医学教育の改革 - 新潟県医師会

1
医学教育の改革
染
2013年度から医学教育分野別認証制度がはじま
り、全国の医学部がその教育内容について日本医
学教育評価機構による評価を受けることになっ
た。新潟大学では、世界に通用する医学教育の実
践を念頭におき、このトライアルを日本で初めて
受審したが、そこで次のような「助言」を受けた。
①患者と接する教育プログラムを教育期間の約
1/3に増やす、②見学型主体の臨床実習が多い
が、診療参加型の臨床実習にする、③5年生では
各診療科1〜2週間の短期間でしか実習を行って
いないが、コア診療科を中心に十分な診療参加型
の期間を設け、学生が責任をもってチーム医療に
参加できるようにする、④臨床実習後の臨床能力
評価が行われていないが、形成的 ・ 総括的評価を
含めて学生の臨床能力到達度を絶えず評価し臨床
能力を高める、などである。
この背景には、ECFMG(アメリカ国内での臨
床研修資格を外国の医学部卒業生に発行する機
関)が2023年以降は世界医学教育連盟または米国
医学教育連絡委員会と同等の基準で認証された医
学部出身者にしか受験資格を与えないとした経緯
がある。いわば医学教育の国際化という「外圧」
である。ところがわが国のほとんどの医学部はこ
の国際基準に到達しておらず、それを満たすべく
臨床実習期間を延長する動きが全国で始まった
(大森哲郎、精神神経学雑誌115(2)
:125、2013)
。
しかし重要なのは時間だけではなく、その内容
と質である。質として求められるのは、
見学する、
部分的に診療に立ち会うだけではなく、診療チー
ムの一員として実際の診療に加わること、すなわ
ち現在の初期臨床研修に近い形である。ちなみに
学生実習の質が充実している米国では、日本の卒
後臨床研修に相当するものはない。
一方で、実習の内容ともいうべき各科目の期間
配分については、ほとんど議論がなされてこな
かった。医学教育モデル・コア・カリキュラムの
資料によれば、米国15大学の平均実習週数は合計
矢
俊
幸
で76.8週、必修科目の内訳は内科12.3外科10.7小
児科7.6産婦人科6.9精神科6.1週である。そのほか
の専門分野は選択制であり、専門性の高い教育は
卒後研修に託されている。しかし、日本の医学部
で小児科、産婦人科、精神科の実習を全員に6週
間以上行うのは容易ではない。米国でそれが可能
なのは豊富なスタッフに支えられているからで、
2005年の米国医学会誌によると、全米医学部の常
勤臨床系教員総数は98,256人、科別内訳では内科
28,439、小児科13,688、精神科8,896、一般外科8,535
人、産婦人科4,279人である。臨床医学の基本と
なる領域に手厚く人員を配置し、そこをしっかり
教える体制を敷いている。国際的に見て「日本の
医学教育は、少なくとも臨床実習や医学部教員数
からみるかぎり、女性と子供と心の病にははなは
だ手薄い」という指摘も宜なるかなである。
新潟大学では、さまざまな議論を経て、いよい
よ来年度4年生の1月から新しい臨床実習Iがス
タートする。そこでは以下の理念が採用された。
①3週間×14クールの診療参加型を主体としたカ
リキュラム、②臨床実習の minimum requirement
に対応し、必修・重点科目への重みづけを行う、
③内科系、外科系の実習はそれぞれひとまとめに
して質の高い実習を目指す、④原則、全科必修と
するが、専門系はペアを形成することで選択型、
融合型など弾力的なスケジュールを組む。これに
よって国際標準化の流れに沿った臨床実習体制と
なり、全員が内科、外科、小児科、産婦人科、精
神科を3週間以上実習することになった。
内科系、
外科系は系全体で多くの時間を取ることができる
ため、より充実したプログラムが期待される。
改革のすべては、教育スタッフの理解と協力、
そして熱意に委ねられている。臨床実習Iの後に
行われる、学外実習を含めた臨床実習 II も4週
間×6クールに拡張される予定であり、関係各
位のさらなるご支援をお願いしたい。
(県医理事)
新潟県医師会報 H28.7 № 796