研究課題 福山型筋ジストロフィーおよび類縁疾患のユニークな治療法開発と 病態解明 課題番号 H20−こころ−016 主任研究者 神戸大学大学院医学研究科神経内科 教授 戸田達史 1.研究目的 福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)は先天性筋ジストロフィー、II 型滑脳症、及び眼 奇形の 3 症状を示す常染色体劣性遺伝疾患である。日本で 2 番目に多い小児の筋疾患であ り、10 代で死に至る重篤な疾患だが未だ治療法がない。殆どの FCMD 患者は fukutin の 3 非翻訳領域に約 3kb の SVA 型レトロトランスポゾンの挿入変異を持つ。FCMD では、基底膜 とジストロフィンを結ぶジストログリカンに糖鎖異常が生じており、そのラミニン結合能 も低下している。 2.研究方法、研究結果・考察 我々は、この3年間で、FCMD はスプライシング異常症であり、fukutin 蛋白の機能喪失に よる FCMD の発症機構を明らかにした。また新規ジストログリカン結合分子ピカチュリンの 局在異常が糖鎖不全モデル網膜視細胞の生理学的異常の原因であることを報告した。また、 FCMD 患者の多くにみられるレトロトランスポゾン挿入変異をもつノックインマウスを創出 し、その病態・生化学解析結果を踏まえ、糖鎖治療の概念を確立させた。しかし、ノック インマウスは病態を示さず、また、ノックアウト(KO)マウスは胎生致死であること、キメ ラマウスは煩雑な実験系の問題を含むことから、より有効な疾患モデルの確立が急務であ った。本年度は、FCMD の新しいモデルとして樹立した、ノックインマウスとジスフェルリ ン変異 SJL マウスの二重変異マウス、フクチン conditional KO(cKO)の表現型を報告する。 二重変異マウスにおいては、15週齢時点で、SJL マウスよりも進行した組織病態像と中心 核線維数の増加が観察された。ノックインマウスでは、細胞膜は潜在的に脆弱化している ものの、ジスフェルリン依存の膜修復機構が保護的に作用しているため、発症まで至らな いものと考えられる。従って、二重変異マウスは、レトロトランスポゾン挿入変異型の治 療法開発に有効なモデルとなることが期待される。 cKO マウスについては、筋前駆細胞・筋芽細胞でフクチンを欠損する Myf5-cKO マウスと、 筋管・成熟筋で欠損する MCK-cKO マウスを作出した。いずれの cKO マウスにおいても、ジ ストログリカン糖鎖異常と筋ジス病態が認められたが、MCK-cKO に比べ、Myf5-cKO の方が より重篤な病態を示していた。この結果は、筋形成・再生過程におけるフクチンの細胞生 物学的・組織病態的な重要性を示唆している。 3.結論(まとめ) 以上の新しいモデルマウスは、FCMD 病態の理解や治療法開発に有効なツールとなることが 強く期待できる。
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