プレスリリース 平成28年7月20日 東京都江戸東京博物館 企画展「伊藤晴雨 幽霊画展」 開催のお知らせ (特設コーナー:「幽霊が美しい―スタジオジブリ鈴木敏夫の眼―」開設!) 平成28年8月11日(木・祝)~9月25日(日) 古来より日本人は、万物に霊性を求め、「この世のものではないもの」を感じ取ろうとしてきました。そ い ふ れらは、生身の人間を超えた能力や異なる外見を持つものとされ、恐怖や畏怖の対象として、さまざま な姿に描かれています。 せい う 伊藤晴雨は、明治 15 年に浅草に生まれ、向島に育ち、本所で奉公人生活を送るうち、芝居小屋に出 入りして看板絵描きとなりました。25 歳で新聞社に入社し、講談や小説の挿絵、演劇評を担当して評判 を得、挿絵画家として認められました。時代考証や風俗研究を行うかたわら、30 代半ば頃から責め絵を 描くようになると、その名は一気に広まり、昭和 36 年に 78 歳で没するまで多様な制作を続けました。 本展で展示する伊藤晴雨が描いた幽霊画は、落語家五代目柳家小さん(1915-2002)の手元に残さ ぜん しょう あん れた画幅です。山岡鉄舟ゆかりの禅寺で三遊亭圓朝の幽霊画コレクションでも名高い谷中・全 生 庵に 寄贈され、五代目柳家小さんコレクションと呼ばれています。歌舞伎や落語でおなじみの怪談の一場面、 よく知られた妖怪などが、のびやかな線で描かれており、舞台芸術や演芸界とも関わりの深かった晴雨 ならではの作品です。同時に、「この世のものではないもの」を描くことによって成し得た、晴雨の芸術的 世界観の現れとも言えるでしょう。 職業画家として研さんを積み、多種多様な作品を手がけた伊藤晴雨は、「最後の浮世絵師」と呼ばれ ることもあります。物語の一瞬を切り取り、時代背景まで忠実に描き出そうとした晴雨。本展では、五代 目柳家小さんコレクション幽霊画幅を中心に、緻密な時代考証研究による江戸風俗図などを展示し、そ の観察眼と筆力に迫ります。 また、「幽霊が美しい―スタジオジブリ鈴木敏夫の眼―」特設コーナーでは、柳家小さんコレクションの 複製画を、和室をイメージした空間に展示(三幅ずつ/途中展示替えあり)。晴雨の幽霊画に魅了され たスタジオジブリ鈴木プロデューサーによるコメントもお楽しみいただけます。 つきましては、貴媒体にて本展をご紹介いただけますようお願いいたします。なお、8月10日(水)午 後5時より、本展および企画展「山岡鉄舟生誕180年記念 山岡鉄舟と江戸無血開城」のプレス・関係 者向け内覧会を開催します。併せてご出席賜りますようお願い申し上げます。 1 会期 【会 期】 平成28年8月11日(木・祝)~ 9月25日(日) ※会期中、一部展示替えがあります。 【開館時間】 午前9時30分~午後5時30分(土曜日は午後7時30分まで) ※夜間開館日(8月12日(金)、13日(土)、19日(金)、20日(土)、26日(金)、27日(土)、 9月9日(金)、10日(土))は午後9時まで(ただし、9月2日(金)、3日(土)は通常開館) ※入館は閉館の30分前まで 【休館日】 2 会場 8月22日(月)、29日(月)、9月5日(月) 東京都江戸東京博物館 常設展示室 5F 企画展示室 3 観覧料 (1)一般 (2)大学・専門学校生 (3)中学生(都外)・高校生・65歳以上 (4)中学生(都内)・小学生以下 ※( )内は20人以上の団体料金。 ※常設展観覧料でご覧になれます。 600円(団体480円) 480円(団体380円) 300円(団体240円) 無料 4 主催 東京都 東京都江戸東京博物館 5 協力 特別協力:臨済宗 全生庵 企画協力:スタジオジブリ 6 展示構成、主な資料 1 晴雨の画業 さまざまな肩書きを持ち、舞台芸術や演芸との関わりも深かった晴雨の画業について、出版物や絵画資料で紹介。 〈資料〉 「明治時代の寄席」〈木版画〉(館所蔵) 1958 年(昭和 33) 他 2 晴雨の幽霊画 全生庵所蔵の晴雨筆幽霊画(柳家小さんコレクション)を展示。 〈資料〉 幽霊図軸(全生庵所蔵)【全 19 幅】 昭和初期頃(推定) 3 晴雨の眼 晴雨の行った江戸時代考証や風俗研究について、出版物と日本画資料で紹介。 〈資料〉 維新前四季往来之図屏風〈日本画〉(館所蔵) 1957 年(昭和 32) 他 【主な展示資料】 皿屋敷のお菊 猫の怪談 全生庵/所蔵 全生庵/所蔵 維新前四季往来之図屏風 1957 年(昭和 32) 東京都江戸東京博物館/所蔵 特設コーナー と し お 「幽霊が美しい―スタジオジブリ鈴木敏夫の眼―」 【別紙】参照 柳家小さんコレクションの複製画を、和室をイメージした空間に展示(三幅ず つ/途中展示替えあり)。スタジオジブリ鈴木敏夫プロデューサーによる コメントを紹介。 7 関連事業 ■ミュージアムトーク(「伊藤晴雨 幽霊画展」のみどころ解説) 担当学芸員が展覧会をご案内いたします。 8月19日(金)、9月2日(金) 午後4時から30分程度 ※常設展示室5階、日本橋下にお集まりください。 ■ひまわり寄席「怪談の夕べ」(講談) 【時間】 午後6時30分から45分程度 【場所】 常設展示室5階 芝居小屋・中村座前 8月13日(土) 神田松鯉:村井長庵「雨夜の裏田圃」 8月20日(土) 宝井琴調:真景累ヶ淵「豊志賀の死」 8月27日(土) 神田紫:四谷怪談「伊藤喜兵衛の死」 8 その他 第二章で展示する全生庵所蔵の伊藤晴雨筆幽霊画(柳家小さんコレクション)全19幅を収録した『伊藤晴雨 幽霊画集 ―柳家小さんコレクション―』(スタジオジブリ発行)を会期中、当館ミュージアムショップで限定販売します。 企画展「伊藤晴雨 幽霊画展」の広報に関するお問い合わせ 東京都江戸東京博物館 管理課 事業推進係 担当:田中裕二、大田、丸山 〒130-0015 東京都墨田区横網一丁目 4 番 1 号 TEL:03-3626-9907 FAX:03-3626-8001 E-mail:[email protected] 【別紙】 ささやかな野心 スタジオジブリ 鈴木 敏夫 偶然の出会いだった。去年の夏の出来事。幽霊画を楽しむべく全生庵を訪ねた。それはぼくにとって、ここ数年 の夏の恒例行事だった。 半分、見終わった時のことだ。見慣れない幽霊画が並んでいた。最初に目に入って来たのが、牡丹灯籠だった。 お露とお米のふたりが中空に浮かんでいる。志の輔師匠の牡丹灯籠を聞いたばかりだったことも手伝って、その噺 と画が重なった。お露が本当に美しい。髪のほつれ毛が、手の品が。子どもの頃の懐かしい、しかし、恐ろしかっ た思い出。番町皿屋敷のお菊の亡霊も、この上なく美しかった。 見惚れていると、作者の名前が目に入った。伊藤晴雨。混乱が起きた。ぼくにとって、晴雨は責め絵や縛り絵の 達人だった。晴雨が、こんなかよわい美しい画を描くはずがない。葛藤が起きた。同行した友人が、ぼくの葛藤を よそに画を楽しんでいた。そして、友人が素晴らしいと言って、ぼくに見ることを強いたのが吊り灯籠だった。こ れ、お盆提灯ですかねえ。構図の大胆さと線の繊細さが相まって、灯籠に映る男の顔が得も言われぬ怖さだった。 その日の出来事は、まるで夢のような一日で、強烈な印象をぼくに残した。 間を置かず、あれは本当に素晴らしい画だったのか気になり、もう一度、全生庵を訪ねた。確信を持った。自分 の目に狂いはない。今度は、ぼくにも余裕があった。猫怪談の猫の可愛らしさや地獄の釜の蓋が開く晴雨のユーモ ラスな一面も楽しむことが出来た。そして、展示の人に尋ねた。図録はありませんか。無かった。すると、その人 が教えてくれた。今回が初公開で他にもいろいろあるらしいと。全部の作品を見たいと思った。 晴雨になぜ、ぼくは心惹かれたのか。ひとことで言うと、晴雨の巧みな筆捌きに魅了された。真っ白な紙に筆 を置いて、すっと書き下ろす。濃い薄い、速いゆっくりは書きながら瞬時に判断する。その思い切りの良さ。見て いるだけで、何物にも代え難い快感がある。それは鳥獣戯画の実物を初めて見たときの興奮に似ていた。印刷物だ と、微妙に再現できないのがその筆捌きだ。身体中を快感が走る。比べるのもおこがましいが、ぼくにしても、下 手を承知で筆を執り書と画を描く。ゆえに、その捌きの見事さに圧倒された。手練でなければ、ああは書けない。 ぼくの別の友人に昔の画に詳しい男がいたので、晴雨のことを話すと、なんと彼は自分の親戚だと言い出した。 なんでも母方の親類筋にあたり、親戚はみな、そのことをひた隠しにしていることも分かった。ぼくがかつて所属 した徳間書店の昔の大先輩にも教えられた。貧乏だったらしく、仕事の斡旋を頼むべく、自宅によく顔を出してい たと。 晴雨の描いた絵は、一般には世間の評価は低い。ぼくにしても偏見があった。しかし、今回の展示で公表する晴 雨の画は、それらのものと一線を画すと信じて、今回の展示を提案した。晴雨に対する世間の評価を引っ繰り返し たい。ぼくのささやかな野心だった。 晴雨の軸は、すべて小さんコレクションの寄贈だと書いてあった。ぼくは、小さん師匠の最期の高座に立ち会っ ている。紀伊國屋ホールだったと記憶している。小さん師匠が登場して何も語らず、しばらくの間、同じ姿勢のま ま座り続けていた。いつ落語が始まるのか、耐え難い間があった。すると、お弟子さんらしき人が登場して、小さ ん師匠を抱きかかえ奥へと引っ込んだ。師匠が亡くなったのは、その直後のことだった。 ぼくは、小さん師匠が晴雨に引き合わせてくれた。そう信じている。 『伊藤晴雨幽霊画集―柳家小さんコレクション―』より
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