共同作業におけるマルチモーダルインタラクション―目的指向型課題に

共同作業におけるマルチモーダルインタラクション
―目的指向型課題に成功する秘訣とは―
18090051
主担当教員
1. はじめに
私たちは、人と関わり合いながら生きている。
マズロー(1970)は、人間が持つ欲求を5段階の
ピラミッド型の階層によって示し、その頂点に自
己実現欲求があるとした。自己の可能性を最大限
に開発して実現するためには、周りの人と目標を
共有しながら作業をすることも多くあるだろう。
つまり、共同作業は自己実現を果たす場となりう
る。本研究では、性格特性,ソーシャルスキル,
発話量,発語行為,アイコンタクトによる共同作
業の成果および満足度への影響を検討する。
阪田真己子准教授 副担当教員 鄭躍軍教授
イメージをマルチモーダルに具現化する「記号化」
スキルが「課題の成果」に貢献していた一方で、
自分の意見を明確に述べる「主張性」スキルが「作
業満足度」に寄与していたことが分かった。
(cm)
80
60
40
20
0
G1
図1
2. 分析
2.1. 実験方法
初対面の 3 名(男性 1 名,女性 2 名)× 7 グル
ープの計 21 名に 18 分間、スパゲティ 20 本・紐
90cm・マスキングテープ 90cm・マシュマロ 1 個
を使ってできるだけ高いタワーを制作させ、その
様子をビデオで撮影した。課題後、タワーの高さ
を測定し、
「課題の成果」とした(図 1 参照)。
2.2. 分析対象
分析対象は、課題前に回答を求めた「成人用ソ
ーシャルスキル自己評定尺度」
(相川,2005)、
「Big
Five 尺度」(和田,1996),作業中のコミュニケー
ション行動を分析した結果である「発話量」、「発
語行為(10 種類)
」、
「アイコンタクト」,課題後に
測定した「タワーの高さ」,課題後に回答を求めた
「作業への満足度」である。
2.3. 分析結果
課題における成果および満足度との関連を調べ
るため、各要因の相関係数を算出した。
図 2 に示す通り、
「提案」
,また提案に対する「同
意」および「否認」を行うことが「課題の成果」,
「作業満足度」に共通した要因であることが示さ
れた(いずれも相関係数は 0.7 以上であったが、
とりわけ相関が高かった「同意」,「否認」の結果
を図 2 に示す)
。また、パーソナリティ全般に関し
て個人が持つスキルや特性よりも、チーム内のバ
ランスが成果および満足度において重要であるこ
とも示された。また、参与者全員によるバランス
のとれたアイコンタクトが、成果・満足度に関与
することが分かった。
以上のように、課題に対する成果および満足度
の両者に共通した要因もあれば、異なる要因が寄
与していることも明らかになった。自分の思考や
稲田 香織
G2
G3
G4
G5
G6
G7
各グループのタワーの高さ
(秒)
50
40
30
否認
20
同意
10
0
G1
G2
G3
G4
G5
G6
G7
図 2 各グループの同意,否認の生起時間
3. 考察
課題の成果と作業者の満足度に影響を与える要
因は完全に一致するわけではない。したがって、
高いタワーを制作し本来の目的を達成することが
作業者の満足度に直結するとは限らないといえる。
目的指向型課題において、
「どれだけ高いタワーを
制作できたか」といった物理的な達成度に注目す
るのは当然のこと、
「精神的に満足できたか」とい
った心理的な達成度にも目を向けていく必要があ
りそうである。共同作業者と協力して課題をやり
遂げた後に得られる満足感は人との関わりを通じ
るからこそ増幅される指標であり、この満足感が
まさに共同作業の醍醐味であると考える。
参考文献
・Maslow 著;
『Motivation and personality(2nd ed.)
』
:
Van Nostrand(1970)
・相川他:成人用ソーシャルスキル自己評定尺度の構
成;東京学芸大学紀要,教育科学,56:87-93(2005)
・和田:性格特性用語を用いた Big Five 尺度の作成;
心理学研究,67,61-67(1996)