。そのため、各種の統計、年鑑、白書、新聞、読み 物、地図その他の資料を収集、選択し、それらを読み取り解釈するこ と、観察、見 学及び調査・研究したことを発表したり報告書にまとめたりすることなど様々な学 習活動を取り入れること。 (2) 資料の収集、処理や発表などに当たっては、コンピュータや情報通信ネットワ ークなどを積極的に活用するとともに、生徒が主体的に情報手段を活用できるよう にすること。その際、情報モラルの指導にも留意すること。 学習指導要領第3章 イ 第3款の1 情報科 (5) 公民科及び数学科などとの連携について 共 通 教 科 情 報 科 と 他 の 各 教 科 ・ 科 目 等 と の 連 携 の 必 要 性 や 重 要 性 に つ い て は (1)で 規 定 し て お り ( 中 略 ) 具 体 的 に は 、 公 民 科 で は 、 第 3 款 の 1 の (1)に お い て 、 情 報 を 主 体 的 に 活 用 す る 学 習 活 動 を 重 視 す る こ と や 、 同 1 の (2)に お い て 情 報 手 段 を 積 極 的 に活用するとともに、生徒が主体的に情報手段を活用できるようにし、情報モラルの 指導にも留意する旨の規定を設けている。 学習指導要領解説 第3章 第1節 公 民 科 で は 現 代 社 会 の 「 (1)私 た ち の 生 き る 社 会 」 と い う 単 元 に お い て 、 現 代 社 会 の 諸 課題を扱い、情報社会での在り方を学習する。情報科においても情報社会に参画する態度 を身につけることを目標としており、公民科と情報科との連携を図る必要がある。 本計画では、公民科、情報科の授業で連携を図ることによって生徒の理解を深め、 主体 的に情報手段を活用する能力を伸ばすための指導についての考察を行いたい。 2 実践内容 (1)学習単元と内容の取扱い 今 回 の 実 践 は 現 行 の 学 習 指 導 要 領 の「 情 報 A 」で 実 施 し い る が 、新 学 習 指 導 要 領 の「 社 会と情報」での実践を想定しており、新学習指導要領の単元と内容の取扱いは次のよう に対応している。 - 1 - ア 「現代社会」 新学習指導要領 現行の学習指導要領 (2) (2) 現代社会と人間としての在り方生き方 イ 現代の民主政治と政治参加の意義 図1 イ 現代社会と人間としての在り方生き方 イ 現代の民主政治と民主社会の倫理 公民科の単元 「社会と情報」と「情報A」 社会と情報(新学習指導要領) 情報A(現行の学習指導要領) (1) (2) 情報の活用と表現 ア 情報とメディアの特徴 図2 ウ 情報の収集・発信と情報機器の活用 情報の収集・発信における問題点 情報科の単元 (2)指導計画 ア 「現代社会」と「社会と情報」の連携した指導計画 単元 学習内容 単元目標 1 現代社会 三権分立と国民主権のしくみ 民主政治の柱の一つである国民 限 「三権分立と国 を 学 習 す る 。そ の 中 で 主 権 者 た 主権の意味を理解でき、議会制 民主権」 る国民の意思表示方法に世論 民主主義と三権分立の仕組みを やこれを数値化するための世 理解することができる。民主政 論調査があることを学習する。 治における世論と マス メディア の役割について考察できる。 2 社会と情報 情 報 を 収 集 し 、比 較 さ せ る こ と 情報を収集する際には信ぴょう 限 「情報の信ぴょ で 、情 報 の 信 ぴ ょ う 性 に つ い て 性があるかどうかを受信者が判 う性とメディア 考 え る 。イ ン タ ー ネ ッ ト や マ ス 断する必要性があることを理解 リテラシー」 メ デ ィ ア な ど の 特 徴 を 知 り 、情 し、具体的な手段を考えること 報 収 集 、整 理 、発 信 に お け る 適 ができる。 切な方法を理解する。 3 現代社会 政党についての歴史、仕組み、 日本の政党の変遷 を理 解し、政 限 「政党政治のし 今後の課題について理解を深 党とは何かを考えることができ くみと課題」 める。 る。 イ 2限「社会と情報」指導計画 指導内容 生徒の活動 指導上の留意点 評価の観点 導 現 代 社会 の 授 業 で 実 施し た 内 閣支本時の活動内容について 入 持 率 予 想 の ア ン ケ ー ト 結 果 を 提 示 理解する。 する。 展 実 際 の現 在 の 内 閣 支 持率 を 調 べ発新聞記事やインターネッ 開 表させる。 1 ト検索を活用し、内閣支 持率を調べる。 引 用 先に よ っ て 数 値 が異 な る ことその際、引用先や調査方統計や資料の読み取り方につ に 気 付 か せ 、 そ の 原 因 を 考 え さ せ 法、人数なども調べ、ま いても触れる。 る。 とめる。 対 象 人数 や 調 査 方 法 によ っ て 発信調査方法の問題点につい調査対象人数や固定電話を所 さ れ る 情 報 に は 誤 差 が 生 じ る 可 能 て考える。 持しない若者世代の意見の収 性があることを伝える。 集などの問題点を伝える。 ウ ェ ブペ ー ジ は 誰 で も自 由 に 発信「インターネット投票」インターネットによる発信の で き る た め 情 報 の 信 ぴ ょ う 性 が 低 の投稿欄を見せ、誰でも 問題点について理解させる。 く な る 可 能 性 が あ る こ と を 伝 え 自由に情報発信ができる る。 ことを確認する。 発 信 者 側 の 意 図 に よ っ て 、表 現 に 何 同 じ ニ ュ ー ス の 新 聞 記 事 ら か の 意 図 や 価 値 観 が 込 め ら れ て を見せ、比較させる。 いる可能性がある。 情報の信ぴょう性を確かめるため 複数のメディアを比較するこ情 報 収 集 の 注 意 事 の手段を学習する。 とや発信者、情報の引用先を 項 を 理 解 す る こ と 調べ るな ど の具 体 例を ひき だ ができる。 す。 (知識・理解) 展 政 党 の イ メ ー ジ ア ン ケ ー ト の 結 果 ア ン ケ ー ト で は テ レ ビ 「 な ん と な く 」を 選 択 し て い 開 を表示する。 や新聞の回答が多いが、 る 生 徒 が 多 い こ と を 気 付 か 2 政 党 の ウ ェ ブ ペ ー ジ や 政 治 家 の インターネットにおい Twitter な ど の ペ ー ジ を 紹 介 し 、 て も 様 々 な 情 報 発 信 が せ る 。ウ ェ ブ や Twitter の 内 容は触れる程度に留める。 様 々 な 手 段 で 、 情 報 を 発 信 さ れ て されていることを学ぶ。 いることを学習する。 政党のマニフェストなどを調べ、 代 表 的 な 政 党 の 方 針 を マ ニ フ ェ ス ト に つ い て は 現 情 報 を 比 較 し 、 政 比較する。 ま と め 、隣 同 士 で 交 換 す る。 代社会の授業へとつなげる。 党の特徴をまとめ ることができる。 (思 考 ・判 断 ・表 現 ) ま 情報の収集、整理、判断をする際 と に は 、自 ら で 取 捨 選 択 し 、問 題 解 め 決を図る必要があることを確認 する。 - 3 - 3 考察とまとめ (1)1限 現代社会「三権分立と国民主権」 国民から内閣に向けた意思表示の方法として世論があることを説明したうえで、内閣 成 立 時 の 世 論 調 査 が 掲 載 さ れ て い る 新 聞 を 2 紙 提 示 し た 。 そ の 際 、「 数 値 に 差 が あ る の はなぜか」や「調査人数はどれぐらいだろう 」と情報の授業につながるテーマを投げか け、世論調査についてのアンケートを実施した。 1.内閣支持率について質問します。 ① 現在の世論調査による内閣支持率は何%だと思うか。 ( )% ② ① の 回 答 を す る 際 に 参 考 に し た 記 号 に ○ を つ け て な さ い 。( 複 数 回 答 可 ) ア テレビ・ラジオ イ 新聞・雑誌 ウ インターネット エ 友人や家族 オ 特に参考にはしていない。 カ その他 ③ 内閣支持率の世論調査は何人ぐらいに調査していると思いますか。 ( 参考 第 45 回 衆 議 院 総 選 挙 ( H21.8.30) 有 権 者 数 図3 )人 103,949,442 人 内閣支持率についての事前アンケート 内閣支持率については新聞などのメディアに掲載された2、3日後にアンケートを行 ったため、多くの生徒が目にしていたようであった。また、 世論調査についての知識は インターネットよりも新聞やテレビなどのメディアを利用して得ていることが分かっ た 。 支 持 率 の 調 査 人 数 に 関 し て は 、「 1,000 人 」 と 回 答 し て い る 生 徒 が 一 番 多 か っ た が 、 男子生徒と女子生徒に数の差がみられた。 特になし 5% 友人や家族 0% 100人未満 3% その他 5% それ以上 18% 十万人台 0% インターネット 11% 100人台 26% テレビ・ラジオ 48% 一万人台 19% 新聞・雑誌 31% 1000人台 34% 図4 (2)2限 事前アンケート②の回答 図5 事前アンケート③の回答 社会と情報「情報の信ぴょう性とメディアリテラシー」 まず、導入で前時に実施したアンケートの結果を提示し、その後複数のメディアでの 内閣支持率を調べ、比較した。 検索サイトの利用方法はほとんどの生徒が理解しており、必要な情報が掲載されてい るサイトまではアクセスできていた。しかし、資料の読み取りは苦手としている生徒が 多く、プリントに書き込むのには時間がかかっていた。また、調べた結果のうち「どの 表1 象 回 調 者 答 査 方 インターネット 新聞社 テレビ局 50% 前 半 60% 数 約 1,700 人 約 2,000 人 数 約 1,000 人 約 1,000 人 約 12,000 人 法 RDD 電 話 調 査 RDD 電 話 調 査 インターネット投票 内 閣 支 持 率 対 比較した資料 (ウェブページ) 40% 前 半 メディアが一番信頼できると思うか。それはなぜか」 を プ リ ン ト に 生 徒 に 記 述 さ せ る と 、「 イ ン タ ー ネ ッ ト ( ウ ェ ブ ペ ー ジ )」と 答 え 、理 由 を「 回 答 数 が 多 い か ら 」 と記述している生徒が多く見られた。また、新聞と記 述し「電話を直接かけているから」と答えた生徒もみ ら れ た 。こ こ で 、新 聞 や テ レ ビ 局 の 回 答 数 が な ぜ 1,000 人程度なのか調査方法についても説明した上で、イン ターネット投票には回答者に偏りが出ることや携帯電 写真1 話しかもたない人からは聞き取りができないといった 情報科授業の様子 電話調査の問題点など、それぞれの調査方法や人数、特徴についての解説を加えた。 さ らに、営利企業によって運営されている新聞やラジオ、テレビの報道やウェブページ上 には何らかの意図や価値観が込められている可能性 があることにも触れ、メディアリテ ラシー習得の重要性を指導した。 さらに、事前に実施した政党についてのイメージアンケート調査 (図6)では、政党 に つ い て の 情 報 を「 テ レ ビ 」や「 新 聞 」を 参 考 に し て い る 生 徒 が 多 く「 イ ン タ ー ネ ッ ト 」 を 参 考 に し て い る 生 徒 は ほ と ん ど い な か っ た 。 そ の た め 、 Twitter や ブ ロ グ な ど の 政 治 家の情報発信や政府インターネットテレビなどを紹介し、様々な手段で情報発信はされ ているので、主体的に情報を取捨選択する必要性を強調し、情報の授業を終えた。 ① それぞれの○○党のイメージに当てはまる記号を書いてください。 ② ア よい イ どちらかといえばよい エ どちらかといえばよくない オ ウ 普通 悪い ① で 回 答 す る 際 に 参 考 に し た も の を 記 号 で 答 え て く だ さ い 。( 複 数 回 答 可 ) ア テレビ・ラジオ エ 友人や家 ③ イ オ 新聞・雑誌 特に参考にはしていない ウ カ インターネット その他 ①で回答した理由として参考にしたものがあれば記号で答えてください。 ア 政策や方針 イ 党の議員 エ なんとなく オ その他 図6 (3)3限 現代社会 ウ 周囲の意見 政党についての事前アンケート 「政党政治の仕組みと課題」 現代社会の授業では、導入に先述の「どのメディアが一番信頼できると思うか。それ はなぜか」を複数の生徒に回答させた。そして、政党のイメージアンケートの結果など - 5 - を活用し「政党とは何か」の授業への本題へとつなげ ていくことができた。 一連の授業の後、生徒に感想を書かせた。 【感想例】 [情 報 の 授 業 に 関 す る こ と ] ・テ レ ビ や 新 聞 の 世 論 調 査 の 対 象 者 数 は 意 外 に 少 な い と思った。 ・世論調査も何を信じたらよいのか迷った。 写真2 公民科授業の様子 ・現代社会の授業で習ったことをインターネットで調べて分かった。 ・色々なものを見たほうがよいと思った。 ・情報をただ受け取るだけではなく自分から探していくこ とが大切だと分かった。 ・情報が本当なのか嘘なのか、自分の手で見つけなくてはいけない と思った。 ・一定の情報に流されてはいけないと考えました。 [現 代 社 会 の 授 業 に 関 す る こ と ] ・政治をする人だけでなく私たちにも責任があると思った。 ・政治についてほとんど知らなかったので、とても勉強になった。 ・みんながマニフェストを読んでいればもっと関心があったのかもしれないなと思いま した。 ・どちらの政党が悪いとか思っていたけど、それはイメージが強かったんだなと思いま した。 ・政党の歴史と何をやっているのか分かったので 良かった。 ・選挙をするときは受け身にならずに自分で調べにいったりする方がいいと思った。 (4)授業を終えて 自由に感想を書かせたところ、情報に関わる感想を書いた生徒と現代社会に関わる感 想を書いた生徒が半々ぐらいであった。感想のなかには「現代社会の授業と情報の授業 が関連することで分かりやすくなった」と書いた生徒が おり、ねらいが伝わったといえ る。該当クラスでは情報Aと現代社会の授業を連続して行うことができたため、相乗効 果を上げることができた。しかし、単元や内容によっては、授業実施の時期の差があっ ても可能なものと、同じ時期に実施するほうが効果的なものがある。そのため、年間学 習計画をたてる際に双方の教科で連携をとりながら計画をたてる必要がある。今回は、 授業を実施する前に板書計画や授業使用プリントなどの交換を行ったり、お互いの授業 参観を行った。その結果、授業の導入やまとめで、お互いの授業に関する 声かけを行う ことができ、生徒もつながりを感じることができたと思われる。このように指導者同士 が情報交換を深めることにより、より効果的な教科の連携を図ることができる ことを実 感できた。 参考文献 「社会調査」のウソ リサーチ・リテラシのすすめ (文春新書) 谷岡一郎
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