増加する株主提案権行使 ―本年6月総会は過去最多を更新!―

証券代行コンサルティング部長の眼 (第40号)
増加する株主提案権行使
―本年6月総会は過去最多を更新!―
本年6月総会での株主提案は、37社・167議案が付議され(昨年は29社・161議案)、社数・議案数
いずれも過去最多となりました。37社のうち、昨年に続いて株主提案があった会社は18社であり、株
主提案が特定の会社で継続的に起こされていることがうかがえます。なお、新たに株主提案があった
会社も19社に達しており、結果的に過去最多の社数・件数につながることとなりました。
議案別には、昨年と比べると、剰余金の処分および役員の選任がそれぞれ3議案増加し、自己株
取得なども含めた諸々の内容が4議案増加しました。しかしながら、全体では定款変更議案が130議
案と77.8%を占めており、株主提案のほとんどは定款変更議案といえます。株主提案は、株主総会の
目的事項としての体裁を整える必要があるので、単に「○○事業を行うこと」を提案するというだけで
は、議案にならないのです。議案にするには、「定款に○○事業を行うことを事業目的に追加する定款
一部変更の件」という内容で提案することになります。定款は会社の自治規則ですので、公序・良俗違
反は別として、かなりの自由度で定めることができます。したがって、ROEを高めることや株主と対話
すべきことなどの要求についても、これを定款に規定する議案にすれば、株主提案として提出すること
ができます。なお、定款変更議案が可決されるためには、総株主の議決権の過半数の出席で(注1)、
3分の2以上の多数が必要となり、通常の議案より決議要件が厳しくなりますので、実際に可決される
ハードルは非常に高いものがあります。とはいえ、可決されないまでも、株主提案とすれば株主の意
見や主張をコスト負担なく招集通知へ記載することを要求できるのです。
株主提案権を行使するには持ち株数の要件があって、総株主の議決権の1%以上または300単元
以上の株式を6か月前から保有する必要があります。1%以上の議決権はそれなりのボリュームです
が、300単元というのは1単元100株の会社では30,000株となって、かなりハードルが低くなります。ま
た、株主提案の持ち株要件は、何人かで集まって共同でクリアすることも可能ですので、1単元の株数
100株が主流となっている現在においては、行使しやすくなっており、それが実際の件数の増加にも表
れています。
株主提案権は会社と株主との対話の手段として導入されたものですが、定款変更の形をとれば議
案内容についての自由度がかなり高いこともあってか、濫用的と思われる提案事例もみられることが
指摘されています。また、株主提案が可決に至る事例はなかなかみられないものの、今年は48%の
賛成率を集める事例もみられるなど(注2)他の株主からも多数の支持を集める事例も出てきました。
このほか、女性の登用などのダイバーシティ、人材確保といった、人事・雇用関係の質
そのほか、投資ファンドからの株主提案も5社あり、今後の株主提案の増加が見込まれます。
問も今年のポイントです。
株主提案が起こされた場合には、招集通知の記載や総会運営などに大きな影響が生じます。弊社
では株主提案が起こされた場合に備えるための、株主提案対応マニュアルをコンサルメニューとして
用意しております。ご関心がありましたらお気軽にお声掛けください。
(注1)ほとんどの上場会社は、定款に定足数を総株主の議決権の過半数から3分の1以上の出席に緩和しています。
(注2)配当の決定権限を取締役会決議から株主総会決議へ変更する内容の定款変更です。
「物言う株主」の活動の活発化に伴って、株主提案の増加が見込まれます。
2016年8月4日発行