tweet!アドバイザー 中小機構による地域資源活用の 支援事例紹介 独立行政法人 中小企業基盤整備機構 中国本部 プロジェクト・マネージャー 吉田 英憲 1.中小企業者等による新事業展開の支援について 中小企業者等の新事業展開を支援するため、 「新連携」 「地域資源活用」 「農商工連携」 という3つの国の制度(法律認定)があります。中小企業者等が策定する事業計画が、 法律に基づく認定を受けることで、中小企業者等は様々な支援策を利用することができ ます。 (支援の詳細は、中小機構ホームページをご覧ください。 ) 図 「新連携」 「地域資源活用」 「農商工連携」の概要 中小機構は、中小企業者等が「新連携」 「地域資源活用」 「農商工連携」の事業計画 の国の認定を受けるため、事業の構想段階から具体化に向けて事業計画をブラッシュ アップし、国による法律認定後、事業化・販路開拓までトータルでサポートをしてい ます。 図 中小機構によるトータルサポートのイメージ 旬レポ中国地域 2013 年 10 月号 1 今回は、「地域資源活用」について、事業構想段階から認定後の事業化に向けた取り組み についてご紹介します。 なお、“地域資源”とは、地域の特産物として相当程度認識されている次の3つを指し、各 都道府県で指定されています。 http://j-net21.smrj.go.jp/expand/shigen/index.html(J-Net21 中小企業ビジネス支援サイト) ①「農林水産物」 ②「鉱工業品」又は「鉱工業品の生産に係る技術」 ③「観光資源」(文化財、自然の風景地、温泉等) 2.「地域資源活用」の支援事例 ~ 一畑電車株式会社の事例 ~ 島根県出雲市に本社がある一畑電車株式会社(以下、一畑電車㈱という。)は、2010年 に公開された映画『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』の舞台になった 鉄道会社で、宍道湖の北側を出雲市と松江市を結ぶ路線の電車を運行しているほかに、60 年ぶりの「平成の大遷宮」で生まれ変わった出雲大社にも通じる路線も有しています。 図 一畑電車の路線図 一畑電車㈱が所有する、昭和3~4年に製造された日本最古級の「デハニ50形車両」は、 国土交通省が定める安全基準を満たしていないため、平成21年3月をもって営業運転を終 了することになりました。 図 デハニ 50 形 これを受け、島根県は、「デハニ50形車両」を一 事業者が所有する単なる車両ではなく、島根県東部 の貴重な地域資源として、活用策を検討するため「デ ハニ50形活用検討協議会」を設立しました。 旬レポ中国地域 2013 年 10 月号 2 協議会での検討の結果を踏まえ、一畑電車㈱は、「デハニ50形」を体験運転用車両とし て新たに活用するような新事業を展開することにしました。 そのような折、日本政策金融公庫 松江支店か 図 体験運転の様子 ら、中小機構へ「一畑電車㈱が新事業を展開しようと している」との情報提供を受け、中小機構から一畑電 車㈱へ訪問し、地域資源活用の制度説明を行ったと ころ、「デハニ50形車両」の活用策として、地域資源 活用事業として国の法律認定を目指すこととなり、中 小機構による支援を受けることとなりました。 (1)事業構想段階から事業計画のブラッシュアップ 認定を受けるためには、一畑電車㈱が認定申請書を作成し、中国経済産業局へ提出す る必要があります。記載内容は、企業が作成する事業計画(ビジネスプラン)に相当するも のです。 具体的には、事業期間(3~5年以内)において、「デハニ50形車両」の体験運転の売上 をどのように上げていくのか、また体験運転を皮切りにどのような新しいサービスを行い、 収益を上げていくのかなど、毎月数回の現地での打ち合わせに加えて、頻繁に連絡を取り 合いました。 この段階の課題は、鉄道車両の体験運転というサービスがそもそも事業化できるのか、 求められているニーズはどのようなサービスか、ニーズがあるのか、売上を伸ばすための マーケティング戦略はどうするのかなどでしたが、3~4ヶ月程度の間、一畑電車㈱の担当 者と打ち合わせを繰り返しながらこれらの課題を整理し、事業計画を作り上げ認定申請を 提出するに至りました。その後、中国経済産業局における審査を経て、2012年2月に法 律認定をいただきました。 (2)事業計画認定後のフォローアップ 中小機構の支援では、認定は「ゴール」ではなく「スタート」と位置づけ、事業期間が終了 するまで定期的なフォローアップ(現地訪問、アドバイザー派遣、ビジネスマッチングなど) を行います。 昨年度は、懸案であったPRの強化について一畑電車㈱より相談を受け、中小機構の本 部(東京都港区)と中国本部(広島市)とが連携して、販路開拓支援について検討した結果、 中小機構から旅行代理店の現役マーケティング担当者をアドバイザーとして派遣すること になりました。当該アドバイザーからの助言等により、PRの強化策を実行に移すことで、着 実に成果を出しつつあります。現在、「デハニ50形車両」の体験運転を累計100回以上利 用した方が2名もいるほどです。 旬レポ中国地域 2013 年 10 月号 3 (3)最近の取組み 一畑電車㈱は、今年より、「デハニ50形」だけでなく、「2100系京王カラー」、「3000系南 海カラー」も運転できる、「一畑電車プレミアム体験運転のサービス」を開始し、予約者も多く 定員間近となるほどです。 さらに、今年8月からは、イベントにも対応できる車両を準備し、出雲大社で挙式するため に使用するブライダルトレインとしての活用などを想定しています。 図 一畑電車プレミアム体験運転のサービス(左)とブライダルトレイン(右) また、地元向けにシルバーデーとして、毎月8日に島根県在住の65歳以上の方を対象に 割安な切符を販売するなどの取り組みを次々に行っています。 このようにフォローアップで現地訪問する度に、一畑電車㈱の新しい取り組みを聞くことが でき、プロジェクト・マネージャーとして支援させていただいている者として、次はどのような取 り組みをされるか、楽しみとなっています。 (4)まとめ 一畑電車㈱において、次々に新サービスが生まれる背景として、取締役営業部長 谷口 学氏を始めとする社員の皆さんが知恵を絞って生み出した斬新なアイデアを積極的に採用す る社風によるものが大きいと思われます。 これまでに電車の中でお酒が飲める「お座敷電車」、電車の中でお買い物が楽しめる「楽 市楽電」など全国でも珍しいサービスを生み出してきました。 谷口氏は、お客さまが一畑電車体験運転のサービスを利用している風景をイメージしなが ら新サービスを開発し、「鉄道車両」が起点ではなく、「人」を起点として、鉄道車両をどう活用 するかという視点に立っています。それで、これだけの斬新かつ顧客評価の高いサービスを 生み出す原点となっているのです。 また、谷口氏は、「実現は難しい=不可能」という前提で考えず、「実現できる」という前提で、 どうやったら実現可能となるかを考えて、サービス開発しているとのことです。 地方の鉄道会社が苦境を強いられている中で、今後の一畑電車㈱のご活躍に期待しつつ、 事業期間終了まで、プロジェクト・マネージャーとして、一畑電車㈱の新事業展開の成功に向 けて出来うる限りの支援をしていきたいと思います。 旬レポ中国地域 2013 年 10 月号 4 プロフィール 大手電機メーカーで IT ソリューションの営業、市場調査、経営企画 などの業務を経験し、現在は中小企業向けに市場調査、ビジネスプラ ン策定支援のほか、プラン実行に関わる実務サポートなどを幅広く活 動している。 平成 20 年より、中小機構 中国本部(広島市) 経営支援部 連携 推進課において、プロジェクト・マネージャーとして、島根県における地 域資源活用・農商工連携の認定に至る支援からフォローアップまで担当。 経済産業省 中国経済産業局 広報誌 旬レポ中国地域 2013 年 10 月号 Copyright 2012 Chugoku Bureau of Economy , Trade and Industry. 5
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