転院における医療安全上のリスク - 看護職賠償責任保険制度

日本看護協会、日本医療機能評価機構医療事故防止事業部、
「看護職賠償責任保険制度」サービス推進室が、医療安全に
関する最新情報を紹介します。
69
Vol.
慶越 真由美
日本看護協会看護開発部看護業務・医療安全課
転院における医療安全上のリスク
― 医療機器の継続使用に関する事故から考える ―
●「地域完結型」時代の医療安全
書には、カテーテルに関すること、白血球除去療
医療の機能分化や地域包括ケアシステムが推進
法をどのルートから行っていたのか記録がありま
されています。その目的は、より効率的で効果的
せんでした。また、看護師の申し送り書には、カ
な医療の提供にあります。病院完結型から地域完
テーテルの記載はありますが、A 病院と B 病院で
結型へと変わってきた、この転換期における医療
は採用しているカテーテルの種類が異なり、呼び
安全上の課題整理や安全を推進する体制整備は進
方が異なるため、記録を見ても患者に挿入されて
んでいるでしょうか。
いるカテーテルが緊急時ブラッドアクセス留置用
一医療機関で治療が完結していた時代と比較す
カテーテルであると B 病院では認識することが難
ると、
「患者の情報や治療の情報がとぎれないよ
しかったと考えられます。
うにすること」、また転院の際に「受け入れ施設
第 2 に、扱ったことのない医療機器を使用しな
が使い慣れていない医薬品や医療機器を使用する
ければならないリスク です。受け入れ病院では
ことになっても、当然ながら安全に使用すること」
扱っていない医療機器の場合、その機器に対する
が求められます。治療・療養に患者・家族、保健・
院内マニュアルが整備されていないことが考えら
医療・福祉の多様な職種がかかわることも含め、
れます。B 病院では、閉鎖式輸液システムを採用
患者や家族を中心としたさまざまな状況に対応し、
していたため、詳細なマニュアルがなくても空気
リスクを低減していくことが必要とされているの
流入の事故が発生することはありませんでした。
です。
本稿では、転院に伴う医療安全上のリスクのう
2. 転院してもとぎれなく
ち医療機器の継続使用に関するリスクについて、
安全な医療を提供するために
実際の事故事例(表)を通して考えてみたいと思
転院に伴うリスクを踏まえ、どのような対策が
います。
必要か考えていきます。
1)施設を超えた情報共有
100
1. 転院における医療安全上のリスク
安全で継続的な医療を提供するためには、地域
第 1 に、転院前の患者の治療情報が伝わってい
単位で情報共有の仕組みを考える必要があります。
ないということです。A 病院からの診療情報提供
地域内で取り交わす記録の書式を統一することが
看護 2016. 8