SoftBankの大型買収で 「米ドル/円」底打ちの公算

【 2016年7月27日公開】
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【西原氏スペシャルレポート】
『SoftBankの大型買収で
「米ドル/円」底打ちの公算』
執筆者:株式会社CKキャピタル 代表取締役CEO
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1)英ポンド/円の急反発とともに米ドル/円も反発、米ドル/円は調整局面入りへ
先月、世紀の一大イベントと化した英国「国民投票」であったが、結果はサプライズの「BREXIT」
となり、米ドル/円が当コラムの重要な節目としていた100円を割り込んだのは、前回のレポート
の通りである。
この円高を誘引していたのが、英ポンド/円の急落(ポンド売り・円買い)。
「BREXIT」という結果を受け、英ポンド/円が1日で約27円も急落し、一時128円台まで暴落した。
昨年末の英ポンド/円が188円であるから、半年強で約60円も暴落したことになる。
BANK OF ENGLAND(英国中央銀行)のカーニー総裁は、「通貨安競争」に対して批判的なコメン
トを繰り返しているが、今回、イギリスは意図せず?「通貨安競争」の勝者となっている。
そして、今回「BREXIT」の当事国「イギリス」以上に大きな打撃を受けたのが、日本。
為替市場においての「日本円」は「米ドル」と並ぶ避難通貨として使われる傾向があり、今回の
ように「BREXIT」という大きな負荷がGLOBAL MARKETにかかると、避難通貨として「日本円」が
選択される傾向にあり、結果、英ポンド/円は暴落している(つまり通貨安競争という意味では
「日本円」は敗者に)。
今回の米ドル/円における100円割れの円高の要因を振り返ってみれば、「BREXIT」という結果を
受け英ポンド/円が暴落したことが要因となっている。
裏を返せば、この英ポンド/円が反発すれば、米ドル/円も反発することになる。
BANK OF ENGLAND(英国中央銀行)は来月利下げすることがコンセンサスとなっていて、英ポン
ドが大きく反発することは難しいというのが多くの市場参加者の意見だったが、先々週から英ポ
ンド/円は急反発。
この英ポンド/円の動きに連れて米ドル/円も一時107円まで回復している。
この要因は「IoTの大型買収」である。
2)大型案件の噂が現実に
~ソフトバンクがイギリスの半導体設計会社ARMを約3.3兆円で買収報道~
7月11日の週に米ドル/円が6円急反発しているのは「ヘリマネ」期待が背景にあると多くのマ
ーケット参加者は理解していた。
ただ、マーケットの注目を集めたのが米ドル/円よりも英ポンド/円の約13円もの急騰。
しかも、東京市場で英ポンド/円が暴騰する傾向があり、多くのトレーダーの間では、何らかの
大型案件が結ばれて、巨額の英ポンド/円の買い需要があるのでは?とウワサになっていた。
東京市場で動いているということは、本邦企業による円売りが考えられるからである。
それが7月中旬、下記の報道(ロイター)が流れ、大型買収案件のウワサは現実に。
その買収金額は驚愕の3.3兆円。
ソフトバンクが英半導体設計ARMを3.3兆円で買収、IoT強化へ
ソフトバンクグループは18日、英半導体設計ARMホールディングスを約240億ポンド(約3.3兆円)
で買収すると発表した。
あらゆるものがインターネットにつながるIoT(インターネット・オブ・シングス)時代を見据
え、同領域に強みを持つ同社を買収することで需要の取り込みを目指す。
日本企業による海外でのM&A(合併・買収)としては過去最大規模になる。
孫正義社長はロンドンで行った会見で「IoTは人類史上もっとも大きなパラダイムシフトになる」
と指摘。「IoTの時代の中心の会社はARMだ」と述べ、買収に自信を示した。
買収金額は約3.3兆円という破格の大型買収。
出所:ロイター
ここで、本稿執筆時点(7月25日)でこのM&Aの為替に対する影響を考察する。
まず市場参加者の間では、すでに1.7兆円ほどは英ポンドの手当てをした(まだ残りがある)と
の意見がある一方、買収報道された時点ですでに英ポンドの手当ては全て終了しているとの見立
てなど、意見は交錯している。
ここで、トレードの観点で相場を整理すると、噂の段階で英ポンド/円はすでに13円も暴騰。そ
して事実として大型買収の全貌が報道された。
トレードの基本からすれば、「buy the rumor、 sell the fact」(噂で買って、事実で売る)
の流れから、英ポンド/円は13円急騰した143円でトップ・アウトしたと考えることもできる。
ただ、
1)英ポンドの手当てが半分しか終わっていない可能性も高いこと
2)仮にSoftBankが英ポンドを全て買い終わっていると仮定したとしても、約3.3兆円の円売りが
マーケットに持ち込まれたことになるため、これまでの米ドル/円における円の需給を大きく変
化させる可能性があること。
※実需は投機と違い、売り切り・買い切りなので、3.3兆円の円売りは反対売買されずマーケッ
トの需給に影響する。
つまり、買収金額があまりにも巨大であるため、マーケットのトレンドを変化させる公算が高ま
っていることになる。
アベノミクスの初動を振り返ってみれば、もちろん日銀の追加緩和期待の高まりが米ドル/円を
大きく押し上げたわけであるが、今回も前回同様SoftBankによる米スプリント買収が追い風とな
っている。(2012年10月買収報道、2013年7月買収=1.8兆円)
SoftBankのARM買収劇は、米スプリント買収時よりも金額が巨額であり、今回も米ドル/円相場に
大きな影響を与えると想定している。
3)米ドル/円の行方は日銀金融政策決定会合が握る/ヘリマネ期待の行方にも注目
SoftBankによる巨額の英ポンド買い(円売り)により、英ポンド円もボトム・アウト(底打ち)。
また、TD sequentialでは、ボトム・アウトを示唆するカウントダウンの13が点灯し、トレンド
の反転を示唆。(Copyrightによりチャート表示は不可)
英ポンド/円は一時143円まで急反発。
この巨額の円売りが、米ドル/円の105.00~107.00円に断続的に並んでいた本邦輸出企業のドル
売りを飲み込む形で、米ドル/円は上昇を続け、一時107.49円まで上昇している。
そして7月29日(金)には今年の米ドル/円、いやアベノミクスの鍵を握る日銀金融政策決定会合
が控えている。
日銀金融政策決定会合(BOJ)に関してのコンセンサスは下記のとおり。
・日銀追加緩和実施ならば再び107円を上回り高騰。
・緩和が見送られれば105円を下回り103円台へ。
・ヘリマネの可能性は低く、黒田日銀総裁の会見次第。
結果としては、日銀金融政策決定会合(BOJ)の発表のあと、米ドル/円は反落する可能性が高い
というもの。
まずマーケットの思惑とは裏腹に、想定以上の追加緩和が実施されれば、米ドル/円は107円を超
えて続伸することとなる。
そして、日銀の結果はマーケットの想定通りとなり、「sell the facts」で米ドル/円が反落し
たと仮定しても、SoftBankの巨額買収による円売りが米ドル/円のdownsideを限定的にする可能
性が高くなっている。
英ARM買収により英ポンド/円は安値から既に10円以上反発。
その英ポンド/円の反発が米ドル/円を節目の100円でボトム・アウト(底打ち)させた公算が高
まっている。
マーケットで噂されるヘリコプター・マネーが現実化する可能性は極めて低いものの、SoftBank
による大型買収が、今回もアベノミクスの追い風となり、米ドル/円をボトム・アウト(底打ち)
させることができるかどうかに注目である。
----------------------------------------------------------------------------------【執筆者:西原宏一氏プロフィール】
株式会社CKキャピタル代表取締役・CEO
青山学院大学卒業後、1985年大手米系銀行のシティバンク東京支店入行。1996年まで同行為替部
門チーフトレーダーとして在籍。その後活躍の場を海外へ移し、ドイツ銀行ロンドン支店でジャ
パンデスク・ヘッド、シンガポール開発銀行シンガポール本店でプロプライアタリー・ディーラ
ー等を歴任し、現在(株)CKキャピタルの代表取締役。ロンドン、シンガポールのファンドとの交
流が深い。
------------------------------------------------------------------------------------【本レポートの趣旨】
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