心房細動患者に侵襲的処置を行う時 ヘパリンブリッジを行う事は有用か

J Hospitalist Network
Journal Club
心房細動患者に侵襲的処置を行う時
ヘパリンブリッジを行う事は有用か
Perioperative Bridging Anticoagulation in Patients with Atrial Fibrillation
N Engl J Med. 2015 Aug 27;373(9):823-33
聖隷浜松病院 総合診療内科
担当 上垣内 篤
監修 堀 博志
本間 陽一郎
症例:72歳男性
ある日の救急外来で…
【主訴】
右季肋部痛
【現病歴】
来院前日の昼頃から右季肋部痛を自覚した。その後は食事
も摂れず、右季肋部痛も増悪したため救急外来を受診した。
【既往歴】
虫垂炎 胆管炎
胆嚢炎 高血圧
慢性心房細動
【内服薬】
ワルファリン カリウム 1mg 5錠分1:朝食後
ベプリジル塩酸塩 50mg 4錠分2:朝夕食後
アプリンジン塩酸塩20mg 3CA分3:毎食後
アムロジピン ベシル酸塩5mg 1錠分1:朝食後
ラニチジン塩酸塩150mg 1錠分1:朝食後
【嗜好】
飲酒:5年前まで機会飲酒
喫煙歴:なし
【身体所見】
BT 38.5℃ BP 120/70mmHg PR 119/min不整 SpO2 95%(room air)
腹部:平坦軟 腸蠕動音の亢進・減弱なし 筋性防御無し 反跳痛なし
腹部全体に圧痛・tapping painあり
【検査所見】
・血液検査
血算
/μL
WBC 18060
%
96.6
neu
379 ×104/μL
RBC
g/dL
11.7
Hb
23.5 ×104/μL
Plt
生化学
T.Bil
AST
ALT
LDH
ALP
γGTP
CRP
3.8 mg/dL
311
IU/L
375
IU/L
403
IU/L
943
IU/L
636
IU/L
8.8 mg/dL
凝固
PT-INR
APTT
2.15
48.4 秒
・造影CT検査
肝内胆管・総胆管の拡張あり
下部胆管に胆石と思われる
高~等吸収像を認める
【来院後の経過】
右季肋部痛、発熱があり、血液検査上は炎症反応、肝胆道系
酵素の異常高値を認めた。造影CTでも胆管拡張と下部胆管に
胆石を認め、胆管炎を疑い消化器内科にコンサルトを行った。
急性閉塞性化膿性胆管炎の診断で、緊急ERCP(内視鏡的逆
行性胆道膵管造影)及びEST(内視鏡的乳頭括約筋切開術)
が検討された
ワルファリン内服中の消化管内視鏡…
正しい対応は??
ガイドラインでは
■消化管内視鏡検査を出血危険度により分類
ESTは”出血高危険度”→ヘパリンと置換することを推奨
日本消化器内視鏡学会雑誌
Vol. 54( 7), Jul. 2012
抗血栓薬服用者に対する消化管内視鏡診療ガイドライン
ヘパリンブリッジが推奨
日本消化器内視鏡学会雑誌
Vol. 54( 7), Jul. 2012
治療方針
心房細動にてワルファリン内服中であり
緊急でのESTはリスクが高いと判断した
ガイドラインに沿って、ヘパリン化を行ってから
ESTを行う方針となった.
緊急ERCP , RBDtube留置を行い、ワルファリンは
中止しヘパリン化を開始した.
本症例の経過
入院6日目にERCP,ESTを施行.数個の黄色結石の排石、胆
泥の流出を認め炎症反応と肝胆道酵素は改善傾向となった.
入院8日目からワルファリン再開し、PT-INRが治療域に
入ったことを確認してからヘパリンを中止した.
その後肝胆道系酵素は正常化し、発熱も改善した.出血や
血栓塞栓症を疑う所見も無く、入院14日目に退院となった.
特に有害事象もなく経過したが、
ヘパリンも結局は抗凝固薬...余計な出血リスクを増やし
てしまう可能性はなかったのか?
ヘパリンブリッジを行う必要性はあったのか?
Clinical Question
ワルファリンを内服している心房細動患者に
ESTなど出血リスクのある侵襲的処置を行う時、
ヘパリンブリッジは必要か?
EBM実践 5steps
Step 1
疑問の定式化
Step 2
論文の検索
Step 3
論文の批判的吟味
Step 4
症例への適用
Step 5
1-4の見直し
Step 1 疑問の定式化
P
心房細動にてワルファリン内服中の患者
I
観血的処置を行う際にヘパリンブリッジを行う
C
観血的処置を行う際にヘパリンブリッジを行わない
O
血栓症、出血イベントの発生に差があるか
Step 2 論文の検索
Pubmed/MEDLINEで
“Atrial Fibrillation”, ” Heparin Bridge”, ”invasive procedures”
を入力(original word).
Meta-analysis
Randamized control trial
Systematic review
の3つに絞り検索した.
検索結果
検索日:2016年4月20日
2015年の論文
二重盲検ランダム化比較試験
Step 3 論文の批判的吟味
論文の背景
• ワルファリンは一般的に、抗凝固作用を弱めたい処置の
5日前に中断され、手術・処置後5-10日で再開される
N Engl J Med 2013;368:2113-2124
J Thromb Haemost 2014;12:1254-1259
• ワルファリン中止期間には低分子ヘパリンを用いた抗凝固
ブリッジを行ない血栓塞栓症のリスクを最小限することが
望ましいとされてきた
N Engl J Med 2013;368:2113-2124
• 心房細動患者が手術や侵襲的処置を受ける際のヘパリンブ
リッジの必要性はいまだ明らかになっておらず、ガイドラ
インでも一貫性に欠ける推奨に留まっている
Chest 2008;133:Suppl:299S-339S
J Am Coll Cardiol 2011;57:e101-e198
Chest 2012;141:Suppl:e326S-e350S
ヘパリンブリッジの有用性を検証するために、
ランダム化比較試験を行なった(BRIDGE Study)
論文のPICOは?
P ワルファリン内服中の心房細動患者
I ヘパリンブリッジして侵襲的処置を行う
C ヘパリンブリッジせず侵襲的処置を行う
O 動脈血栓塞栓症、大出血イベントの発症率
T 二重盲検ランダム化比較試験
Inclusion criteria
• 予定された侵襲的処置のためにワルファリン中止
が必要と判断された患者
• 18歳以上
• 慢性的な心房細動・粗動(非弁膜症性、僧帽弁膜
症性、持続性、発作性)
• 3ヶ月以上のワルファリン内服歴
• PT-INRが2.0-3.0の範囲内
• CHADS2スコアが1点以上
Exclusion criteria
•
•
•
•
•
•
•
機械弁の既往
12週以内の脳卒中,血栓塞栓症(DVTまたはPA),TIAの既往
6週以内の大出血の既往
血栓リスクが高い症例は除外
重症腎不全(CCr<30ml/min)
血小板<100×103 /mm3
心臓、脳、脊髄の予定手術、高リスクの処置(脳生検など)
妊婦
出血リスクが高い処置は除外
ヘパリンアレルギー、へパリン誘発血小板減少症の既往
最適量の低分子ヘパリンを投与できなかった場合
余命<1年
試験期間中の2件以上の予定手術
試験プロトコールに従えない患者
(認知機能障害、コントロール不良の精神状態、地理的に介入できない例)
•
本試験の参加歴
•
インフォームドコンセントを遵守できない患者
•
•
•
•
•
Intervention
Intervention
・低分子ヘパリン(ダルテパリン)
100IU/kg 1日2回皮下注射
Comparison
・プラセボの皮下注射
BRIDGE Study 研究デザイン
④手術当日の夕方か翌日から
ワルファリン再開
①5日前にワルファリン中止
⑤術後30-37日
までフォロー
②手術の3日前から24時間前まで
低分子ヘパリンorプラセボ投与
③術後から5日-10日間
低分子ヘパリンorプラセボを投与
*小手術、出血リスクの小さい手術
:術後12-24時間で再開.
大手術、出血リスクの大きい手術
:術後48-72時間で再開.
*PT-INR>2になるまで投薬
手術・処置の出血リスクの定義
大手術、出血リスクの大きい手術
小手術、出血リスクの小さい手術
腹腔内手術
消化管内視鏡検査(生検有無は問わない)
胸腔内手術
心臓カテーテル検査・治療
整形外科手術
歯科手術・処置
末梢動脈手術(血管バイパスなど)
皮膚科手術・処置
泌尿器科手術
白内障、その他眼科手術
ペースメーカー、除細動器挿入
1時間以内の手術・処置
大腸ポリープ切除、腎生検、前立腺生検
1時間以上の手術・処置
最終的な出血リスク評価は調査者に依存する
*周術期の抗血小板薬の使用は調査者に依存する
ランダム割り付け
Protocol for: Douketis JD, Spyropoulos AC, Kaatz S, et al. Perioperative bridging
anticoagulation in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2015;373:823-33.
中央割付方式(webベース)でランダム割付けされ、
その過程は隠蔽化されている
盲検化の程度
・二重盲検化試験
・患者、介入者、
Outcome評価者が
盲検化されている
Protocol for: Douketis JD, Spyropoulos AC, Kaatz S, et al. Perioperative bridging
anticoagulation in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2015;373:823-33.
Outcome
手術・処置後30日で評価.
■Primary Outcome
Efficacy Outcome
動脈血栓塞栓症(脳梗塞、TIA、全身血栓塞栓症)
Safety Outcome
大出血
■Secondary Outcome
Efficacy Outcome
急性心筋梗塞、DVT、肺塞栓症、死亡
Safety Outcome
小出血
Safety Outcome
大出血の定義
ISTH(International Society on Thrombosis and Haemostasis)
による定義.
■症候性または臨床的に明らかな出血
Hbの低下(>2g/dL)
2単位以上の赤血球輸血、全血輸血が必要
出血に対し再手術・侵襲的処置が必要
■解剖学的に重要な部位からの出血
頭蓋内、脊髄内、眼内、後腹膜、関節内、心嚢内、
コンパートメント症候群を伴う筋肉内出血
■致死的出血
*除外項目
・無症候性の出血(小さな後腹膜出血など)
・術式で予期可能な術中出血例
・補液による血液希釈でHbが減少(>2g/dL )した例
統計学的分析
・複数の先行研究に基づき発症率を仮定
ブリッジ群
非ブリッジ群
動脈血栓塞栓症
1.0%
1.0%
大出血
3.0%
1.0%
*動脈血栓塞栓症は非劣性試験で非劣性マージンを1.0%に設定
(発症率差の95%CIが1%を越えなければ非劣性と判断)
・αlevel:0.05 Power:80%(βlevel:0.2)と設定した。
・設定サンプルサイズ:各群あたり1812症例症例(脱落10%想定)
→合計1720症例を登録した時点で血栓塞栓症の頻度が0.46%と低値であった
→最終的に修正サンプルサイズは合計1882症例となった(Power:約90%)
発症率は予測より低くなったが、非劣性マージンは1%のまま
Protocol for: Douketis JD, Spyropoulos AC, Kaatz S, et al. Perioperative bridging
anticoagulation in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2015;373:823-33.
先行研究(参考)
著者
年
方法
症例数
疾患
結果(発症率)
Douketis
2004
全例ヘパリン化
(低分子ヘパリン)
650
機械弁
慢性Af
脳梗塞
塞栓症 0.6%
大出血 0.9%
Kovacs
2004
全例ヘパリン化
(低分子ヘパリン)
224
機械弁
塞栓リスクの
高いAf
塞栓症 3.6%
大出血 0.9%
Dunn
2007
全例ヘパリン化
(低分子ヘパリン)
260
心房細動
DVT
塞栓症 1.9%
大出血 3.5%
Garcia
2007
非ブリッジ群(91.7%)
ブリッジ群(8.3%)
(未分化ヘパリン
or低分子ヘパリン)
1293
Af
DVT
機械弁
Siegal
2012
systematic review
(未分化ヘパリン
or低分子ヘパリン)
34報告
Af(44%)
機械弁(24%)
VT(22%)
その他(10%)
塞栓症 0.7%
(すべて非ブリッジ群)
大出血 0.6% 小出血 1.7%
(出血例の67%はブリッジ群)
塞栓症
ブリッジ群 1.1%
非ブリッジ群0.9%
大出血
ブリッジ群 3.7%
非ブリッジ群0.8%
先行研究では塞栓リスクが高い患者も含み、塞栓症の発症頻度
も本研究より比較的高い
倫理的配慮
*OHRP :Office for Human Research Protections
Protocol for: Douketis JD, Spyropoulos AC, Kaatz S, et al. Perioperative bridging
anticoagulation in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2015;373:823-33.
IRBの承認を受けている
参加者から書面による
Informed consentを得ている
Baseline
BaseLineは2群間で同等
*CHADS2scoreは40%が2点
→そのほとんどを糖尿病or高血圧が占める
行った処置は同等か
■小出血手術
ブリッジ群:758例
非ブリッジ群:781例
■大出血手術
ブリッジ群:89例
非ブリッジ群:94例
手術・処置の大きさは2群間で
偏りがない
Protocol for: Douketis JD, Spyropoulos AC, Kaatz S, et al. Perioperative bridging
anticoagulation in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2015;373:823-33.
*全体の89%が小出血手術
*その50%程度が消化管内視鏡
20%が心臓カテーテル
周術期の抗凝固薬の管理は同等か
■有意差がついたものは、
「手術・処置の前日朝に最後の薬
剤を投与した」という項目のみ
その他2群間で周術期の抗凝固薬
の管理は同等
※抗血小板薬は2群とも60%程度
の症例で継続されていた
結果に影響を及ぼすほど脱落があるか
ブリッジ群
脱落:32例
追跡率:97%
脱落率:3%
1884例を割付け
非ブリッジ群
脱落:39例
追跡率:96%
脱落率:4%
→913例
→891例
per protocol解析+死亡症例の解析
結果に影響を及ぼす程の脱落なし
サンプルサイズは十分か
per protocol+死亡症例の解析
■Outcomeを得た症例数:1813例
→サンプルサイズは十分
・出血
:有意差が出ている
・血栓塞栓症:ランダム割付された1884人は修正サンプル
サイズ (発症率0.46%と想定した場合の血
栓症非劣性検定での見積もり1884人、
power約90%) には達している。
結果
■Primary Outcome
・血栓塞栓症
非劣性検定 RD:0.1%(95% CI:-0.6~0.8)
P値=0.01
・大出血
優越性検定 RR:0.41(95% CI:0.20~0.78)
P値=0.005
■Secondary Outcome
・小出血
優越生検定:P値<0.001
*Per protocol+死亡例
*Secondary outcomeの急性心筋塞
DVT,肺塞栓症,死亡は有意差なし
非ブリッジ群はブリッジ群に比べ
血栓塞栓症:非劣性
大出血:優越性
小出血:優越性
RRR・ARR・NNT
■Primary Outcome
大出血(+) 大出血(ー)
29
866
895
非ブリッジ群 12
906
918
1772
1813
ブリッジ群
41
RR
RRR
ARR
NNT
0.03/0.01= 3
1-3=-2
0.01-0.03=-0.02
1/-0.02=-50
NNH(number needed harm)=50人
→50人にヘパリンブリッジを行うと1人大出血の出現を増やす
→大出血リスクを上げる
■Secondary Outcome
小出血(+)
小出血(ー)
187
708
895
非ブリッジ群 110
808
918
1516
1813
ブリッジ群
297
RR
RRR
ARR
NNT
0.02/0.01= 2
1-2=-1
0.1-0.2=-0.1
1/-0.1=-10
NNH(number needed harm)=10人
→10人にヘパリンブリッジを行うと1人小出血の出現を増やす
→小出血リスクを上げる
Limitation
• 臨床医の判断で理由の記載の無いまま544症例が除外されて
いる
• 出血の発症率に有意差がついているが、出血リスクに関して
は層別化が成されていない(HAS-BLEDなど)
• ヘパリンブリッジ群でMI発症率が高く、かつ死亡症例も含
まれる。Major bleedingが生じると、抗凝固薬の再開が遅れ
ること、循環障害などを介した血栓発症から、血栓症も増多
する可能性がある。
• 抗血小板薬が60%程度の症例で継続して投与されており、
出血リスクを上げていた可能性がある
Limitation
• 塞栓症ハイリスクの手術や機械弁既往例が除外されており、
CHADS2スコアが低い(平均2.3)症例を対象にしている
• そのためか発症率は先行研究より設定された数値(1.0%)よ
り低い(0.4%)が、非劣性マージンは1.0%のままとしている。
3倍程度まで血栓リスクを許容している設定となっている
BRIDGE trialは他の研究より、血栓発症率が低い
Bridging Anticoagulation: Primum Non Nocere J Am Coll Cardiol. 2015 Sep 22;66(12):1392
Step 4 症例への適用
研究患者は自身の診療における患者と似ていたか
■Inclusion criteria、Exclusion criteriaについて
■本症例
・72歳
・非弁膜症性心房細動
・長期間ワーファリン内服
・PT-INR 2.15
・CHADS2スコア1点
・CCr=72ml/min
■BaseLineとの相違
■本症例
・体重:69.1kg
・Hb:11.7g/dL
・PT-INR:2.15
Inclusion criteriaは全て満たす
Exclusion criteriaに該当項目無し
スタディー群と比較して
・体重が軽い
・Hbはやや低い、PT-INRはやや短縮気味
・スタディー群は白人が大多数
その他、大半の項目はBaseLineと類似
■使用薬剤
・本症例では未分画ヘパリンを使用
ヘパリンの種類が異なる
患者にとって重要なアウトカムはすべて考慮されたか
研究のアウトカムをEfficacy Outcomeの血栓塞栓
症(死亡を含む)とSafety Outcomeの出血に分け
て広く定義しており、臨床的に必要なアウトカムは
考慮されている。
見込まれる治療の利益は、
考えられる害やコストに見合うか
・今回のstudyで「ヘパリンブリッジを行わない」ことは、
primary outcomeとsecondary outcome双方において有効と判断
され、有害事象はヘパリン使用より少ないと考えられた
・studyでは低分子ヘパリン(フラグミン®静注5000単位/5ml)を使用
しているが、本邦では未分画ヘパリンが主流である。
ヘパリンブリッジを行わないこと余計な薬剤投与を避けることがで
き、医療コストは削減できる。
合併症のみならず、医療経済の点からも患者には有用である可能性
がある
症例への適用の考察
・本邦ではすでにガイドラインが存在しており、現行の
ガイドラインに沿って、ヘパリンブリッジを行った.
・しかし、本症例の様に”血栓塞栓症リスクが低い患者”では、
ヘパリンブリッジは有害事象出現のリスクと医療経済
の面からも”行う意義に乏しい”という可能性が示唆された.
・今回のstudyでは出血リスクがより低い低分子ヘパリン
が使用されているが、本邦では未だ未分画ヘパリンが主
流である.
国外のガイドラインを参照
処置の出血リスク評価
■ESTは高出血リスク
の手技
■ESTはヘパリン・
ワルファリン投与後
の出血リスクも高い
Volume 83, No. 1 : 2016 GASTROINTESTINAL ENDOSCOPY
国外のガイドラインを参照
■ブリッジの推奨は血栓リスクで規定
本症例はAFがあり
CHA2DS2-VASc score 1点
→ヘパリンブリッジの推奨無し
■内視鏡時の抗血栓薬使用に関しては
1.処置の緊急性
2.処置の出血リスク
3.抗血栓薬の効果
4.薬剤中止に伴う血栓リスク
を考慮することが重要との記載も
Volume 83, No. 1 : 2016 GASTROINTESTINAL ENDOSCOPY
今後の展望
ヘパリンブリッジを行うかは
1.個人の周術期血栓リスク
2.個人の周術期出血リスク
3.処置の周術期出血リスク
を層別化し総合的に判断して行う必要があると考えられる.
個人の血栓リスク
個人の出血リスク
処置の出血リスク
本邦のガイドラインでは患者側の問題が考慮されておらず、真にブリッジ
が必要な群を抽出するため、ガイドラインの改定も望まれる.
各リスクの見積もりの指標
1.個人の周術期血栓リスク
■心房細動患者のCHADS2 scoreと周術期(術後30日以内)の
血栓発症率(抗凝固療法の有無不明)を調べた観察研究
■CHADS2 scoreと周術期の脳梗塞の発症率は正の相関を
示した
・その他の文献でも、CHADS2 scoreに応じた周術期リスク層別化を行っている
・Perioperative management of antithrombotic therapy: Antithrombotic Therapy and Prevention of
Thrombosis, 9th Ed. American College of Chest Physicians Evidence-Based Clinical Practice Guidelines.
Chest 2012;141(2 Suppl):e326Se350S
・How I treat anticoagulated patients undergoing an elective procedure or surgery.
Blood 2012; 120:2954
CHADS2 scoreが有用な可能性
ヘパリンブリッジを考慮する因子
以下の場合周術期ヘパリンブリッジを考慮
3か月以内の脳血栓塞栓や全身血栓塞栓症の既往
僧房弁が機械弁であること
大動脈弁が機械弁であり、かつ他の血栓リスクをもつ
心房細動でCHADS2scoreが5 or 6点
3か月以内の静脈血栓塞栓症の既往
最近の冠動脈ステント留置
抗凝固の中止期間中に血栓塞栓症を発症した既往
1か月以内の壁在血栓、左心耳血栓
血栓性素因
抗リン脂質抗体症候群,プロテインC,S欠損,アンチトロンビンIII欠損
Up to date Perioperative management of patients receiving anticoagulants Feb 16, 2016
A call to reduce the use of Bridging Anticoagulation
Circ Cardiovasc Qual Outcomes 2016;9:64-67
Prevention of Thrombosis, 9th Ed.
American College of Chest Physicians Evidence-Based Clinical Practice Guidelines.Chest 2012
各リスクの見積もりの指標
2.個人の周術期出血リスク
■侵襲的処置時にヘパリンブリッジを行う際の出血
に関するリスク因子を検討した観察研究
■HAS-BLED scoreが3点以上であることは出血の
リスク因子であった
Hazard ratio:4.5(95% CI:2.9-7.1)
P値<0.0001
HAS-BLED scoreが有用な可能性
各リスクの見積もりの指標
3.処置の周術期出血リスク
■上記文献でもESTは出血高リスク群
■その他様々な文献で処置の周術期出血リスク
が層別化されているが、概ね似通っている
・Perioperative management of antithrombotic therapy: Antithrombotic Therapy and Prevention of
Thrombosis, 9th Ed. American College of Chest Physicians Evidence-Based Clinical Practice Guidelines.
Chest 2012;141(2 Suppl):e326Se350S
・Lowmolecular weight heparin as bridging anticoagulation during interruption of
warfarin: assessment of a standardized periprocedural anticoagulation regimen.
Arch Intern Med. 2004;164(12):1319-1326.
・Oral anticoagulant therapy in patients undergoing dental surgery.
Clin Pharm. 1992;11(10):857-864.
・Clinical outcomes with unfractionated heparin or low-molecular-weight heparin as bridging
therapy in patients on long-term oral anticoagulants: the REGIMEN registry.
J Thromb Haemost. 2006;4(6):1246-1252.
Step 5
1-4の見直し
Step 5 Step 1-4の見直し
STEP1 問題の定式化
リスクヘパリンブリッジの有用性に疑問に感じた.
STEP2 論文の検索
PubMedを用いた検索を行った.介入研究をRCTに限定する
ことで効率よく、迅速に検索可能であった.
STEP3 論文の批判的吟味
フォーマットを参考に批判的吟味を行った.
STEP4 情報の患者への適用
ガイドラインがすでに存在しており実際に患者に適用しな
かったが、ガイドラインが示すevidenceに疑問を感じた
まとめ
• 心房細動のあるワルファリン内服者(血栓リスクが
低値)が侵襲的手術・処置を受けるとき、ヘパリン
ブリッジを行わない事の有用性が示された.
• 今後、患者の血栓塞栓症の発症リスクが高い群を
対象とした研究、患者の出血リスクが層別化され
た研究が期待される.
• 現在不必要なヘパリンブリッジが日常診療の中で
行われている可能性があり、今後ガイドラインの
改訂も期待される.