少女漫画から見る女ことばの時代的変遷

少女漫画から見る女ことばの時代的変遷
18120099
主担当教員
川上
華月
伊藤 紀子 准教授 副担当教員 矢野 環 教授
1. はじめに
本研究は、少女漫画における終助詞及び文末表
現から女ことばと男ことばの時代的変遷、ドラマ
語との違いを明らかにすることを目的とする。少
女漫画の台詞から各作品の特徴をみるために対応
分析を行った後、1970~2000 年代において年代ご
とに終助詞及び文末表現の出現回数に変化がある
か、会話相手の性別によって差があるかどうか、
恋愛的な場面か否かで差があるかどうかを検証す
るためにカイ二乗検定を行った。
なかった。中村(2010)の結果とは異なり、話しこ
とばと同じく女ことばが減少する結果となった。
2. 先行研究
中村(2010)によると、ドラマには実社会のこ
とばと隔たりを持つ“ドラマ語”が存在する。キャ
ラクターの女性の考え方や行動は時代に合わせ変
化しているが、ことばづかいは実際の話しことば
と異なり女ことばを使用させている。
3. 分析
3.1. 分析データ
各年代から 3 作品、各作品から 3 冊、36 冊選定
した。女ことばの定義は、
「わ」
「だわ」
「わよ」
「わ
ね」
「かしら」
「体言+ね」
「体言+よ」
「のよ(ね)」
「の」
「のね」
「て」
「てよ」
「こと」
「たら」
「もの」
とした。男ことばの定義は、「だ」「だね」「だよ」
「た・動詞終止形・命令形・ない+よ」
「かな」
「ぞ」
「だぞ」
「ぜ」
「だぜ」
「だろ(う)」
「さ」
「な」
「か」
「かい」
「だい」「かよ」
「なよ」とした。
3.2. 分析方法
終助詞および文末表現を抽出し、クロス集計を
行った。
「台詞」を抜き出し、
「性別」
「年齢」
「会話
相手の性別」
「恋愛的な場面か否か」をコーディン
グした。女ことば、男ことば、その他の文末表現
の出現回数を用いて対応分析を行い、12 作品の特
徴を視覚的に捉えた。年代、会話相手の性別、恋
愛度で変わるのかを明らかにするため、カイ二乗
検定及び残差分析を行った。
3.3. 分析結果
対応分析の結果、70 年代~80 年代は特に女性的
な女ことば・男ことば、その他の女ことばと関連
が高かった。90 年代~00 年代は中性的な男ことば、
その他の文末表現と関連が高かった。
カイ二乗分析の結果、女性発話女ことば・男こ
とばには年代別の有意差が見られ、会話相手の性
別や恋愛度別でも有意差が見られた。男性発話女
ことば・男ことばも年代別、会話相手の性別別の
有意差は見られたが、恋愛度別の有意差は見られ
図 1
12 作品全体の対応分析
4. 考察
杉本(2012, p.28)によると、少女漫画の特性は
「若い女性の女性による女性のためのメディア」
とされ、作者と読者がほぼ同世代かつ同性である
ことが多いため価値観を共有しているとされてい
る。中村(2010)の先行研究では、アンケート回答
者は 30 代~80 代までの脚本家男性 4 対女性 1 で
あった。本研究に使用した漫画は全て女性作家で
あり、年齢は 23~33 歳と比較的若い。少女漫画は
ドラマに比べて女性の内面に焦点を当てているた
め、その時代の女性の価値観に合わせた描写、話
しことばが描かれていると考えられる。
5. おわりに
少女漫画の女性キャラクターが発する女ことば
は、年代が下るにつれて減少している点において
日常会話と同様であり、女ことばが使用され続け
ているドラマとは異なると言える。杉本(2012,
p.28)が言うように、少女漫画は「若い女性の女性
による女性のためのメディア」であり女性漫画家
が若い女性をターゲットにして描いているため、
必ずしもステレオタイプに合わせたものではなく、
その時代に合わせた台詞が選ばれているためと考
えられる。
参考文献
杉本章吾. (2012). 『岡崎京子論 少女マンガ・都市・メ
ディア』. 新曜社.
中村桃子. (2010). 『ジェンダーで学ぶ言語学』. 世界思
想社.