高齢化社会における医療経営のあり方について

和田 : 高齢化社会における医療経営のあり方について
商学論集 第 85 巻第 1 号 2016 年 7 月
【 論 文 】
高齢化社会における医療経営のあり方について
── サービス・マーケティングの見地からみた医療サービスの品質に着目して ──
和 田 賢 一
1. は じ め に
1-1. 研究の背景
高齢化が進展している状況下で,高齢者の受療率が他の年代と比べて高いことなどから,医療機
関の役割はこれまで以上に重要なものとなっている。そして,こうした高齢者を中心とした患者数
の増加を背景に,医療費がさらに増大することが問題視されており,医療機関では,病床数の削減
や平均入院日数の短縮化を進めるなどの経営の効率化を迫られている。一方で,医療機関における
広告規制の緩和にみられるように,患者が医療機関の治療実績やサービス内容を比較して受療先を
選択しうる環境が整えられ始めており,医療も他のサービス業と同様にサービス内容により選別さ
れる時代となっている。
こうした中,江口・沼田(2004)は,日本とアメリカ,フランス,韓国の住民を対象に実施した
患者満足度調査の結果から,
医療サービスに対する日本の「満足している」の割合は,韓国を上回っ
たものの,フランスやアメリカを大きく下回っていることを明らかにした。また,公益財団法人日
本生産性本部サービス産業生産性協議会(2009)は,日本人とアメリカ人を対象に,両国で受けた
20 種類のサービスの品質に対するそれぞれの評価を比較分析した。この結果,日本人は 20 種類の
サービスのうち「テレビ放送」を除いた 19 種類のサービスで日本の品質の方が高いが,
「病院」は
「中高級ホテル」とともにアメリカの品質とほとんど差がないと評価した。一方,アメリカ人は 20
種類のサービスのうち 16 種類のサービスで日本の品質の方が高いが,
「病院」は「テレビ放送」,
「銀
行」
,
「レンタカー」とともに,日本の品質の方が低いと評価した。
以上の通り,医療機関と患者を取り巻く環境の変化から,医療機関では医療機関本位の経営に偏
ることが危惧される一方で,患者では医療に対するニーズの多様化が進んでいることが予想され,
両者が理想とする医療サービスには,格差が出始めているものと推察される。
そこで,本研究では,患者の視点により医療をサービス業と捉え,サービス・マーケティングの
見地から,医療サービスの品質を高める医療経営のあり方について考察する。尚,本研究で福島市
を事例に挙げるのは,福島市では東日本大震災を起因とする人口流出により,人口減少と少子高齢
化が急加速しており,高齢化社会における医療経営のあり方を研究する上での先進的な事例になる
と考えられるためである。
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商 学 論 集
第 85 巻第 1 号
本論文の構成は以下の通りである。本章では,先行研究の分析とそこから導出された本研究の目
的,研究目的を明らかにする研究方法の概要それぞれについて述べる。第二章では,アンケート調
査結果からサービス・マーケティングによる医療経営のあり方について分析する。最後に,第三章
では,本研究で導き出すことができた結論を明らかにし,本研究全般について総括するとともに,
今後の研究課題についても説明する。
1-2. 先行研究と研究目的
本節では,サービス・マーケティングの見地から,質的な医療サービスに関わる先行研究と,そ
こから導出される研究目的それぞれについて述べる。
まず,Parasuraman, Zeithaml, & Berry(1985)
,Kotler(2000)によれば,サービスは,無形性,
異質性,生産と消費の不可分性,消滅性の 4 つを特性としている。そして,こうした特性が要因と
なり,サービス品質の測定や評価は困難なものとなっている。こうした中,Parasuraman, Zeithaml,
& Berry(1988)は,SERVQUAL1)尺度を基に,知覚品質2)によりサービス品質を測定する方法を開
発した。また,無形財であるサービスでは,品質と満足の区別が曖昧であることも,特徴の一つと
なっている。近藤(1999)は,サービス品質と満足の違いを 3 つ挙げている。1 点目は,サービス
品質の評価が特定の側面からみたものであるのに対して,満足は複合的な要因による総合評価であ
るとする。2 点目は,サービス品質の評価が客観的な基準による知的な認知プロセスであるのに対
して,満足は特定的で感情的な直接的感覚であるとする。3 点目は,サービス品質の評価が事前,
最中,事後のすべてのプロセスにおける長期的なものであるのに対して,満足はサービスを受けた
後の短期的な感覚であるとする。さらに,阿部(2002)は,サービス品質の評価は感情的側面を含
む認知的な評価であり,評価に対する反応ではないとしたが,満足は成果または期待と成果の違い
の認知というよりも,その認知により引き起こされる感情的な心的反応であると説明する。
一方,
上記で示した SERVQUAL に対して,
顧客満足度を説明する方法に期待不一致モデルがある。
期待不一致モデルの詳細については,Oliver(1997)が期待と結果の一致・不一致による満足・不
満の関係,そして,満足・不満と結果の起こりうる確率との関係からまとめている。期待と結果の
不一致には,結果が期待を上回る場合と下回る場合があり,それぞれを正の不一致,負の不一致と
している。その上で,結果が期待を下回れば,不満が高まり,結果が期待を上回れば,満足が高ま
ると説明する。さらに,満足・不満と結果の起こりうる確率との関係については,出現確率の低い
想定外の結果が出た時ほど,満足・不満の度合いが高まるとしている。
次に,期待不一致モデルの評価対象となるサービス内容に関する先行研究について確認する。
Swan & Combs(1976)は,サービス属性を本質サービスと表層サービスに分けて定義しており,
本質サービスとは,顧客が支払う代価に対して当然受けうると期待しているサービスのことで,表
層サービスとは,代価に対して必ずしも当然とは思わないが,あればあるにこしたことのないサー
ビスを指すとしている。そして,嶋口(1994)は,この定義を基にして,顧客満足度に対しては,
1)
Service Quality の造語で,サービスに対する事前期待とサービスを受けた結果について質問を行い,その回
答の差を因子分析して導き出した五つのクオリティ次元からサービスの品質を評価するモデル。
2)
本研究では,患者が医療サービスを測定や評価する際に知覚できる品質や優位性のこと。
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期待レベルが高く,出現確率が高い本質サービスは不満要因,期待レベルが低く,出現確率が低い
表層サービスは満足要因にそれぞれ関与するとした。さらに,目黒(2007)は,嶋口の考察を医療
サービスに置き換えて展開しており,本質サービスは医療行為そのもの,表層サービスは待ち時間
の長さや医療従事者の丁寧な説明などとし,本質サービスが患者満足度向上の核心となるとしなが
らも,経営戦略的には,表層サービスにおける「選択と集中」が患者満足度向上に大きく寄与する
と説く。
以上により,先行研究では,期待不一致モデルの見地から判断して,医療行為そのものを指す本
質サービスは期待レベルが高いことから,不満要因となりやすく,医療行為以外の表層サービスは
期待レベルが低いことから,満足要因になりやすいと結論づけている。
このように,質的な医療サービスに関わる先行研究では,医療におけるサービス品質と患者満足
度それぞれの測定や評価方法が論じられているが,本研究では,医療のサービス品質に着目する。
前節の江口・沼田(2004)および公益財団法人日本生産性本部サービス産業生産性協議会(2009)
が指摘した通り,日本における医療サービスの品質は,患者からみて相対的に低いものと判断され
ている。こうした結果から,筆者は,日本の医療サービスの品質が患者からみて相対的に低いと認
識されるのは,医療サービスに対する医師が考える患者の知覚品質と実際の患者の知覚品質に格差
があるためと仮説を立てる。
そこで,本論文における研究目的の一点目は,医療サービスにおける本質サービス,表層サービ
スそれぞれについて,医師が考える患者の知覚品質と実際の患者の知覚品質における格差を検証す
ることである。尚,医療サービスに関する先行研究の多くは,患者のみを研究対象としており,患
者と医師を対象にアンケート調査を実施した山内他(2005)も,一般診療所の医師と本質サービス
を研究の対象外としている。このため,
本研究では,患者と病院および一般診療所3)の医師,本質サー
ビスと表層サービスをそれぞれ研究の対象とする。
一方,医療機関では,医療サービスの品質向上のため,患者満足度調査を実施しているところも
ある。患者満足度調査に関する先行研究では,水野(1999)が,全国 540 の病院を対象にアンケー
ト調査を実施し,患者満足度調査における患者満足度の測定方法や患者の意見をどの程度尊重する
のかといった病院側の姿勢などについて分析している。そして,真野・小柳・山内(2007)は,全
国の 2,621 病院を対象に実施したアンケート調査結果を基に,病院における患者満足度調査やマー
ケティング専門部署の設置などのマーケティング・コミュニケーションと外来患者数の関連性に関
する分析を行った。しかし,これらの患者満足度調査に関する先行研究は,患者満足度調査の内容,
調査の実施状況と患者数の関連性に関する分析にとどまり,調査を実施した事務部門から医師への
調査結果のフィードバックに関する分析までには踏み込んでいない。
そこで,本論文における研究目的の二点目は,患者満足度調査結果のフィードバック方法を確認
するとともに,同じ病院の事務部門と医師を対象に調査の実施状況に対する認識度を分析し,調査
結果が事務部門から医師に正確に伝わっていないことを明らかにすることである。
3)
病院は病床数が 20 以上の医療機関,一般診療所は病床数が 19 以下の医療機関をそれぞれ示す。
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1-3. 研究方法
本研究では,患者と医師の各医療サービスに対する重視度合いの違いから,サービス・マーケティ
ングによる医療経営のあり方について考察することとした。このため,研究方法は,福島市民と福
島市の医師に対するアンケート調査「福島市民の中心市街地活性化と医療機関に関する意識調査」
および「福島市内医療機関の中心市街地開設と患者に対する意識調査」により収集したデータ分析
を基本としている。
(1)
アンケート調査要領
福島市民および福島市の医師に対する標本抽出の概要と調査要領は以下の通りである(表 1)
。
必要標本数は,福島市民が標準偏差 20 点と仮定し,誤差± 2 点の精度,福島市の医師が標準偏差
20 点と仮定し,誤差± 4 点の精度でそれぞれ算出したが,医師の誤差を高めに設定したのは,医
師の回答が福島市民ほど回収されないと見込んだためである4)。また,回収数は,福島市民が 407 件,
福島市の医師が 104 件と必要標本数を超えていることから,本調査の精度は目標とした水準を満た
しているものと考える。
表 1 アンケート調査の概要
福島市民の中心市街地活性化と医
療機関に関する意識調査
調査名
調査時期
2011 年 10 月
調査対象
福島市民
福島市内医療機関の中心市街地開設
と患者に対する意識調査
2011 年 12 月
福島市に立地する医療機関の医師
標本抽出方法
スノーボール標本抽出
スノーボール標本抽出5)
配布方法
直接および郵送配布
郵送配布
回収方法
直接および郵送回収
郵送回収
必要標本数
400 件
100 件
407 件
104 件
回収数
5)
(10∼20 歳代 : 64 件,30∼50 歳代 :
279 件,60 歳代以上 : 64 件)
必要標本数算出式
必要標本数= 4σ2/E2
(病院 : 71 件,一般診療所 : 33 件)
σ : 標準偏差
E : 誤差
注 : 医師は病院と一般診療所を対象とし,歯科医院と介護老人保健施設を除く。「福島市内医療
機関の中心市街地開設と患者に対する意識調査」の問 2 および問 3 については,10 急性期病
院の事務職員 10 名より別途に回答回収。回収数は有効回答数に等しい。
4)
ダン・レメニイ(2007)『社会科学系大学院生のための研究の進め方 ─修士・博士論文を書くまえに─』
同文舘出版,pp. 104-108.
5)
本研究のスノーボール標本抽出は,「福島市民の中心市街地活性化と医療機関に関する意識調査」では,筆
者が家族や複数の仕事関係者に回答者を任意に抽出してもらう方法を採り,回収数が必要標本数に達するま
でこの抽出方法を繰り返し行った。また,「福島市内医療機関の中心市街地開設と患者に対する意識調査」
では,筆者が「福島市医師会」のホームページに掲載されている医療機関一覧から調査対象とする病院と一
般診療所を任意に抽出し,回収数が必要標本数に達するまでこの抽出を繰り返し行った。
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和田 : 高齢化社会における医療経営のあり方について
(2)
調査結果データの分析方法
上記 2 つのアンケート調査から,医療機関選択時に重視する医療サービスについて,市民の重視
度と医師が考える市民の重視度を医療サービス別に 5 段階で評価して平均スコアを算出する。そし
て,両者の平均スコアに対して有意差分析を用い,市民と医師の医療サービスに対する知覚品質の
格差を検証する。さらに,市民・医師別および市民の年代別に医療サービスの平均スコアをランク
づけし,
それぞれの側面から,
医療サービスの知覚品質に対する重視度合いについても確認する。尚,
調査対象とした 15 の医療サービスは,
「医師に関する項目」,「看護師・事務員に関する項目」,「医
療設備と経営に関する項目」
,
「利便性に関する項目」の 4 項目,本質サービスと表層サービス6)そ
れぞれの見地から分析する。
次に,患者満足度調査結果の事務部門から医師へのフィードバックについては,同じ病院の医師
と事務員を対象に同調査の実施状況に対する認識度を検証し,有意差分析により,両者の同調査に
対する認識の違いを明らかにする。また,調査結果のフィードバック方法を確認し,その問題点に
ついても分析する。
2. 分 析 結 果
2-1. 医療機関の選択理由
(1)
医師に関する項目
① 病院
病院の医師に関する項目「医師の診断や処置の適切さ」,「医師の説明のわかりやすさ」,「医師の
言葉遣い・態度」について,市民の重視度と医師が考える市民の重視度を母平均の差の検定により
比較してみた(表 2)
。まず,市民合計と医師を比較すると,統計量は,
「医師の診断や処置の適切さ」
が 2.41,「医師の説明のわかりやすさ」が 0.45,
「医師の言葉遣い・態度」が 0.13 となり,統計量
が有意水準 5% の棄却点 1.96 以上は「医師の診断や処置の適切さ」のみである。したがって,
「医
師の説明のわかりやすさ」と「医師の言葉遣い・態度」については,市民の重視度と医師が考える
市民の重視度はほぼ一致しているものとみられる。一方,
「医師の診断や処置の適切さ」については,
医師は現実よりも過剰に市民が重視しているものと考えており,両者の認識に有意な差が認められ
る。
次に,年代別にみた市民と医師を比較すると,
「30∼50 歳代」の「医師の診断や処置の適切さ」
と「60 歳代以上」の「医師の説明のわかりやすさ」で有意差が確認され,
「30∼50 歳代」の市民は,
医師が考えるほど「医師の診断や処置の適切さ」を重視していないが,「60 歳代以上」の市民は,
6)
本研究では,嶋口(1994)を参考に,本質サービスは「医師の診断や処置の適切さ」,「医療設備の充実さ」
の 2 項目,表層サービスは「医師の言葉遣い・態度」,「医師の説明のわかりやすさ」,「看護師の採血や介助
等の手際よさ」,「看護師の言葉遣い・態度」,「事務員の言葉遣い・態度」,「院内の清潔さ」,「待ち時間の長
さ」,「プライバシーへの配慮」,「開業時間の長さ」,「支払金額の適正さ」,「交通の便」,「駐車場の利便性」,
「自宅や勤務先から近い」の 13 項目を指す。
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第 85 巻第 1 号
表 2 医療機関の選択理由(医師に関する項目)における検定結果
(単位 : 点)
病院
選択理由
調査対象者
医師の診 福島市民
断や処置
の適切さ
10∼20
歳代
87.9
1.19
×
30∼50
歳代
86.0
2.76
○
60 歳代
以上
90.6
0.34
合計
87.0
2.41
医師
医師の説 福島市民
明のわか
りやすさ
分散分析
統計量
有意差
判定
重視度 母平均の差の検定
平均
有意差
統計量
スコア
判定
86.9
1.85
×
86.1
3.10
○
×
89.8
1.23
×
○
86.8
2.92
○
86.1
1.12
×
84.4
2.16
○
1.39
×
91.5
83.2
0.14
×
30∼50
歳代
82.3
0.21
×
60 歳代
以上
90.6
2.89
○
89.1
0.36
×
合計
83.7
0.45
×
85.4
1.84
×
76.6
2.27
○
78.2
2.55
○
80.9
1.32
×
78.3
2.56
○
4.38
○
82.7
75.0
0.40
×
30∼50
歳代
75.3
0.48
×
60 歳代
以上
80.9
1.35
×
76.1
0.13
×
合計
統計量
有意差
判定
0.96
×
1.59
×
0.69
×
90.2
10∼20
歳代
医師
分散分析
93.2
10∼20
歳代
医師
医師の言 福島市民
葉 遣 い・
態度
一般診療所
重視度 母平均の差の検定
平均
有意差
統計量
スコア
判定
1.73
×
76.4
85.6
注 : 重視度平均スコアは,
「特に重視する」が 100 点,
「やや重視する」が 75 点,
「どちらともいえない」が
50 点,
「あまり重視しない」が 25 点,
「全く重 視しない」が 0 点としてスコアリングした合計点を件数
で除した。母平均の差の検定は福島市民と医師の検定であり,分散分析は年齢別にみた福島市民の検
定である。母平均の差の検定における棄却点は有意水準 5% で 1.96,分散分析における棄却点は有意水
準 5% で 3.02。有意差判定は「〇」が有意差あり,「×」が有意差なしを表す(以下同様)。
表 3 年代別にみた病院の選択理由(医師に関する項目)における検定結果
選択理由
医師の説明の
わかりやすさ
検定対象
福島市民
テューキー・クレーマー法
による多重比較
統計量
有意差判定
10∼20 歳代と 30∼50 歳代
0.34
×
10∼20 歳代と 60 歳代以上
2.11
×
30∼50 歳代と 60 歳代以上
3.04
×
注 : テューキー・クレーマー法における棄却点は有意水準 5% で 3.31(表 6,8 も同様)。
医師が考える以上に「医師の説明のわかりやすさ」を重視しているものとみられる。
また,市民の年代間では,分散分析で有意差がみられた「医師の説明のわかりやすさ」について,
テューキー・クレーマー法7)による多重比較を実施したところ,有意な差が確認されなかった。こ
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和田 : 高齢化社会における医療経営のあり方について
の結果から,病院の医師に関する項目では,市民が求めるサービス水準に年代間の有意な格差は認
められないものと考える(表 3)
。
② 一般診療所
一般診療所の医師に関する上記 3 項目について,市民の重視度と医師が考える市民の重視度を母
平均の差の検定により比較してみた(表 2)
。まず,市民合計と医師を比較すると,統計量は,
「医
師の診断や処置の適切さ」が 2.92,
「医師の説明のわかりやすさ」が 1.84,
「医師の言葉遣い・態度」
が 2.56 となり,
統計量が有意水準 5% の棄却点 1.96 以上となったのは「医師の診断や処置の適切さ」
と「医師の言葉遣い・態度」である。したがって,「医師の説明のわかりやすさ」については,市
民の重視度と医師が考える市民の重視度はほぼ一致しているものとみられるが,
「医師の診断や処
置の適切さ」と「医師の言葉遣い・態度」については,医師は現実よりも過剰に市民が重視してい
るものと考えている。
次に,年代別にみた市民と医師を比較すると,
「30∼50 歳代」の「医師の診断や処置の適切さ」
および「医師の説明のわかりやすさ」
,
「医師の言葉遣い・態度」
,
「10∼20 歳代」の「医師の言葉
遣い・態度」にそれぞれ有意差がみられた。この有意差は,医師が現実よりも過剰に市民が重視し
ていると考えていることが要因とみられるが,高いサービスを求めている「60 歳代以上」の市民
は医師との認識に有意な差が認められなかった。尚,市民の年代間で医師に関する項目における認
識に有意な違いはみられなかった。
(2)
看護師・事務員に関する項目
① 病院
病院の看護師・事務員に関する項目「看護師の採血や介助等の手際よさ」
,
「看護師の言葉遣い・
態度」
,
「事務員の言葉遣い・態度」について,市民の重視度と医師が考える市民の重視度を母平均
の差の検定により比較してみた(表 4)
。まず,市民合計と医師を比較すると,統計量は,
「看護師
の採血や介助等の手際よさ」が 1.71,
「看護師の言葉遣い・態度」が 0.51,「事務員の言葉遣い・態
度」が 0.47 といずれも有意差が認められず,市民の重視度と医師が考える市民の重視度はほとん
ど乖離していないものと考えられる。
次に,年代別にみた市民と医師を比較すると,
「60 歳代以上」の「看護師の採血や介助等の手際
よさ」でのみ有意差が確認された。一方,市民の年代間では,看護師・事務員に関する重視度に有
意な差は確認されなかった。
② 一般診療所
一般診療所の看護師・事務員に関する上記 3 項目について,市民の重視度と医師が考える市民の
重視度を母平均の差の検定により比較してみた(表 4)。まず,市民合計と医師を比較すると,統
計量は,
「看護師の採血や介助等の手際よさ」が 0.61,「看護師の言葉遣い・態度」が 2.91,「事務
員の言葉遣い・態度」が 3.15 となり,
「看護師の言葉遣い・態度」と「事務員の言葉遣い・態度」
7)
本研究では,福島市民の年代間で標本数が異なることから,テューキー・クレーマー法による多重比較によ
り,各年代間の有意差検定を行った。尚,統計量は,(ある年代の重視度平均スコア−比較する年代の重視
(1÷ある年代の標本数+1÷比較する年代の標本数)
)に
度平均スコア)÷ (すべての年代の分散の平均値×
より求めた。
― 31 ―
商 学 論 集
第 85 巻第 1 号
表 4 医療機関の選択理由(看護師・事務員に関する項目)における検定結果
(単位 : 点)
病院
選択理由
調査対象者
看護師の
採血や介 福島市民
助等の手
際よさ
重視度
平均
スコア
有意差
判定
統計量
有意差
判定
重視度
平均
スコア
母平均の差の検定
統計量
有意差
判定
79.0
0.15
×
76.5
0.94
×
76.2
1.14
×
30∼50
歳代
75.5
1.26
×
60 歳代
以上
81.3
2.72
○
81.3
0.46
×
合計
76.5
1.71
×
77.7
0.61
×
74.6
2.12
○
73.7
2.95
○
1.87
×
72.2
75.0
0.11
×
30∼50
歳代
73.0
0.92
×
60 歳代
以上
78.1
0.84
×
75.4
1.99
○
合計
74.1
0.51
×
74.1
2.91
○
71.4
2.50
○
70.8
3.29
○
75.0
1.79
×
71.6
3.15
○
1.52
×
75.4
69.9
0.23
×
30∼50
歳代
69.0
0.65
×
60 歳代
以上
71.5
0.19
×
69.5
0.47
×
合計
統計量
有意差
判定
1.48
×
0.17
×
0.93
×
83.3
10∼20
歳代
医師
分散分析
79.5
10∼20
歳代
医師
事務員の 福島市民
言 葉 遣
い・態度
統計量
一般診療所
分散分析
10∼20
歳代
医師
看護師の 福島市民
言 葉 遣
い・態度
母平均の差の検定
0.32
70.8
×
82.6
で有意差が認められたが,
「看護師の採血や介助等の手際よさ」は有意差なしとなった。したがって,
「看護師の採血や介助等の手際よさ」には,市民と医師に認識の違いがみられなかったが,「看護師
の言葉遣い・態度」と「事務員の言葉遣い・態度」については,市民の意識以上に医師が意識して
いるものと考えられる。
次に,年代別にみた市民と医師を比較すると,すべての年代の「看護師の言葉遣い・態度」,「10
∼20 歳代」と「30∼50 歳代」の「事務員の言葉遣い・態度」にそれぞれ有意差がみられ,市民の
認識以上に医師が重視するものと想定している。尚,市民の年代間における重視度合いに有意な差
はみられなかった。
(3)
医療設備と経営に関する項目
① 病院
病院の医療設備と経営に関する項目「医療設備の充実さ」,「院内の清潔さ」,「待ち時間の長さ」,
「プライバシーへの配慮」
,
「開業時間の長さ」
,
「支払金額の適正さ」について,市民の重視度と医
師が考える市民の重視度を母平均の差の検定により比較してみた(表 5)
。
まず,市民合計と医師を比較すると,統計量は「医療設備の充実さ」が 0.23,「院内の清潔さ」
が 3.06,
「待ち時間の長さ」が 2.48,
「プライバシーへの配慮」が 2.67,
「開業時間の長さ」が 4.47,
― 32 ―
和田 : 高齢化社会における医療経営のあり方について
表 5 医療機関の選択理由(医療設備と経営に関する項目)における検定結果
病院
選択理由
調査対象者
医療設備 福島市民
の充実さ
80.1
0.79
×
30∼50
歳代
81.5
0.53
×
60 歳代
以上
87.5
1.55
×
82.2
0.23
×
合計
×
統計量
有意差
判定
76.2
1.62
×
74.8
1.69
×
79.7
2.63
○
75.8
2.02
○
79.0
0.22
×
76.6
0.41
×
○
30∼50
歳代
76.8
2.44
○
60 歳代
以上
79.3
2.55
○
78.9
0.22
×
合計
77.6
3.06
○
77.4
0.20
×
75.8
0.77
×
75.9
0.94
×
77.3
1.16
×
76.1
1.01
×
74.2
0.75
×
73.6
0.74
×
79.7
2.08
○
74.6
1.02
×
73.8
1.76
×
75.3
2.49
○
71.9
1.48
×
74.5
2.34
○
76.6
1.15
×
72.6
0.47
×
0.68
×
72.2
75.0
2.57
○
30∼50
歳代
71.1
1.86
×
60 歳代
以上
75.4
2.82
○
72.4
2.48
○
1.55
×
66.2
76.6
2.63
○
30∼50
歳代
72.0
1.85
×
60 歳代
以上
79.7
3.74
○
73.9
2.67
○
3.77
○
66.9
73.4
3.49
○
30∼50
歳代
71.1
4.41
○
60 歳代
以上
67.2
2.17
○
70.9
4.47
○
1.17
×
59.2
0.57
×
0.13
×
2.07
×
0.60
×
2.35
×
64.4
10∼20
歳代
78.5
5.89
○
30∼50
歳代
70.1
4.79
○
60 歳代
以上
78.5
6.01
○
78.9
1.72
×
合計
72.7
5.83
○
74.2
0.85
×
医師
×
70.5
10∼20
歳代
合計
1.29
72.0
10∼20
歳代
医師
有意差
判定
78.0
10∼20
歳代
合計
統計量
68.9
2.33
医師
支払金額 福島市民
の適正さ
2.49
分散分析
重視度
平均
スコア
79.3
合計
開業時間 福島市民
の長さ
統計量
有意差
判定
10∼20
歳代
医師
プライバ 福島市民
シーへの
配慮
一般診療所
分散分析
82.7
医師
待ち時間 福島市民
の長さ
統計量
有意差
判定
10∼20
歳代
医師
院内の清 福島市民
潔さ
重視度
平均
スコア
母平均の差の検定
(単位 : 点)
6.06
55.3
○
70.5
― 33 ―
商 学 論 集
第 85 巻第 1 号
表 6 年代別にみた病院の選択理由(医療設備と経営に関する項目)における検定結果
選択理由
プライバシーへの
配慮
支払金額の適正さ
検定対象
福島市民
福島市民
テューキー・クレーマー法
による多重比較
統計量
有意差判定
10∼20 歳代と 30∼50 歳代
1.54
×
10∼20 歳代と 60 歳代以上
0.82
×
30∼50 歳代と 60 歳代以上
2.58
×
10∼20 歳代と 30∼50 歳代
2.71
×
10∼20 歳代と 60 歳代以上
0.00
×
30∼50 歳代と 60 歳代以上
2.71
×
「支払金額の適正さ」が 5.83 となり,
「医療設備の充実さ」で有意差がみられなかったが,残り 5
項目では有意差が確認された。したがって,
「医療設備の充実さ」では,市民と医師の意識に格差
は認められなかったが,
「院内の清潔さ」および「待ち時間の長さ」,
「プライバシーへの配慮」,
「開
業時間の長さ」
,
「支払金額の適正さ」では,医師が現実よりも市民の重視度を低く捉えている。
次に,年代別にみた市民と医師を比較すると,すべての年代で「院内の清潔さ」および「開業時
間の長さ」
「支払金額の適正さ」
,
「10∼20 歳代」と「60 歳代以上」で「待ち時間の長さ」および「プ
,
ライバシーへの配慮」で有意差がみられ,
「60 歳代以上」に着目すると,「医療設備の充実さ」を
除いた 5 項目で有意差が確認された。
また,市民の年代間における重視度合いをみると,「プライバシーへの配慮」と「支払金額の適
正さ」は,分散分析で有意差が窺われたものの,テューキー・クレーマー法による多重比較では有
意な差が確認できなかった(表 6)
。この結果から,病院の医療設備と経営に関する項目では,市
民の年代間における重視度合いに有意な差は確認できないものと考えられる。
② 一般診療所
一般診療所の医療設備と経営に関する上記 6 項目について,市民の重視度と医師が考える市民の
重視度を母平均の差の検定により比較してみた(表 5)
。
まず,市民合計と医師を比較すると,統計量は「医療設備の充実さ」が 2.02,「院内の清潔さ」
が 0.20,
「待ち時間の長さ」が 1.01,
「プライバシーへの配慮」が 1.02,
「開業時間の長さ」が 2.34,
「支払金額の適正さ」が 0.85 となり,
「医療設備の充実さ」と「開業時間の長さ」は有意差が確認
できたが,残り 4 項目では有意差が認められなかった。したがって,「院内の清潔さ」および「待
ち時間の長さ」
,
「プライバシーへの配慮」
,
「支払金額の適正さ」では,両者の意識に違いが認めら
れなかったが,
「医療設備の充実さ」および「開業時間の長さ」は,医師の想定以上に市民が重視
していることが明らかとなった。
次に,年代別にみた市民と医師を比較すると,
「30∼50 歳代」の「開業時間の長さ」,
「60 歳代以
上」の「医療設備の充実さ」と「プライバシーへの配慮」にそれぞれ有意差がみられた。医療設備
と経営に関する項目では,医師や看護師・事務員に関する項目と異なり,市民の認識よりも医師が
重視しないだろうと想定していることが有意差につながっている。一方,市民の年代間における重
― 34 ―
和田 : 高齢化社会における医療経営のあり方について
視度合いをみると,6 項目すべてにおいて,有意な差は確認できなかった。
(4)
利便性に関する項目
① 病院
病院の利便性に関する項目「交通の便」
,
「駐車場の利便性」,
「自宅や勤務先から近い」について,
市民の重視度と医師が考える市民の重視度を母平均の差の検定により比較してみた(表 7)。まず,
市民合計と医師を比較すると,統計量は「交通の便」が 0.01,
「駐車場の利便性」が 0.85,
「自宅や
勤務先から近い」が 2.08 となり,
「交通の便」と「駐車場の利便性」は有意差がみられなかったが,
「自宅や勤務先から近い」は有意差が確認された。したがって,
「交通の便」と「駐車場の利便性」
では,両者の認識に違いが認められなかったが,「自宅や勤務先から近い」で,市民は医師の認識
以上に医療機関の近接性を重視しているものと考えられる。
次に,年代別にみた市民と医師を比較すると,
「60 歳代以上」の「駐車場の利便性」と「10∼20
歳代」の「自宅や勤務先から近い」でそれぞれ有意差がみられたが,すべての年代で「交通の便」
には有意差がみられなかった。
また,市民の年代間で利便性に関する重視度合いを確認すると,
「駐車場の利便性」において,
分散分析で有意差が認められるとともに,テューキー・クレーマー法による多重比較で「10∼20
表 7 医療機関の選択理由(利便性に関する項目)における検定結果
病院
選択理由
交通の便
調査対象者
福島市民
1.24
×
30∼50
歳代
73.3
0.38
×
60 歳代
以上
73.8
0.13
×
74.3
0.01
×
統計量
1.42
有意差
判定
×
64.1
1.82
×
30∼50
歳代
75.4
1.26
×
60 歳代
以上
79.7
2.12
○
74.3
0.85
×
合計
7.08
○
72.2
母平均の差の検定
統計量
有意差
判定
82.9
1.84
×
75.8
0.40
×
75.0
0.16
×
76.8
0.67
×
67.9
2.91
○
78.2
1.21
×
76.6
1.30
×
76.3
1.87
×
83.7
2.16
○
78.3
1.21
×
73.8
0.07
×
78.4
1.27
×
分散分析
統計量
有意差
判定
2.53
×
4.73
○
2.96
×
81.8
10∼20
歳代
80.1
3.11
○
30∼50
歳代
73.0
1.71
×
60 歳代
以上
71.1
0.71
×
73.8
2.08
○
合計
重視度
平均
スコア
74.2
10∼20
歳代
医師
分散分析
74.3
医師
自宅や勤 福島市民
務先から
近い
統計量
有意差
判定
78.9
合計
福島市民
母平均の差の検定
10∼20
歳代
医師
駐車場の
利便性
重視度
平均
スコア
(単位 : 点)
一般診療所
2.87
68.3
×
73.5
― 35 ―
商 学 論 集
第 85 巻第 1 号
表 8 年代別にみた病院と一般診療所の選択理由(利便性に関する項目)における検定結果
病院
選択理由
駐車場の
利便性
検定対象
福島市民
一般診療所
テューキー・クレーマー法による多重比較
統計量
有意差判定
統計量
有意差判定
10∼20 歳代と 30∼50 歳代
3.08
×
2.85
×
10∼20 歳代と 60 歳代以上
3.34
○
1.88
×
30∼50 歳代と 60 歳代以上
1.18
×
0.44
×
歳代」と「60 歳代以上」に有意な差が確認できた(表 8)。この結果から,
「10∼20 歳代」の市民は,
「60 歳代以上」
ほど駐車場の利便性を重視していないものと考えられる。
「10∼20 歳代」における「交
通の便」および「自宅や勤務先から近い」の重視度平均スコアが年代間で最も高かったことを勘案
すると,
「10∼20 歳代」は他の年代と比較して自家用車を持っていない割合が高い可能性が窺える。
② 一般診療所
一般診療所の利便性に関する上記 3 項目について,市民の重視度と医師が考える市民の重視度を
母平均の差の検定により比較してみた(表 7)
。まず,市民合計と医師を比較すると,統計量は「交
通の便」が 0.67,
「駐車場の利便性」が 1.87,
「自宅や勤務先から近い」が 1.27 となり,3 項目と
も有意差が確認できず,両者の認識に有意な差は窺えなかった。
次に,年代別にみた市民と医師を比較すると,「10∼20 歳代」の「駐車場の利便性」と「自宅や
勤務先から近い」に有意差が確認され,
「駐車場の利便性」では,診療所医師の重視度平均スコア
が「10∼20 歳代」の市民より有意に高く,
「自宅や勤務先から近い」では,「10∼20 歳代」の市民
における重視度平均スコアが診療所医師より有意に高かった。
また,
市民の年代間では,
分散分析で有意差がみられた「駐車場の利便性」について,テューキー・
クレーマー法による多重比較を実施したところ,有意な差が確認されなかった。この結果から,一
般診療所の利便性に関する項目では,市民が求めるサービス水準に年代間の有意な格差は認められ
ないものと考える(表 8)
。
(5)
選択理由ランキング
① 病院
病院選択理由の重視度平均スコアについて,市民と病院医師別に順位づけして比較すると,病院
医師は,市民が本質サービスを重視しているとの認識が過剰に強く,その反面,表層サービスに当
たる医療経営に関する項目などについては,市民がそれほど重視する項目ではないとの認識を持っ
ており,市民の認識と有意な差が窺える(表 9)
。このため,標準偏差をみると,病院医師は 8.796
と市民の 4.706 を大きく上回り,医療経営に関する項目のスコアが極端に低く,市民と比べて項目
間の格差が大きい。
次に,年代別にみた福島市民の病院選択理由ランキングをみると,すべての年代で 1 位から 3 位
までは,
「医師の診断や処置の適切さ」
,
「医師の説明のわかりやすさ」,
「医療設備の充実さ」の順
となり,本質サービスを重視している点で年代間に違いはないものとみられる(表 10)
。また,す
― 36 ―
和田 : 高齢化社会における医療経営のあり方について
表 9 病院の選択理由ランキング
(単位 : 点)
福島市民
順位
項目
病院医師
重視度
標準偏差
平均スコア
項目
重視度
平均スコア
1
医師の診断や処置の適切さ※
87.0
医師の診断や処置の適切さ※
91.5
2
医師の説明のわかりやすさ
83.7
医師の説明のわかりやすさ
82.7
3
医療設備の充実さ
82.2
医療設備の充実さ
82.7
4
院内の清潔さ※
77.6
医師の言葉遣い・態度
76.4
5
看護師の採血や介助等の手際よさ
76.5
看護師の言葉遣い・態度
75.4
6
医師の言葉遣い・態度
76.1
交通の便
74.3
7
交通の便
74.3
看護師の採血や介助等の手際よさ
72.2
8
駐車場の利便性
74.3
院内の清潔さ※
72.2
9
看護師の言葉遣い・態度
74.1
駐車場の利便性
72.2
10
プライバシーへの配慮※
73.9
事務員の言葉遣い・態度
70.8
11
自宅や勤務先から近い※
73.8
自宅や勤務先から近い※
68.3
12
支払金額の適正さ※
72.7
プライバシーへの配慮※
66.9
13
待ち時間の長さ※
72.4
待ち時間の長さ※
66.2
14
開業時間の長さ※
70.9
開業時間の長さ※
59.2
15
事務員の言葉遣い・態度
69.5
支払金額の適正さ※
55.3
合 計
4.706
合 計
75.9
標準偏差
8.796
72.4
注 : ※は,母平均の差の検定により有意水準 5% で有意差が認められた項目で,それ以外の項目は有意差なし。
べての年代で病院医師と有意差がみられたのは,「院内の清潔さ」,
「開業時間の長さ」
,
「支払金額
の適正さ」の医療設備と経営に該当する 3 項目で,表層サービスに対する認識に違いが認められた。
最後に,
総合的にみた病院選択理由における各年代の福島市民と病院医師の認識の違いについて,
重視度平均スコア合計から確認した(表 11)
。重視度平均スコア合計は,
「10∼20 歳代」が 76.9 点,
「30∼50 歳代」が 75.0 点,
「60 歳代以上」が 79.0 点,市民合計が 75.9 点,病院医師が 72.4 点となり,
母平均の差の検定結果では,
「10∼20 歳代」および「30∼50 歳代」,市民合計と病院医師に有意差
はみられなかったが,
「60 歳代以上」の市民と病院医師に有意差が確認された。このため,総合的
にみて「60 歳代以上」の市民は,病院医師が考える以上に有意に高い医療サービスを求めている
といえる。
② 一般診療所
一般診療所医師は,市民が医師の診断や医療従事者の接遇面を重視しているとの認識が市民以上
に強い反面,医療設備と経営に関する項目の重視度平均スコアは市民と比べて総体で低くなってい
る(表 12)
。このため,標準偏差をみると,一般診療所医師は 7.976 と市民の 3.920 を大きく上回り,
病院医師と同様に,市民と比べて項目間の格差が大きい。
次に,年代別にみた福島市民の一般診療所選択理由ランキングをみると,すべての年代で 1 位と
2 位は,
「医師の診断や処置の適切さ」
,
「医師の説明のわかりやすさ」の順となり,3 位は「10∼20
歳代」および「30∼50 歳代」で「自宅や勤務先から近い」,「60 歳代以上」で「看護師の採血や介
― 37 ―
商 学 論 集
第 85 巻第 1 号
表 10 年代別にみた福島市民の病院選択理由ランキング
(単位 : 点)
10∼20 歳代
順位
30∼50 歳代
60 歳代以上
項目
重視度平
均スコア
86.0
医師の診断や処置の適
切さ
90.6
医師の説明のわかりや
すさ
82.3
医師の説明のわかりや
すさ※
90.6
医療設備の充実さ
81.5
医療設備の充実さ
87.5
院内の清潔さ※
76.8
看護師の採血や介助等
の手際よさ※
81.3
79.3
看護師の採血や介助等
の手際よさ
75.5
医師の言葉遣い・態度
80.9
78.9
駐車場の利便性
75.4
駐車場の利便性※
79.7
医師の言葉遣い・態度
75.3
プライバシーへの配慮
※
79.7
交通の便
73.3
院内の清潔さ※
79.3
項目
重視度平
均スコア
87.9
医師の診断や処置の適
切さ※
医師の説明のわかりや
すさ
83.2
3
医療設備の充実さ
80.1
4
自宅や勤務先から近い
※
80.1
5
院内の清潔さ※
6
交通の便
項目
重視度平
均スコア
1
医師の診断や処置の適
切さ
2
標準
偏差
標準
偏差
7
支払金額の適正さ※
78.5
8
プライバシーへの配慮
※
76.6
看護師の採血や介助等
の手際よさ
76.2
看護師の言葉遣い・態
度
73.0
支払金額の適正さ※
78.5
10
医師の言葉遣い・態度
75.0
自宅や勤務先から近い
73.0
看護師の言葉遣い・態
度
78.1
11
看護師の言葉遣い・態
度
75.0
プライバシーへの配慮
72.0
待ち時間の長さ※
75.4
12
待ち時間の長さ※
75.0
待ち時間の長さ
71.1
交通の便
73.8
71.5
9
5.354
標準
偏差
6.584
4.695
13
開業時間の長さ※
73.4
開業時間の長さ※
71.1
事務員の言葉遣い・態
度
14
事務員の言葉遣い・態
度
69.9
支払金額の適正さ※
70.1
自宅や勤務先から近い
71.1
15
駐車場の利便性
64.1
事務員の言葉遣い・態
度
69.0
開業時間の長さ※
67.2
合 計
76.9
合 計
75.0
合 計
79.0
注 : ※は,福島市民と病院医師の重視度平均スコアについて,母平均の差の検定により有意水準 5% で有意
差が認められた項目で,それ以外の項目は有意差なし。
表 11 総合的にみた病院選択理由における福島市民と病院医師の有意差
調査対象者
福島市民
重視度平均スコア
(単位 : 点)
母平均の差の検定
合計
棄却点
統計量
有意差判定
10∼20 歳代
76.9
2.07
1.69
×
30∼50 歳代
75.0
2.08
1.01
×
60 歳代以上
79.0
2.06
2.33
○
合計
75.9
2.08
1.36
×
注 : 自由度が 100 未満のため,棄却点は関数 TINV により有意水準 5% で算出。
助等の手際よさ」となった(表 13)
。
最後に,総合的にみた一般診療所選択理由における各年代の福島市民と診療所医師の認識の違い
を重視度平均スコア合計から確認してみた(表 14)。重視度平均スコア合計は,「10∼20 歳代」が
77.6 点,「30∼50 歳代」が 76.7 点,
「60 歳代以上」が 78.9 点,市民合計が 77.2 点,診療所医師が
77.9 点となり,母平均の差の検定結果では,
「10∼20 歳代」および「30∼50 歳代」,
「60 歳代以上」,
― 38 ―
和田 : 高齢化社会における医療経営のあり方について
表 12 一般診療所の選択理由ランキング
順位
福島市民
項目
(単位 : 点)
一般診療所医師
重視度
標準偏差
平均スコア
項目
重視度
平均スコア
1
医師の診断や処置の適切さ※
86.8
医師の診断や処置の適切さ※
93.2
2
医師の説明のわかりやすさ
85.4
医師の説明のわかりやすさ
90.2
3
自宅や勤務先から近い
78.4
医師の言葉遣い・態度※
85.6
4
医師の言葉遣い・態度※
78.3
看護師の言葉遣い・態度※
83.3
5
看護師の採血や介助等の手際よさ
77.7
事務員の言葉遣い・態度※
82.6
6
院内の清潔さ
77.4
駐車場の利便性
81.8
7
交通の便
76.8
看護師の採血や介助等の手際よさ
79.5
8
駐車場の利便性
76.3
院内の清潔さ
78.0
9
待ち時間の長さ
76.1
交通の便
74.2
10
医療設備の充実さ※
75.8
自宅や勤務先から近い
73.5
11
プライバシーへの配慮
74.6
待ち時間の長さ
72.0
12
開業時間の長さ※
74.5
プライバシーへの配慮
70.5
13
支払金額の適正さ
74.2
支払金額の適正さ
70.5
14
看護師の言葉遣い・態度※
74.1
医療設備の充実さ※
68.9
15
事務員の言葉遣い・態度※
71.6
開業時間の長さ※
64.4
合 計
3.920
合 計
77.2
標準偏差
7.976
77.9
注 : ※は,母平均の差の検定により有意水準 5% で有意差が認められた項目で,それ以外の項目は有意差なし。
市民合計のいずれも診療所医師と有意差はみられなかった。
2-2. 患者満足度調査の実態
本節では,医療機関が患者の医療ニーズを把握するため実施している患者満足度調査の実態につ
いて考察する。そこで,下記では,アンケート調査結果から患者満足度調査の実施状況を確認した
上で,患者満足度調査が医師の医療サービスに対する認識に及ぼす有意性について分析する。尚,
病院における患者満足度調査の実施状況は,10 病院の事務職員 10 名による回答結果を集計した。
(1)
患者満足度調査の実施状況
患者満足度調査の実施状況をみると,
調査対象 10 病院のうち,実施しているのは 5 病院(50.0%)
,
実施していないのは 5 病院(50.0%)で同率となった(図 1)
。また,一般診療所では,調査対象
33 診療所のうち,実施しているのは 12 診療所(36.4%),実施していないのは 21 診療所(63.6%)
となった。
次に,患者満足度調査を実施している医療機関の調査項目をみると,病院では,
「看護師の言葉
遣い・態度」
,
「事務員の言葉遣い・態度」
,
「待ち時間や開業時間の長さ」の 3 項目は 5 病院すべて
で実施しているが,
「支払金額の適正さ」を調査項目としている病院はなかった(図 2)
。一方,一
般診療所では,
「医師の説明のわかりやすさ」や「医師の言葉遣い・態度」など接遇面を中心とし
た 5 項目については 11 診療所(91.7%)で実施しており,最も高い割合となった。
― 39 ―
商 学 論 集
第 85 巻第 1 号
表 13 年代別にみた福島市民の一般診療所選択理由ランキング
(単位 : 点)
10∼20 歳代
順位
30∼50 歳代
60 歳代以上
項目
重視度平
均スコア
86.1
医師の診断や処置の適
切さ
89.8
医師の説明のわかりや
すさ※
84.4
医師の説明のわかりや
すさ
89.1
自宅や勤務先から近い
78.3
看護師の採血や介助等
の手際よさ
81.3
82.9
駐車場の利便性
78.2
医師の言葉遣い・態度
80.9
78.2
医療設備の充実さ※
79.7
項目
重視度平
均スコア
86.9
医師の診断や処置の適
切さ※
医師の説明のわかりや
すさ
86.1
3
自宅や勤務先から近い
※
83.7
4
交通の便
項目
重視度平
均スコア
1
医師の診断や処置の適
切さ
2
標準
偏差
標準
偏差
5
院内の清潔さ
79.0
医師の言葉遣い・態度
※
6
看護師の採血や介助等
の手際よさ
79.0
院内の清潔さ
76.6
プライバシーへの配慮
※
79.7
看護師の採血や介助等
の手際よさ
76.5
院内の清潔さ
78.9
待ち時間の長さ
75.9
支払金額の適正さ
78.9
待ち時間の長さ
77.3
7
支払金額の適正さ
76.6
8
医師の言葉遣い・態度
※
76.6
9
医療設備の充実さ
76.2
交通の便
75.8
10
待ち時間の長さ
75.8
開業時間の長さ※
75.3
駐車場の利便性
76.6
11
看護師の言葉遣い・態
度※
74.6
医療設備の充実さ
74.8
看護師の言葉遣い・態
度※
75.4
12
プライバシーへの配慮
74.2
看護師の言葉遣い・態
度※
73.7
交通の便
75.0
13
開業時間の長さ
73.8
プライバシーへの配慮
73.6
事務員の言葉遣い・態
度
75.0
14
事務員の言葉遣い・態
度※
71.4
支払金額の適正さ
72.6
自宅や勤務先から近い
73.8
15
駐車場の利便性※
67.9
事務員の言葉遣い・態
度※
70.8
開業時間の長さ
71.9
合 計
77.6
合 計
76.7
5.181
3.933
合 計
標準
偏差
4.895
78.9
注 : ※は,福島市民と診療所医師の重視度平均スコアについて,母平均の差の検定により有意水準 5% で有
意差が認められた項目で,それ以外の項目は有意差なし。
表 14 総合的にみた一般診療所選択理由における福島市民と診療所医師の有意差 (単位 : 点)
福島市民
母平均の差の検定
重視度平均スコア
合計
棄却点
統計量
有意差判定
10∼20 歳代
77.6
2.06
0.12
×
30∼50 歳代
76.7
2.09
0.52
×
60 歳代以上
78.9
2.07
0.41
×
合計
77.2
2.09
0.31
×
調査対象者
注 : 自由度が 100 未満のため,棄却点は関数 TINV により有意水準 5% で算出。
(2)
患者満足度調査が医師の医療サービスに対する認識に及ぼす有意性
患者満足度調査が医師の医療サービスに対する認識に及ぼす有意性について考察するため,同調
査の実施状況別に医師からみた医療機関選択理由の重視度平均スコアについて比較してみる。尚,
病院では,10 病院のうち,患者満足度調査を実施している 5 病院の医師 50 名,患者満足度調査を
― 40 ―
和田 : 高齢化社会における医療経営のあり方について
図 1 患者満足度調査の実施状況
注 : 回答数は,病院が 10 件,一般診療所が 33 件。病院は事務部門による回答。
図 2 患者満足度調査の調査項目
注 : 複数回答。病院は事務部門による回答。
実施していない 5 病院の医師 21 名をそれぞれ分析対象としている。この結果,病院医師,一般診
療所医師とも患者満足度調査実施の有無により,医療機関選択理由の重視度平均スコアに有意な差
はみられなかった(表 15)
。
以上により,患者満足度調査は,医師の医療サービスに対する認識に有意に影響を及ぼし,市民
の認識との違いを正す手段として,現状では有効に活用されていない可能性が窺える。
(3)
患者満足度調査の課題
本研究の分析結果からみた患者満足度調査の課題は,以下の通りである。
第一の課題は,医師の同調査に対する理解度である。病院の事務部門に対するヒアリング調査に
よると,患者満足度調査を実施している 5 病院では,実際には事務部門が調査の実施に関わってい
ることが判明している。こうしたことから,病院医師は患者満足度調査の概要を正確に認識してい
ない可能性もあるため,医師と事務部門の両方から患者満足度調査の実施内容に関する回答を得た
8 病院の医師 40 名と事務部門の事務職員 8 名を対象に同調査の実施状況に対する認識を比較して
― 41 ―
商 学 論 集
第 85 巻第 1 号
表 15 患者満足度調査実施状況別の医師からみた医療機関選択理由の重視度
(単位 : 点)
選択理由
医師に関する事項
医師の診断や処置の適切さ
医師の説明のわかりやすさ
医師の言葉遣い・態度
看護師・事務員に
関する事項
看護師の採血や介助等の手際
よさ
看護師の言葉遣い・態度
事務員の言葉遣い・態度
医療設備と経営に関する事項
医療設備の充実さ・院内の清
潔さ
待ち時間・開業時間の長さ
プライバシーへの配慮
支払金額の適正さ
患者満足度調査
実施状況
病院
重視度
平均スコア
実施している
92.5
実施していない
89.3
実施している
83.5
実施していない
81.0
実施している
75.5
実施していない
78.6
実施している
71.5
実施していない
73.8
実施している
74.5
実施していない
77.4
実施している
72.5
実施していない
66.7
実施している
78.5
実施していない
75.0
実施している
64.3
実施していない
58.9
実施している
66.5
実施していない
67.9
実施している
57.5
実施していない
50.0
一般診療所
統計量
棄却点
有意差
判定
0.74
2.01
×
0.66
2.00
×
0.62
2.01
×
0.44
2.04
×
0.51
2.03
×
0.82
2.05
×
0.91
2.00
×
1.25
2.00
×
0.00
2.04
×
1.92
2.04
×
重視度
平均スコア
97.5
91.3
95.5
87.5
88.6
84.1
83.3
78.1
88.6
80.7
88.6
79.5
77.8
71.9
70.5
68.6
81.3
67.0
80.6
66.7
統計量
棄却点
有意差
判定
1.40
2.06
×
1.70
2.05
×
0.47
2.06
×
0.73
2.16
×
1.19
2.09
×
1.08
2.08
×
0.45
2.05
×
1.14
2.03
×
1.24
2.23
×
1.14
2.20
×
注 : 有意差判定は,有意水準 5% で「〇」が有意差あり,「×」が有意差なしを表す。
みた(表 16)
。この結果,10 調査項目のうち,
「医師の言葉遣い・態度」と「プライバシーへの配慮」
で医師の「実施している」とする割合が事務部門と比較して有意に高く,合計でも医師と事務部門
では有意差が確認された。したがって,総体的にみると,病院医師は現実以上に患者満足度調査を
実施しているとの認識を持っているものと考えられる。
以上により,病院医師は患者満足度調査に直接携わっていないことから,その概要について正確
に把握していないものとみられる。尚,一般診療所の医師は,院長として事務部門も含めて診療所
全体の業務内容を把握しているものと想定されるが,今回の調査では,一般診療所の医師が患者満
足度調査に直接携わっていることを確認できなかった。
第二の課題は,フィードバックの方法である。本研究のアンケート調査結果からフィードバック
方法を確認すると,病院,一般診療所合計では,
「会議における報告」
(構成比 23.4%)の割合が最
も高く,以下,「報告書や院内報の配布」および「医療経営への反映」
(同 19.1%)などの順となっ
た(表 17)
。一方,
「評価制度への反映」
(同 4.3%),
「CS 活動の実践」および「面接による報告」
(同
6.4%)の割合は 10% にも満たなかった。
この結果から,「会議における報告」および「報告書や院内報の配布」の割合が 4 割超を占める
一方,
「CS 活動の実践」などが少ないため,調査結果のフィードバックが形骸化しており,患者満
足度調査が現実的には患者ニーズの把握に結びついていないことも考えられる。
― 42 ―
和田 : 高齢化社会における医療経営のあり方について
表 16 医師・事務部門別にみた患者満足度調査実施状況の認識(病院) (単位 : 件,%)
調査項目
調査対象者
病院医師
医師の診断や処置の適切さ
医師に関する事項
事務部門
病院医師
医師の説明のわかりやすさ
事務部門
病院医師
医師の言葉遣い・態度
事務部門
病院医師
看護師・事務員に関する事項
看護師の採血や介助等の手際よさ
事務部門
病院医師
看護師の言葉遣い・態度
事務部門
病院医師
事務員の言葉遣い・態度
事務部門
病院医師
医療設備の充実さ・院内の清潔さ
事務部門
医療設備と経営に関する事項
病院医師
待ち時間・開業時間の長さ
事務部門
病院医師
プライバシーへの配慮
事務部門
病院医師
支払金額の適正さ
事務部門
病院医師
合計
事務部門
患者満足度調査実施状況
実施している
実施していない
合計
16
24
40
40.0
60.0
100.0
3
5
8
37.5
62.5
100.0
19
21
40
47.5
52.5
100.0
3
5
8
37.5
62.5
100.0
30
10
40
75.0
25.0
100.0
3
5
8
37.5
62.5
100.0
22
18
40
55.0
45.0
100.0
2
6
8
25.0
75.0
100.0
31
9
40
77.5
22.5
100.0
4
4
8
50.0
50.0
100.0
30
10
40
75.0
25.0
100.0
4
4
8
50.0
50.0
100.0
22
18
40
55.0
45.0
100.0
3
5
8
37.5
62.5
100.0
30
10
40
75.0
25.0
100.0
4
4
8
50.0
50.0
100.0
28
12
40
70.0
30.0
100.0
2
6
8
25.0
75.0
100.0
12
28
40
30.0
70.0
100.0
0
8
8
100.0
0.0
100.0
240
160
400
60.0
40.0
100.0
28
52
80
35.0
65.0
100.0
P値
有意差 判定
0.90
×
0.60
×
0.04
○
0.12
×
0.11
×
0.16
×
0.37
×
0.16
×
0.02
○
0.07
×
0.00004
○
注 : アンケート調査対象 10 病院のうち,医師と事務部門の回答を得ることができた 8 病院のデータ。有意
差判定は,病院医師・事務部門別にみた「実施している」の割合について,母比率の差の検定により,
有意水準 5% で有意差がある場合は「〇」,有意差がない場合は「×」で表示。
― 43 ―
商 学 論 集
第 85 巻第 1 号
表 17 患者満足度調査のフィードバック方法
フィードバック方法
病院
一般診療所
合計
件数
構成比
件数
構成比
件数
構成比
会議における報告
5
20.8
6
26.1
11
23.4
報告書や院内報の配布
5
20.8
4
17.4
9
19.1
医療経営への反映
3
12.5
6
26.1
9
19.1
教育・研修制度への反映
4
16.7
3
13.0
7
14.9
面接による報告
1
4.2
2
8.7
3
6.4
CS 活動の実践
3
12.5
0
0.0
3
6.4
評価制度への反映
1
4.2
1
4.3
2
4.3
その他
2
8.3
1
4.3
3
6.4
実施していない
0
0.0
1
4.3
1
2.1
24
100.0
23
100.0
47
100.0
合 計
注 : 患者満足度調査を実施している医療機関のみ対象。複数回答。
3. 結論と今後の研究課題
本研究の分析結果をまとめてみると,以下の通りになる。
まず,患者と医師の医療サービスに対する認識を比較した結果,両者とも,本質サービスである
「医師の診断や処置の適切さ」を最も重視している点では,認識に違いがみられず,総体的にみると,
本質サービスに対する医師が考える患者の知覚品質と実際の患者の知覚品質に格差はほとんどない
ものと考えられる。但し,一般診療所において,本質サービスに該当する「医療設備の充実さ」で
両者の認識に有意な差が確認されたことから,一般診療所では,医療設備の拡充が今後の課題にな
るものとみられる。一方,表層サービスにおいては,病院および一般診療所の医師が考える以上に
患者が高水準のサービスを期待している項目もあり,本質サービスと比較すると,医師が考える患
者の知覚品質と実際の患者の知覚品質に格差はあるものと考えられる。ことさら,高齢者は,本質
サービス,表層サービスとも他の年代と比較して高水準のサービスを求めており,高齢者と病院医
師が妥当であるとする総合的な医療サービスの水準には有意な格差が確認された。このため,高齢
化進展の状況下で,医療機関は患者のニーズを満たすため,さらなる医療サービスの品質向上に努
めねばならないものといえる。
次に,患者満足度調査の実施状況をみると,実施しているのは,調査対象医療機関の約半数にと
どまり,実際に同調査に携わっているのは事務部門であることが明らかとなった。また,患者満足
度調査結果のフィードバック方法は,会議における報告や報告書が多く,CS 活動の実践など実際
に経営内容に反映させている医療機関はごく少数である。このため,医師は患者満足度調査の概要
および結果について正確に把握していないものと考えられる。
したがって,医療サービスの品質を向上させる医療経営の実践には,患者のニーズを把握する手
― 44 ―
和田 : 高齢化社会における医療経営のあり方について
段である患者満足度調査を積極的に実施するとともに,医師が調査結果を十分に認識しうるフィー
ドバック方法を選択することが求められる。そして,そのためには医療従事者と事務部門の連携が
とれ,情報の共有化が可能となる組織づくりが前提となる8)。
最後に,本研究では,一般診療所における患者満足度調査の実態について把握することができな
かった。また,標本抽出方法が無作為抽出ではなかった。このため,無作為抽出によるアンケート
調査により,一般診療所における医師の患者満足度調査に対する認識度についてもデータ化し,医
療機関全体における同調査の実態について把握することを今後の研究課題とする。
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― 45 ―