光秀×真琴 短編集 ID:93064

光秀×真琴 短編集
とましの
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真琴です。
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じます。
︻あらすじ︼
ケモ彼の光秀
×
海と制服 ││││││││││││││││││││││││
1
目 次 花火大会 ││││││││││││││││││││││││
4
海と制服
海と制服
三学期の期末試験が終わり、バレンタインも過ぎた二月末。
二年の先輩には見えない慶次が﹁そろそろみっちゃんの誕生日だ
なー﹂なんて話している。
だがここは生徒会室で、本来なら何らかの話し合いか仕事をするは
ずの時間だ。
しかし生徒会メンバーは誰ひとりとして真面目に仕事をしようと
しない。
そ れ な ら も う 俺 は 帰 っ て い い だ ろ う か。そ う 思 い な が ら 立 ち 上
がったところで、生徒会室の扉が開いて生徒会顧問がやってきた。
﹁徳川、話がある﹂
1
相手は生徒会顧問で英語教師で一年である俺の担任だ。
それと⋮⋮⋮⋮。
廊下に出た俺は担任教師の真面目な顔を見上げる。
﹁今日の英語の小テスト﹂
二時限目のテストの話を出された俺は思わず笑ってしまった。
この担任教師が言いたいのはテストの出来の話じゃないんだろう。
﹁笑ってんなよ﹂
テストの解答欄に仕込んだ悪戯に英語教師であるこの男が気付か
ないはずがない。
﹂
﹁今度の日曜な﹂
﹁いいのか
らないよう、解答欄の隅に一文字ずつバラバラに書いておいた。
もちろん素直に文章を書いたわけじゃない。人に見られてもわか
それは英文で小さく﹁一緒にいたい﹂と書いたものだった。
テストの解答欄に仕込んだ悪戯。
ず立ち去っていった。
俺の問いかけに担任教師は肩をすくめて口許を緩めると何も言わ
?
その悪戯に気付いただけでなく日曜に時間を割いてくれるらしい。
ただそれだけで俺の心は跳ねあがっていた。
だが卒業まではふたりの関係を隠すと決めているため会話は曖昧
で、接触も最低限に努めている。
そのためここで喜びを外に出してはいけない。
そうしてやってきた日曜日。
光秀のマンションにやって来た俺は駐車場で光秀を見つけた。
﹁なんで制服なんだよ﹂
軽く笑いながら問われた俺は仕方ないんだと返した。
﹁出掛けに長政と遭遇したから、図書室で勉強をすると嘘をついた﹂
だから制服なんだと説明したところ光秀も納得してくれたらしい。
﹁けど、そうなるとうちの連中と遭遇しないところに行ったほうが良
いな﹂
制服姿の生徒と日曜日に出歩いているなんて不自然だろう。そん
な事を言いながら光秀は車のドアを開けた。
俺は慌てて助手席に乗り込みシートベルトをつける。
光秀は俺の担任教師で英語教師で生徒会顧問で、少し前には俺の気
持ちを受け止めてくれた大切な人だ。
今までの俺は恋なんてものとは無縁の人生を歩いてきた。
だからこれは初恋ということになる。その相手が男で、しかも教師
なんて、きっと世間からすればおかしなことだろう。
でも好きになってしまったんだから仕方ない。
車 を 一 時 間 ほ ど 走 ら せ た 光 秀 は や が て 広 い 駐 車 場 で 車 を 止 め た。
周囲には一台も車がいない。
車を降りた俺は潮の香りに笑みをこぼす。
どうやら光秀は俺が魚も海も好きな事を覚えていてくれたらしい。
ふたり砂浜へ降りながら冷たい冬の潮風に髪を揺らす。
﹁やっぱ寒いな﹂
﹁冬だからな﹂
光秀のつぶやきに俺は笑顔で返す。冬の海なら誰と会うこともな
2
い。俺が制服姿でも、光秀がそんな俺の教師でも、人と会わなければ
関係ないことだ。
﹁光秀、ありがとう﹂
嬉しくてたまらない気持ちのまま礼を向ける。そんな俺の目の前
﹂
で光秀はなぜかコートを脱いでいた。
﹁光秀
寒いだろうと言おうとした俺だけど、言葉はのどを通らなかった。
脱いだばかりの、まだ光秀のぬくもりが残ったコートが俺の肩を包
み込む。
ズルいズルいズルい。
こんなの惚れないわけがないじゃないか。
﹁これで制服が隠せたな﹂
最初からこうしときゃ良かったわ。そう言いながら光秀は煙草を
取り出している。
﹂
そんな光秀を見つめていた俺はたまらず声をあげた。
﹁好きだ
3
?
!
花火大会
﹂
ことの発端は慶次の一言からだった気がする。
﹁真琴、なんか聞こえない
当直勤務の合間、暗い院内を歩く俺の耳にもその音は聞こえてい
た。
俺は慶次と顔を見合わせて屋上へ向かう。
﹂
音の正体は離れた場所で行われているらしい花火大会のもので、俺
はその大きさに目を奪われていた。
﹁あれ、みっちゃんと明紫波さんも来てたんですね
﹁真琴、花火好きだったんだな。あ けどみっちゃんが花火を見に
するとそんな俺の元に慶次たちがやってくる。
だが俺は上がり続ける打ち上げ花火から目が離せないでいた。
呆然と空を見上げる俺のそばを離れて慶次が走っていく。
!
俺を誘う変わり者もいないわけじゃなかったけど、人と関わること
た。
それにフランスでも花火大会はあっただろうが興味を持てなかっ
いでいても目も向けなかった。
子供の頃は施設にこもって勉強ばかりしていた。周りの子供が騒
﹁花火なんて今までまともに見たことなかったから﹂
花火は少しの休憩に入るらしく空は闇を取り戻している。
線を下ろした。
親しげを少し越えたスキンシップを向けてきた光秀に俺はふと視
﹁真琴クンは花火大会とか大好きなタイプだったのか﹂
朝顔のような形の花火を見上げていると肩に腕を回された。
上げ花火は円形だけじゃないらしい。
暗い空を彩る大輪とはよく言ったものだと思う。けど最近の打ち
げ花火の音でかき消された。
楽しげな慶次の声に三成が何か返しているけど、その言葉は打ち上
来てるほうが珍しいか。興味ありませんとか言うと思ってた﹂
!
を面倒に感じていた時期だったから。
4
?
だからきっとこれが初めてまともに見る花火なんだ。
そう思うままに説明すると三人が黙り込んでしまう。
何か悪いことを言っただろうか。そう不安を抱き始めたところで
光秀の手が俺の頭に乗せられる。
そして光秀が優しい表情で口を開いて⋮⋮
﹂
でも言葉は再びあがった花火の音にかき消されてしまう。
﹁聞こえなかった。なんて言ったんだ
問い返した俺の頭を光秀は激しく撫で回して、なぜかその目を三成
に向ける。
﹁俺は仕事に戻るわ﹂
﹁先程の話、忘れないでくださいね﹂
光秀は三成と言葉を交わして屋上を立ち去る。
その背中を眺めているとそばで慶次が何を話していたのかと三成
に問いかけた。
﹁花火を見に来たわけじゃないんだな﹂
﹂
﹁昼に前木が花火をしたいと言っていたので、その話をしていただけ
です﹂
﹁さすがみっちゃん仕事が早い
せる。
三成って素直に感謝されるの苦手だよな。
ああでも花火って何をするんだろう。
打ち上げ花火なんて個人でできるものじゃないだろうし、子供の頃
に花火をやった記憶がないな。
後で長政に聞いてみようか。きっと長政なら俺の子供の頃を覚え
ていてくれるはずだから。
再び仕事に戻った俺は救急対応を数件終えて仮眠室へ向かった。
慶次は内科で仕事があると聞いてるからしばらく仮眠室には来な
いだろう。
それならひとりゆっくりと、さっき見た打ち上げ花火のことを思い
5
?
凄い凄いと騒ぐ慶次のそばで三成が少し居心地の悪そうな顔を見
!
出すのも悪くない。
けれど白衣を脱いで仮眠室のベッドに転がったら思わぬ早さで睡
魔が襲ってきた。
ここまで疲れていたのかと思いながら俺は落ちる感覚のまま意識
を手放す。
﹁⋮⋮⋮⋮でしょう﹂
遠く誰かの声が聞こえて俺は意識を覚醒へと向かわせた。
けれど重くのし掛かる睡魔のようなものが俺の意識に絡み付いて
覚醒の邪魔をする。
﹁今夜も本来なら別の人間が当直だったはずですよ﹂
ああこれは三成の声だ。そう認識していると俺の頭にあの手が触
れる。
優しく俺の髪をすくように無骨な手に撫でられる。
6
﹁貴方のそばにいたいのか知りませんが、きちんと休みをとらせたほ
うが良いですよ﹂
三成の声はドアの開く音と重なる。
開いたドアはすぐに閉ざされて、俺の頭を撫でる手だけが残った。
これはきっと光秀の手だ。
それはわかってるのに俺に絡み付く睡魔が消えてくれない。
どうしよう。今すぐ起きてあいつを見たいのに。
﹁⋮⋮つ、ひで⋮⋮﹂
目が開かない。起きられない。
そんなに疲れていただろうか。
そういえば今夜で何連勤目だ
ずっと寂しかったんだ。
﹁⋮⋮起きなくていいぞ﹂
だけど
ああ、なのにこんな時に起きられないなんて。
いた。
寂しくて光秀のそばにいたくて、当直予定の奴と代わってもらって
?
不意に降ってきたのは子供に言い聞かせるような優しい声だった。
ただそれだけでさざ波のように何かが浸透する。
気持ちが落ち着いていって、俺はまた意識を落とすことができた。
当直があけた翌日の午後、休憩室に珍しい雑誌が置かれていた。
季節ごとのイベントを集めた雑誌らしく、表紙には花火大会特集と
書かれている。
俺は自然とその雑誌を手に取り椅子に腰かけた。するとすぐに休
憩室へ長政と秀吉がやってくる。
﹁お疲れさん﹂
﹂
秀吉はいつもと変わらないにこやかな顔で俺の向かい側に座る。
そして長政は俺の隣に腰かけた。
﹁ねぇ真琴、今度の休みだけど、予定空いてる
﹁空いてる﹂
雑誌のページをめくりながら長政の質問に返す。
﹂
すると長政はそれならと笑顔を輝かせた。
﹁一緒に出掛けない
﹁ああ、構わ⋮⋮﹂
﹁予定
﹂
ええで﹂
もしかして学会の予定でもあるのだろうか。そう思いながら俺は
長政に謝罪を向けた。
すると長政は照れたような笑顔で良いよと返してくれる。
﹁真琴が花火大会の雑誌を見てたから、懐かしくなって誘おうと思っ
ただけだから﹂
7
?
秀吉の思わぬ言葉に驚いた俺は雑誌から目を移した。
﹁徳川センセ、その日は予定あるやん﹂
俺が返事をする前に秀吉の声が割り込んだ。
﹁あーーーあかんわーー﹂
?
﹁そんな話を聞いたんやけどな。まあ次のお休みは空けといたほうが
?
長政の言葉に俺は何かを思い出しかけた。
けれどそれはすぐに消えてしまってうまく思い出せなかった。
仕事を終えると帰り際に俺は再び休憩室に立ち寄った。誰もいな
い休憩室であの雑誌をパラパラとめくる。
もし俺に勇気があったなら、昼間の長政のように花火大会に誘えた
のにと思う。だが俺には忙しいあいつを束縛するほどの自信も勇気
もなかった。
そこでふと昼間に思い出しかけたことが頭をよぎる。
子供の頃、長政と施設の人たちと花火大会に行ったことがあったん
だ。
でも俺は迷子になって花火なんてまともに見られなかった。だか
ら花火を見た記憶がないんだ。
﹁花火大会、か⋮﹂
﹂
嬉しすぎて呼吸もままならないでいると光秀に肩をたたかれた。
落ち着けと笑われて顔が熱くなる。
﹁花火大会、行けるのか﹂
﹁休みの日にちょうどこの近くで何ヵ所かあるみたいだからな。だか
ら決めといてくれると助かる﹂
﹁わかった﹂
8
せっかくならふたりで行けたら楽しいのに。そう思いながら帰り
支度を済ませると休憩室に光秀がやってきた。
﹂
現れた光秀はここにいたのかとつぶやく。
﹁どうした。急患か
﹁次の休みな﹂
﹁これ⋮⋮っ
﹁どこに行きたいか決めとけよ﹂
る。
つられるように目を向けると机の上には開かれたままの雑誌があ
言いながら光秀は俺の手元を指差す。
?
光秀が置いたのかと聞きたくても言葉が詰まる。
!
決めておくと光秀に返すとあの手が頭に乗せられる。
正直、子供扱いされてると思う。
でもそれでも嬉しくなるのは最近抱えていた寂しさの反動かもし
れない。
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