EZFG氏『とても痛い痛がりたい』の私的解釈

EZFG氏『とても痛い痛がりたい』の私的解釈
ある
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︻小説タイトル︼
EZFG氏﹃とても痛い痛がりたい﹄の私的解釈
︻Nコード︼
N9619BC
︻作者名︼
ある
︻あらすじ︼
ニコニコ動画に投稿されていたEZFG氏のボーカロイドを用い
た作品﹃とても痛い痛がりたい﹄の私的解釈。
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︵前書き︶
とても感銘を受けたEZFG氏の作品﹃とても痛い痛がりたい﹄の
私的解釈です。
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色々なボーカロイドの曲を聴いていた。この分野に全く詳しくなく、
手当たり次第に聴いていたのだけれど、いくつもの曲を聴く中、と
ても感銘を受けた曲があった。EZFG氏の﹃とても痛い痛がりた
い﹄。何度も聴いてしまった。この曲について、EZFG氏は﹁口
の中にできるアレとか。﹂とだけコメントしている。このコメント
から大部分の人には口内炎の歌、口内炎と恋愛をかけた曲、と受け
止められているようだが、意味深で胸が苦しくなるような切迫感を
持つこの曲に対して、心の病の曲ではないかという意見も見かけた。
私もそのように受け止めた。
作品について、私なりの勝手な解釈を書くことを試みたい。私が歌
詞から想像したこの曲の主人公は、物事を真に受けてしまいがちで
あり、些細なことであっても、納得がいかないことを受け流すこと
が出来ない。そのため、その都度立ちどまり思い悩んでしまう、生
きづらさを抱えた人物である。そういった、ある意味要領の悪い自
分自身の性格を克服しようとすればするほど、自意識過剰から自己
嫌悪に陥り、空回りの悪循環に苦しむ。他者に対する信頼感を持つ
ことが難しい性格もうかがえる。彼にとって社会生活を送ることは、
耐えがたい痛みに満ちたものだろう。
この作品には、心の痛みに苦しみながらもギリギリの状態で社会に
留まっている一人の人物が、社会からドロップアウトするまでの過
程が描かれているように思えた。作品は、男性の声と女性の声の交
互に語らせる構成をとり、鮮やかに韻を踏んで互いに呼応しあいな
がら、ひたすら心の痛みの世界を展開させていく。歌詞全体から考
えると、男性の声と女性の声に分けることによって、彼の内面で起
こっている、分裂した意識の葛藤状態を表現しているのではないか
と感じた。
曲は﹁もー痛い とても痛い どうしてこんなにとても痛い﹂とい
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う悲痛な一節から始まり、﹁あー痛い キミに伝えたい キミにだ
もーつらい とてもつらい どうしてこんな
会いたい キミに会いたい 胸のこの辺がとても
けは伝えておきたい
にとてもつらい
痛い﹂﹁誰かボクの苦しみを知ってよ﹂と心の中で叫び続けるが、
彼は外部に向かってそれを叫ぶことができない。社会生活を続ける
い ボク以外には分からない
﹂となんとか社会に適応する自分を
だから叫ばない 波風立てない 何
ためにそれを許すわけにはいかないのだ。﹁黙っていれば知られな
も無いままのライフを送るよ
保とうとするが、痛みは止むことなくアンプで増幅されるように内
側で膨れ上がっていく。
﹂﹁いち
と外側からやってくる痛みへの拒絶を
それに対して、女性の声は﹁そんなに刺激を与えないで
いちわめき散らさないで﹂
示す。女性の声は彼が社会に適応するための理性的なペルソナであ
るとともに、彼の抑圧された本心を表しているようにも感じられる。
﹂と語りかけ、その声を契機に彼は本心と向き
そして内側に向かって﹁私はそのうち消え去るよ﹂﹁強がりばかり
じゃ疲れるでしょ
合う。
際限なんて無くて欲張り
過ぎた
神回避しちゃってなん
詰んで頓挫して猛反省
﹁脳内で操作して痛みさえ快楽と化して
でコンプリートしたくて BUT
時間巻き戻して 良いとこだけスロー再生
て無理だよね﹂と、一切の痛みを感じずに済むよう自由自在にコン
トロールした社会生活を送りたいと極端な願望を抱くが、それは無
理なことであり、もはや痛みに耐えきれないことを改めて自覚する。
そして、女性の声は﹁ようやくね ようやくね カイホウしてあげ
るからね﹂と語りかけ、彼は痛みから解放される。彼を苦しめてい
た﹁アイツ﹂や﹁痛み﹂や﹁つらいこと﹂はどこにも無くなり、そ
れと同時に、社会と関わっていた自分自身であるペルソナの﹁キミ﹂
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も見当たらなくなる。しかし、痛みから解放されたはずなのに、彼
はなおも痛みを感じている。﹁待ち望んでいたことなのに なんだ
もう痛い とても痛い 今度は何がとても
もう痛くないはずなのに また胸のこの辺がとても痛い﹂一
か何かが物足りないよ
痛い
体、彼は何から解放されたのだろうか。もちろんそれは、生きづら
く、痛みに満ちた社会生活からだろう。しかし、それは社会からの
ドロップアウトであり、社会から孤立することである。社会的な居
場所を失ったことにより、彼は更なる痛みに苦しみ続ける。曲は﹁
何が痛い 何で痛い どうしてこんなに痛がりたい﹂と自問し苦し
みながら締めくくられるが、タイトルにもある﹁痛がりたい﹂とは
どういう事なのだろうか。
現代社会は巨大で複雑な世界だ。社会はそれぞれ千差万別の価値観
を持った人間によって構成されていて、とりわけ都市で生活する人
間は、多くの人間と関わる状況を強いられている。社会生活を円滑
に営んでいくためには、その場その場の状況に合わせて立ち回り、
人間関係の中でなるべく摩擦や軋轢を避けるように、受け流してい
く能力が求められる。中にはうまく立ち回れない人間もいて、彼も
そのひとりだろう。人間同士の関わりには多かれ少なかれ様々な痛
みが伴い、それを無くして人間は社会性を身につけることは出来な
いが、時に耐えがたいような痛みを受けてしまう事もある。彼にと
って社会は耐えがたい痛みに満ちた生きづらい場所であるが、それ
でも、社会の中でしか生きられない。そして病んでしまった彼はそ
ちらに行く事が出来ず立ち尽くしている。﹁痛がりたい﹂とは人と
繋がっていたいということなのではないだろうか。
﹁痛みにね 痛みにね 隠されてるのは何でしょね﹂というフレー
ズがとても印象的だ。﹁痛み﹂に隠されているのは何だろうか。
作者のEZFG氏のコメント﹁口の中にできるアレとか。﹂につい
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ては口内炎の事であると考える。口内炎はわずかな刺激からも過敏
に痛みを生じる。本人にとってはとても辛いものだが、見えないと
ころに出来る痛みのため、他人に気づかれることはない。心の痛み
も同じだ。そして口内炎は時間が経てば自然に癒えていく。心の痛
みもまた、時間が経てば徐々に癒えていくものであると一般的によ
く考えられる。しかし、もはや原因不明の痛みとなってしまってい
る彼の痛みは、口内炎のように僅かな刺激にも過敏に反応するよう
になってしまっていて、簡単には癒えるものでは無くなっているの
ではないだろうか。
彼を解放する際に女性の声は﹁でもですね でもですね 時々思い
﹂と忠告めい
出して欲しいからね 忘れた頃にまた顔出すからね あんまり調子
に乗らずに ほんの少しだけでも気をつけていてね
た言葉を語っている。これには、痛みは自分だけに特別なものでは
なく、誰しもがそれぞれに抱えているものなのだという意味が込め
られているように感じた。また、痛みが癒えるのに長い時間がかか
ったとしても、その痛みを理解し昇華出来た時、また社会へ復帰し
人と繋がることができるだろうという希望を表しているように思え
る。
以上、あくまでも私の勝手な解釈である。EZFG氏がこの作品に
どのような意味を込めたのか実際にはわからない。解釈もさまざま
だと思うけれど﹃とても痛い痛がりたい﹄は強く人の心に食い込ん
でくるすごい曲だと思う。
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PDF小説ネット発足にあたって
http://ncode.syosetu.com/n9619bc/
EZFG氏『とても痛い痛がりたい』の私的解釈
2016年7月17日19時56分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。
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