論 文 審 査 の 要 旨 吉田 裕哉

論 文 審 査 の 要 旨
別紙1
報告番号
甲第2808号
論文審査担当者
主査
副査
副査
氏名
教授
教授
教授
吉田
井上
飯島
山本
裕哉
富雄
毅彦
松男
(論文審査の要旨)
学位申請論文「Association between patterns of jaw motor activity during sleep and clinical signs and
symptoms of sleep bruxism」について、上記の主査1名、副査2名が個別に審査を行った。
睡眠時ブラキシズム(SB)の臨床診断は、睡眠同伴者による歯ぎしり音の指摘、咬耗、起床時の咀嚼筋疲
労感、咬筋肥大等の臨床兆候をもとに行われるが、これらの診断基準の妥当性は未だ実証されていない。そ
こで本研究は、これらの診断基準の妥当性を検証することを目的に、健常成人を対象として SB 筋活動を
tonic 型と phasic 型とに分類し、各臨床兆候との関連性を検討した。その結果、睡眠同伴者による歯ぎし
り音の指摘のある群は、指摘の無い群や対照群と比べて歯ぎしり音を伴う phasic 型のエピソード数が有意
に多かった。また9歯以上咬耗を認めた群は、9歯未満の群および対照群と比べて phasic 型筋活動の持続
時間が有意に長かった。一方、起床時の咀嚼筋疲労感を訴える群では、訴えない群および対照群に比べて
tonic 型筋活動の持続時間が有意に長かったが、咀嚼筋疲労感が無い群の同持続時間は対照群と同程度であ
った。以上の結果から、睡眠同伴者による歯ぎしり音の指摘と咬耗は、grinding を反映すると推察される
歯ぎしり音を伴う phasic 型の筋活動を反映し、起床時の咀嚼筋疲労感は、clenching を反映すると推察さ
れる tonic 型の筋活動と関連付けられることが示唆された。
本論文の審査において、副査の飯島委員および山本委員から多くの質問があり、その一部とそれらに対す
る回答を以下に示す。
飯島委員の質問とそれらに対する回答:
1.本研究結果は、歯の破折、補綴装置の破損などのリスクを予測する因子や義歯設計・補綴装置の材料選
択などの判断基準として臨床応用にいかに生かせるかを述べよ。
(本研究は、睡眠時の咀嚼筋活動パターンと臨床診断で広く用いられている睡眠時ブラキシズム[SB]臨床
徴候[睡眠同伴者の指摘、象牙質に及ぶ咬耗、起床時の咀嚼筋疲労感、咬筋肥大]の関連を調査した。その
結果、睡眠同伴者による歯ぎしり音の指摘と象牙質に及ぶ咬耗は grinding を反映すると考えられる phasic
な筋活動と 起床時の咀嚼筋疲労感は clenching を反映すると考えられる tonic な筋活動と関連付けられる
ことが明らかとなった。これらの結果から,SB を有する患者に対する補綴処置において,その臨床徴候か
ら睡眠時の筋活動様相が grinding か clenching であるのかを判断することにより,SB による異なる筋活動
パターンによって生じる力に対する抵抗性を考慮した補綴装置の選択と設計,術後管理を行うことが可能に
なると考える.そのためには,睡眠中の顎運動とその強度に影響を与える要因[SB の病因]や力の方向性
についても更なる検討が必要だと考える)
山本委員の質問とそれらに対する回答:
1.一般的な睡眠時ブラキシズムの有病者率はどのくらいか。
(文献にもよるが,有病者率は概ね 8%前後で、男女差はない。加齢ともに有病者率は減少すると言われて
おり、18-29 歳で 13%、30-44 歳で 9%、45-59 歳で 7%、60 歳以上で 3%と報告されている)
2.起床時の咀嚼筋疲労感は tonic な筋活動について持続時間では有意な関連が認められたが,episode 数
では有意な関連が認められなかった理由を記せ。
(一般に筋疲労や筋痛は持続的な筋収縮が関与すると考えられており、咀嚼筋についても同様である。Tonic
episode 数は,その event 自体の長さ[持続時間]を示しておらず、3 秒の tonic な筋活動でも 30 秒の tonic
な筋活動でも同じ 1 episode としてカウントされる。一方、burst 持続時間の総和はその筋収縮の時間を反
映した結果となる。以上のことから起床時の咀嚼筋疲労感と tonic episode 数では有意な関連が認められな
かったが,tonic burst 持続時間では有意な関連が認められたと考えられる)
3.咬筋肥大と関連が認められなかった理由を説明せよ。
(咬筋肥大は睡眠時ブラキシズムに代表される睡眠時の非機能的な運動だけでなく,覚醒時の非機能的運動
[day time clenching や tooth contacting habit]や食物の摂取状況なども反映しており、交絡因子の影
響の可能性がある。Tonic episode の総数が少なかったことも相まって、この様な結果となったと考えられ
る。
両副査は、上記を含めた質問に対する回答が、いずれも満足のいくものであることを確認した。
主査 井上委員の質問とそれらに対する回答:
1.咬耗がない SB 群で phasic episode の持続時間は control 群よりも長いがなぜか。
(SB 群のおける咬耗の有無は中央値で分けており、咬耗のないとした SB 群でも咬耗歯数は control 群より
も多いため,それが結果に反映されたと考えられる)
2.Phasic episode と tonic episode についてそれぞれ grinding と clenching と考えて良い根拠は何か。
(本研究では PSG 測定時にビデオと音声を同時測定することで,就寝中の顔面領域の動きをビデオ記録や音
声にて確認しており、歯ぎしり音の有無で grinding と clenching の判別が可能と考えられる。しかし、歯
ぎしり音を伴わない phasic な筋活動については,grinding を反映していない可能性もあるため、顎運動の
同時解析が必要であると考えられる)
3.Phasic episodeとtonic episodeについて、筋活動量の要素を考慮に入れて解析する必要はないか。
(本研究では解析ソフトの関係で筋活動量の解析を行えなかったが,今後,筋活動量の算出についてはソフ
トの改良などを行うことにより解析を行いたいと考える)
主査の井上委員は、両副査の質問に対する回答の妥当性を確認するとともに、本論文の主張をさらに確認
するために上記の質問をしたところ、明確かつ適切な回答が得られた。
以上の審査結果から、本論文を博士(歯学)の学位授与に値するものと判断した。