生体医工学研究部門

【生体医工学研究部門】
生体医工学研究部門では、材料工学的手法を用いた新しい術前・術中診査手法や、硬組
織疾患に対する最先端技術の臨床応用を実現するための基礎的研究を行っています。
1. ファブラボ TDC(写真)
ファブラボとはファブリケーションラボラトリ(fabrication laboratory)のことで、3D
プリンタなどの様々な装置を使って、いろいろなものをつくる場所のことです。北米やヨ
ーロッパをはじめとする世界中の国々では、この「ファブラボ」が街角に設置されて、人々
が思い思いに自分の好きなものを好きなタイミングでつくることができるようになりまし
た。医療の分野でも、様々なデジタル機器を使って治療の役に立つ様々なものをつくる、
デジタルラボ(我々はメディカルファブラボと呼んでいます)が世界各地の大学病院に設
立され、様々な医療現場で活用されはじめているのです。
東京歯科大学は、2013 年に日本で初めての医療
系ファブラボである「ファブラボ TDC」を設立し
ました。基礎研究者と臨床医がファブラボ TDC に
集い、光学スキャナや3D プリンタなどの最先端
の技術を、歯科医療に応用するための橋わたし研
究を行っています。臓器や骨、血管・神経、腫瘍
などの3D データや造形モデルを作製し、術前の
診査や外科手術のサポートとして活用するために
は、最先端機器の精度検証や作製物の強度測定による科学的根拠を積み上げることが重要
です。エビデンスに基づいた次世代の医療環境を構築することができれば、患者さんの体
の状態や疾患の状況に応じたオーダーメイド医療の実現も夢ではないと考えています。
2. 骨質研究
骨粗しょう症などの骨疾患を予防・治療するため
には、その人の骨の状態を把握することが重要です。
近年、骨の強度は骨の量に加えて、骨の質を考慮す
る必要性が示唆されています。骨質とは、骨の構造
的特性(骨の微小構造や幾何学的形状)、骨基質、
石灰化度、骨代
謝回転、微小骨
折(マイクロクラック)のことです。我々は、マイク
ロ CT 画像を用いた骨形態計測、微小領域エックス線回
折法を用いた生体アパタイト(BAp)結晶配向性解析、
コラーゲン線維の走行、骨細胞動態の検索など、顎骨
における骨の質的因子について研究を進めています。
3. 生体力学的研究
顎骨は、歯を介して荷重が骨内部にまで伝達する特殊な骨です。体の骨は加齢にともな
って骨の量は減り、骨の質も悪くなります。一方、顎骨は歯の影響を強く受けるために加
齢の影響は軽微ですが、歯を失った際には
大きく吸収してしまいます。顎骨の恒常性
を維持するためには、歯や補綴物が顎骨に
与える影響について解明する必要がありま
す。我々は、三次元有限要素法を用いた生
体力学解析を行い、様々な力学的負荷を受
けた顎骨の荷重伝達経路をベクトル表記に
よって可視化する研究を行っています。顎
骨内部における力学環境を知ることができるだけでなく、治療を行う前に歯科インプラン
トや再生骨が顎骨にどのような影響を及ぼすのか、高い精度での術前予測を可能とするシ
ミュレーションを実現し、臨床応用に向けて取り組んでいます。
4. 医用材料研究
顎骨疾患の治療には、プレートやインプラントなど様々なマテリアルが不可欠です。材
料の材質のみならず、ミクロ/ナノスケールにおける微小構造が、生体に大きな影響を与え
ることが明らかとなっており、材料工学と医歯薬学のコラボレーションが重要な課題とな
っています。我々は、単に骨に適合するだけでなく、骨量や骨質を改善するバイオマテリ
アル開発を行っています。